朝は静かに訪れた。
それは正確ではなかったかもしれない。
おもてでは花火が打ちあがり、喜び合う人の群れの音がより一段と高くなる中。
それでも、この部屋の朝は、静かだった。
彼女は彼の肩に、零れた毛布をもう一度かける。
ぐっすりと眠るのは、眠り姫ならぬ、眠り王子。
昨日、色々頑張っていたから。彼女は昨晩、ほんの数時間前の彼を思い出し、
その頼れる様に微笑んだ。
頼られるのは、『出来る男』の証。
なんて、彼女は彼のおでこを人差指で小突いた。
それでも起きない彼に、彼女はクスクスと笑う。
きっと疲れているんだろう、そう思うとますます愛おしく感じられる。
なんだかんだ言っても、結局人のために力を注ぐ彼。
「それをお人よしって言うのよ。」
彼女が口にだして語りかける言葉も、眠っている王子には無駄。
「それだけの余力があるんなら、もっと我儘言っちゃおうかなぁ。」
もっともっと自分だけを見て、なんて、言えない言葉も彼に贈る。
朝は静かに訪れた。
それは、空が不意に白くなった時。
そして、すべてがそこに吸収され。
放たれる。
彼女は、窓にかけられた柔らかいレースカーテンが茜色に染まるのを見た。
「あさ。」
レースカーテン自体が輝きを放つように、部屋いっぱいに光が満ちてくる。
茜色は、他の色を迎え入れ、神々しいまでの透明に変わる。
それはいつもと同じ朝のようで。
王子はその瞳を、眩しそうに、ゆっくりと開いた。
「おはよう。」
彼女は誰よりも一番に挨拶できたことを、とても満足に思った。
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