「アーマードモジュール、パージ!」

そのディアナの声と同時に、XS-105の両腕、両足、胴体の大半を覆う箱のような外装が剥がれ落ちていく。
すべてを切り離したとき、無骨な箱の集合体だったXS-105が、一転してスリムで全体的に細身なシルエットになった。

「リアクター、フルドライブ!!」

そして、急速な加速Gが発生し、二人をシートに押し付ける。
それに耐えながらライカーは敵機との衝突コースを取る。

「これが、俺たちのXS-105の本当の姿だ!」

それまで開きつつあった彼我の距離が一気に縮まる。

「この拳を食らってみろ!!」

慌てて振りかえった敵機の右腕から雨あられと鉄甲弾が降り注ぐ。
しかしライカーは当てるに任せて突進する。
XS-105に採用された新素材装甲はこの鉄甲弾の雨をすべてこらえきった。
そして、ライカーは敵機の右わき腹付近に左の拳を打ち込んだ。
さらに拳を押し込もうとしたときに、ディアナが叫ぶ。

「敵、光子シールドライン展開!」

敵の機体の全身が一瞬かすかに光り、食い込んでいた左手が手首辺りから切断される。
ライカーは次の瞬間、機体を後退させて敵機との距離を開けた。

「たいしたダメージならなかったか・・・」

「いいえ、敵機の光子反応炉の反応が消えました。
さきのシールドライン展開で故障したみたい。つまり相当効いてるってことです。」

敵機はいきなり機体を反転させると最大速度で撤退を始めた。
ライカーは追撃をせず、その遠ざかる敵機の影を見ながら小さくため息を吐いた。

「なんと、ということはあの機体は積層型電池とのハイブリッドシステムか。」

「それにしては機体はコンパクトにまとめられてます。
つまり、かなり光子反応炉を小型化してるってことですね。」

「さすが専門家。」

光子反応炉の管制パネルを操作しながらディアナが告げる。

「でも、こっちのリアクターも冷却しないと暴走してしまいます。
やはり今の冷却システムでは、フルドライブは20秒が限界。
それに左腕のダメージが大きいですし。
イカロスとは違って、この機体には近接戦闘装備はないですからね。」

彼は暗に非難させていることを理解していたが、聞かなかったことにしてすました顔で答えた。

「なるほど、今回は痛みわけってことだね。敵機のサンプリングはすべて取った?」

「えぇ、詳しく解析しないとわからないですが、
今分かる情報を見ても、かなり高性能だと思われます。
このXS-105と同等かそれ以上かも・・」

「やれやれ、こっちはまだ実験機なのに、向こうの量産機と同等とはな。」

「いいえ、たぶんあの機体もまだ増加試作程度だと思います。
いくつかおかしな外装が取り付けられていたし、
サンプリングで読み取った出力からすればもう少し機動性が高くてもいいはず。」

「なるほど・・・たしかにあの一機だけ他とは機体形状が違っていたしね。」

「とりあえずコロニーの外に出ましょう。試験部隊も到着してると思いますし。
さすがにこの機体を「ウラニア」や「エラト」に降ろすわけにはいかないでしょう。」

「さて、渚への言い訳を考えないとなぁ・・・」

ぼやくようにそう言ったライカーを見て、
緊張が緩んだのかディアナは声を潜めてくすくすと笑い始めた。


 
 
 
 
 
 
 
 
 

EDEN
The end of COSMOS

Episode 12 「騒乱の収束」
 
 
 
 
 
 



室田は腕を組んで航海艦橋の一番前の窓の前に立った。
ちいさくうなり声を上げると、横に立って同じく惨状を目にしているライアン艦長に声をかけた。

「「フッド」の手柄・・と言っていいのか?これは。」

「たぶんそうでしょう。」

目の前には艦体が中央でへし折れて船体全体が小爆発を起こしている敵艦1隻と、
前部が崩壊し、停止している「フッド」がいた。
両艦の距離は一キロと離れておらず、かなり至近距離での戦闘となったのが伺える。

