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航ちゃんからの 電話
夜8時すぎ、 お山の夜はすっかり 夜の帳(とばり)が下りていました。都会では 想像も付かないほど静かな静かな お外は真っ暗な夜なのです。リーン と電話のベルが鳴りました。“もしもし、もう疲れが取れた?”可愛い 航ちゃんの声でした。 パパの演奏会で東京に行き 疲れきって帰ってきた後だったのです。 その後の あなたの話の面白い事、 受話器を耳にしながら 散々笑いました。 あなたの電話は笑い袋の配達人みたいです。“容子おばあちゃま、今日 航貴 カバンを作ったんだよ、大きい紙に チューリップの絵をかいて それをね、こういう風に折ってネ そこに 、こういう風に穴を開けてと 電話の前でさかんに その動きをしているようなのです。 あら、そうっだたの、上手いはねと 私も それを 受けて たつ、 関係のない人が聞いたら なんとも 不思議な光景かも知れない、テレビ電話でもないのに 私には 航ちゃんの仕草が手に取るように見える。 それで 二人のコミュニケーションは充分取れているのである。 そのうち、 あっそうだ!あしたは チューリップを大きく書いて それに色を塗って はさみで切って カバンを作ろうっと 明日の 準備まで 考え付く。
航ちゃんはなんでも出来て偉いのねというと、 それからが 傑作。 あのね、 おばあちゃま、 航貴 しゃべりすぎ、 食べすぎ、 ねむりすぎ、遊びすぎなんだよね、 あらそんなことないわよと私。航ちゃんは 力を入れて 本当そうなんだよ、本当に。 ママにでも いつも言われているのかな?。
さんざん 自分でしゃべって ママが じゃあねって 云いたいんだってと 一言ママに言わせて、今度は本当に切るからねと 自分から受話器を置いた。 私が先に 切ろうものなら 航貴自分で切りたいのと 一旦切っても もう一度かけ直してきて じゃあね バイバイと 自分で受話器を置く。
パパが世界一、ママ一番じゃなくてごめんね、 でも 航貴 やっぱり パパが一番好きなの、 という航ちゃん、私たちが東京へ行くと おじいちゃまから 片時も離れず 張り付いている航ちゃん、 おじいちゃまとおばあちゃまは 何番目なんて 野暮なことは 聞かない事にしましょう。おじいちゃまの背中の上で食べたみかんは美味しかったですか? おじいちゃまの お腹をクッションにしてみる テレビは具合が良かったですか?あなたの描いたおじいちゃまの顔の絵は 今山のお家の壁に貼ってあります。 帰ってくるとき 忙しかったのに それでも おじいちゃまは あの絵を持ち帰るのを 忘れませんでした。航ちゃん また 遊びに来てね。
よく遊び、よく食べて、よく眠る あなたの目は 宝石以上に 輝いて まぶしい程です。
いつまでも この輝きを 持ち続けて欲しい!

世田谷美術館プロムナードコンサートの日
