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The end of COSMOS
Episode 10 「乱戦の中で」
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小さな振動が絶え間なく走るその場所で、伊吹は慌しく周囲の技術者達に指示を出していた。
するとそこに一人の白衣の男が近づいてきた。
「あ、スチュワート博士。」
それに気づき慌てて頭を下げる彼にスチュワートは片手を上げて答える。
その態度と表情には余裕が感じられ、彼は妙な違和感を感じた。
ふと、まるで、今回の騒動が起こることをあらかじめ知っていたかのように思えたが、すぐにその考えを追い払う。
「どうだね退避作業は?」
腕時計を見て、伊吹は答えた。
「あと十分もあれば完了します。」
「我々が非難する船を用意してもらった。それに乗って一旦退避することになる。
場合によってはここも破棄することになるかもしれないが。」
小さく頷く彼に、スチュワートは左右を見回して、彼に囁く。
「ちょっといいかね?」
「はい。」
二人は作業を続けている技術者達から少し離れた場所にやってきた。
そこで、もう一度回りを見渡し、彼らの会話を盗み聞きするような人物がいないことを確認してから、
それでもスチュワートは声を潜めながら話始めた。
「今回の件、君はどう思う?」
「どう・・と言いますと?」
小さくため息をつき、さらに声を潜めて彼は告げた。
「実は委員会の帰りに桂木くんから、少し情報提供を受けたのだ。」
桂木という名前を聞き、伊吹は顔色を変える。
近くに弾着があったらしく、彼らがいる部屋がこれまでにないくらい不気味に振動する。
「つまり、この攻撃はXS105を狙ったものだと?」
「もちろんそれだけではないが、当然奴等の目標に入っているはずだ。
XS-105、AD-XSの双方とも。」
小さくため息をついて彼は右手を見つめて話を続けた。
「どっちにしろ、兵器開発局からは拠点の移動の命令が出ている。」
そして伊吹の顔を見つめる。
「この施設を放棄して月に移れ・・・と。」
スチュワートはその内容を吟味するかのように視線をさまよわせている伊吹の肩を軽く叩いた。
伊吹は小さくうなずいて、こえを潜めながら答えた。
「わかりました。そのつもりで撤収作業は行います。」
「よろしく頼む・・・それでXS-105は今、どこにいる?」
「こちらに向かっているそうですよ。ライカー大尉がこの状況を見逃すはずはないですからね・・・」
「そうだな・・・彼は生粋の軍人だからな。確かにこんな状況を看破するはずもないか。」
二人は意図せず同時にもぬけの殻になっているそのハンガーを見つめた。
本来であれば、そこには試作機であるXS-105が格納されているはずだった。
その頃、「エクスカリバー」級の三隻の戦闘艦は全速力でUC-01に向かっていた。
三隻は独立航行中で、その先頭を進むのはネームシップである「エクスカリバー」である。
EASFの艦隊旗艦を勤めることができる「金剛」ほどではないが、
「エクスカリバー」級は武装と機動性のバランスの取れた艦であり、
EASF内では最高の加速・巡航性能を持っている最新鋭艦だった。
今、その航海艦橋の艦長席には司令長官の室田が座っており、その隣の副長席には艦長のライアンが座っている。
通常「エクスカリバー」級に艦隊司令部を置くことは想定されていないのだが、
この三隻が編入される予定になっていた艦隊の司令である室田が訓練状況の視察に来て、
そしてこの出撃に付き合うことになった。
「ライアン艦長、イカロスの調整状況はどうだ?」
ライアンは副長席に備え付けのコンソールを操作して、その質問に答える。
「現在三機の出撃整備が完了、残り五機は30分以上かかるとのことです。」
「そうか、その分だと到着同時に発進させることができるのは三機だけか。」
「教導艦「ウラニア」の報告によれば、搭載機八機全機を発艦させ
コロニー内に侵入した敵機の掃討に向かわせたとのこと。