「しかし、まるで体当たりしたように私には見えるが。」

室田は不審そうに「フッド」と敵艦の損傷状況を見比べてつぶやいた。
そんな彼にライアンが顔を寄せて小さく囁く。

「つまりはそういうことです。」

はっきりしない言い方だったが、それだけで室田は同じ推測をライアンもしていたことを理解した。
戦闘艦配置の人間なら誰もが知っている新システムのことを。

「光子防御系のシステム・・・なのか?」

小さくうなずいて彼は答える。

「そう考えれば納得がいきます。
これほどの近距離で戦う理由はそれしかないと。
それに・・・」

彼は敵艦の残骸のうち四箇所を指差して話を続ける。

「この四箇所はおそらく「フッド」の電磁加速砲の命中跡だと思います。」

「そうか・・・」

小さく息をつき、彼はうつむいた。
どうやら敵は我々より数年ほど技術的には先に進んでいるようだな。
月司令部からの通信によれば、正式に宣戦布告されたそうだから、
すぐにこれに対する報復作戦が立案されるだろうが。
その時の敵戦力評価では、かなりもめそうだな・・・
急に通信士が自席から立ち上がり室田とライアンに向かって叫んだ。

「「フッド」から通信が入りました!!回線開きます。」

目の前のメインモニターに通信が切り替わったが、「SOUND ONLY」と表示されただけだった。
振り返る室田に艦長が首を振って見せた。
音声は生きており、何かが立て続けに爆発する音や誰かの怒声が聞こえた。

「音声のみで失礼します。室田提督ですね?
私は「フッド」艦長、マーク・ストリンガー大佐です。」

「大佐、防衛任務ご苦労だった。貴艦の状況を教えてくれるかね。」

「それよりも一隻取り逃がしました。
今なら奴等が火星領域に逃げ込む前に捕まえることができると思われます。
本艦はさきほど総員退去を下命しました。私もこの通信が終わり次第、退艦します。」

「うむ、わかった。ただ、念のために一隻残していく。
もうしわけないが君はすみやかにそちらに移り、詳しい報告書を作成してくれないか。」

「了解しました。」

通信士が艦長に報告する。

「「フッド」から戦闘データ受信、また敵艦の退避方向、想定航路の情報を受信。」

「大佐、すばらしい情報をありがとう。これで敵艦を補足する可能性をあげることができた。」

「いえ、お役に立てれば光栄です。」

通信が切れた瞬間、艦長が自席に向かいながら命令を下す。

「リアクター出力あげろ、本艦はこれより逃亡したMSDFの戦闘艦を追撃する。
フッドの情報を基に周囲の衛星のセンサー記録等もかき集めろ。
なるべく詳細な退避ルートを推定したい。」

