Chasmosaurus


CERATOPSIA Marsh, 1888
NEOCERATOPSIA Sreno, 1986
CERATOPSIDAE Marsh, 1888
CHASMOSAURINAE Lambe, 1915
Genus Chasmosaurus Lambe, 1914


Chasmosaurus (Lambe, 1914)
→ 後期白亜紀 Campanian期、アルバータ・カナダ、テキサス・US
 = Ceratops belli (Hatcher et al., 1907)
 = Ceratops canadensis (Hatcher et al., 1907)
 = Protorosaurus (Lambe, 1914)
 = Eoceratops (Lambe, 1915)

 ・C. belli (Lambe, 1914) 模式種
  → Judith River 層群 Dinosaur Park Formation、アルバータ・カナダ
   = Monoclonius belli (Lambe, 1902)
     = Ceratops belli (Hatcher et al., 1907)
     = Protorosaurus belli (Lambe, 1914)
   > Chasmosaurus canadensis (Lambe, 1914)
     = Monoclonius canadensis (Lambe, 1902)
     = Ceratops canadensis (Hatcher et al., 1907)
     = Eoceratops canadensis (Lambe, 1915)
   > Chasmosaurus brevirostris (Lull, 1933)
   > Chasmosaurus kaiseni (Brown, 1933)
 ・C. russelli (Sternberg, 1940)
  → Judith River 層群 Dinosaur Park Formation、アルバータ・カナダ
 ・C. mariscalensis (Lehman, 1989)
  → Aguja Formation、テキサス・US
 ・C. irvinensis (Holmes, Forster, Ryan & Shepherd, 2001)
  → Judith River 層群 Dinosaur Park Formation、アルバータ・カナダ


属の特徴


・ 上眼窩角は後方にカーブする。この特徴は知られているCERATOPSIDAEの中ではChasmosaurusだけの特徴。
・ 頭頂骨窓が非常に大きくなり、頭頂骨が窓の枠を作るように「T」字型や「Y」字型になる。この形は種によってそれぞれ特徴的となる。
・ フリルの後端は非常に幅広く、左右の眼窩の幅の2倍以上になり、頭蓋を上から見ると三角形になる。Torosaurusを除く他のCERATOPSIDAEは、フリルの後端幅が眼窩幅の2倍より大きくはならない。
・ 頭頂骨窓の後端枠は帯状で、その厚みは幅の半分以下となる。これは、CERATOPSIDAEの中でもとりわけ薄い。
・ 外鼻孔に発達するnarial strut(柱状の構造)の後ろ側に沿って、薄いつば状の骨がある。これは、CHASMOSAURINAEの中では、ChasmosaurusPentaceratopsだけの特徴である。


備考


 Chasmosaurusは中型のCHASMOSAURINAEで、Campanian期(76.5Ma〜74Ma)のアルバータやテキサスにいました。現在では、アルバータからC. belli(模式種)、C. russelliC. irvinensis、そしてテキサスからC. mariscalensisの4種が知られています。
 Chasmosaurusは、CERATOPSIDAEの中でも、ここ20年で2つの新種が記載されてますし(Lehman, 1989;Holmes et al., 2001)、C. canadensisC. brevirostrisC. kaiseniを特徴付ける形質が性差や成長段階の差で、実はC. belliのシノニムではないかと言われるようになってきました(Godfrey et al., 1995)。最近のCERATOPSIDAE界では最も熱いネタを提供してくれている奴等です。それだけでなく、かつては名前がコロコロと変えられ、なかなかに複雑な経歴の持ち主だということも判りますね。属を特徴付ける形質って、としあえずは頭部形態なんですね。Chasmosurus の種については、後ほどじっくりと説明いたします。

 名前のChasmosaurus は、"chasm"「穴の開いた」、"saurus"「トカゲ」ということ。よっぽどフリルの大きな穴が目についたとみえます。

 Chasmosaurus belli では後肢部の皮膚痕が残っていることが知られています。皮膚は爬虫類的で、最大で直径55mmの大きな丸いプレートが不規則に配列し、その間を直径10mmほどの多角形の小板が埋めていました(Lehman, 1989)。

