女子高生というものは主婦に劣らずとても噂が好きで、特に色恋沙汰は大好物のようだった。
最近、私の周りの女子高生が噂しているのは近くの工業高校、我井帝のとある2人の男子高校生だった。
嫌でも耳に入るそれ。
片方がある意味有名な、私の兄。それを知る友達はこぞって私に真実を問う。
私といえば。もう1人の相手の名前も素性もわからないままだったので、何も答えられなかった。
ただ、どうなのかな? と首を傾げるばかりだった。






溶けかけのアイスが1番美味しい










教室で鞄の中身、持ち帰る教科書を確かめた私は、廊下に出ようと扉を開ける。
廊下に出れば、なにやら2年の教室の前の廊下で屯っている救護団の1年生。
どうしたのだろう? とキョトンとこちらを見る私に気づいた犬村君が慌てて違う方向を向く。
実際には、向かされていた。蘭陵君に。

「お疲れ様。あんまり遅くまで残ってちゃ駄目だよ?」

私が声をかければ、みんなが、はぁ〜いとやる気ない声を返す。
なんだか目をこちらに合わせない皆。変だなと首を傾げた。
後ろで高峰君が「大丈夫だよ素性は〜〜」っとモゴモゴ皆に説明するように話していた。

「あ、あの…莢先輩……」

蘭陵君が恐る恐る、というかなんだか慎重に声をかけてくる。
後ろで手を組んでいるのだろう、応援団みたいだな、とじっと蘭陵君を見つめる。

「どうしたの?」

「あの…藤村解良ってしってますか?」

「え? …知らないけど…なんで…?」

「いえ、じゃあいいんです。気をつけて帰ってください…」

蘭陵君はそういってそそくさと私に背を向ける。
手に持っているピンク色のものはなんだったのだろう。CDケースに見える。
エッチなDVDかなにかかな? 変なの、と首を傾げた。
蘭陵君はいつもなら頼まなくても家まで送り迎えするって言い出すのに…
首を傾げたまま私は家路についた。









喫茶店SATUKI


私たち黒金の生徒がよく立ち寄るおなじみの喫茶店。
真っ直ぐ帰る気分じゃなくて、ケーキの1つでも食べて帰ろうと立ち寄ってみることにした。
入ってすぐ、店員に何名様ですか? と聞かれ、私は人差し指を出そうと手を上げる。

「あ…莢ちゃん先輩…」

聞きなれた声に振り向けば、可愛い後輩の顔と振ってくれている手が見える。
実際には遠くて見難かったけど、あの綺麗なプラチナブロンドとほわんとした笑顔は遠くからでもしっかり彼女が誰かを教えてくれた。
店員が他の客に呼ばれて私から離れる。私は友人と一緒の席につくと思われたのだろう。
後で席につくことにして、今は私に手を振ってくれているせせりちゃんの元に近づく。
なぜか机の上には山ほどお皿がつまれていた。いっぱい食べたんだなと微笑ましい気持ちになる。

「せせりちゃん…デート?」

一緒に男の人がいることに気づいて私はからかうような、冗談めかした口調でせせりちゃんに問いかける。
せせりちゃんはキョトンとして、ううんーナンパー、と笑った。
せせりちゃんの隣にいるのは我井帝の人だろう。3年生かな? とじっと見てしまう。
顔が濃いなぁって思った。



「ええと、祇園寺莢さん?」

その人は確かめるように私の名前を呼んだ。
何で知ってるのだろう? びっくりして目をぱちぱちさせる。

「手紙、読んでもらえた?」

その男の人は珈琲を飲みながら優雅に私に声をかける。
私はもっとわからなくなった。

「…どの手紙ですか? ええと…手紙に髪の毛の束入れて送った人? あ、でもこの人は蘭陵君がどうにかしたって言ってたし…
 あ、もしかして金色で縁取られたバラの便箋の人? 紫のバラの便箋の人?

我井帝の人から手紙をもらった記憶は無い。
最近送られてきた手紙をピックアップする。紫の薔薇の手紙、ご丁寧に香水まで吹きかけられていたそれ。
中身も相当アレだったので苦笑したのを覚えている。
彼のイメージに紫の薔薇が妙に当てはまってしまって、思わず笑顔になってしまったかもしれない。


「まぁ、どうぞ座って。好きなもの何個でもどうぞ。…んー…どれも違うな。ピンクのCDケースなんだけど、もらってない?」

2人のまん前、向かいに座れば、渡されるメニュー。
せせりちゃんが私の横に移動してきた。私はつめてせせりちゃんように席をあける。
ぺとっとせせりちゃんは私にくっついてきた? どうしたのかな? とせせりちゃん覗きこめば、せせりちゃんはほんわか笑った。
私がオロオロとしているのを彼は気づいているのだろう、何個でも好きなの食べて。と珈琲カップを置いて微笑んでいる。
珈琲の似合う人だなと思った。