「了解です。」

「以後、敵艦を「アロウ01」と呼称する。
さぁ、いくぞ。地球圏を敵に回したことを後悔させてやるんだ。」





つばきは「ウラニア」に帰艦し、所定の格納庫に駐機したイカロスのコクピットを開放する。
すると、機附長が向こう側から顔を出し、にやりと笑う。

「よお、なんとか生きて帰ってきたか。一人で出るなんて、肝つぶしたぜ。」

「まぁ、なんとかなりました。それで機附長。アークの容態は?」

その彼女の問いに安心させるように笑顔を浮かべて彼は答えた。

「大丈夫だ、全治二週間程度の怪我で、臓器、骨、脳等、別段異常はないってさ。」

「そうですか・・・良かった。」

そこで振り返って蒼太を見て、機附長に告げる。

「事前に連絡入れてたんですが、傷病者がいて、医務室に急いで連れて行ってもらえますか?」

彼は小さく首をかしげて、コクピットの奥を覗き込む。
応急手当はされているが、苦しそうな表情の彼を見てうなずいた。

「ぼうず、大丈夫か?」

「あ、はい、なんとか。」

蒼太は小さくうなずいて体を固定しているシートベルトをはずし始める。
先にシートベルトをはずして自由になった美月が手伝う。

「担架持ってくるからそれに乗っていくか。」

「いえ、大丈夫です。自分で歩けます。」

彼はゆっくりと席から立ち上がるが、そのまま足が席から離れる。

「ほら・・よっと。」

機附長がすかさず手を伸ばして、無傷の方の左手を掴み、蒼太を引き戻す。

「あ、すいません。」

「いや、艦内は0.6Gだからな。コロニー内とは違うから気をつけろよ。」

「はい。」

「私も付き添います。」

そう告げてから、つばきの方を向いてお辞儀する。

「つばきさん、どうもありがとうございました。」

彼女は笑顔を浮かべて、それに手を振って答える。

「とりあえず落ち着いたら、一度戻ってきてもらえる?
たぶん、もう一度君たちを送り届けることになると思うから。」

機附長が開放されたコックピットの端に立ち、外を指差して告げる。

「さて、行くか。」

「はい・・えっと。」

彼はそこでどもった理由に気づいて、にやりと笑って自己紹介する。

「あぁ、俺は高木ってんだ。よろしくな。」

蒼太が頭を下げている間に美月が答える。

「よろしくお願いします。私は森口美月、彼は深山蒼太です。」

「二人ともUC-01の機動兵器訓練校所属か・・二年次だな。」

制服と襟元のピンを見て高木が告げる。

「よくご存知・・・ですよね。」

「ウラニア」は教導艦であるわけで、当然UC-01の機動兵器訓練所の生徒達を毎年受け入れてる。
そこの乗艦してる人たちが自分たちの制服が何を意味するかを知らないはずはない。

「あぁ、今も四年次の生徒を預かってるからね。」

「先輩たちは?」

軽く肩をすくめるそぶりを見せて高木は答えた。
今も通路内を移動中で、さすがに宇宙空間専用艦だけあって、
いたるところに取っ手やガイドが取り付けられており、無重力に近い空間での移動に気を配っている。
蒼太も美月もおっかなびっくりで飛ぶように通路を進んでいるが、
高木は慣れたもので、体をひねって後ろを付いてくる二人の方を向いたりしている。

「今回の出撃は見送らせた。まだまだヒヨっ子どもだからな。
さすがに今回は危険と判断した。」

「そうですか・・」

そこで、あることに思い至った蒼太はそれを高木に聞いてみることにした。
さきほどつばきは、「機附長」と高木のことを呼んでいた。
それはつまり・・・

「ところで高木さんはつばきさんの乗っていたイカロスの整備に監督する立場の人じゃ。」

「まぁ、そうなんだが、なにせ作業は全部部下任せなんでな、結構暇なんだよ。」

そういって美月にウィンクしてみせた。





「どうかね?間に合うかね?」

室田はCICの戦況表示板に歩み寄ると、そこに表示されている彼我の位置関係を把握しようとした。
さきほどまで艦隊司令部のメンバーがあてがわれた情報分析につめていたのだが、
敵艦補足の報告を受け、他の要員を残して、彼と情報参謀の二人だけがCICにやってきた。
ライアン艦長が彼に最敬礼を施してから、状況を報告する。

「現時点ではなんとも。このまま全速力で追えば、境界線手前で攻撃圏内に入れることは可能ですが・・・」

口ごもった艦長の方に視線を向けて彼は尋ねた。

「何もないはずは・・・ない。と。」

「ええ、当然、我々が追ってくることは想定しているはずで、何らかの対応策は用意しているものと思われます。」

「なるほど。」

視線を戦況表示板に向けて彼はうなって腕を組む。
さしあたっては、敵はまっしぐらに火星が所有を主張している宙域まで後退しようとしているが、
この航路の場合、待ち伏せが可能な小惑星群等は存在しない。
向こうは一隻だが、こちらは二隻・・・
あと後続が五隻ほど追いかけてきているがどれも高速艦ではないし、距離は開く一方だった。
この船のクルーにしても非常呼集をかけたが七割を切る人員しか集まらなかった。
平時ゆえの気の緩み・・と言えばそうなのだが、
しかし、これが始めての大規模な宙間戦争の始まりであるならば、
それもいたしかたのないところではあると彼は思った。
小さくため息をつき、再度、戦況表示版に視線を向ける。
薄暗いCICの中で収集されているさまざまな情報を一括して表示しているそれは、
先ほどから彼らが追っているコードネーム「アロウ01」の位置を表示、
その後方からそれを追跡しているEASF二隻の戦闘艦を表示している。

