
〈中国〉 中国のピアノ曲の歴史は、この国の苦難と栄光の歴史と共にあります。はじめてピアノ曲が作られたのが1915年で、
そこから現在までを俯瞰すると、1915年から中華人民共和国建国の1949年までがピアノ音楽の揺籃期としての第1期、
1949年から文化大革命が発動される1966年までがピアノ音楽が順調に成長した第2期、1966年から文革終結の1976年
までがピアノ音楽の苦難の時期としての第3期、そして1976年以降現在までのピアノ音楽が回復・発展している第4期に
分類されます。
民謡や古典器楽曲を編曲したもの、中国を構成する各民族の音楽、革命歌曲を改編した音楽などが主流ですが、現
在では12音音楽などもあります。
日本人が初めて耳にした中国のピアノ音楽作品は、おそらく《ピアノ協奏曲「黄河」》(1970)でしょう。文化大革命の時
期に発表された、わかりやすいけれども政治的メッセージを正面から打ち出したこの作品は、いわゆる「音楽通」からは
ばかにされながらも、感動したという声も多く、激しい毀誉褒貶のうずを巻き起こしました。しかし文革も遠くなった今日、
この作品の音楽的な価値を各自が自分の耳でもう一度、検証すべきでしょう。これはスメタナの≪モルダウ≫と同様、
河の流れに託して民族の目覚めを歌った作品です。
いわゆる「先進国」の状況とは異なる民衆的生命力の表現が、中国の作品の大きな特徴です。たとえば
汪立三の
《兄妹開荒》(1978)は、荒地の開墾がピアノ曲の主題となっています。労働者を正面から描いたピアノ曲は、中国人によ
って初めて本格的に創作されたと言って良いでしょう。また少数民族の音楽を基にした作品にフロンティア
精神のみな
ぎる素晴らしい作品をみつけることがあります。。(郭志鴻《新疆舞曲》(1957)など。
文化大革命の時代、中国ではピアノを弾くこと自体がぜいたくなことと見なされたため、ピアニストが迫害され、中国
全土でピアノが破壊されそうになりました。そこで、ピアノを救うため、革命的ピアノ音楽が提唱され、こうしてピアノはか
ろう じて生き残ることが出来たということです。ケ小平の時代になってからは、政治との緊張はなく、現在は空前のピア
ノブームで、その中で李雲迪(リ・ユンディ)の2000年度ショパン・コンクール優勝が勝ち取られました。
入手しやすいCDは「ピアノ協奏曲『黄河』」(p:殷承宗、NAXOS
8.554499)、「中国のピアノ曲集」(p:陳潔、NAXOS
8.570602)7など。楽譜は、中国の書籍を扱っている内山書店(〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-15
03-3294- 0671)やアカデミア・ミュージックなどで入手出来ます。SCHOTT社のものもあります。中国でCD、楽譜など
を探すときは、北京な ら西単図書大楼、中央音楽学院(売店と図書館)がお勧めです。
参考書:「中国鋼琴文化之形成与発展」(卞萌著、華楽出版社、1996)
CD等問い合わせ先:中央音楽学院 天天芸術
住所:100031 北京市西城区鮑家街43号 п@(010)66411059
66410054
メール ttart@sina.com
中国のピアニスト・作曲家についてはこちら。
《ピアノ協奏曲「黄河」》等についての近藤さんのホームページはこちら
なお中国映画「早春四月」(1962年)の中に、ピアノで中国の曲を弾く青年の姿がありました。
台湾については、許常恵など名前の知られている作曲家が何人かおり現在しらべている最中です。日本人ピアニスト
の藤田梓さんが、台湾のピアノ界で中心的な存在になっているそうです。
台湾基督長老教会玉山神学院(花蓮県寿豊郷池南村池南路一段28号 (038)641101・641102) で出版した「台湾
原住民民謡ピアノ小品集@A」は記念すべき意欲的な試みだと思います。台湾の先住民の中からも、新しいピアノ音楽
創造が始まっています。

中国のピアニストたち。ピアノに向かっているのが劉詩昆、その左が李名強、劉詩昆の右の女性が顧聖嬰、その右が
殷承宗 (1950年末ころ)。(「中国鋼琴詩人 顧聖嬰」
上海音楽出版社から)
〈モンゴル〉 以前、モンゴル人留学生にこの国の歌曲の楽譜(歌とピアノ)を見せてもらいましたが、ソ連のものとあまり変わらない
音楽であることに驚きました。
ホームページモンゴル音楽史を知るデータベースにこの国の作曲家の情報が載っており、ゴンチクソムラー
(1915〜1991)という作曲家が≪ピアノのための24の前奏曲≫を作曲したことなどが記されています。
2005年のショパン・コンクールにはこの国のピアニストも参加しています。
〈韓国・北朝鮮〉 韓国のピアノ曲は高名な尹伊桑(ユン・イサン)のものも含めて、私の知る限りおおむね前衛的できわめて難解です。
1985年頃、韓国のピアノ曲だけのコンサートに出かけ、2時間聞いていて一つもわからなかったという経験をしました。
現在、入手出来るCDは「韓国のピアノ作品集」(ピアノ:クララ・ミン、ナクソス
8.572406)ですが、やはり大衆にはわか
りにくい作品ばかりでした。民族的な旋律に彩られた親しみやすい作品の発見と紹介が望まれます。
