
*は楽譜を探索中、※は録音を探索中のものです。
〈ポーランド〉 ショパンは立派な民族音楽の作曲家です。疑う人はマズルカを聴いて下さい。中国の生んだ世
界的ピアニスト、フー・ツォン(傳聡)の弾くショパンは絶品。彼は中国の古典文化に造詣が深く、
アジア人としての美意識をもってショパンを演奏したばかりでなく、その独特な解釈を世界に認め
させました。「私は自分の作品が戦いの歌として演奏されることを望む」(ショパンの言葉)。
ショパン以後のこの国のピアノ曲としてシマノフスキ Karol Szymanowski (1882〜1937)の作品が
挙げられますが、明らかに後期スクリャービンの影響が認められる神秘的で孤高な世界は、いか
にもマニア向きで、大衆の理解を拒んでいるように思われます。NAXOSから4巻のCD全集が出て
います。
ルトスワフスキ Witold Lutoslawski (1913〜1994)の「民謡集」(1945年)や「牧歌集」(1952年)は民
謡の旋律に近代的な和声を施したもので平明な作風とされてはいるが、私には親しみにくいもの
でした。(CD:ポーランド現代ピアノ作品集 Regulas
RGCD-1004 ピアノ:藤原亜美)
〈チェコ〉 ドゥセック Ladislav Dussek (1760から1812)を先駆者とし、スメタナ Bedrich
Smetana (1824
〜1884)、ドヴォルザーク Antonin Dvorak (1841〜1904)で開花するチェコ国民音楽があります。
ヤナーチェク Leos Janacek (1854〜1928)のピアノソナタ《1905年10月1日、街頭にて》は、別
名を《労働者ソナタ》ともいいます。これは1905年10月1日、ブルノ在住のチェコ人が、チェコ語によ
る大学設置を訴えるデモを行い、ドイツ人と衝突、翌日には軍隊も介入して死者が出たことへの作
曲者の怒りから生まれました。(単一主題および作曲者特有のリズムを強調したスチャソフカという
形式で書かれています。第1楽章:予感、第2楽章:死、第3楽章:葬送行進曲から成りますが、第
3楽章は作曲者によって破棄されて現存しません)。音楽と社会のあり方に示唆を与えてくれる名作
です。
〈ハンガリー〉 リストについては、改めて紹介する必要はないでしょう。Leslie Howardの演奏によるCD全集があ
ります。
ブラームスの《ハンガリー舞曲》。
バルトーク Bela Bartok (1881〜1945)は、コダーイと共に、ハンガリーの農民などに伝わる何千と
いう民謡を録音・採譜するという仕事を長年にわたって続け、これを彼の音楽創造の基礎にすえま
した。
《アレグロ・バルバロ BB63》などではピアノを打楽器のように用いています。《組曲 Op.14/BB70》
は、現代的な乾いた抒情で、聞き飽きないのが不思議。一方、《3つのチーク県の民謡
BB45b》、《ピ
アノ協奏曲第2番》、《ピアノ協奏曲第3番》のように、ロマンティックで親しみやすい作品が多いです。
《二台のピアノと打楽器のためのソナタ》は20世紀の記念碑的傑作です。
〈ブルガリア〉 ブルガリアのピアノ曲は今のところ、私には理解できない現代作品以外、入手できていません。
(CD:Contemporary Bulgarian Piano Music,GEGA NEW
GD170,Boyan Vodenicharov-piano)。
〈ルーマニア〉 エネスコ George Enescu (1881〜1955)の後期ロマン風の作品が魅力的。《即興小曲集》
op.18に
は鐘の鳴り響く作品があります。もちろんピアノで表現したものです。(CD:Enescu:Piano
Suites,
OLYMPIA OCD414,Aurora Ienei,Piano)。
〈アルバニア〉 この国は永らく謎の国と呼ばれていました。1946年から1992年まで、アルバニア労働党(共産党)
の一党独裁による、宗教の禁止などたいへん急進的な国造りが進められていたからです。音楽情報
も限られていました。しかし近年になって、この時代のアルバニアのピアノ曲をまとめたCDが出ました。
@Kenge:Albanian Piano Music,Guild GMCD7257 、ARapsodi
Albanian Piano Music Volume 2,
Guild GMCD7300、ピアノはいずれもアメリカ生まれのピアニスト
Kirsten Johnson。
そこに収録されている作品には躍動感があり、また同時に、ギリシアと共通するもの悲しいメロディー
があって印象的でした。楽譜の情報はつかめていません。この時代の音楽の特徴として、12音音楽など
ないのは当然ですが、ただ予想されるような共産主義を宣伝する音楽がこのCDには入っていないようで、
それは演奏者が取り上げなかったのか、そもそもそんなピアノ曲が作られなかったのか、私は不思議に
思っています。