「まさか、この「エクスカリバー」クラスを持ってしても追いつけないとは・・・
そんなフネを向こうを持っているとはな。」

「いろいろな部分でわれわれは欺かれていたということですね。」

彼の方を向いて情報参謀が小首をかしげて尋ねてきた。
その役職の名前に似合わず、可憐なといった表現が当てはまる女性士官だった。

「そうだな・・・そもそも軍令部は開戦まであと一,二年はかかると見ていた。
つまり、根本的なところでの認識が間違っていたということだね。
それが分析を誤ったのか、偽情報を掴まされて信じてしまったのかはあるが、
どうやら我々はこれまでの認識を改めなければならないようだ。」

彼女は小さくうなずくと視線をオペレータ達の方に向けた。
彼らは攻撃を受けたコロニー「UC-01」の被害状況に関する情報の収集に努めていた。

「それにしても、いきなりコロニーを攻撃とは、奴等もよくやる。月を素通りとはね。」

「近いといっても月と地球の距離は約40万キロほど離れていますからね。」

「それはそうだがね・・・艦長。」

右隣に座っている艦長を見て苦笑いを浮かべる。
しかし、次の瞬間表情を改めて彼に顔を寄せる。

「まだ未確定事項だが、「アロウ01」は遮蔽していたという噂がある。」

「それは本当ですか?光子防御システムだけじゃなくですか?
こちらでもまだ実験段階だったのに。」

「基本技術は民間企業が持っているからな、ありえない話ではない。」

二人は深刻そうに顔を見合わせる。
数瞬後、艦長はため息をついた。

「そうなると、この先の宙域に他の艦が待ち伏せしている可能性が・・」

「あるという前提で哨戒を厳にしたほうがいいと思うが?」

室田の発言に彼は大きくうなずいた。

「私も同意です。哨戒レベルを5まで引き上げましょう。」
 
 






教導艦「ウラニア」艦長である、シドニー・ネイソン大佐は
UC-01の管理公社と絶えず情報交換を行っていた士官に対して尋ねた。

「コロニーの崩壊は食い止められそうなんだな?」

声をかけられた通信士は大きくうなずいて答えた。

「はい、ぎりぎりのところでしたが、
破口をふさぎ、大気流出を止めることに成功したそうです。
今は予備のジェネレータも投入して大気密度を上げているとのことで、
16時間後にはコロニー内は標準の大気レベルに戻ります。」

「しかし、敵の狙いは何だったんだ?」

「まだ、情報収集中ですが、どうも軍の基礎研究施設全般が狙われた模様です。」

「なるほど・・・そういうことか。」

EASFの開発拠点は大きく分けて三箇所存在する。
地球、月、そしてこのUC-01。
その中でUC-01には軍事関係の基礎技術に関する研究・開発拠点が数多く存在する。
主に月はそれらの基礎技術を応用して兵器を開発する拠点が多い。
つまり、敵は長期戦を想定してこちらの兵器の技術革新を遅らせるつもりだったということか。
それにいくつかあがってきている情報からすると、
MSDFはこちらがまだ実験段階か研究段階になる技術をすでに実用化し、それを装備しているようだ。
今すでに開いている技術力の差をそのまま維持するか、引き離したいということか。
確かに、戦力の基本となる成人の総人口比が1対15程度で、
正面戦力はどうしてもMSDFの方が劣るから、ほかの部分で補うしかないわけだが。
あと火星の軍事系会社のほとんどは中立の月都市に支社を持っているからな。
今となってみれば、読みやすい作戦ではあったが。
まさか、こんなに早く奴等が宣戦布告してくるとは。

