語彙増強: 英和辞典 VS 英英辞典
1.はじめに:
単語を覚えるのに 英和辞典を使うべきか、英英辞典を使うべきか、 という議論
があります。
「英英辞典を薦める人がいるけど、ちょっとね・・・」 という人も多いと思います。
以下に 若干のエビデンスを示しながら、私の意見を紹介したいと思います。
(なお、以下の議論は 単語数で言えば 最低3千語程度、文法でいえば大学入試レベル
を習得していることを前提としています。 それ以前は ボキャビル以前の問題ですし、
インターネットにも沢山のいいホームページがあります(例:英語上達完全マップ)。
カリキュラムも多い(例:NHKのラジオ講座など)ので。)
2.
最初に結論だけを申し上げると、「議論の余地無く、英英を使うべきである」、というのが
私の意見です。 さらに理想的には「語彙の選定と暗記用例文は 学習英英辞典から
採用し、 定義文はネイティブ用の英英辞典を参考、語彙のネットワークを高めるため
ネイティブ用の百科事典を併用すべきである」というのが私の考えです。
以降その理由を詳しく述べたいと思います。
3.英英辞典の必要性: なぜ英和に問題があるのか。
たとえば sheepish
という単語を調べてみましょう。
三省堂の「ニューセンチュリー英和辞典」では:
<形>(羊のように)気の弱い;
内気な,はにかみ屋の. とあります。
また、alcのオンライン・英辞郎では、
【形】
恥ずかしがる、(羊のように)内気{うちき}な、おどおどした、気の弱い、恥ずかしそうな、柔和{にゅうわ}な
です。
明らかに sheep
から来ている形容詞なので これで全く問題ない様に思えます。
それでは 学習用英英辞典として有名な LDOCE(Longman
Dictionary of Contemporary
English)を引いてみましょう。
(今は第4版が出ているのですが 下記引用は手持ちの3版です。 スミマセン・・・・。 )
adjective
uncomfortable or embarrassed because you know that you
have done something silly or wrong:
Richard was looking
sheepish.
同じく 中級学習英英辞典の OPED(Oxford Practical English Dictionary)からです。
sth = somethingの省略形
adj. feeling
ashamed or embarssed because you have done sth silly:
a sheepish
grin
次は ネイティブ用の英英辞典として大昔から著名なCOD(Concise Oxford
English Dictionary)です。
adj. 1. bashful, shy,
reticent. 2. embarrassed through
shame.
最後に、米語の英英辞典 AHD(The American
Heritage Dictionary of the English Language, Third
Edition) です。
adjective
1. Embarrassed, as by consciousness of
a fault: a sheepish grin.
2. Meek or stupid.
いかがですか?(英英の青色は原文にはありません。sdが勝手につけたものです
。)
一見して、英英の青色の部分が 英和では欠落しているのがおわかりでしょう。 CODとAHDでは2つの定義が
あるところを見ると、 英和ではその内の片方だけ(語源に近い方)を採用しているようです。
ところが 学習英英では 英和で採用していない方の意味しかあげていません!・・・・つまりこっちの方が
現実には良く使われるという事。
このbecause you know that you have done something silly or wrong
= as by consciousness of a fault の
部分は connotation と呼ぶべきものであり、 connotationを正しく理解しているかどうか、というのが
原文の意味を正しく把握できるかどうか の分かれ道になります。
たとえば 「有名な」 : famous
vs notorious の違い。(この例は初歩的なのでたいていの英和でも
指摘されていますが。)
LDOCEは実に驚くべき辞書で ここにあげたような 英和では指摘されていない ニュアンス、
connotationの
違いについて 至る所で指摘があり、 アッと驚くことがしばしばです。
例文の a sheepish
grin
というのも、「羊のような笑い」では意味不明の誤訳、 「おどおどした笑い」でも
殆ど誤り、 「恥ずかしそうな笑い」 は△(文脈によってはOKの時もあるが、不十分)、
「照れ笑い」というのが多くの場合正しいのでしょう。
上記の例でわかるように LDOCEの定義は ニュアンスを正しく伝えた上で非常にわかり易いのですが、
長い、という欠点があります。 AHDの Embarrassed,
as by consciousness of a fault: a sheepish
grin.
は同じ事を 簡明に表現しており、 上級を目指している人なら この定義を覚えるのが効果的と思います。
4.ネイティブ用英英辞典と百科事典の併用の必要性:
英和辞典には多くの問題があり、 英英を使うべきである、というのはずっと以前に気づいていたのですが
ネイティブ用の英英辞典、とくに百科事典を併用すべきであるというのに気づいたのは sdも比較的最近です。
rubella という単語で説明しましょう。
この単語、 先のBNCツールでランキングを調べてみますと、 33,607 であり、一見難しそうに見えます。が、
簡単な本を読むにも 40〜60千語が必要なことを考え合わせると 実は そんなに難しい言葉ではありません。
実際、英和辞典では
rubella = [n.]風疹.
と定義されており、 日本語なら小学生は無理ですが、中学生ぐらいで理解する言葉です。
この例は 病気の名前なので 正しく理解する為には 日本語の専門語の訳が必須です。 しかし
それだけでいいのでしょうか? これで英語を勉強したことになりますか??
