あとがき★2004/1月号
---

明けましておめでとうございます。本年も旧年同様よろしくお願い申し上げます。 さて今年は申年。猿

は和訓栞に「獣中に智のまさりたる義なるべし」とあります。猿はサル目(霊長類)のヒト以外の哺乳

類の総称です。言葉としては、ずるく模倣の小才ある者の罵りに使うこともあり、また猿の人真似、猿

の尻笑い、猿も木から落ちる等など、猿が人に似て智にまさるが故の言語が見受けられます。

年頭に当たって毎年思うことは「この一年を恙無く過せますように・・」ということ。ところが世の中なか

なかそうはいかなくて困ったものです。人並みで、平凡でいいから、まずは健康に過せたらと切に願

います。

とは言え、人並みとか平凡とか言っても、結局どういうことなのかなって思ったりします。なんとなく使

っている言葉ですが、考えてみると掴み所のないことに気づきます。普通だとか普通じゃないとか、良

いとか悪いとかもそうです。その尺度は、人それぞれの立場や環境によって違うということをつくづく

思う此の頃です。

理屈はともかく、これからの人生は「自分らしく生きること」を中心に据えて考えていけたらと思ってい

るところです。どうぞ良いお年をお過ごし下さい。

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/2月号
---

如月とは「生更ぎ」つまり草木の更生する意で陰暦二月の異称です。冬の間、枯れたかのように見え

た草や木が密かに芽を膨らませ、やがて芽吹きの時を迎え、森や野原が、息を吹き返したかのよう

に、淡く瑞々しく彩られていきます。静かで厳かな早春の営みは、暖かな地方から、そして低い平野

から、徐々に春の色に染めていきます。

 暦の上では二月に入ると節分、そして立春ですが、寒さはこれからが本番という感があり、しばらく

は、「春は名のみ」の日が続きそうです。それでも今年は例年より暖かいのか、梅の花の便りがちら

ほら聞かれます。我が家の鉢植えの白梅も、ご近所の紅梅もすでに咲き出し、辺りに甘い香りを漂わ

せています。

毎年の事ながら季節の移り変わるさまは、あたかも大自然の織り成すドラマのようで、とりわけ春は

心ときめく季節です。「春」は張る、墾る、晴るの意とも言われ、勢いの盛んな時、得意の時、青年期、

思春期などをも意味するように、やはり「ときめきの季」のようです。

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/3月号
---

人生には三つの「坂」があると言います。好調な時の「上り坂」調子の悪い時の「下り坂」そして三 番目

は「まさか」だそうです。病気にせよ、災害にせよ「まさか自分の身に・・」と思うのは誰しも同じです。

この「まさか」に備えて、常日頃から気をつけていなければいけませんが、特段これといった症状もな

く元気な時には、怖い病気になる可能性は、誰に限らずあるのだと言われても「他人ごと」と思って聞

き流してしまうのが人の常というものです。事件、事故、災害でもそうです。否定する確たる根拠もな

いのに「自分は大丈夫」「まさか自分の身には」と思っているのです。  昨年来、果物やお米、果ては

魚介類までが大量に盗まれる事件が相次ぎましたが、岡山で被害にあった農家の人はひと言「あれ

は東北のことかと思っていた」と。特に今の世の中、病気は勿論のこと、何事も明日は我が身と思わ

ないといけないようです。

三月、弥生、花の季節ももうすぐ。暖かくなると自然と心も和んできます。  

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/4月号
---

昨年気まぐれにご紹介しながら途切れたままの「おくのほそ道」は、その後平泉から鳴子、尿前、尾

花沢へと旅が続きます。

------ 蚤虱馬の尿するまくらもと

------ 涼しさをわが宿にして寝まるなり

立石寺では「・・物の音聞こえず岸を巡り岩を這ひて仏閣を拝し佳景寂寞として心澄みゆくのみおぼ

ゆ」と書いています。

------ 閑かさや岩にしみ入る蝉の声

そして最上川、出羽三山を経て酒田、象潟へ。「松島は笑ふが如く象潟は慨むが如し。寂しさに悲し

みを加へて地勢、魂を悩ますに似たり」

------ 五月雨を集めて早し最上川

------ 象潟や雨に西施がねぶの花

時に元禄二年六月十八日。再び酒田を経て新潟、金沢と辿って九月上旬に大垣にて旅を終えます。

芭蕉は元禄七年四月「おくのほそ道」の清書を成し、十月十二日大阪にて没。五十一歳。

------ 旅に病で夢は枯野をかけ廻る

四月と言えばまずは桜の花。芭蕉が奥の細道に旅立ったのもまさに桜花爛漫の頃です。

------ 花の雲鐘は上野か浅草か

これは深川で詠んだ句で、芭蕉四十四歳、前期の最高傑作とも言われています。桜には心の故里を

感じさせるような不思議な魅力があります。今年もまた夫々に想いを重ねることでしょう。