〈ロシア〉 最近ロシアの、特に19世紀の感傷的なピアノ音楽が次々に録音され、世に出ているのは喜ばしいこ
とだと思います。
グリンカ、五人組(バラキレフ、ムソルグスキー、キュイ、リムスキー・コルサコフ、ボロディン)のこれま
で知られていなかった作品を聴くことが出来るようになっています。
チャイコフスキー Peter Ilyich Tchaikovsky (1840〜1893)なら「四季」、「ドゥムカ」。
チャイコフスキーの陰に隠れて、これまであまり注目されなかった作曲家にリャードフとアレンスキー
がいます。リャードフ Anatol Liadov (1855〜1914)は、かわいらしくて心の洗われるような作品を作り
ました。アレンスキー Anton Stepanovich Arensky (1861〜1906)の、抒情詩人としての本領は、2台
のピアノのための組曲1〜5番ばかりでなく、多くのピアノ独奏曲にも発揮されています。リャードフも
アレンスキーも、典雅で懐かしさを感じさせるものでお薦めです。その他、メットネルのピアノソナタ
op.22はメロディーも超絶技巧も注目の作品。
イギリスのピアニスト Stephen Coombs が hyperion
から、19世紀ロシアの作品のCDを次々リリース
しています(Liadov,Arensky,Glazunov,初期のScriabin,
Bortkiewicz)。全部聴いてはいませんが、
選曲・演奏ともに、ロシアのピアノ音楽にひたるのに最もふさわしいものと思います。

スクリャービン Alexander Scriabin (1872〜1915)(写真)は、今後ますます演奏されること
多くなるでしょう。まず、彼の初期と中期の、夢と憧れに満ちた作品群、ピアノソナタ1〜5
番、ファンタジー op.28 、エチュード、マズルカなどがもっとポピュラーになることを希望しま
す。特に熱情的なエチュード op.8-12 を、中学校の音楽の授業でも取り上げることを提唱し
ます。
皆さんに聴いていただきたいのはピアノソナタ第4番 op.30 、これは自由な世界に飛翔す
ることの呼びかけであり、鷲が空をかけていくかのような驚くべき作品です。
しかし、神秘主義に傾倒したスクリャービンの後期作品は、これが同じ人間の作品かと思
ほど作風が変わります。それらは調性を抜け出し、20世紀音楽を切り開いていく重要な作品ではあ
りますが、そこに流れている精神が問題なのです。私は彼が後期作品において間違った歩みをした
のではないかという思いを禁じえません。その思いは、彼の遺志をネムティンという人が継承して完
成されたというオーケストラ作品《神秘劇》を聴くことによってますます強まりました。これは聴く者を
どこに連れて行こうとしているのでしょうか。そこにあるのは音楽の麻薬であり、恐ろしさと退廃を感
じさせる音楽となっています。
1991年のソ連崩壊以来、後期スクリャービンの無調的傾向の影響下に出現し、1920年代にスター
リン主義によって圧殺されたというロシア・アヴァンギャルドの音楽が掘り起こされています。(ロシ
ア・アヴァンギャルドの音楽がそのあとの社会主義リアリズムの音楽に受け継がれたと主張する人
もいまして、検討が必要です)。

しかし、ロシア・アヴァンギャルドを代表するロスラヴェツ Nikolay Rosslavetz (1881〜1944)
(写真)やモソロフ Alexander Mossolov (1900〜1973) らのピアノ曲は、音楽史的には面白い
のですが、かなり難解なもので、私もよくわからないし、当面の間、一般の音楽ファンに受け
入れられるのは難しいのではないでしょうか。モソロフについては、転向させられたあとの
管弦楽作品が実に親しみやすいのです。ソ連における音楽に対しての政治の介入は、二度
と繰り返してはならない悲劇ですが、その結果、わかりやすく親しみやすい作品が生まれた
とするなら、これをどのように考えたら良いのかと思っています。
モスクワ音楽院の教授をしていながら、隠れて作曲していたらしいフェインベルク
Samuil Feinberg
(1890〜1962)の12曲のピアノソナタも、後期スクリャービンの影響から始まっています。複雑で、あ
ふれるほど豊かな内容に圧倒されますが、今の私にはこれを受けとめることが出来ません。
(CD:Samuil Feinberg Piano Sonatas 1-6&7-12,BIS-CD-1413&1414,Samaltanos&
Sirodeau(Piano))。
一方、20世紀ソ連の政治の波を生き抜いた音楽家の作品は冷戦終結後も高く評価されています。
ラフマニノフの《エチュード op.31》には1917年のロシア革命の影が刻印されています。彼のいくつかの
作品はたいへんポピュラーになっていますが、しかしその全貌が理解されたとはいえません。ショスタ
コービッチの《プレリュードとフーガ》は深い思索に富んだ作品。第2次世界大戦でのナチス・ドイツと
