人工生命と蛾の隠蔽色の進化

分散処理
 遺伝的アルゴリズムは計算機の分散処理にも適している。分散処理とは、1台の計算機ですべての計算を行わず、難題化に分散させて計算し、その途中経過を持ち寄って再び計算を進める。最後の結果だけを持ち寄るのは分散処理、途中経過を持ち寄るのを並列処理という。1台の計算機で計算するのに比べてどの程度速くなるかは、計算内容にもよる。2台使えば2倍速くなるわけではない。もし二人の利用者が2台の計算機を並列処理で同時に使おうとすれば、一人の計算を2台がやり終えてからもう一人の計算に入る。これなら一人1台ずつ使う方が効率的である。

 なぜ2台で2倍速くならないかと言えば、両方で分担した計算が同時に終わるとは限らないからだ。早く終わった方は他方が終わるまで待たなくてはいけない。あと、計算機間の情報のやりとりに少し時間がかかるが、これは最近ではほとんど無視できるようになってきた。当然、早く終わった方が他の利用者の計算課題をやり始めれば、全体としての効率は上がるはずだが、いずれにしても、一人分の計算が終わるのは2台で2倍とはいかない。

 ところが、人工生命や遺伝的アルゴリズムの場合は分散処理に適している。実際の生物集団でも、二つの半隔離された分集団で独立に進化し、ときどき個体が分集団間を移動することがある。二つの分集団が同じような進化を起こすとは限らず、しかも途中で個体が移動することで新しい「血」が入り、進化が促進されることがある。

 このような工夫は、計算機では分散処理により簡単にできる。しかも、一方の計算機が計算し終わるまで他方が待つ必要はない。10世代ごとに移動させるという形の計算でなく、実計算時間で1秒ごとに移動させるという形の計算でも良いのである。むしろ、その方が生物らしいかもしれない。このような計算には再現性がないが、だいたい似たような解が得られればそれでよい。

 

進化的安定状態と永久変動
 蛾の進化体験ゲームSPXには終わりがない。あなたが飽きるか、疲れたところでやめればよい。このゲームでは背景は似たような模様を出し続けていたが、背景を途中から暗くすれば、工業暗化*industrialmelanismを模した体験もできるだろう。つまり、背景が明るいうちは明るい色調の蛾が進化し、暗くしてからは暗い色調の蛾が進化するはずである。

 もしもあなた(天敵)がずっと同じ探索像で探し続ければ、どんどん発見しづらくなり、背景に紛れた模様が進化し、そこで進化は止まるだろう。このような状況を進化的安定状態evolutionarilystablestateまたは進化的安定政略*(evolutionarilystablestrategy)という。このとき、両親はほとんど同じ模様で、突然変異で生じた違う模様の子は見つかりやすくて捕まり、親と同じ模様の子が生き残る。突然変異はもはや不利な個体しか生み出さない。

 しかし、あなたが途中で探索像を入れ替えることができれば、今まで発見しづらかった模様が発見しやすくなる。これを繰り返せば、進化は一定の状態では終わらずに、永久に変わり続けて行くはずである。それが昔と同じ状態に回帰する周期変動になるか、非周期的なカオス的変動になるかはともかく、進化が永久変動を生み出すことがある。

 また、SPXではどんな模様でもそれを作る労力costは考えなかった。しかし、平凡な模様では異性にもてないとか、多大のエネルギーがかかることも考えられる。このような場合、労力がかかる方向に際限なく進化する場合もある。これをランナウェイ説runawayhypethesisという。雄の形質(シカの角など)と雌の好み(長い角をもつ雄を選ぶ)が連動した結果、雄の角がかなり長くなることは良く知られている。

 

人工生命に芸術は作れるか?
 蛾の隠蔽色が人工生命で体験できるなら、長い角の進化が人工生命で模倣できるだろうか?おそらくできるだろう。そのためには、雄と雌の両方の人工生命が必要である。やりようによっては、美しいクジャクの羽の進化も、ウグイスの囀りの進化も模倣できるだろう。

 ただし、長い角を持つクジャクや、尾バネの美しいライオンが進化しないと言う保証はない。SPXでは、被食者と捕食者の共進化のうち、捕食者役を人間(ゲームのプレーヤー)にやらせていた。体験ソフトではなくなるが、捕食者役も人工生命にやらせることもできるだろう。あるいは、背景との類似度を何らかの評価方法で評価し、その点数が上がるように進化させることもできる。

 それに対して、一方の当事者を人間にやらせれば、その人間が思うとおりの(あるいはその人間の思惑をくぐり抜けた)形質を進化させることができる。人間が雌役をやり、10個体の雄の模様の中から一個体を選ぶ進化を繰り返せば、人間に選ばれやすい模様の雄の蛾が進化していくだろう。あなたが好きな模様が進化していくかも知れない。同じように、人工生命に勝手な31文字の短歌を作らせ、人間が気に入ったものを選び続けることができる。そもそも、チェスでは一度は計算機が人間に勝利したではないか。

 人工生命に多量の短歌を記憶させて、それを組み合わせて適当に新語を交ぜて短歌を作らせれば、(今はまだ不可能だが)それなりに短歌らしいものはできる。その中からあなたが気に入るものを選び続ければ、かなりの精度でよい短歌を作ることができるかもしれない。しかし、それは本質的にあなたが選んだ短歌であって、計算機が作った短歌といえるかどうか、疑わしい。


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