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見事、竜王を倒して世界に平和をもたらした勇者ロトは、
自らが助け出した姫ローラとともに新天地を求めて旅立っていった…。
それから幾世がたったのか…
勇者ロトの名は既に伝説のものとなり、人々は平和を謳歌していた。
が……。 歴史は繰り返す。
力を蓄えていた魔族が、またもや世界を我が手中に収めんと画策し、
各地を恐怖と絶望との坩堝へと陥れていた。
しかし、伝説はこうも告げていた。
どんなに闇が色濃く大地を覆っている時でも光は確かに存在する、 と。
今、この時代も然り。
勇者ロトはこの地に3つの希望を残していた。
ひとりは、類まれなる格闘能力とローラ姫の再来といわれたその美貌とを持ったがために、
彼女を得んとした魔族によって、母国ムーンブルグを滅ぼされた、悲劇の王女アリーナ。
もうひとりは、回復・防護系を主としたその卓越した魔法力ゆえに、正当なる王位継承者でありながら、
そのことを知らされぬまま教会へと身柄を預けられていた、サマルトリアの神官クリフト。
そして最後のひとり。
剣術に秀で、選ばれし者しか使えない電撃をはじめとした攻撃呪文を操り、伝説の装備を身に纏う。
勇者ロトの血をもっとも色濃く受け継いだといわれる、ローレシアの王子ライ。
3人の若者たちは、出会うべくして出会い、
さまざまな困難に打ち勝ちながら、己に課せられた宿命―世界を救う―に向かって進む。
そして。
ついに彼らは大神官ハーゴンが潜むロンダルギアの地へと足を踏み入れた―――
『奇蹟を探して』
第一話 「前進 ― 右か左か ―」
洞窟を抜けると、そこは白一色だった。
と、どこかの文豪の作品めいたことをクリフトが思い出してしまうくらい、
外の景色は、今までいた迷宮とは対照的だった。
日は差していないはずなのに、やけに明るい。
けれども、この吹雪。
当然、風は激しく、そしてひどく冷たい。
「何だよ、この天気は…」
隣でライが悪態をつく。
しかし、後戻りするわけにはいかない。
落とし穴が異様に多かったおかげで、3人は体力も魔法力も予想をはるかに超えて消耗してしまってい
た。
ついさっきも、魔物に取り囲まれたところをライの機転でようやく逃げ出してきたところだったのだ。
彼らに残された選択肢はひとつしかない。
ただ、前に進むこと。
「いつまでもここにいてもしゃーないし…。じゃ、ぼちぼち行きますか」
おどけた言葉とは裏腹に、覚悟を決めた真剣な瞳でライはクリフトに告げる。
「ええ」
「どっちへ行ってみる?まあ、どちらでも似たようなもんだろうけど…」
「そうですね、とりあえず風に向かって歩くよりはその逆の方がいいでしょうから…」
「そうだな」
「待って!」
ふたりの会話を遮るソプラノ。
「見て!」
そのままふたりの間に入ったアリーナは、彼らに見えるように両手を掲げた。
その小さな手の中で、先ほど迷宮で手に入れた命の紋章を含む5つの紋章が、
うっすらと淡い光を放っていた。
「姫さま、これは?」
同じ王族でありながらも、神官として隣国の姫に接してきたために、
未だ彼女の名を呼ぶことが出来ないクリフトが彼女に訊ねる。
「ふたりの話を聞きながら紋章を眺めていたら…。それより、ほら見ていて」
そう言いながら、彼女はその両手を風下へと向ける。
すると、ふっと手の中の光が消えた。
もう一度、彼女は体を元の方向へ戻した。紋章が再びほのかに光りだす。
「ね。これって、何か意味があるんじゃないかしら?」
「確かにルビスさまの守りをうけるために必要といわれている伝説の紋章ですから、
何かの力に共鳴していることは考えられますね」と、クリフト。
「というと?」ライが先を促すように問う。
「その光の指し示す方角に行った方がいいということになりますが…」
そこで、クリフトは押し黙る。ふたりも彼の沈黙の理由がわかった。
光が示した方向は、先へ進むには一番困難な、風上…。
「行こうぜ」
ライが言った。
「ここにいても埒があかない。その光の先に何があるかはわからないけど
少しでも手がかりがあるなら、それに賭けてみようぜ」
「ええ」
「そうね」
3人は装備を確認すると、吹雪の中、風に向かって歩き出した。
淡い淡い光だけを頼りにして。
つづく
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