『部屋の片隅で、愛をつねる』 2004年製作 日本映画 監督・脚本:入江悠 出演:大澤真理、守屋文雄、などなど
昨年行われた「第1回ふかやインディーズ・フィルム・フェスティバル」でグランプリを取った作品だ。文句なしの受賞である。その後も、各地の映画祭で賞を受賞している。
あるアイドル男性グループのライブ会場の控え室。外人ダンサーが活き活きとはしゃいで出ていく。すると入れ替わるように入ってくるのが、汗にまみれ疲れ切った、可愛らしい蜂の着ぐるみを着た女性(大澤真理)。ザリガニの着ぐるみを着た男(守屋文雄)肩で息をしながら壁を背にした長いすに腰掛ける。 女は、事務所に所属した頃は一番の若手だったが、売れないままに歳を重ねた24,5歳。男はダンサーを目指してはいるが、これまた売れない28歳だ。ともにアルバイトでアイドルグループのバックダンサーをしていて、初顔合わせの仕事だ。
「突然の出番もあるから着ぐるみは脱がないで」と、ライブのアシスタントディレクターにぞんざいに扱われ、クーラーも効かせてもらえず、飲み物さえ用意されず、映像からは痛々しい「乾き」が伝わる。律儀な二人は、冷蔵庫にふんだんに用意されている、きっとアイドルが飲むのであろうビールには「仕事中はまずいか」と言って手を出さない。 「エキストラの仕事なんかしていて、突然セリフを貰えたりすると嬉しくて、お母さんに電話したりなんかして」と、いくぶん落ち着いた二人は、寂しい境遇をニコニコ話すのだが、「でもやっぱり才能ないかなぁ〜って」と、しょんぼりすると、男は置いてあるサーカスの一団が使うような小さな自転車に着ぐるみを着た余分に大きくなった体でまたがり、その小ささと滑稽な歌で女を笑わせて、互いを慰め合う。
「飲み物買ってくるよ」と、男は気を利かせて部屋を後にするのだが、すると女の携帯電話が鳴り、昔の男と言い合いになる。会話からわかることは復縁を迫る男に対して、自分が貢いだ金を他の女に貢ぐような男とは後戻りできないという、いかにも後戻りしたくてたまらない女の、自分に対する困惑だ。 電話を切った女は冷蔵庫を開ける。そして一口、そして口を付けてしまえば、あとはいっしょなんだと思い立ったのか勢いよくビールを飲み始めると、ザリガニ男は帰ってきてそれを制するのだが、もはや止まらない。もう一本空けて、「私帰る」という女をザリガニ男は押し倒すようにそれを制して揉み合いにになると、先ほどのライブのアシスタントディレクターが現れ、男が女を襲っているかと勘違いして、男同士の揉み合いに。ザリガニ男は一方の男をはり倒してしまい、するとはり倒された男は「大人なんだから仕事はしようと」と部屋を後にする。 ザリガニ男は「俺たちなんかいなくなったって誰も気がつかないよ。帰っていいとおもうよ」と女に呟く。女は着ぐるみを着たまま、控え室を後にして、男はそれに続く。二人の歩くその廊下の先には、輝くステージの明かりがこぼれている。
と、こんな感じの至福の27分が展開される。巧い!着ぐるみを着っぱなしの面白さ、女の心に決して響くことのない言葉をつぐみ、気まずい場所を提供し続けるザリガニ男。 27分、ほぼ控え室だけのその場所で、女の境遇を日常も含めて語ってしまう妙技。なにより、出てくる人間すべてのディテールを描ききる脚本手腕。 喜劇的なその作品世界は決してハッピーエンドではない。何よりもこの着ぐるみ二人組に未来は描けない。そしてまたこの生活を逃れることも出来ないのであろう。物語にありがちなハッピーはここにはなく、甘くはない人生の一こまが描かれているのだが、しかしそれだからといってこの映画はさして見る者に辛さを感じさせない。 「帰っていいと思うよ」という言葉に、女は帰らない。ザリガニ男はその後ろ姿を見せる廊下で、自分を奮い立たせるようなアクションを、ゆっくりと見せる。仕事を投げ出さないこのシーンは、ある種、物語の予定調和的な「ほっとさせる」ラストで、二人を応援したい気にもさせ、二人を「信じる」気持ちにさせ、そして先ほども述べたように「投げ出せない」ことの切なさも併せ持つ。 脱帽だ。 最近見た映画の中で、これほどまでに雄弁な背中はあるまい、と思う。
(続く)
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