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/5月号
---

聖五月。新緑の心地良い季節です。一日八十八夜、三日憲法記念日、四日国民の休日、五日は子

どもの日そして立夏。今年は大型連休ということですが、まず思うことは「渋滞、人ごみ」。 最近は人ご

みがとても疲れるようになりました。 千歳の行きつけの喫茶店で、マスターと常連のお客さんが話をし

ていました。なんでもその人は東京での事業を奥さんや息子さんに任せて、三年ほど前から千歳で事

業を始めたそうなのですが、「東京には三日も居られない」というのです。「考えてもご覧よ。山手線な

んか乗ったら、みんな生気のない顔した奴ばっかだよ」 「あんなとこ人の住むところじゃない」と言う

人も出て来たりしてもう大変。そこに住んでいる私だって、なにも満足して住んでいる訳ではないので

す。いろいろな柵があって、この土地に根を下ろして二十三年。私に家の主導権があったらこうもした

いのに・・・という叶わぬ夢もなきにしもあらず。

陽気が良くなってくると開放感からか、夢も大きく膨らみます。  

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/6月号
---

今年は季節が行きつ戻りつして、何か忘れ物をしたような、遣り残したことがあるような気がしている

うちに早くも六月。それでも自然は月を重ねる毎に、戸惑い乍らも、それぞれの季節を刻んできまし

た。それは単なる順応ではなく、必死に今を生きて「子孫を残す」という使命感に他ならないのではな

いかと思います。

そう思うと、大いなる自然のなんと偉大で、なんと健気なことでしょう。与えられた使命に向かってぎり

ぎりまで順応し、時には疲れ果て、子孫どころか己の命をも落としてしまうというのに・・。  そこへいく

と人間は、寒い時には暖房を入れ、暑いといっては冷房をつけるなど、伏兵を沢山使って身を守る事

が出来ます。ちょっと目には快適で近代的ですが、それはイコール「体能力の低下」に他なりません。

近年、医薬を使わずに病気を治すとか、無肥料、無農薬で農作物を作るという話をよく聞きますが、

これは人間の持つ自己治癒力を高めようというものだそうです。「断食」も現代では、体内の不要な脂

肪や毒素の排出を促し、体をリセットする為の手段だといわれます。 これからは、人間の体に本来

備わっている「力」を呼び覚ますことが、健康生活の秘訣かも知れません。 

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/7月号
---

しばし爽やかな初夏を過ごしたかと思っているうちに、紫陽花が綺麗に色づき、今年は早々と梅雨に

入りました。

乾燥し過ぎにも閉口しますが、逆に湿度のあり過ぎも困ったものです。東京辺りでは、暑さと相まって

甚だ鬱陶しい季節となります。そんな中で生き生きと咲いて心を和ませてくれるのが紫陽花です。

最近は種類がとても多く、色も形もさまざま。大輪の園芸種はとても見事です。

一方、野山に自生する野生の紫陽花にもまた捨てがたい美しさがあります。華やかさこそないけれ

ど、清楚で慎ましくて、自分の居場所や咲く時期をちゃんと心得ています。

天候不順なこの頃、この夏がそんな健気な花たちを惑わせないような気候であって欲しいと願いま

す。猛暑であれ冷夏であれ、ダメージを受けるのは野に咲く花たちだけではありません。もしかして

私たち人間のほうが、結局はより大きなダメージを受けるかも知れません。そんな時の為にも、日

頃から余り文明にどっぷりと浸からない生活を心掛けたいものです。

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/8月号
---

八月、昆虫の多い季節です。私が小学生時代には、夏休みともなると「昆虫採集」「植物採集」などを

したものですが、今頃の子どもたちは宿題にどんなことをしているのでしょう。

近年は「遺伝子改造蚕」に人間の人工皮膚を作らせるとか、蚊の遺伝子を組替えてマラリアの撲滅

を図るなど、さまざまな分野で昆虫の持つ独特な生命力に注目をしているそうです。 かぶと虫の幼虫

から抗菌剤、モンシロチョウのサナギから抗がん剤、サシガメの唾液から狭心症治療薬などなど・・。

学者たちには「昆虫はまさに宝の山」と持て囃されているものの、一方で、部屋の中でのみ飼育する

蚕はともかく、蚊のように自然界に放すことを前提としていた場合の、生態系に及ぼす不測のリスクを

危惧する声もあります。

この研究は、ほんの近年のことのようですが、その昔すでにファーブルが、そういった事柄の基礎に

なる観察をして本に書き残していたのです。

今まさにファーブル昆虫記が注目されています。私も子どもの頃に買って貰って、一冊だけ持ってい

ますが、余り面白くなくて全部読んでいない気がします。寝つかれない時にでも、読み直してみること

にしましょう。夢のような宝の山だそうですから。

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/9月号
