初めて俺は藤村君に会った。
彼は、一生懸命な子だった。
とても、羨ましく思う……








      知 ら な い 少 年







嘉修がスポットから外れた
喫茶店を出てしばらくしてからいつの間にか俺に変わってしまう。。
どうしたの? って俺が聞くと。股間が痛いって嘉修は言う。

それは俺もなんだけど……

駅前付近の繁華街は煌き、夜の光をギンギンにあたりに撒き散らす。
俺はこの煩さも嫌いじゃないのでゆったり歩くのは楽しい。

「待って下さい嘉修さん!
 待って…待ち給えそこの伊達男ッ!!」

カシュウ? 俺かな、と振り向く。
そこには腹部を抑えて肩で息をする藤村君がいた。
大豆と嘉修ごしで見ていたけど、本物初めて見た。
顔、濃いなぁ…

「待てと云っているだろう…
 云うだけ捨て台詞を残しておいて説明もないというのは」

何の話だろう。
音無ちゃんとのやり取りが終わった途端、何も見えなくなってしまった。
そこからと嘉修から”俺”に変わる間のやり取りがさっぱりわからない。

「キミ…あんなに蹴られてたのに、走ってきたの?」

柚木ちゃんの蹴りの重さは見ているほうが痛い気がした。
大丈夫か心配で眉を寄せて相手に言葉をかける。

「そうだ、あなたには迷惑かもしれない、知ってる、わかってる
 俺は、それでもいいんだ!!」

俺は迷惑? 嘉修は迷惑?
嘉修は迷惑なのだろうか。
あぁ、そっか、嘉修は男の人と俺がどうにかなるの、すっごく嫌がるもんな。
俺は彼の必死な雰囲気の叫びをそのままぼーっと聞いていた。
それよりも怪我が気になる。
怪我をしていても走って自分に追いついた彼。
俺は痛い思いをする前に逃げちゃうから。
彼を純粋にすごいと思えたのだ。


「終わりがあることだって、聞いた
 ちゃんと理解している
 それでも、俺は彼の記憶に残りたい
 彼の現実(リアル)を知りたい…!」


大豆の現実(リアル)を知って、彼はどうするのだろう。
正直言って大豆はオープンだからこちらが閉ざさない限り、悪事は俺と嘉修にバレバレだった。
大豆の現実は酷く不安定だ。
彼は、大豆に何を見ているのだろう。
ほんのちょっぴり、彼が気になる。
彼の痛そうな頬、そこに優しく触れる。

彼の大きい瞳を見つめる。
彼は気づいた。
俺が、嘉修じゃないこと…


「どうして大豆のことがすきなの?」

どうして?

繰り返して藤村君に問いかける。
いつもならPC無いと喋れない俺が、初対面の彼に自然と声をかけれた。
いつもを忘れるくらい、俺は彼の行動が、好きという気持ちが気になっていたのかもしれない。

どうやれば、誰かを好きになれる?
どうすれば、自覚出来るのだろうか?

藤村君は俺が誰かわかって、驚いたままの表情だった。
それを和ませてあげようと思って俺は柔らかく。
出来るだけ人好きしそうな笑みを浮かべる。

「いいよね、大豆も、嘉修も
 ほんと、いいよね」

いいなぁ、と言葉を噛み締める。
俺が誰かを好きになることは無い。
全部持っていかれてしまった。嘉修と大豆に。
俺は彼らにいくつかの気持ちを振り分け、もっていかれてしまったのだ。

「いっしょにおいで、ぼろぼろだ
 手当てしてあげようね」

ポカンとしたままの彼の肩を担ぐ。
ここからそう遠くない自宅に向かい、ゆったりと歩き出した。






マンションの部屋の前、鍵を開けて藤村君の背中を押す。
大丈夫だと言い張る藤村君を無理やりに近い形で家に呼んでしまった。
純粋に話を聞いてみたかった。色々。

俺の部屋は大豆が汚して嘉修と俺が片付ける。
昨日は大豆、今日は嘉修。部屋はまぁ、そこそこ綺麗だった。
1DK、広いその部屋は男一人が住むには十分だった。
だが、全体的に寂しいかもしれない。
鉄板が打ち付けられた壁はどこか温かみにかけていたし、
ベッド・テーブル・テレビ・PC。
どれも真新しく、最新だったり。ファッショナブルだけれど
無造作に置かれているので、良さが半分以下になっている気がする。
でも、直さない。面倒だった。
テーブルの上にはこの時期に合わない寒椿。
嘉修がわざわざ黒金高校の教師に頼んでいただいてきたもの。
花びらが開き、その大輪の花は今にも首がもげそうだった。
簡易キッチンには皿が積まれたままになっている。
嘉修は手が荒れるといって皿洗いを嫌がる。
大豆は…まぁ、言わなくてもわかると思う。

「シャワー貸してあげる。いっておいで。服も貸してあげるから。」

汗かいちゃったでしょ? と続ければ藤村君が腕をあげて匂いを嗅ぐ。
本当だ、汗臭いと彼は笑っている。
笑顔が可愛いなって思った。

そのまま少し躊躇している彼を洗面所に押し込める。
バスタオルとタオルを出して洗面所を出て扉を閉める。
暑い…冷房をつけてもなかなか冷えないから、上だけ服を脱いだ。
脱ぎながら真っ直ぐクローゼットへ。
下着は開いてないのあったからあげればいいか、と袋まま、ベッドに投げ出す。
彼とは体のサイズがほぼ一緒だ。問題は無いだろう。
俺の服は奇抜で、着たくないと誰かに言われた。

(誰だっけ、北壁かな。)

