『幕末太陽傳』 1957年製作 日本映画/日活 監督.脚本:川島雄三 脚本:田中啓一 今村昌平 音楽:黛敏郎 出演:フランキー堺 左幸子 南田洋子 石原裕次郎 岡田真澄 小林旭 など
人間ていうのは、このように図太くありたいもんだね〜 と思わせる、川島雄三作品の傑作喜劇である。そしてまた、 人間ていうのは、たくましいね〜 と思わせる、川島雄三作品の傑作人間ドラマである。
舞台は文久2年というから、明治時代の幕開けまは5年ほど先の品川の遊郭。主人公の佐平次(フランキー堺)は、それが昔から知り合いなのか、どっかそのへんで知り合った連中なのか、女郎屋にあがって「金は心配するな」とドンちゃん騒ぎ。そして連れを夜明け前に返してしまう。 佐平次は金なぞ持っていない。堂々と「持っちゃいない」と若い番頭(岡田真澄=びっくるするくらい優男で若い)に宣言して、持ってなけりゃ働いて返すまで(「居残りさん」と呼ばれる)。「居残り佐平次」の誕生である。 今までドンちゃん騒ぎをしていた部屋から、小さな薄汚い部屋へ。イヤな咳をしている佐平次は、部屋から海を眺めて「新鮮な喰い物と浜の風が咳には良いんだ」と呟く…
佐平次はベテランから若い番頭までまで、彼らの仕事をサッと取り上げ「へいへい」と客の部屋をまわっては、心づけをもらって懐へポンポンと入れていく。そして自室に帰っちゃその金で買ったであろう煎じ薬を啜っている。 来る客、来る客に「起請文」を渡して人気のお女郎・こはる(南田洋子=とても綺麗)は、バタバタ廊下を鳴らして男の部屋を移動する。「あんただけよ〜待ってて下さいなぁ〜」という具合。 しかしそうもうまくはまわらない。若い男が息子さん、年寄り旦那はその親父なんてのにバッタリ挟まれるも「女郎の起請文を信じるあんたらが悪い」と悪びれずに、大騒ぎ。それも佐平次が手際良くおさめちゃう。 こはるに人気を取られ、いよいよ金も尽きて手頃な客と心中しようと男を突き落とした瞬間に金のあてが出来たたお女郎・おその(左時枝)は、突き落とした男に化けて出られるが、これも佐平次がなんなく解決。化けた男に熱湯かければアチチチ!化けるもなにも生身の人間。助かって復讐しににたのです。 佐平次も佐平次。こはるからは起請文に関する仕事を請負、化けた男からは金をふんだくる。体のいい人情もんとは違う違う。小ずるく小回り効かせて生き延びる。そんな連中がわんさか出てくる映画である。
かと思えば人情話も。奉公人のおひさ(足川いずみ)は、父親の借金の方にお女郎へ。「お女郎になるくらいなら若旦那と駆け落ちする」と言い出す。若旦那は馬鹿旦那。吉原で遊びほうけて散財しほうだい。しかしこの馬鹿もおひさにはちょいと気がある。 どのくらい馬鹿かといえば、佐平次が仕組んだ駆け落ちの一計で、家の牢に押し込まれるおひさと馬鹿旦那。馬鹿は堪え切れなくなってそこでしちゃおうとして、おひさの抵抗にあう。 しかしこの二人は、佐平次なんの損得もなくこっそりと駆け落ちさせてやる。
非常に印象的なカットを二つ。一つはこはるとおそのの乱闘シーン。中庭にくんづほぐれつ出てきて、やいのやいのとひっつかみぶちあい、しまいには階段を駆け上って二階へと乱闘は続くのだが、ここはクレーンを使ってカットを割らない。 佐平次の気をひこうと必死の二人は、彼の部屋を訪れて「我が我が」と佐平次へ取りつこうとするのだが、気のない佐平次。あちこちと部屋を巡る仕事へ出ていってしまうのだが、二人は部屋に居残り、やがて壁へもたれて並んで寝てしまう。呑気な寝顔を見ることができるのはこればかりで、とても可愛らしく見える。
これだけ集団がわんさわんさと描かれていて、それでいてその個人個人を立体的に捉え、生きることへの貪欲さを描いた作品は、なかなかない。最近の映画はちと主人公がたち過ぎて他の登場人物が散発的でなかなか描かれていないことを考えると、凄い映画だと思う。 このような作品に接する度に「やっぱり昔の映画のほうがレベルが高かったのかしら…」と、考え込んでしまう佳作の一本である。 そしてまた、彼らがヒョイヒョイと時代を生き抜く姿をみていると、生きていくのは大変だけど、生きていくのも悪くはないし、悩むより動いている人間の素敵な感じが伝わってくる。映画を見て人生が変わることは少ないだろうが、う〜んと悩んでいる人には、見て欲しい一本だ。
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