2006年1月号の「レコード芸術」でCD「シン・ドンイル 虹色の世界」(p:高橋多佳子 NARまるDNARD5001)が紹介さ
れていました。子供向けの作品のようです。未聴。
楽譜は本国では大韓音楽社(ソウル中区明洞2街2 776-0577,5665)で売られています。なおポピュラー音楽では、
《冬のソナタ》など皆さんご存じの作品があります。
一方、北朝鮮にはわかりやすく、また内省的な作品が多いです。これはこの国と日本との心理的
距離の大きさからすると、特記されるべきことでしょう。賛美するにしろ批判するにしろステレオタイ
プ的な北朝鮮情報とは全く違う、この国のもう一つの面を知っていただきたいと思います。名曲の
多くは1950年代に作曲されたということです。
在日朝鮮人ピアニストの盧裕喜(ロ・ユフィ)(写真)さんが、それらの作品の紹介に情熱を傾けてお
られたのですが、不幸にも1992年に31歳の若さで病死してしまいました。彼女の演奏を収めたカセット
テープ「朝鮮現代ピアノ曲集」を私が取り扱っています。代金・送料あわせて千円(為替、切手可)を
〒731-0135 広島市安佐南区長束3丁目32-16 井上豊
(п@082-238-3459)
までお送り下されば、折り返しお届けいたします。盧裕喜さんについての新聞記事はこちら。
なお、日本国内での北朝鮮のピアノ曲の演奏やCD制作は現在も続けられおります。
2004年にはCD「朝鮮民謡ピアノ名曲選」が出ました(p:金貞淑、K.A.C(コリアアーツセンター)、
KRC-009、連絡先: 03-3376-3218。
楽譜はドレミ楽譜出版社から「アリラン〜コリアン・メロディーによるピアノ作品集」が出ています。
2009年にCD「アリラン〜ピアノでつづる哀愁のコリアン・メロディー」が出ました(p:梁成花(リャン・ソンファ)、(有)及川
音楽事務所 YZBL-1016)。リャン・ソンファさんは2013年には、CD第2弾「ドビュッシーとコリアン・メロディー」(有)及川
音楽事務所 YZBL-1034)を出され、期待の新星です。
北朝鮮映画「人民教員」(1964年)の中にピアノで朝鮮の曲を弾く教師の姿が出て来ました。
〈日本〉 国民に親しまれている、もっとも有名なピアノ曲はNHKのラジオ体操の音楽です。たくさんの作品が作曲されている
わりには、これぞわが国のピアノ曲として誰もが知っている作品があるでしょうか。
日本人の自国の文化に対する無関心を改め、作曲家と聴衆の生きた関係を築くために、今後、演奏会と共にピアノ教
育においても自国の作品を積極的に取り上げてゆく必要があると思います。
CD「小川典子、滝廉太郎から坂本龍一までを弾く―日本のピアノ曲80年の歩み―」(キング KKCC2240)は意義のある
試みです。ここに収録されている箕作秋吉作《花に因んだ3つのピアノ曲 @夜の狂想曲Aさくら
さくらB春のやよい(今
様)》はこれぞ日本のピアノ曲と言える作品です。箕作秋吉は日本的5音階に拠る旋律を、彼の考案した5度を基本とする
「日本的和声」で修辞する音楽を作りました。同じCDの中の小山清茂作《かごめ変奏曲》も、素朴な美しさが光っています。
他に、日本の作品を積極的に取り上げているピアニストとして、北海道石狩市の波多野信子さんがいます。波多野さん
は炭鉱マンと結婚され、地域の人々と心の通いあう音楽活動をめざしておられます。津軽じょんがら節をもとにした安達
元彦作《JONKARA》(1989)を波多野さんが弾いているのがCD「夏の花」(EZONEW EZ-001
問い合わせ:MENU音楽
工房 &fax 0166-82-4420)に収録されています。民衆のエネルギーがはじける傑作だと思います。
自分の国の作品を愛せなくて、どうして外国の作品を愛することが出来るでしょう。ただし、庶民にはいっこうに理解出
来ない作品が多いのも事実です。まず わかりやすく親しみやすい作品をヒットさせ、それを突破口にして日本のピアノ曲
を広めてゆくという方向性が出せないものでしょうか。
沖縄の音楽をピアノ曲にしたものには、清瀬保二《琉球舞踏》、金井喜久子 《琉球舞踏曲「月夜の乙女たち》、林光
《島こども歌》などがあります。金井喜久子(1911〜1986)は宮古島出身で、生涯、琉球音階を用いた作曲家です。2006
年6月、この人のピアノ曲ばかり集めたCDが出ました(琉球カチャーシー〜金井喜久子ピアノ曲全集、p:高良仁美、
King Records kkcc 3011)。12音技法も用いたその作品がどこまで親しまれるものになるかと思います。
アイヌ民族の音楽をピアノ曲にしたものには、小平時之助《アイヌ古謡による五つのピアノの断片》、木村雅信《アイヌ
の素材による舞曲集》などがありますが、録音されたものについては知りません。アイヌの人自身が作った作品をご存じ
の方がおられたら、ぜひお知らせ下さい。
「最新ピアノ講座−1 ピアノとピアノ音楽」(音楽之友社、1981)に日本のピアノ曲の総目録が収録されています。
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