この状況では三機でもかなり有効な支援ができると思われます。」
「そうだな。それにしても、半舷上陸中でイカロスの定期メンテナンス時と重なるとは不運だったな。」
「しかし、三機の組み立てに成功したわけですから。」
室田はその答えに小さく頷いた。
「そうだね。整備員には感謝してもしきれないな。ところで、クルーの充足率は大丈夫かね?」
コンソールを操作しながら艦内の人員の配備状況をまとめた情報を確認する。
そして、顔を上げて答える。
「充足率は7割に達していませんが、稼動部署を限定すればなんとか通常戦闘にも対応可能です。
今、配置の最適化を検討しています。あと六分程で終了するかと。」
「そうか・・・「フッド」からの報告では、敵二隻は最新鋭の「ソラリス」級だそうだ。」
その言葉に驚愕の表情を浮かべてライアンは答える。
「艦隊旗艦として予定されていて就役したばかりの虎の子をですか?しかし、二隻とは。」
それが意味するところを含み笑いで表して室田は告げる。
「つまり我々の収集した情報にかなり偽情報が盛り込まれていたということだよ。
ひと段落着いたら再分析しないといけないだろうな・・・いろいろとね。」
そう告げて彼の斜め後ろに立っていた女性に視線を向ける。
「いろいろ厄介な事態になりそうだから、しっかり記録はつけておいてくれよ。」
彼女は彼の言葉に小さくうなずいてみせた。
「どうして・・・こんなものが、飛んでるんだ?」
蒼太は頭上を通り過ぎていくそれを見て、そう呟いた。
美月は彼と繋いでいる手をぎゅっと握り締めた。
彼等の目の前を飛んでいくのはどうみても人型機動兵器だった。
それも地球のものではない。
ということは火星防衛軍の?
でも、どうしてこんなところに。
彼の頭上を飛び越えて行ったそれらは軍の研究施設を攻撃しはじめた。
「急ごう、早く行かないとシェルターに入れなくなる。」
その蒼太の言葉に、美月は頷き、二人は全力で駆け出した。
美月を引っ張る形で蒼太が前を走る。
その時、どこから現れたのか、流れ弾が彼等が走っている道路に沿って建っていたビルに直撃した。
着弾した噴進弾は相応の破壊力をそのビルに叩きつけ、
コンクリートで構成されているビルはその破壊力耐えきれず、多数の破片を周囲に飛散させる。
「あぶない!」
蒼太は飛翔してきた何かが美月を直撃しようとしたのを察して、とっさに彼女をかばうように体をぶつける。
狙い通りに美月への直撃は避けたが、代わりに自身の右肩にそれが直撃する。
その衝突の勢いで彼は数メートル跳ね飛ばされた。
「蒼太!」
あわてて駆け寄る美月。
ゆっくりと彼の上半身を起こす。
右肩のあたりが真っ赤に染まっており、その範囲は少しづつ広がっていた。
「蒼太!」
彼女の声に彼がうっすらを目を開ける。
「大丈夫?」
彼のその言葉に小さくうなずく美月。
その時、また数発の噴進弾が彼等の周辺のビルに着弾した。
そして、先ほどより多数の破片が二人に襲い掛かる。
彼女は彼をかばって慌てて身を伏せた。
しかし、いつまでたっても、予想していた破片の集団は彼女の元へは襲ってこなかった。
恐る恐る美月が顔を上げると、二人をかばうように一体の人型機動兵器がそこにあった。
「イ・・イカロス?」
と、胸のコクピットハッチが開き、彼等と同年齢に見える女性の顔が現れた。
「そこのキミ達、こっちへ。早く!!」
その言葉に背中を押されるように蒼太は立ち上がり、それに美月が肩を貸して二人でよろめきながら近づいていく。
コクピットの真下にやってくると、そこに手と足をかけるステーがついたワイヤーロープが下ろされる。
最初に蒼太を引き上げ、そして美月が上にあがる。
「狭くて申し訳ないけど後席に座ってもらえる?手当てもひと段落するまで我慢して?できる?」
そう彼女に声をかけられて蒼太は小さくうなずく。
「はい、大丈夫です。」
二人の服装を見て、彼女は表情を一瞬だけ和らげる。
「私はあなた達の学校の卒業生の山城つばき、よろしくね。
いろいろ話したいこともあるけど、それはまた後でね。」
