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しん、とした、時折本のページをめくる音のみが響く空間。 あたしはこんな場所で過ごす時間が大好きだ。 「リナー、この本何の本だ?」 脳天気な声が響く。 ・・こいつと一緒でなければ。 「あのねえ、こういうとこでは小声で話しなさいって前から言ってるでしょ?」 小声ながらも、あたしの剣幕に押されてか、一瞬怯むガウリイ。 「・・・おー、そうだったな、すまん。で、この本。」 「どれ?貸してみなさい・・・こんなのも読めないの?」 「はっはっは、当然だろ?」 ・・おひ。 「表紙の絵、見てな、どんな本かなー、と思ってさ。」 「・・綺麗なお姉さんね。」 「だろ?で、興味を引かれて・・ぶっ!」 ばし、と小気味よい音を立ててガウリイの顔に本が跳ね返った。 「ってえなあ!何だよいきなり・・」 「神話の本!そのお姉さんもどっかの女神サマじゃない? 読みたいんならそこらへんで大人しく読んでなさいよ。」 「?機嫌悪いなあ・・あの日か?」 「お空のお星様になってみたい?」 「いや・・・ははは・・・・・」 床に落ちた本を拾って、ガウリイはあたしの向かいの席に腰掛ける。 多少、周囲の注目を集めてしまったような気がしないでもないけれど、誰も文句を言ってこないので良しとする。 手元の本に目を落としていたら、ふと気がついた。 この男に本が読めるのか。 目線だけ動かして様子を探る。 ・・寝てるし。 案の定というか何というか。 本は開いたまま、頬杖をついて、気持ちよさそうに眼を閉じている。 今度はしっかり顔を上げて、真正面から凝視する。 視線で起きてしまうんじゃないか、と思うほどに。 幸いにもその気配はなさそうで、音を立てないように注意しつつ席を立ち、ガウリイの隣に回り込んで椅子に座る。 上半身を机の上に投げ出して、下から顔を覗き込む。 近くで見ると余計に綺麗な顔。 本の絵よりガウリイのほうが女神に見える・・と言ったら怒るだろうか。 長いまつげ、すっと通った鼻筋、形の整った唇、きめ細かい肌。 見飽きない、のだから面白い。 今は見えないけれど、その蒼い瞳は世界中のどの宝石よりも美しいこともあたしは知っている。 暫くそうやっていると、目が開いた。 蒼い瞳にあたしが映る。 「・・何やってんだ?」 「・・・・・観察。」 「俺の?」 「うん。」 「・・帰るか?」 「・・・うん。」 宿への帰り道で。 「寝ちまったな。」 たはは、と力無く笑う。 「最初から分かってたことでしょ。今更何言ってるのよ。」 「つれないなあ。」 「今に始まったことでもないでしょーが。」 「・・か・・・・・あ」 はあ、と溜息をつくと、ガウリイが何か小声でぼやいた。 地獄耳のあたしだけれど、何故か聞き取れなくて。 隣を、あたしの歩幅に合わせて歩く大男の顔を見上げる。 夕日のせいで、ちょうど逆行になり影になってしまったのと、さっき図書館で見たときより距離が開いてしまったのと、なのか。 何となく、寂しい気分になった。 ..end |