 Chasmosaurus mariscalensis は始めテキサスのEl Pasoでボーン・ベッドで見つかり、全身の70%の復元が可能に。さらに、様々な成長段階の個体を含んでました(Lehman, 1989)。骨の1個1々はバラバラにされておりましたが、骨のパーツごとの成長段階における推移は見てとれるようになっています。
 C. mariscalensis の成熟するにつれての体の変化は以下の通りで、全体として大型化に伴い頑丈な体作りをしていっているようです。
・ 胴椎、尾椎の一部は仙椎に取り込まれる。
・ 仙肋骨の癒合と寛骨臼の拡大。
 成長に伴う変化は頭部形態においても生じております。
・ 成長に伴い、吻部が長くなる。このことは、歯骨が前後方向に伸長することによる。このとき、上顎骨の縦横比は変化しないので、上顎の伸長は前上顎骨でわずかに生じているのみである。
・ 歯の生える箇所が20本から28本へと増大し、歯のサイズの増大も伴う。
・ 上眼窩角の著しい伸長。
・ 鱗状骨は成体ではより細長くなる。
 吻部の伸長と歯列の増大は、体サイズの増加に伴って摂食量も増大するためでしょう。上眼窩角とフリルの大型化は、Chasmosaurus の生命活動になんらかの関係があるのでしょう。 


研究史


略号

AMNH;アメリカ自然史博物館、BMNH;大英博物館、NMC;カナダ自然史博物館、ROM;ロイヤル・オンタリオ博物館、TMP;ロイヤル・ティレル博物館、UAVP;アルバータ大学、YPM;イェール大学ピーボディ博物館


・1902, Lambe; 頭頂骨に基づくMonoclonius belli (NMC 0491) と、不完全な頭蓋と胴椎1個に基づいてMonoclonius canadensis (NMC 1254) を記載。
・1907, Hatcher et al. ; M. belli, M. canadensis 両種ともCeratops 属に含まれると主張。
・1914, Lambe; その前年に見つかった新たな標本(NMC 2245)から、Ceratops belliCeratops 属には入らないとし、新たな属Protorosaurus を提唱。
・1914, Lambe; Protorosaurus には先取権が発生しており、すぐにChasmosaurus と名を変えられる。
・1915, Lambe; MonocloniusCeratops とも有効な属ではないとし、”Ceratopscanadensis のために新属Eoceratops を提唱。NMC 0491がChasmosaurus belli の模式標本に、NMC 1254がEoceratops canadensis の模式標本になる。
・1923, Gilmore; Eoceratops の新標本UAVP 40を記載。
・1933, Lull; 単型種のEoceratopsChasmosaurus に大局的分析を試みる。その際、AMNH 5402、AMNH 5656、NMC 2280、YPM 2016など新たな標本を加えて解析をおこなったが、新たな種を設けることはなかった。幾つかの個体に見られる頭頂骨後部中央にある溝に関しては、性的な特徴である可能性を指摘。さらにC. brevirostris (ROM 839)を記載。
・1933, Brown; ほぼ完全な頭蓋骨に基づき、Chasmosaurus kaiseni (AMNH 5401)を記載。UAVP 40もこれに含まれる可能性を指摘。
・1940, Sternberg; C. russelli (NMC 8800)を記載。これはNMC 8801、NMC 8802、NMC 8803も含む。
・1977, Tyson; UAVP 40をEoceratops canadensis とする。
・1989, Lehman; C. kaiseniEoceratops canadensis と同じであるとし、優先順位から、Eoceratops canadensisChasmosaurus canadensis に取って代わられ、EoceratopsChasmosaurus のジュニアシノニムに。さらに、C. brevirostrisC. belli のシノニムに。
・1989, Lehman; C. mariscalensis を記載。
・1995, Godfrey et al.; C. canadensisC. kaiseniC. brevirostrisC. belli のシノニムとする。
・2001, Holmes et al.; C. irvinensis を記載。