コクピットの中は二名分の操縦席が前後に並べられて配置されていた。
後席は若干前席よりも高い位置にあり、向かって右側に後席に行くためのステーが取り付けられている。
もちろん蒼太も美月も見慣れた光景だった。
彼等はこれを扱うために今の学校に入学しているのだから。
コクピットには予備の席が二つあることを理解していた美月は、
カタリストの席の右隣の壁面から席をひとつ引き出して彼を座らせる。
「ありがとう。」
それだけいうと彼は椅子に座るが、その時の振動が肩に障ったのか痛みに顔をしかめる。
彼のシートベルト装着を手伝ってから、美月はカタリストの席に座る。
今はスタンドアロンモードになっているので、後席のコンソールはロックされていた。
つばきは前席に座って、命令をコンピュータに告げる。
「引き続きスタンドアロンモードにて運用。」
その声に対して、頭上から機械的な感情を感じさせない女性の声が返事をした。
「了解。」
すると、小さな震動と共にモニターの視界が変わる。
どうやらゆっくりとイカロスが立ち上がったようだ。
「周辺情報を教えて。」
「主戦闘域は北西約二キロに移動中。教導艦「ウラニア」第一、二中隊が交戦中。
「エラト」第一、二中隊は「イントレピッド」、「フッド」を支援して敵主隊と交戦中。
なお、所属不明の友軍機二機がコロニー内に入りました。
コロニー内に進入した敵数は八機、現在は活動中は四機。
第一、二中隊、残存数は本機を含めて五機。
母艦、「ウラニア」はコロニー外三キロの位置に固定中。
また、本機に向かって敵二機が接近中。うち一機はあと60秒で会敵。」
彼女は左側のコンソールに向かって、何かの操作を行いながら尋ねる。
「残存エネルギー、推進剤の情報を頂戴。」
「残存エネルギーは約27%、推進剤は22%、通常戦闘はあと20分可能。」
「あー、ちょっと難しいなぁ。しかも、こっちはソロだし・・・」
「敵一機、会敵まで15秒。」
「メインモニター上で敵機動兵器をマーキング。」
そういいながら、シートに座りなおす彼女。
すると左上方の黒点が赤い四角のマーカーで囲まれた。
次の瞬間、その黒点がきらりきらりと光る。
「うっそ、こんな距離から撃って来るの?」
彼女は慌てて、左手を顔の前にかざす。
するとイカロスもその動きにあわせて、シールドを装備した左手をフェイスカメラをかばうようにかざした。
次の瞬間に大きな破裂音と震動が二回発生する。
「く、また重いわね。もうちょっとフィードバックを調整しないと・・」
次の瞬間イカロスが宙に浮いて、彼女達にせまる敵機から離れて逃げる方向に飛行を開始する。
敵はイカロスを追いかけてくる。
わずかだがイカロスの方が飛行速度は速いようだ。
少しづつ彼我の差が開いていく。
「自動砲戦モード起動、回避はマーカーに対して最優先でオートでお願い。」
「自動砲戦モード、回避ロジックロード完了。」
「左腕ガトリング、照準をマーカーにロックオン。」
「ロックオン完了。」
次々と命令を出しながら、彼女は中央のコンソールに視線を落として、
手元のキーボードを手早く操作している。
「タイミング、コンマ3、1でカートリッジ全弾発射。」
「準備完了。」
「発射。」
すると、イカロスがくるりと機体を翻して、
左腕に装備されているガトリングで敵機に向けて弾を打ち出す。
カートリッジに装填されている17発を全部打ちつくした。
しかし、敵機はひらりひらりと回転しながらその攻撃をかわす。
そして敵も数発ほど、反撃の攻撃をかけてくる。
その攻撃を自動的に回避するイカロス。
「やっぱりね、この距離だと、お互い自動回避アルゴリズムで回避可能ってことですか。
コロニー内戦闘だし、遠距離戦はなるべく避けたいし、もう、面倒くさいなぁ。
このまま引き離しちゃいますか。」
そう呟くつばきの前に突然通信ウィンドウが立ち上がる。
「「ウラニア06」、健在か?」
その声に小さくほおっとため息を吐くと、彼女は状況を報告した。
「はい、機体に損傷はありません。
しかし、エネルギー、推進剤がそろそろ底を付きるため、一時帰投を希望します。