次の小学生2人の対話をお読みください。
小学生A: 「中学生になれば 英語を習うんだよね。」
小学生B: 「うん。 でも 僕はもう先に習っていて だいぶ英語を知っているよ。」
「たとえば ドッグ・・・ 犬、
キャット・・猫
アップル・・・りんご、
・・・・・・・・・・・」
この小学生B、「英語を知っている」と言えますか?
rubella=風疹、 では この小学生と同じではないでしょうか。
それでは英英辞典を引いてみましょう。
LDOCE:
noun [uncountable] technical an infectious disease that causes
red spots on your body,
and
can
damage an unborn child; german measles (この青は原文のまま)
OPED:
noun [u] = GERMAN MEASLES
COD: n..Med. an
acute infectious virus disease with a red rash; German measles.
AHD:
noun A mild, contagious, eruptive disease caused by a virus and
capable of producing congenital defects
in infants born to mothers infected during the first three months of pregnancy.
Also called German measles.
それでは 百科事典: The
Concise Columbia
Encyclopedia を引いてみると・・・
CCE: rubella,
or German measles, acute infectious viral disease, causing a rash and
fever.
It is mild and uncomplicated unless contracted during the first three months of
pregnancy, when it can
cause serious damage to the fetus (see BIRTH
DEFECTS). VACCINATION against rubella is given
to children and advised for young women who have not had the disease.
(この青も原文のまま)
どうやら rubella =
German measles
らしいですね。 気になるので measlesを引いてみると・・・・
英和: 〈名〉(ふつう単数扱い)【医学】(時に the をつけて)
はしか,麻疹(ましん)
AHD: noun
(used with a sing. or pl. verb) An acute, contagious viral disease,
usually occurring in childhood
and characterized by eruption
of red spots on the skin, fever, and catarrhal symptoms. Also called
rubeola.
CCE: measles ,or rubeola ,
highly contagious viral disease spread by droplet spray from the mouth, nose,
and throat
during the infectious stage (beginning two to four days before the rash appears
and lasting two to five days
thereafter). Early symptoms (fever, redness of eyes) are followed by
characteristic white spots in the mouth
and a facial rash that spreads to the rest of the body. Although one attack
confers lifelong immunity,
immunization is advisable because of the possibility of serious secondary
infection. See also RUBELLA.
つまり 以下の様になります。

如何でしょうか。 この例は ほんの一部で 実際にはもっと沢山の関連イメージ・語句があります。
私はこれを「言葉のネットワーク」と呼んでいますが、 『速読の英語』で有名な松本道弘氏は これを
"frame
of references"
と呼んでおられたと思います。
この例でわかるように n個の単語を覚えるとは、 n個の意味を覚えることでは無く おのおの関連する
言葉同士のつながり、(どの言葉と言葉が関連するのか、 同意語なのか、反対語なのか、関連語なのか
専門語vs日常語、 etc.)を覚えることです。 そしてこのネットワークの総体が 「言語」になります。
n個の単語を本当に知っていれば そのネットワークの数は nに比例するのでは無く、
少なくともnの2乗、3乗に比例。 ネイティブなら nの4乗にも5乗にもなるのでしょう。
rubella=German
measlesなら とりあえずnの1乗にはなるでしょう。
rubella=風疹では nの1乗にもなりません。 (相手が日本語ですから。)
(最低限の) nの1乗にするためには 英英辞典の活用が必須です。
ただし、学習英英辞典は 最初の例のように非常に優れているのですが いかんせん 難しい言葉を
簡単な基本語で定義する、という基本スタンスがあり、 言葉のネットワークを増やすという
目的には(致命的に)不適切です。
先の例で言えば fetus
-> unborn child , rash -> red
spots
nの2乗、3乗とするためには、 ネイティブ用英英辞典、百科事典の併用の必要がここにあります。
この話題は 中級の方には少し難しい話題かも知れません。 しかし、 中級を超え上級(★)を目指して
おられる方、 本物の英語力を目指しておられる方には 必須であると思います。
★:つまりTOEICの点数ではかれるレベル以上の英語力のことです。
この、「言葉のネットワークの必要性」と「単語を単語帳で覚える危険性」については 先人の多くが気づいており
そのために「言葉は単語帳で覚えるのではなく、 読書で出てきた中で 自然に覚えるべきである」という
主張がなされてきたのだと思っています。
ただし、 「アンチ・バベルの塔」さんがすでにご指摘
の通り、 読書の中で1万語レベル以上の単語を
習得するのは 時間ロスが大きく だれにでも出来るものではありません。 (出現頻度が低すぎますから。)
→故に 辞典の活用が必須になるわけです。
この辞典として 学習英英辞典だけではなく、 ネイティブ用英英辞典と百科事典を併用すべきである、
というのが 私の結論です。 (ちなみに私は紙の辞典・辞書は滅多に使いません。 殆ど
パソコン上の電子辞書をつかっています。)
最後に、先の dog とcat の場合のネットワークの例を ここ
に示しておきます。
(どちらも 超基本語なので、 ほんの1部分であることにご注意ください。)