「私は家族?親戚?その他?」の巻

 89歳の義母が入院した。一人暮らしを信条としてきたが、食事の栄養が偏り、
水分もあまり摂らなかったため動けなくなり入院となった。義母には長男をは
じめ、長女・次女・三女・四女(私の妻)の子供達がいるが、「誰の世話にも
ならぬ!」と一人で自由に生きることを信条とし、89歳になっても『源氏物語』
や『万葉集』を愛読し、野に咲く花々を愛する知性的な女性である。

「誰の世話にもならぬ!」「一人で生きる!」と言っても、年齢が年齢だけに、
一番近くに住んでいる四女と私(私は四女の夫)やそのほかの兄や姉妹たちもい
つも連絡を取り合い、私の妻(四女)は時間を見つけては訪ねていた。

入院中は、息子と娘たち五人がいるので、申し合わせた訳でもないのに誰かがい
つも面会に来ている。

 この四姉妹、多少身内びいきになるが、四人とも顔立ちが整い、独特の雰囲気を
持ち合わせた姉妹で、谷崎潤一郎の『細雪』に登場する姉妹と雰囲気がなんとは
なく似ている(※個人的な印象ですので、実際とは異なる場合がございます)。

その中の三女のお姉さんから、「困ったことがある」と相談を受ける。

三女「私、面会に来るといつも困ることがあるの。ほら、受付けで面会票を書く
でしょう。あれ困ってしまうのよね。」
私と妻(四女)「何がそんなに困るんですか。」

三女「あの面会票に間柄を書く欄があるでしょう。あれに困ってしまうのよね。
『家族・親戚・その他』ってあるでしょう、あれ、どれに丸をしていいのか分か
らないのよ。」
私と妻「当然、『家族』のところに丸をつけるでしょう」

三女「えっ、『家族』なの?だって私、お嫁にいってるのよ。『親戚』に丸をつ
けるのも変だし、いつも困ってしまうのよ。」
私と妻「じゃあ、いつもどこに丸をつけているんですか」

三女「いつもね、『その他』に丸をつけているの」
私と妻「ええっーー!それって変ですよ!ぶっちぎりの『家族』じゃないですか!」

三女「だって、お嫁にいっているのよ。結婚すると戸籍から抜けるじゃない、そ
れでも『家族』なの?」
私「あのねえ、お姉さん、お姉さんはお母さんから生まれたんでしょう?戸籍か
ら抜けるとかの問題じゃあないでしょう。正真正銘の家族じゃあないですか。」

三女「そういうことなの?、ふーん。じゃあ普通に『家族』に丸をしていいのね。」
私(心の中で)「この呆け方は並ではないな、一族の家系かな?」

そこで、他の姉妹や義兄にも「事情聴取」となる。
長女(上品に)「私はちゃんと面会票は書いてますよ。間柄も『家族』に丸をして
いますわ。」
私(心の中で)「さすが長女のお姉さん、三女とは違うね。」

長男「面会票なんてあったっけ?書いたことないな。」
私(心の中で)「お兄さんのこのざっくりとした性格も並ではないな、家系かな?」

次女(上品に)「面会票があるのは知ってますけど、私は面会票は書きませんよ。
家族は面会票を書かなくてもいいんですよ。」
私(心の中で)「お姉さん、それって誰が決めたんですか?この独断性、家系かな?」

三女は既に説明済み。

 そして私の妻(四女)「ちゃんと面会票は書いてるよ。間柄も『家族』に丸をして
るよ。お姉さんと一緒にしないでね。」
そして続ける、「お母さんって面白いのよ、入院中にお金を身につけていないと不
安だから20万円ほど袋に入れて病衣に縫い付けてくれないかねえ、なんて言ってる
の。変よねえ、入院中にお金なんかいらないのにねえ、それを病衣に縫い付けるな
んて。」
私(心の中で)「お母さんの金銭感覚も並ではないな、家系だろうか?」

妻「でも、不安なんだろうから、この間袋を作って病衣に縫い付けておいたわ。20万
だと少ないと思って30万にしたの。」
私(心の中で)「ええっーー!、お、お、お前の金銭感覚も並ではないぞ。家系だ!
完全な家系だ!」

 私がこうして一人相撲をとっているのをよそに、姉妹たちは一族のそれぞれの家系を
背負い、今日も義母の面会に通っているのである。


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