「イカロスの回収状況はどうだ?」

その艦長の問いに機動兵器の管制担当が答える。

「生存機四機、すべて帰還しました。」

八機出撃させて生存機は四機、
撃墜された機のパイロットの三名は生存を確認できたが、
まだ行方不明が三名、そして戦死が二名・・・
ふと感傷的な気分に落ち込み始めている自分に気づき、
小さく息をつくと管制担当に命令する。

「被撃墜とパイロットの回収はコロニー運用公社に任せる。
今より当艦は「エラト」と共同して、月よりの支援艦隊が到着するまで、
コロニー付近の警戒に当たる。」

そのタイミングで、奥のハッチが開き航海艦橋に副長のフィアン・ミンド少佐が現れた。

「敵の二次攻撃が予想されるのですか?」

その問いにシドニーは首を振って答える。

「いや、念のための警戒だろう。
こういう敵地に侵入しての奇襲作戦では、通常は一撃して離脱するのがセオリーだからな。」

「なるほど、確かに。」

小さくうなずき、フィアンは自席に座る。
そして、備え付けのコンソールを操作しながら艦長に報告する。

「艦長、「エラト」側のイカロス残存機数は四機とのことですので、
お互い二ロッテずつ交替で警戒態勢を敷くことができます。」

「そうだな、先の戦闘に出撃できなかったパイロットと訓練生達とで割り当てを決めてくれ。」

一時は絶望視されてたい上陸組はその後連絡が取れ半数は生き残っていることが報告され、
その乗組員達も小型艇で「ウラニア」に到着していた。
残り半数は負傷者で、誰も死亡していないことは確認が取れている。

「了解。」

立ち上がり、管制士の下に跳ねていく副長を見て、付け加える。

「戦闘に出撃したパイロット達は八時間の休息、
その後、各員に報告書の作成するように指示してくれ。」

「わかりました。」







ライカーとディアナはXS105を誘導された宇宙艦に着艦させ、整備格納庫にXS105を固定する。
稼動モードをメンテナンスに切り替えて、小さくため息をついたディアナにライカーが声をかける。

「いろいろとありがとう、助かったよ。」

「いえ、私も勉強になりました。」

そして、ライカーはコックピットから降り、HMDをはずして小さく首を振る。
ゆっくりと振り返り、XS105を見あげる。
そこにあったのは彼が見慣れた機動兵器ではなかった。
この姿の105を生で見るのは初めてだな・・・
何度かCGでは見ていたが。
その彼の元にスチュワートがゆっくりと歩み寄り、声をかけた。

「またハデに壊してくれたものだな。」

ライカーはその彼の言葉に大きく口元に笑みを浮かべ、肩をすくめてながら答えた。

「相手が相手でしたからね。こうするしかなかったわけですよ。」

そして、もう今度はXS105の足元を見る。
その視線の先では、さっそくディアナが何人かの整備士を集めて何かを説明し始めていた。
高木はすばやくコックピットに上がり、一緒に上がったもう一人の男性を手招きしている。
スチュワートは、飲み物が入った容器をライカーに渡す。
もちろんその容器には蓋がされており、そこからストローが伸びている。
この艦もやはり重力は0.6G程度に制御されており、液体が飛び散るのを防いでいた。

「機密漏洩もいいところだな。まさか、アーマードモジュールをパージするとは。
しかもリアクターのフルドライブとは、よく機体が持ちこたえたものだ。」

言葉の内容としては非難しているのが、その口調は諧謔がこもっていた。
彼としては、情報漏洩よりも、データ収集できたことの方が意義が大きいと感じているのだろう。
ひとしきり飲み物をすすって、彼はほっとため息をつく。
整備士達に指示が終わったのか、ディアナが彼らを解散させそれぞれの作業を始めさせる。
その彼女の元に一人の女性が近づく。

「どうせ安全係数をかけてるんでしょ?
リアクターにしても、機体強度にしても設計の段階で。
であれば、多少飛ばしても大丈夫だと思ったわけですよ。」

ディアナとその女性・・下条渚が話を始める姿を見て、ライカーは口元に小さな笑みを浮かべた。

「まぁ、我々としては今回の行動に対して、君を非難するつもりはない。
君と宮城くんの活躍で、コロニーはブレイクアップしないで済んだし、
敵の新型の情報は取れたし、この105の戦闘データも取れたわけだしね。」

