二人はアイドル?




一年生や二年生が行きかう渡り廊下で莢は玲司を見つけた。
声をかけようとして、一瞬立ち止まる。
ついこの間のことが頭をよぎって、固まってしまったのだ。
数日前、莢がとあるきっかけで玲司に告白して、その思いは伝わって。
だからいつものように声をかけようとして、それでも少し照れてしまった。

「あ〜、声、かけたいよぅ」

会いたい。会って、話をして。
そう思ってたら、彼はあっという間に人に囲まれてしまった。

「ねぇねぇ玲司先輩、次のライブいつですか?」
「玲司、あたしまた絶対見に行くからね!」
「あ、いいクラブ見つけたの!今度一緒行こうよ!」
「如月君、今度の日曜あいてますか?」

中にはちらほら男子もいるが、寄ってくる沢山の女子は学年もクラスも様々で。
なんだか急に、玲司が遠くなってしまったような気がした。

玲司は相変わらず愛想がよく、慣れた感じで彼女たちを相手にしていく。
もちろんやんわりと断りの言葉を入れてるのは聞こえたのだけど。
胸が少しちくりと痛んだ。

「また、あとでにしよう…」

くるりと踵を返したときだった。

「莢!!」

さっきまで求めてやまなかった、愛しい人の声。
驚いて振り返る。

玲司は人ごみをかきわけて莢の元に駆け寄った。

「頭、見えたから。いたんなら、声かけてくれればよかったのに」

少しだけ、腹が立った。
人の気も知らないで。
それは、玲司が女の子に優しいのは知っているけど。



(それでも、あなたは私の彼氏なんだよ?)



少しは自覚して欲しい、と睨みつけようとしたとき、玲司がぎゅうっと莢を抱きしめた。
周りから黄色い声と女子の悲鳴があがる。

「ごめん、すぐに見つけてあげられなくて」
「ちょっ…玲司く…」

莢は沢山の人が見ているのと、この状況が恥ずかしくて耳まで真っ赤になった。
というか、この状況が把握できない。

後ろから女子の裏返った声が聞こえる。

「ちょっとぉ〜、どういうことよ玲司?」
「…わるいけど」

玲司が莢の肩を抱いたまま、女子たちに振り返る。



「今は…いや、これからもずっと、俺、この人しか見るつもりないから」



いつになく真面目な顔で、きっぱりと宣言する。
莢は目を丸くして玲司の横顔を見つめた。

「嘘でしょー!?」
「玲司君、そんなのやだ〜」
「なんでそんな女なのよぉ!?」

それを聞いた玲司が今度は珍しく眉間に皺を寄せた。
こんな風に怒った顔を見たことがある人はそういないだろう。
金色の目に射すくめられて、あたりが静まり返る。

「そんな女って、どういう意味だよ」

低く、呟く。

「俺はこの人くらい優しい人を知らない。この人くらい俺を思ってくれる人を知らない」
「玲司君…」
「この人は、俺のライブなんかみたことないし、歌だってギターだって聴いたことないんだ」



「上辺だけの俺じゃなく、本当の俺を見て好きになってくれたのはこの人しかいない」



そこまで言って、玲司はにっこりと周りに微笑んでみせた。
さっきまでのことがなんでもないような、いつもの笑い。

「そういうわけだけだから。気持ちは嬉しいけど、マジでごめんな」

厳しいことは言っても、最後までやはり玲司は優しい。
泣き出す女子もいれば、莢を睨みつける女子もいる。
そのとき、今度は男子から悲鳴が上がった。

「マジかよ祇園寺〜!!」
「嘘だろ莢ー?如月とつきあってたの!?」
「誰か嘘だって言ってくれぇ〜!!」

莢はきょとんとしていつの間にか女子と同じくらい集まっていた男子を見た。
玲司が莢の横でくすくすと笑う。

「え?え?何?どういうこと?」

ますます莢の頭が混乱した。

「莢にも、どうやらファンがおつきになっていたようで」
「…ファン?」
「知らなかった?栗原先輩がミス黒金を辞退したとき、次の候補にあがってたの、莢なんだよ」
「…ミス、黒金…?私が、そんな…」
「なら、見てみれば?こいつらの顔」

玲司は顎で男子たちをさした。
目を向けると、さっきの女子たちに負けないくらい悲壮な顔で、男子が莢を見つめている。

「なんていうか、その…」
「きまずいっすね。逃げちゃいましょうか」
「は?逃げ…」

言うが早いか、玲司は莢の手を取って走りだした。
後ろでは男女入り混じった悲鳴がまた上がった。

(何か、映画のワンシーンみたいだ)

莢は少しこの状況にどきどきしながら走った。
途中、草狩先生に注意された気がしたが、玲司は構わず莢をつれて走る。

ついたところは屋上だった。

「はぁっ…はっ…」

息を整えて玲司を見上げる。
玲司は悪戯をした子供のように、にぃっと笑ってみせた。
実際、ちょっぴり大事をやらかしたのだけれど。

「…玲司君、次、授業だよ?」
「そんなんさぼっちまおうよ。今は俺と莢の時間の方が大事」
「…玲司君、意外とキザなセリフ言うね」
「…呆れた?」
「ううん、嬉しい」

そう言って莢は玲司に抱きついた。

「なんかね、みんなに囲まれてて、玲司君が、遠くにいっちゃったみたいで、さっきね、凄く寂しかったの」
「…すいません」
「でも、みんなの前で、ああやって言ってくれて、そりゃ恥ずかしかったけど、けどね…」
「…うん」
「私も玲司君くらい優しい人を知らない。玲司君くらい私のことを思ってくれる人を知らない」
「莢…」
「大好きだよ、玲司君」

それを聞いて、玲司は頭を抱えて唸った。

「ちょっ…どうしたの?」
「だからさぁ〜」

情けない顔で莢を見下ろす。

「そういうのは普通、俺から言うって言ったじゃん」

子供みたく頬をふくらます玲司を見て、莢はくすくすと笑った。

「じゃあ、言ってよ。今度は玲司君が」

玲司は莢の肩に手をかけて、真っ直ぐな目をして莢を見つめた。

「大好きだ。他人になんと言われようと構わない。俺は、莢が、莢だけが好き。莢だけをずっと見続けるから」
「…うん」

そうして唇を重ねて。

「…でも、これで玲司君のファン、減っちゃうかもよ?」
「別に。俺は俺を目当てにライブに来て欲しくないから。俺の歌を、ギターを、聴いて欲しい。それに…」
「それに?」
「莢が俺を好きでいてくれれば、それだけで」

優しく微笑む。
莢も微笑み返した。
少しだけ、目を潤ませて。

「…今度、私も玲司君のライブ、見たいな」
「ご招待しますよ。何度でも」
「歌を、ギターを聴くためにね」
「うん」

二人、抱き合って笑った。

後日、二人はさらに大変なこととなるのを知らない。

いつになく男らしい玲司を見てさらに思いがヒートアップした女子と、
ヘタレイジなんかに負けてなるものかと闘志をさらに燃やした男子に、
二人して追い回されることとなるのだ。







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SHIKIさんの「欲張り」の事後編を勝手に妄想(SHIKIさんすいませ…!)
莢ちゃんは真の学園のアイドルです(断言)。
玲司は多分上っ面だけだと思うのです(確定)。
だって中身はあんなに情けない…。
とりあえず妄想は楽しいなぁ。するだけタダだ(死)。