なお、避難中のパイロット候補生二名を保護しました。」
「それはまためずらしい拾いものをしたな、06。
帰投の件は了解した。だが、敵に追われているようだが?」
「はい、ソロ運用のため排除は難しいと考えます。」
「わかった、今そっちに援軍をまわす。
ただし、その助っ人のことは見なかったことにしてくれ。
訳ありの機体が支援に向かうからな。」
「了解です。一時コロニーから脱出します。」
そして後ろを向いて、二人に話しかける。
「聞いた?私にも何が来るのかわからないけど、見なかったことにしておいてね。」
「はい。わかりました。」
美月は答えたが、すでに蒼太は意識が朦朧としていた。
「あらら、もう少しだけ待ってね。」
「・・・・はい。」
コンピュータから情報が伝えられる。
「前方から友軍機二機接近、うち一機はイカロスタイプ、もう一機は認識コード不明。
ただし、EASFの識別コードは発振中。」
「それが噂の機密兵器ね。」
「「ウラニア06」、聞こえるか?こちらは「コクチョウ01」だ。これから援護を開始する。
貴機はそのまま破口への最短距離を進みたまえ。」
「「ウラニア06」、了解しました。」
数秒後、その二機の姿がモニタに移った。
一機は機体を漆黒に染めた大きめの機体。
そしてもう一機は見慣れたイカロスの量産型だった。
ただし、肩の所属マーキングを見ると月防衛軍団のものだとわかる。
漆黒の機体を見て、つばきが呟く。
「あれはダミー装甲ね。それにこのセンサーの情報からすると・・」
「光子反応炉搭載機ですね。」
後席から美月が呟いた。
その言葉につばきは小さく頷いた。
カタリスト用の情報表示画面にそのセンサー情報が出ていたため、
美月には彼女の言いたいことがわかった。
「確かに訳ありの機体・・・ってわけね。」
「宮城少尉、俺は後方の一機をやる。君は目の前の機体を料理したまえ。」
「了解です。」
フリークルーズ隊形に従って、右後方についていた宮城少尉のイカロスが反転して離れていく。
それを確認して、小さく息を吐くと、彼は後席に顔を向ける。
「すまんな、ディアナ。つき合わせて。こんなことは本来の君の任務じゃないんだが。」
「わかっています、これも何かの縁でしょう?渚には私から謝っておきます。
この「105」のデビュー戦の後席を私が奪ってごめんなさいって。」
その言葉ににやりと笑みを浮かべて、彼はまた正面を向く。
「では、行きますか。とはいえ、俺も初の実戦だから、君に迷惑かけるかもしれんがよろしく頼む。」
「こちらこそ。」
彼我の相対距離が縮まってくる。
いくつかのセンサーからのサンプリング情報を読み取って、彼女が口を開く。
「大尉の読み通りですね。」
「何が?」
小さな笑みを口元に浮かべながら、彼はそしらぬふりで返事を返した。
それを聞いて彼女はくすりと笑みを漏らす。
「後方の敵を選んだこと。です。わかっていたんでしょう?
あれが光子反応炉搭載機であるって。」
「ただのカンだったんだがね・・・
でも、こんなに早く同系機との戦闘データを取れるとは思ってもみなかったよ。
そういう意味では奴っこさんには感謝だな。」
黙りこくってしまた後席にちらりと視線を向け、彼は静かな口調で言った。
「どうにも調子に乗りすぎていたようだな・・すまん。
今こうしてる間にも数千の命が消えているかもしれん時に。」
「いえ、そんなことは。ただ・・・」
そこまで告げた彼女は言葉を切って、正面のモニターを凝視する。
凛とした声で前席の彼に報告する。
「敵機との会敵まで一分を切りました、
どうやら先方もこちらの装備に気づいたようです。
急加速を開始、戦闘機動に入った模様。」
「では、俺たちも始めるとしようか。」
「はい。」
「正人、このコロニーの中で射撃戦は周囲への被害が大きすぎる。
できれば近接戦闘で相手を行動不能にして、外に放り出すのよ。」
後席で敵機をサンプリングした情報を解析しながらライアが警告する。
宮城は大きくうなずいて、両手を操作グローブに差し込む。
「了解した。ライア、近接戦闘ルーチン起動、右手を使う!