たたかうソ連国民を励ましたプロコフィエフの《戦争ソナタ》(ピアノソナタ6〜9番)は必聴の作品で、中
でも8番ソナタは戦争の悲惨さと人間の尊厳を歌いあげた名作です。プロコフィエフの作品は運動性
と鋭い響きだけでなく、叙情性においても際立っています。
社会主義リアリズムの立場に立って音楽界に君臨し、音楽界の独裁者とも言われるフレンニコフ
Tikhon Khrennikov (1913〜2007)のピアノ協奏曲1〜3番を聴いてみました(CD:KAP009
Khrennikov)。
さぞ保守的な作品だろうと想像していたのですが、どうしてどうして革新的な響きで驚きました。エネ
ルギーがほとばしっていますが、へきえきしてしまう面もありました。
スヴィリドフ Georgi Sviridov (1915〜1998)の《ピアノソナタ》は、ほとんど知られていませんが、鋼
鉄のような響きが新鮮で、私は名作だと思います。CDが出ているようです。ラコフ
Nikolai Petrovich
Rakov (1908〜1990)の《ピアノソナタ第2番》も意欲作です。
これらソ連で認められていた作曲家の作品も、掘り起こしが必要だと思いますが、CDも楽譜も入手
が困難というのが実情です。
ロシア革命以降の作品は概して、それ以前の作品にみられる少女趣味と言っても良いほどの濃厚
な叙情性は薄れていて、戦闘的な面が目につきます。
なおソ連映画「シベリア物語」(1947)は、戦争で負傷し、ピアノが弾けなくなったピアニストが再起す
るまでを描いた作品で、音楽映画の最高峰だと思います。スクリャービンの作品が2曲挿入されてい
ます(アイ・ヴィー・シーからDVD発売)。
〈エストニア〉 エストニアの代表的作曲家といわれるトゥビン Eduard Tubin (1905〜1982) の作品など、この国の
これまで紹介されてきたピアノ曲は、ほとんど現代音楽に分類されるもので、民族音楽的なものは聴
いたことがありません。しかし、決して一般の理解を拒むほど難解なものではなく、音楽への真剣な
取り組みが感じられる、価値のあるものだと思います。
CD「エストニアのピアノ音楽」 (FINLANDIA WPCS-10488)
があります。そこに収録されている作品
はすべて20世紀ソ連時代の音楽で、それもバロック音楽を基盤とした現代音楽です。
シサスク Urmas Sisask (1960〜 ) のピアノ曲集 《銀河巡礼》 (FINLANDIA WPCS-10487) は
星座が呼び起こすイメージを自由に羽ばたかせた注目作です。
〈ラトヴィア〉 20世紀ラトヴィアを代表する作曲家はセーゼプス・ヴィートールス (1863〜1948)
。2003年5月31日
ピアニスト久元祐子さんはコンサートで彼の作品《ラトヴィア民謡による10の変奏曲》※*を演奏したと
いうことです。未聴。
私が入手できたのは、Peteris Vasks (1946〜 ) の《Kanntate》。CD (World Keys,Reference
Recordingd RP-106 Piano:Joel Fan) に収録されています。
〈リトアニア〉 ピアノ曲事典(ピティナ・ピアノホームページ)では呼び方はチョルニョーニスだそうです。Mikolajus
Konstantinas Ciurlionis (1875〜1911) の作品が紹介されています。彼の音楽は初め、もの悲しいロマ
ンティックなものでしたが、やがて表現主義、セリアリスム(serialism 私もよくわかりません)、新古典主
義の影響を受け、少しわかりにくい音楽に変わりました。
(CD:Ciurlionis Piano Works Vol.1&2 MARCO POLO
8.223549 & 8.223550 Piano:Muza Rubackyte)。
2009年12月8日の朝日新聞には、ビタウタス・ランズベルギス(Vytautas
Landsbergis)(77歳)がリト
アニア民謡を織り込んだピアノ独奏曲を演奏してまわっているとの記事がありました。
〈ウクライナ〉 レコード「ウクライナの作曲家によるピアノ曲集」(メロディア)に収録されていたステパネンコ
M .Stepanenkoの《映像第一集》*、スコリク M .Skorikの《前奏曲 ショスタコービチの思い出によせて》
*、セチキン V.Sechkin の《モラビアの夕暮れ》*、シルヴェストロフ
V.Silvestrov の《ソナタ》*には、
憂愁を帯びた美しさがあり、印象的でした。
〈モルドバ〉 Edition Peters から出版されている「Klavierstucke aus Rubland und Osteuropa」という楽譜集の中に
Neaga、Lungel、Tkatsch、Rotaru の作品が収録してあり、弾いてみましたが良いとは思えませんでした。
モルドバのピアノ曲で録音されたものの情報はありません。
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