species


 Chasmosurusに属する種は、主に頭部形態によってなされ、それだけ、この属の頭部形態はバリエーションに富んでいるということになります。しかし、このバリエーションには個体発生のプロセスによる違いや性差といったものが含まれる恐れがありますので、細心の注意をもって分類する必要があります。
 Chasmosaurus を考える際、その棲息地域、形態的な特徴から、カナダ産の種とテキサス産の種を分けて考えることにします。もっとも、テキサス産の種はC. mariscalensis しかいませんが、これは系統的にも他のChasmosaurus から少しはなれています。

 では、カナダの方から話を進めましょう。Godfrey & Holmes(1995)によって、カナダのChasmosaurus ははっきりと2つの種に分けられるとされました。それがC. belli とC. russelli です(2001にC. irvinensis が加わる)。
 それでは、カナダのChasmosaurus の種を説明していきます。まず、カナダ産Chasmosaurus はフリルの形で大きく2タイプに分けられます(図3参照)。フリルを形成する頭頂骨が「T」字型になるタイプと、「Y」字型になるタイプ。前者がC. belli とC. irvinensis で、後者がC. russelli です。「T」タイプは頭頂骨窓が完全に頭頂骨で囲まれますが、「Y」タイプは鱗状骨も頭頂骨窓の枠を構成します。
 「T」タイプの一方の雄、C. belli は、フリルの後縁端に一対の大きな縁後頭骨をもちます。頭頂骨に付属する縁後頭骨はほかにもいくつかありますが、いずれも端の縁後頭骨ほど大きくはなりません。この特徴は、C. canadensisC. kaiseniC. brevirostris にも見られ、いずれもC. belli のジュニアシノニムと考えられます。「T」タイプのもうひとつ、C. irvinensis は、頭頂骨に5対の縁後頭骨を持ちますが、内側の4対は互いに癒合して、前方に反り返っています。
 次に、「Y」タイプのC. russelli について。こいつは、頭頂骨窓の窓枠を、鱗状骨が一部構成することになります。また、フリル後端は、外側から3対の大きな縁後頭骨が存在します。
 以上の3種のChasmosaurus について、いずれも76.5Ma〜74MaのDinosaur Park Formationから出てきており、それ以前のOldman Formationからはこれっぽっちも出てくることはありません。さらに、Dinosaur Park Formationの中で、古い順に、C. russelliC. belliC. irbinensis となっていて、3種の時代が重複することはありません。いまのところの化石記録としては、250万年の間で、3種のChasmosaurus が入れ替わり立ち代り消えては出てを繰り返したということを示しています。
 Dinosaur Park Formationは、Judith River層群の最上部にあたります。淡水成で、河川、河口、氾濫原、湿地、沼地などの堆積物でできています。Oldman Formationでは北東に流れていた河川でしたが、Dinosaur Park Formationになると、南東に流れていたことが判っています。当時は暖かく湿気もあり、雨季にはモンスーンが海岸平野を襲ったと考えられています。これより上位のBear Pow Formationになると、浅海成の堆積物になり、海進によってアルバータが海中に没したことが判っています。