CDについては貰ってないと首を振る。
彼は何か知っているのだろう。ククッと笑いを噛み殺すように口元押さえていた。

「えーと、じゃあフルーツパフェとラズベリーパフェとチョコレートパフェと南国パッションパフェください。
 アイス溶けると食べるの大変なんで、10分ごとにもってきてくださいね。」

店員のお姉さんがぎょっとしていたが、気にしない。
目の前の彼はただニコニコと笑みを絶やさない。
制服の金具が見える。T…1年生だこの子…

「俺は、我井帝1年の藤村解良っていうものなんだ。今日はちょっと祇園寺さんに聞きたいことがあってね。」

「北壁さんの弱点とかは知らないよ? …藤村…君。」

藤村君はプッと噴出す。そういうんじゃないよ、と手を振った。
藤村解良。どこかで聞いたことがあるなと首を傾げる。
あぁ、蘭陵君が言ってたなと思ったらなんだか怖くなった。もしかして要注意とかの危ない人とかなのかな?
でもせせりちゃんと仲良しだしな。ハッとしたり落ち込んだり、百面相してしまう。
早速運ばれてくるパフェ。まずはチョコレート、いただきますと遠慮せず食べ始めた。


「聞きたいのは祇園寺大豆君のことなんだ。」


藤村君の言葉にツキンと胸が痛む。
無意識に警戒するように眉が寄ってしまった。

「何を知りたいの?」

「彼のこと。」

フーンと私はチョコレートパフェを黙々と食べる。
ついてるよ、と彼が自分の頬をさす。
私がキョトンとしているのを見て、ティッシュを1枚とって私の顔に手を伸ばす。
頬を吹かれればむーっと変な声が出てしまった。

「取れた。」

「えっと、ありがとう…藤村君…」

なんだか恥ずかしかった。玲二君や大和君、ざくろ君にされても全然びっくりしないのだけれど、
会ったばかりの人にこうされるとやっぱり恥ずかしい。
わざと視線逸らすように隣のせせりちゃんにチョコレートパフェをあーんする。
ビクンとせせりちゃんの体が跳ねた。

「電話だー…ちょっと行って来ますー」

せせりちゃんに最後のチョコレートパフェを口に入れてあげる。
そのまませせりちゃんは軽い足取りで出て行ってしまった。
ふわりと弾むその脚は浮いていそうで、蝶のよう踊っていた。
そんな彼女の足を掴むことはできない。ただ不安になった。
二人にしないでって思ったけど、いえなかったから、挙動不審になってしまった。
むずむず動く私はとっても怪しい子だったと思う。
次にきたフルーツパフェ、それをかき消すようにまたモリモリと食べ始める。
彼はにこにことこちらを見ていた。たぶん、私、という人間を観察しているのだろうと思った。

「祇園寺さんは…大豆君が好きなのかな?」

「ううん。好きじゃない。」

即答した。これは別に隠す事でもなかったから。
ラズベリーパフェもきた。急いでフルーツパフェを食べる。

「そっか……」

「藤村君は何が欲しいの? お金? それとも大豆のチーム? それとも有名になりたい?」

私の質問に藤村君は笑顔のまま首を左右に振る。
もっと簡単だよ。と私に人差し指を立てて見せた。




「俺は大豆君がね。好きなんだ。」




は? と思った。思わず涎が垂れそうだった。
何で?とか、聞こうと思ったのだけれどなんとなく頭がまわらなかった。
しばらくして、あぁ、この人が例の噂の人なのだと気付く。
思わず変な質問を口走っていた。

「……どれくらい?」

「1番だね。」

「すごいね。」

「でしょう?」

藤村君は私をからかっているのだろうかと思った。
でも彼があんまり真っ直ぐ好きだというから、そうなのかなぁ、とも思った。
だから、忠告してあげる事にした。





「やめておいた方がいいよ。大豆はね野生の動物なの。飼うなんて無理なの。内臓全部とっておきたいならなおさら駄目だよ。」





売られちゃうよ。と私がラズベリーをもぐもぐしたら、またついてると藤村君が今度は私の頬を指差す。
私はついてきたペーパーで頬を擦った。
彼はその様子を楽しそうに眺めていた。
のままの表情で、彼はまるで自分の気持ちをどこまで吐露するか確認するように、慎重に私に言葉を投げる。






「内臓全部あげたっていいって言ったら?」






私のパフェを食べる動きが止まる。
藤村君をじーっと見つめた。


「……すごいね。」


「でしょう?」


運ばれてくる南国パフェには綺麗な花火がついてきた。
パチパチ爆ぜて落ちるそれは、酷く綺麗な光る曼珠沙華のようだった。
私はもう昔には戻れないから、前に進む彼のために出せる情報は出してあげようと思う。
だけれど、せせりちゃんが来る前に、最後にはキッチリ忠告してあげよう。

彼は狂ってる。


そして、いつかは隠元の中に溶けてしまう事を。




























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あとがき
私は藤村君をなんだと思っているのだろうか。
莢は阿呆なのですが藤村君があんまりピュアなのでちゃんと答えることにしたようです。
隠元との会話もかきたい。
せせたんが莢の隣に来たのは莢を守るぞーって頑張ったためです。