「なるほど、一石二鳥どころか三鳥だったと。」

スチュワートはそのライカーの台詞に軽く肩をすくめて同意するようなしぐさを浮かべる。

「まぁ、そういうことだ。」

お互いに顔をあわせて笑顔を浮かべる二人。

「ところで、これからどこに向かうんですか?」

彼は一瞬ちらりと自分の足元に視線を向けてから答える。

「開発拠点を月に移すことになった。ゲオディック社の研究棟を押さえているそうだ。」

「これはまた・・・いいんですか?そんなところにコイツを突っ込んで。」

「大丈夫だ。上同士で話はついている・・・」

今度はライカーが肩をすくめて見せた。

「まぁ、私はただのテストパイロットなので、その辺に口を出しできる立場じゃないですがね・・・」

その彼の元にディアナと渚がやってくる。
それを見てスチュワートがライカーの肩を軽くたたいて、告げた。

「当面は、敵F-14の戦闘データの解析を進めることになる。
君はゆっくり休んでくれたまえ。」

XS105の方に向かって歩いていくスチュワートを見送った彼は内心で身構えた。
彼の元にやってくる二人の女性のうち、ひとりがすごく険しい表情を浮かべていたから。
ありゃ、相当怒ってるなぁ。
さて、いいわけをどーしたものか・・・
ライカーは思わず回れ右をして逃げ出したくなっていた。






「まぁ、全治一ヶ月ってところだな。きれいに折れてるからすぐ接合すると思うよ。
筋肉へのダメージも最小限だしな。特に問題となる障害も残らないだろう。
と言っても無理はしないように。しばらくはおとなしくしてろよ。」

周囲では数人の医師が負傷者の手当てをしていた。
「ウラニア」自体は直接戦闘には参加しなかったが、
帰還したイカロスのパイロットのうち数名が負傷していたため、
その治療に当たっているようだった。
周囲三メートル四方に四角く区切られたスペースに四人が入っているとかなり狭く感じる。

「ありがとうございます。」

艦医からそう告げられて、彼は軽く会釈をした。
右肩の部分に当てられているギプスの上から、
支給された第二種軍装で身に着ける上着をはおる。
これまで着ていた制服は使い物にならなくなっていたからで、
その胸元には官位をあらわす印は何もつけられていなかった。

「よかった。もし後遺症でも残ったらって心配したんだけど。」

ほっとした表情で、美月が告げる。
その様子を見た艦医が小さく笑うと、彼の耳元に顔を寄せて小さく囁きかける。

「君のパートナーかい?」

「はい、そうです。」

「いい子じゃないか、大切にしろよ。」

その言葉になぜか恥ずかしくなり、彼は小さくうなずいた。
ふいに彼女が女性であることを意識したからだった。

「それで、私達はどうすればいいんでしょう?」

美月の質問に少しだけ考えて、艦医は振り返ると、机の上におかれた端末を操作する。
その端末の画面に一人の男性が写った。

「どうした?奉軍医長?」

軍医長と聞いて、蒼太は少し驚いた。
どう見ても奉はまだ20代後半の若い医師で、とても軍医長を務めているようには見えなかったからだ。

「いや、山城少尉が拾ってきたパイロット候補生二名はどうしましょう?」

「その件なら川名くんと話した。とりあえず、UC-01に戻して、候補生達を今呼集している場所に送る。
今から30分後にUC-01に向けて小型艇を1隻送るので、それに搭乗するように伝えてくれ。
それには四年次のパイロット候補生以外の生徒達も乗せる予定だ。」

「わかりました、伝えます。」

奉は通信を切断して二人の方に振り返る。

「ということだ。」

「はい、わかりました。」

「格納庫までの道のりはこいつに案内させる。」

彼が指をさした相手は、それまでずっと奉の助手をしていた青年だった。
彼は一瞬何が起こったのか理解していない表情だったが、すぐに笑顔で会釈した。
それに答える二人。