念のために左腕のガトリングに自壊型鉄甲弾を装填。」
「了解。近接戦闘行動支援ルーチン起動確認。
右手に近接戦闘用ナックル装備・・確認。
左腕部ガトリング回路接続、弾種、自壊型鉄甲弾・・OK、準備できたわ。」
「サンキュー、接近アプローチはパターンαでいくぞ。」
「了解、乱数加速ルーチン・・・ロード完了、いつでもいいわよ。」
彼我の相対距離、相対速度を確認して宮城は機体を左旋回に入れる。
敵機の右斜め上方からの逆落としに近い角度でのアプローチを試みる。
しかし、敵もなれたもので彼の意図を即座に呼んで、射線をはずすように左横転で旋回をかける。
「ちっ、どうやら手連れのようだな。」
アプローチは失敗して敵機とすれ違い、今度は宮城機が敵機の下方に位置する。
しかし、即座にバレルロールで敵機との距離を開く。
水平飛行になった時に、小さく息をついて、彼女が答える。
「それはそうよ、こんな奇襲作戦に借り出されるのは、
MSDFの機動兵器部隊のトップエリートでしょう。」
「なら、なおさら今のうちに排除しておかないとな、生き残られると厄介だ。」
モニターに写る敵機から目を離さずに彼はそう告げる。
それを聞いて、軽く肩をすくめて彼女は答える。
もう・・この人はいつも自分が落とされるかもしれないってことを無視して操縦してるんだから・・・
「はいはい・・・敵、こちらの頭を抑えようとしているわ。」
彼女はモニターに表示されるいくつかの情報からそう判断し、前席に警告を与える。
「軽口のひとつも叩かせてもくれないのかねぇ。」
小さくボヤく彼を無視して、彼女は新たに上がってきた情報を読みあげる。
「敵、誘導噴進弾発射、四発よ。進路は直線でこっちに向かっているわ。」
「わかった、打ち落とす!」
機体を背面飛行にして、噴進弾に正対すると、
こちらに向かってくるそれらにマーカーをセットする。
ガトリング砲から連続して有質量弾が打ち出される。
二発を即座に落とすが、その間に二発がかなり接近してきた。
射撃する間がないと感じた彼は叫んだ。
「対ショック!」
そして、彼は左手に装備されている盾を目の前にかざす。
一瞬後に、画像補正が働いて目前に迫る噴進弾が映し出される。
「正人、敵機は旋回して下降中、背後に回ろうとしてるわ。」
「了解。」
まずは、この噴進弾をなんとかしてからだ。
その直後、シールドに二発が弾着し、爆発する。
爆発力はシールドの装甲を半分程削ったが、盾自体を砕くことはできなかった。
その衝撃が宮城の左手に返ってくる。
もちろんフィードバック緩和回路が装備されているが、
どうしても一瞬で立ち上がる衝撃をすべて緩和することはできなかった。
「く・・・」
小さくうめき声をもらすが、彼は次の瞬間、機体を翻し、
いったん下方に降りて背後に回ろうとしている敵機に正対する。
彼我の距離は数百メートル程度だった。
「反転する!」
間髪いれずスラスターを全開にして数秒で最高速に乗せて敵機に近づく。
軌道修正スラスターが細かく噴射して機体を上下左右に細かく振り回す。
彼は自機を敵機との衝突コースに乗せて右手を構える。
「ライア、右腕部のフィードバック回路をオフ。」
その言葉を予想していたとおりに彼女はすばやく操作を行う。
「回路オフ、確認。」
「いくぞー!!」
数秒の間に、相手の意図をその時理解した敵機は機体を翻そうとするが、
一瞬早くイカロスの右こぶしが相手の右肩に直撃する。
そのまま敵機の右腕を根元から引きちぎりながら、通りすぎて上方に出る。
すばやく機体を反転するが、敵機は戦意を喪失したのか、すでに逃亡を開始していた。
「ちっ、はずしたか。」
小さく舌を鳴らし、追撃を開始しようとする宮城に、ライアが待ったをかけた。
「ちょっと待って、近くで救難信号が出てる。
どうやら撃墜されたパイロットらしいわ。
迎えにいきましょう。」
一瞬何かを言いかけた宮城だったが、大きく深呼吸をする。
「わかった。信号発信場所をこっちに回してくれ。」
Ver1.01