そんなことを考えながら嘉修と大豆の服を交互に見る。
大豆が『俺ノ貸スンジャネェゾ!!』って怒るから、大豆のを貸すことにした。

しかし、大豆はうるさいことこの上ない。殺ス殺ス大豆が喚くのだ。
嘉修に頼んで大豆の意識をスポットから遮断する。
大豆の声が消える。こうすれば俺が何しているか大豆には見えない。
うるさくなくなったので、安心して服を選び始めた。

虎柄のハーフパンツと黒いタンクトップ。
外にばかり出かける大豆が珍しく家にいるときはこの格好でいることが多い。
俺は洗面所に服と下着を置いておく。
きっちり律儀に畳まれている制服にクスリと笑みが零れた。

「藤村君。シャツ洗濯しようか?」

「え? いや、大丈夫…です。」

彼はまだ戸惑っている。
ふーんと頷いて洗濯機にシャツと下着と靴下を入れてしまう。

「ごめーん、聞いた意味無かった。あははは」

俺は、え゛!? と驚く藤村君を無視して洗剤入れてスタートボタン。
残った制服はそのまま持ってリビングに向かった。
紙袋に入れて持ち帰れるようにしておく、あとは何をすればいいだろう?
とりあえず救急箱を用意して皿洗いを始めた。

皿洗いが終わりかけた頃、俺は後ろで扉の開く気配に気づく。
振り向けばそこには藤村君が大豆の服を着て立っていた。

「おかえりー。ご飯にする? 私にする? それとも、わ・た・し ??」

「いや、明らかに私が多くないかい?」

「だってお風呂入っちゃったし…大豆の服、似あうね。」

「え!? これ大豆君の服!?」

彼が目を輝かせるので素直に頷く。
大豆君、と自分を抱く彼がちょっぴり気持ち悪かった。
泡がついた手を洗い終われば、おいでおいで、と藤村君を手招きベッドへ。
座らせて湿布を袋ごと取り出す。
足元、かさり、と何かが触れる。

「ゲッ」

「え?」

足元にあったのは血で真っ赤なシャツ。
ベッドの下にシャツを押し込んだのだが、見えてしまっただろうか。

「今の……」

「あは…ごめん…気にしないで。処分し忘れちゃって…俺、血…嫌いだから嘉修がしてくれるんだけど、嘉修も忘れてたみたい。」

「それは…大豆君?」

藤村君に聞かれて俺は答えるか迷ったけど、迷った時点でアウトだと思ったから。素直に首を縦に振る。
そっか。と藤村君はなんとなしに聞いただけ、みたいな、そんな雰囲気で軽く頷いていた。

「臭いけど、我慢ね。」

「大丈夫。大豆君のために、その香りだってフローラルにしてみせる。」

クスクス笑いながら、服をめくらせて冷たい湿布を彼の痣になっている腹部や胸に貼っていく。
冷たいからか、彼の体が小さく跳ねた。

「ねぇ、藤村君…大豆のこと好きって、どんな感じ?」

俺は彼と目線をあわさず湿布を貼りながら問いかける。
藤村君はうーんと悩んで、思案するように口元に手を当てていた。
嫌味な質問でなかったか、少し心配になってしまった。

「俺は、大豆君が初恋の人なんだ。正直、何かに執着することも無かったし、
 誰かや何かを好きだと思ったことも無い。それが全部、大豆君への気持ちに濃縮された感じがする
 …それでも足りないかもしれないけど。ともかく今は、彼の、彼の瞳の端にでも映りたい…」












俺にはわからなかった




無意識に悲しい顔をしてしまったのだろう。
藤村君が眉を寄せてこちらを見ていた。
なんでもない、と首を左右に振った。

もっと聞いてみたかった。
具体的に、人を好きになるということを。
でもいっぱい聞けば聞くほど、わからない自分を嘆きそうで、

怖くて聞けなかった。







学校の話、クラスの話、部活、それぞれの好きなもの、藤村君のお家の話。
他愛ない話をした。歳相応の色んな話。
藤村君は同級生よりずっと大人だったから、聞いていてとても楽だったし、話しやすかった。
ギオイン、って渾名をもらった。なんだか嬉しかった。
しかし、楽しい話を終わらせる藤村君の携帯電話が鳴ってしまった。
電話で秘書、なのだろうか? 大人びた様子で会話するその様子を
俺は物珍しそうに見ていたかもれない。

「じゃあ、ギオイン。俺もう行かなきゃいけないから。」

「うん。洗濯物は明日持って行くから…また明日、学校でね。」

藤村君は、ありがとう、と礼を言って扉に向かう。
靴下履く? と聞いたら、俺今日は石田●一なの。と言われた。
紙袋を差し出せば藤村君が礼を言って紙袋を受け取る。

「ねぇ、ギオイン…そうえいばさっきね、嘉修さんに言われたんだけど…君に会うと俺は目的を見失うって」

扉を開けて俺に、どういう意味? と話しかける藤村君の顔は不思議そうな、よくわからないようなそんな顔だった。
俺は嘉修の言っていることがわかる。
それを否定する気もない。
頷いて。

「きっと見失っちゃうと思ったんだよ。すすられる前に逃げてね。」

俺はニッコリと笑った。
後ろが明るくて、外が暗いから藤村君には気味の悪い笑顔にみえたかもしれない。
さらにわけのわからない返答だったから、藤村君は何かを言おうと口を開く。
俺はその唇に人差し指伸ばして、抑えた。

「おやすみ、藤村君。嘉修が苛めてごめんね。」

人差し指を退けてそのまま扉を閉める。
寒椿の花が、ボトリ、とテーブルに落ちた。





















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あとがき
元のお部屋は黒・灰・白
隠元は藤村君が結構好みだったようです。(BLの匂いプンプン)