---

暑い暑い夏が、ようやく過ぎて行こうとしています。この辺りでは、七月末の台風十号の影響でやっと

のこと雨らしい雨が降りました。それまでの一ヶ月半というもの、全くのクーラー漬。その異常な暑さの

真ん中で、たまたま異常に寒い北海道へ行き来したものですから、帰京した日の気温差二十五℃、

どっと疲れが出たものでした。

東京では、カーテンをして一日中直射日光を遮っても、雨が降らず、容赦なく照りつける太陽に暖め

られた建物は、まるで暖炉か行火のように家の中を暖め続けました。上野の森は暑さに喘いで枯死

する木が続出。異常に早く法師蝉が啼いたかと思うと藤や山吹が咲いたり、自然のリズムが狂ってし

まう始末でした。

もはや、この暑さには終りがないのだろうかとさえ思いたくなる毎日。でも、空が高く澄んできて、虫の

声がしてきて、夜風がちょっぴり涼しくなってきて、ようやく微かな秋の到来を感じます。

秋は、食べ物のおいしい季節です。栄養バランスのいい食事を摂って、この夏消耗した体力を取り戻

し、健康にお過ごし下さい。

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/10月号
---

この秋、果物がとても甘くおいしいのは、奇しくもあの耐え難い猛暑の置き土産のようです。ななかま

ども、朱赤に染まった実をずっしりとつけています。

谷中では、猛暑で葉を一枚残らず枯らして、もう枯死してしまったかと思っていた近所の夏椿が、最近

ちらほらと新しい葉を出し始めたではありませんか。買い物の行き帰り、痛ましい姿を眺めていただ

けに、とても嬉しくなりました。

この夏、暑さと相まって自分自身が何かと疲れたからでしょうか、酷暑と旱魃に倒れてゆく草木を、我

が身と重なる思いで見ていたようです。夏椿の枝先に瑞々しい若葉を見つけた時は、思わず我が目

を疑いました。焦げ茶色に枯れた葉がすっかり落ちて、裸になった木が目に入った時は「いよいよ駄

目に・・・」と思いましたが、良〜く見たら、若葉が出ていたのです。

殺伐とした昨今、こんな他愛もないことでも、ちょっとした元気をもらった気がして、嬉しかったり感謝

したり。 人は所詮弱いものですから、何気ないことに一喜一憂、大きな年齢の山を越えるときは殊更

です。年齢の節目は、身体が変る時期と言うことなのでしょう。やはり、それなりに心身が偏重をきた

すようです。歳相応にそれぞれ、くれぐれもお気をつけてお過ごし下さい。

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/11月号
---

十一月七日立冬。ようやく凌ぎやすくなったと思ったら、あっという間に冬です。残暑が厳しかったた

めか、実りの秋、収穫の秋が足早に過ぎていったように感じます。

今年はおとりさまが「三の酉」まであります。三の酉のある年は火事が多いと言われていますので、火

の元にはくれぐれもお気をつけ下さい。そういえば十月号の製本でスタッフに集まって頂いていた日

のことです。我が家のすぐそばで火事がありました。谷中に住んで以来初めてのことでした。マンシ

ョンの一室を焼いたとかで、幸い怪我人もなかったようですが、普段は静かな住宅地が一時は騒然と

なりました。

身震いするような凶悪な犯罪が氾濫している昨今ですが、火事は一瞬にして、家財のみならず時に

は命までも失ってしまうという、また別の意味でたいそう悲惨な事故です。 十一月には「全国火災予防

運動」が行われます。乾燥している時期だけに細心の注意をなさって下さい。

 庭先で焚き火をした頃が懐かしく思い出されます。

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)

あとがき★2004/12月号
---

暑さに、台風に、そして地震に痛めつけられた平成十六年が終ろうとしています。それにしてもなんと

いう年だったのでしょう。天災とはいえ、余りのことに目を覆うばかりでした。

今年はまた、病床にあった方、高齢の方には耐え難い年だったのではないでしょうか。親交のあった

友人知人の訃報が相次ぎました。亡くなった方々との日々を思うとき、過ぎ去った歳月の長さを改め

て思い、つくづくと自分自身の年齢を噛み締めながらご冥福を祈りました。

そうこうしているうちに年末です。人は「忘れる」という智恵があるから、いつの世も苦難を乗り越え

哀しみを乗り越えてこられたのです。そしてこれからも変わることなく、人はそうして強く生きてゆ

くことでしょう。

黙っていても毎年また次の年がやって来たように、今年もきっと、何事もなかったかのように来年へと

繋がっていくことでしょう。茨の実は皆様のお蔭でまた新たなる年を平穏に迎えることが出来ます。

感謝して余りあるこの幸せに乾杯!

------------------------------------------------------------------- (茨の実会事務局 鈴木紅映)