「まぁ、あと30分あるが、早い目に行ったほうがいいな。
縁があれば、君達が4年次の時にまた会えるな。その時を楽しみにしてるよ。」

奉は美月に向かってウィンクをした。

「ありがとうございました。奉軍医長。」

「それじゃ、行きましょうか。」

その青年が先に立って、仕切り布をあけて外に出て行く。
二人はその後に続いた。
三人で飛ぶように通路を抜けていくが、ふと美月は前を進む彼に声をかけた。

「あの、お名前なんていうんですか?」

「あ、僕は金慮方といいます。奉軍医長の助手をしている見習いです。」

「「ウラニア」は長いんですか?」

「実はまだ赴任して二ヶ月なんですよ。やっと乗組員の顔と名前が一致してきたところで。」

「そうなんですかぁ。」

いくつかのハッチを抜けて、目的の小型艇の発着デッキにやってくる。
金はデッキを見渡して、ある小型艇を指差す。

「あれだと思いますよ。」

「そうみたいですね。」

そこで、金は体を翻してその勢いでその場で停止する。
二人はさすがに体捌きだけでは、停止できないので手すりにつかまってその場に止まった。

「ありがとうございました。」

「いいえ、また会えるといいですね。楽しみにしてます。」

「はい、こればかりは運ですが、私達もそうなるように祈ってます。」

「では。」

そう告げると彼は二人に軽く手を振ってから身を翻してもと来た通路を戻っていった。







「司令は早く脱出を!」

「君こそ早く退艦するんだ!」

その怒声に負けないくらい大きな声を出すが、
彼は、体を二人の兵士に抑えられ無理やり艦橋から連れ出されようとしていた。

「大丈夫です、やることをやったら退艦します。」

そのライアンの笑顔を室田はじっと凝視する。

「本当だぞ。命を無駄に捨てるな。」

「提督こそ、この教訓を上層部に必ず伝えてくださいよ。」

そこでドアが閉まってエレベータが動き出した。
ゆっくりと、室田はその場にくず折れる。
想定はしていたし、警戒もしていた。
だが、防ぎきれなかった。
まさか十隻もの戦闘艦が潜んでいるとは。
さすがにこちらの二隻では戦いようがなかった。
ほとんどなぶり殺しのような短い戦闘で、僚艦「アロンダイト」は轟沈、
この「エクスカリバー」もリアクターが暴走寸前まで来ていた。
艦長のライアンはそのリアクターを暴走させ一艦でも相手に被害を与えるために、
そのタイミングを見計らうために艦橋に残ることになった。
本来ならばそれは私の役目のはずなのに、ライアン、君は・・・
彼らはエレベータを降りて脱出艇に向かった。
その間、小さな振動が艦全体を小刻みに揺さぶる。
格納庫にたどり着き、残っている脱出艇に向かう。
脱出艇の前に司令部付属の情報仕官である柳が待っていた。

「司令、お待ちしておりました。」

こわばった表情で、彼女は小さく会釈する。

「挨拶はいい、君も早く乗りたまえ。」

「はい。」

ちらりと彼女の全身を見て、すぐに目をそらす。
室田は直接戦闘艦橋にいたため被害を免れたが、
艦隊司令部の要員達がつめていた情報解析室は、
至近弾により全壊、彼女以外の10名はすべて亡くなってしまった。
彼女の二種軍装の襟や胸元は誰かの血で真っ赤に染まっている。
脱出艇の階段を上る最中に、艦内放送が入る。
室田と柳は立ち止まり、その放送を聞く。

「告げる。こちら艦長。さきほど通達したとおり、
これより本艦はリアクタードライブをオーバードライブさせ、自壊させる。
まだ脱出していない乗組員はすみやかに脱出艇にて脱出せよ。
なお、オーバードライブは三分後に開始する。」

それを聞いて、室田は両手を握り締めたが、何も言わずに脱出艇に乗り込んだ。



2007/5/27公開

Ver1.01