町の繁華街を歩くのが私の日課。

今日は寂しくてかちょこっと上のお兄さんとエッチしてお金ももらった。

近道に裏路地を歩いていると、なにやら揉め事のような声が聞こえた。

なんなのかしら?喧嘩?喧嘩かしら?

なんて、裏路地に近づく、私の嫌な性格。

 

「こんなに好きなのに!何で俺じゃ駄目なんだ!!なんでだよ!!」

 

痴情のもつれ。まぁ、なんて艶っぽいの。

なんて、低レベルでつまらなそうな喧嘩。少し溜息。

近づく足の力が途端やる気をなくして重くなった。

そう、相手を見るまで…

 

 

 

 

 

 

 

 

デヒドロゲナーゼ

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い路地は片方の男しか見せてくれない。

せせりは聞き耳をたてる自分の趣味の悪さに苦笑して、ちょっとイヤで楽しかった。

 

「俺はもう、あんたとは付き合わない。セックスも話もしない。俺の好きはやっぱりあんたじゃないんだ…」

 

聞き覚えのある声に思わず路地に向かうせせりの足が止まる。

 

「隠元…俺を裏切るのか…俺の何がいけない?君は俺を確かに愛してたのに…

何でも与えて、愛して、何が不満だった?言えば直す。

君が誰とでも浮気をするのだって、その相手が男だろうが女だろうが我慢しているじゃないか。

そうだ!欲しいものがあればいくらでも…」

 

「もう、カツマさんに俺の欲しいものは与えれない…ごめん。」

 

隠元は静かな声で謝った。

悲痛な声だった。寂しいような、悲しいような、海の暗い底から響いているようだった。

 

「………隠元…じゃあ一緒に死んでくれ…」

 

男はナイフを取り出した。

隠元の顔が青ざめるのが見えた。

 

「カ、カツマさん…」

 

「愛してるよ隠元…」

 

カツマと呼ばれた男はナイフをつきつけて隠元を壁に押し付ける。

ナイフが隠元の首に近づきナイフから横にひかれた赤い線から血が垂れ落ちる。

男は隠元に体を近づけ、さらに顔を近づけていく。

口がいままさに触れ合いそうになるとき、せせりは路地に飛びこんだ。

 

 

それは一瞬の出来事で、驚いた男を隠元が蹴り飛ばしせせりの後ろに逃げる。

せせりはその瞬間鱗粉を飛ばした。

男は叫んでからしばらくしてずっとうめき続け、やがて動かなくなった。

せせりが後ろを見ると隠元が泣いていた。

月の明かりを背に受けて、緑色の隠元の髪が透けていた。

鱗粉のせいかキラキラと光り、幻想的だった。

隠元はずっとその男を見ていた。

せせりはそんな隠元の腕をひっぱりずっとその場所を見続ける隠元をひきずりその場から去った。

 

 

 

 

 

「ありがとう、せせりちゃん。ごめんね。」

 

隠元はせせりにつれて来られた公園でやっと口を開いた。

せせりは手をふって少し焦ったように謝る。

 

「いえ、やりすぎたかもしれなくて。ごめんなさい。」

 

いいんだと、隠元は首を振った。

せせりと隠元に沈黙が流れた。

 

「せせりちゃん、このこと、莢に黙っていてくれる?」

 

突然切り出された隠元の話にせせりがピクッと触覚とともに反応する。

 

「兄貴が女にも、男にも節操ないんじゃ、あいつ、幻滅するだろうし、それに心配するし…」

 

隠元は本当に困っているようだった。

怖いのだろう。

妹に自分の裏側を見られてしまうのが…

 

「構いませんよ。絶対言いませんから。」

 

せせりの笑顔に隠元はにこっとつられて笑顔になる。

安心した。

隠元はわかりやすい顔をしていた。嬉しそうだった。純粋に。

 

「隠元さんは、両方好きな人だったんですね。」

 

ただの質問だった。裏もない。なにもない。単なる疑問と確かめ。

せせりはジュースを買った。隠元の金だ。

お金はあったが、小銭がなかった。

座っている隠元にジュースを渡した。

隠元は黙っていたが、しばらくして首を振った。

質問にそぐわない変な表現に、せせりは首をかしげた。

 

「俺、どっちも好きじゃないから。」

 

「え?」

 

「俺、好きわからないの。俺の好きって気持ちはみんな嘉修と大豆に振り分けられちゃった。

だから、俺、好きってことが本当にわからない。だから人の気持ちをすする。

人の好きを感じて俺のにしようとするんだ。でも、いつもできない。手に入らない。」

 

隠元は空を見上げていた。

夜の空がまばゆい光をはなっているのだろうか…

それすら街のネオンでかき消されていた。

 

「みんなを傷つけて気持ちをすするんだよ?俺、最低?でも渇くんだ。欲しくてしょうがない。」

 

頭を抱える隠元をせせりは抱きしめた。

他に慰める方法など思いつかなかった。

隠元はビックリしたようにせせりを見ていた。

せせりは隠元に首に顔を近づけ隠元のさっきの件で切れていた首の傷を、血を舐める。

ビクッっと隠元の体がはねる。

痛いような、温かいような感覚に戸惑う。

 

「隠元さん、すすってもいいよ。私の気持ちを。あげてもいい。すすってくれていい。だから泣かないで。」

 

隠元は驚いた顔でせせりを見ていた。

せせりはにっこり笑うと隠元の首に手を回し抱きしめる。

 

「きっと私達は似ている。だから、きっと傷つけあっても、後悔しない…

泣かないで、気持ちが欲しければすすってもいい。眠たいなら唄ってあげる。」

 

せせりは優しく隠元の瞼に口付ける。

隠元はどこか眠たそうに目を閉じる。

せせりの腰に手を回して頭をせせりに預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は脱水症状を起している。

 

世界には水なんて存在しない。

 

だから、決して潤されない渇きを抱き続ける。

 

人の水をすすって満たされる、でも、それでも渇きはいつか押し寄せる。

 

 

 

 

 

私達は脱水症状を起こす、一生、渇きは癒えない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

なんか綺麗な文章を書きたかったんです。