その昔、ニシン御殿と呼ばれる漁師の家があったくらい、よく獲れて、よく儲かった魚である。
しかし、いつしか漁獲高も減り、国産のニシンはなかなか見られないそうである。
刺身用ニシンを見つけたのは、いつもの魚屋であった。
身欠きニシン、ニシンそば、干したりしたものしか思い浮かばない。
その刺身とは一体どんなものであろうか。
大変興味をひかれたのと、四尾400円と手ごろな値段にもひかれて、買ってみることにした。
本によるとエラに血がにじんでいないものが新鮮。
新鮮なものなら、丸ごと塩焼きに、と書かれていた。
刺身については、一言も触れられていない。
あまり、刺身向きでないのか、それほど新鮮なものが手に入ることが稀なのか、どちらかだろう。
今回のものは、血のにじみもなく、体もしっかりしている。
「刺身」を謳うだけのことはあって、新鮮なものなのだろう。
身は柔らかく、イワシをさばいている感覚に近い。
小出刃があれで十分である。
頭を落とし、内臓を出していくと、きれいに黄色い卵が現れた。
ニシンの卵、数の子である。
かつては黄色いダイヤモンドと呼ばれたものである。
オスには白子が詰まっていた。
内臓と数の子、白子を取出し、三枚におろしていく。
骨に当たる感覚を頼りに、慎重に包丁を動かしていく。
骨が細いので力を入れすぎると、背骨の反対側まで包丁が入ってしまう。
サンマをおろしていく感覚に似ている。
身の色も少し赤く染まった感じで、サンマそっくりである。
小骨を取ろうと骨抜きで引っ張るが、完全には取れきれないようだ。
めぼしいものを取って、皮をひく。
皮引きはしっぽ側から包丁を入れてやった。
刺身に向けに切っていくと、取りきれなかった小骨が、バキバキ音を立てる。
骨切りしているような感じである。
大きいものはないので、大して気にならないだろう。
一部は酢締め、酢漬けにしてやった。
三枚におろした身に塩を振って、1、2時間程度置いてやる。
酢締め用のものは、そのまま酢に入れたさらに漬けてやる。
これで1日冷蔵庫に寝かしてやる。
酢漬けのものは、少し洋風にする。
酢大さじ1杯、白ワイン大さじ1杯を混ぜ、煮切ってアルコールを飛ばす。
こしょうを振って、その汁につけてやる。
これも1日冷蔵庫で寝かす。
本当は、さらに香草などを入れてやるとよいようだ。
食べてみよう。
刺身の食感はやはりサンマに似ていて、少し柔らか目の歯ごたえである。
サンマとの大きな違いは、刺身は生臭さも少なく変なクセがないところだろう。
意外にも、食べやすいのである。
しょうが醤油を用意したが、そうでなくても美味しく食べられる。
旨みも多いような気がする。
酢漬けしたものは、カルパッチョ風にする。
酢を拭いてから皮をひいて薄く切って、皿に並べる。
その上からオリーブオイルをかけてやる。
これで、ぐっと洋風の一品に変わる。
実際食べてみると、オリーブの風味で爽やか感が出てくる。
単に酢締めしたものに、オリーブオイルを振ってやってもいいのかもしれない。
酢締めは醤油でいただく。
青魚系の酢締めというのは、ほんとうに美味しい。
刺身のときのクセのなさが、酢締めでも活きる。
脂も適度で、さっぱりとして食べられる。
このままオリーブオイルとこしょうを振ったら、確かにカルパッチョに変身した。
note.
2012/2/16:初版
ref.
「魚の目利き食通辞典」講談社編(講談社)2002/3/20
「からだにおいしい魚の便利帳」講談社編(高橋書店)2010/12/30
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑
:名前や生態に関する調査に利用しました。
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