寒椿―KANTSUBAKI―2・最後に残ったのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛は散歩に来ていた。

暇で暇で仕方ないので愛用の熊のぬいぐるみ、くまたんと一緒に。

黒い日傘をさしてくるくると回しながら歩いていく。

 

「んーくまたん。やっぱりお墓って変な電波がよくとんでるわね!!」

 

この場でもっともとんでるのは電波でなく

凛の頭のネジだ。否、電波に何を言っても仕様がないのか。

 

「んー?」

 

ふと、知り合いに気づき凛は首をカクリとかしげる。

あれは…

 

「隠元……さん…?」

 

しかしオールバックの髪の毛に煙草を吸っている。

ということは…

 

「嘉修さんか!!」

 

しかし一体全体なんの用だろうか?

好奇心がくすぐられる。

趣味が悪いといわれればそうだとは思うのだが、

1番その場に似合いそうもない人間に凛は興味シンシンだった。

少しつづ近づいてみると嘉修は大量の椿を墓に飾っていた。

花立に入らないものは嘉修が適当に墓に飾っているようだった。

 

なんであんなに頑張って花を飾っているのだろう?

凛は思わずじっと見てしまった。

いつもはチャランポランな嘉修が真摯に花を飾っている。

 

夏にはまず似合わないその花を一生懸命に…

 

一通り終わると嘉修は煙草を携帯灰皿にぐいぐいっと消して中に捨てる。

墓の近くに腰掛けてただじっと墓を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「凛ちゃん。おいで。」

 

 

突然名前を呼ばれてビックリする。

一瞬どうしようか迷ったが、ここで出ていかないのもどうかと思い、おずおず出て行く。

 

「ご、ごめんなさい…」

 

謝ると嘉修さんは微笑した。

なぜかいつもより穏やかに笑っている気がした。

 

「いいんだよ。気にしなくても…」

 

「誰の…お墓ですか……?」

 

聞いていいのか、迷ったがつい聞いてしまった。

嘉修は別段顔色を変えるでもなくさらりと答える。

 

 

 

 

 

 

 

「俺の、一生涯の恋人が俺を置いて眠りっぱなしなんだ。ここで。」

 

 

 

 

 

 

 

思わず声が止まる。

不味いことを聞いてしまったと嫌な感じでドキドキした。

気まずい沈黙が流れる。

 

 

「凛ちゃん、寒椿ってね。花びらが散らないで首が落ちるんだ。」

 

「ぇ?」

 

凛はいきなり話し出す嘉修に戸惑う。

 

「花びらが全部一緒に落ちるからさぁ…寂しくなんかないよなぁ?」

 

嘉修は空を見ていた。

彼女さんと話しているのかな?なんて思った。

 

「湯山みたいに白目でもいいから生き返らないかな。なんて思う。

もう1年半もたつのにな。子供をかばって交通事故で死ぬなんてドラマみたいだけどあいつらしかったよ。」

 

「かばって…」

 

「うん。冬の寒い日にね。」

 

「毎月来てるんですか?」

 

「うん。命日には挨拶に来るんだ。あいつの好きだった花を持って。去年は無理だったけど今年は草狩さんに頼んだから。

それに今日は凛ちゃんもいてにぎやかだから喜んでるよ。あいつおっとりしてるわりに騒がしいの大好きだったから。」

 

 

 

 

まるで他人事のように淡々と話した嘉修。

しかし、それ以降黙ってしまった彼に凛はどうしようもなく彼と寒椿を見つめていた。

 

 

あぁ、暑い空の下、肌がじりじりと焼けて嘉修先輩を溶かしてしまう。

 

 

なんとなくそんな気がして日傘を先輩の頭の上に移動させると、

先輩は両手で顔を覆って、何かを考えているようだった。

 

 

 

「凛は、落ちたら、どんな花でも寂しいわ。」

 

 

 

ふとこぼした凛の言葉にも嘉修は黙っていた。

覆っているので顔は見えないが、凛には泣いているような気がした。

嘉修の顔を覆う手が離れるのが怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。俺は寂しい。

 

俺はもう寂しくてわけがわからなくなってしまいそうだった。

 

自分の存在の意味も、何が現実かどうかでさえ。

 

 

 

『寂しくないわよね。椿って花びらが散らないでみんな一緒に落ちるの。

私、この花がとても好き。真っ赤なのが1番好き。綺麗で豪華で。

私も散る時はこういうふうにありたいな、なんて。やーだ嘉修。変な顔しないでよ。』

 

 

『多重人格の一人格と恋をするなんてなんかロマンチックじゃない?ね!素敵よね!』

 

 

 

『愛してる…』

 

 

 

 

 

 

 

寒椿を寂しくないと言った君はもう、どこにもいない……

 

 

 

寂しい俺だけがただ残ったまま…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

嘉修がたった一人だけ愛した人。

もうそれは過去の話になってしまったのだけれども。

先のない恋とわかっていて、それは、まわりもきっと辛いんだろうな。