 次にテキサスで見つかったChasmosaurus の話をします。
 先程述べるのを忘れましたが、白亜紀末期の北米における恐竜の動物相は南北で様相が違っていました(Lehman, 2001)。この頃(Judithian、80Ma〜74Ma)の北米は類稀なる海進によって東西に分断されていましたが、その西側のLaramidia大陸にのみ、CERATOPSIDAEは棲息しておりました。しかし、南北に長い大陸ゆえ、動物相の緯度変化が生じ、また種数も豊富で空きニッチェがなく、南北の生態系が交わることはなかなかありませんでした。この南方生態系に属する角竜は、Pentaceratops sternbergi、それから、Chasmosaurus mariscalensis でした。白亜紀末期になって、Torosaurus だけが南北地域を股にかけて棲息しておったようです。要は、北のカナダ産Chasmosaurus とは、まるで棲息環境が異なっていたということです。具体的には、北方生態系は温暖湿潤な森林Aquillapolinites 優勢な植物相が広がり、南方生態系は温暖で冬湿潤な低木林Normapolles 優勢な植物相であったということだそうな。
 テキサス産Chasmosaurus は、以下の点でカナダ産Chasmosaurus と異なり、別種であるとされています。
・ 上眼窩角が直立しており、他のカナダ産Chasmosaurus 種と異なるだけでなく、他のすべての角竜を通じて特殊な形質といえます。成体では、上顎骨の歯列に対する上眼窩角の角度が85°であり、その他の角竜類で45°から60°であるのと比べて直立傾向が強い。
・ 鼻角は前上顎骨の間で前方を向いており、これもCeratopsidaeを通じて特殊。
・ 頭頂骨の遠位部が、Pentaceratops に見られるように「U」字型にえぐれている。
 これ以降の形質は、あまり重要な形質ではないかもしれませんが、一応挙げておきます。
・ 鼻骨がキール状。
・ 鼻角がその他のChasmosaurus 種と比べて横方向に思いっきり平たい。
・ その他のChasmosaurus 種と比べて、肋骨がほっそりしている。
・ 縁後頭骨は、その他のChasmosaurus 種と比べて大きく、また尖っている。これはAnchiceratops に似る。


Chasmosaurus belli (Lambe, 1914)

 Chasmosaurus の模式種。いくつかの頭骨や体の骨がカナダ・アルバータのRed Deer River、Judith River Formationから見つかっている。Judith River Formationは古い方からForemost Formation、Oldman Formation、Dinosaur Park Formationに分けられるが、Chasmosaurus 属はDinosaur Park Formationからしか産しない。始めは頭頂骨をもとに、Monoclonius belli として記載された(Lambe, 1902)が、Monoclonius とは異なる頭頂骨であるとすぐに判り、Ceratops に入れられた(Hatcher et al., 1907)。さらに、後により完全な頭骨が発見され、Torosaurus の祖先型であると考えられたことからProtorosaurus belli とされたが、ペルム紀の爬虫類で既に使用されていたので、Chasmosaurus belli となった(Lambe, 1914)。意味は「大きな穴の開いたトカゲ」である。
 カナダ西部のDinosaur Park Formation中層部産。
 Chasmosaurus belli はその組み立て骨格から、成体で全長およそ4.95m、腰までの高さおよそ1.5m、頭蓋の長さおよそ1.65mとされている。

種の特徴

・ 頭頂骨の後端のバーがほぼ一直線で、後側端に1対の大きな縁後頭骨をもつ。
・ その他の縁後頭骨は角の縁後頭骨よりも小さく、その数、癒合の程度はさまざま。
・ 頭頂骨は完全に頭頂骨窓を閉じる。
・ 前上顎骨の外鼻前縁のつば。
・ 上眼窩角は反り、その長さはおそらく性差を表す。皺だけのもの、小さな瘤、37cmの角に至るまで、大きさはさまざま。
・ フリル後端の横幅は、頭頂骨窓の縦幅の倍以上。

 C. belli は歴史が古いだけあって、シノニムは、Monoclonius belli 1902 Lambe、Monoclonius canadensis 1902 Lambe、Ceratops belli 1907 Hatcher et al.、Ceratops canadensis 1907 Hatcher et al.、Protorosaurus belli 1914 Lambe、Chasmosaurs belli 1914 Lambe、Eoceratops canadensis 1915 Lambe、Chasmosaurus kaiseni 1933 Brown、Chasmosaurus brevirostris 1933 Lull、Chasmosaurus canadensis 1989 Lehman。

 結構、複雑な経歴の持ち主だということが分かりますね。何故にこんなにいっぱいシノニムができてしまったのか…。それは個体差が激しいためでしょう。可能な限り、見つかった標本を網羅していきたいと思います。

標本

・ NMC 0491; タイプ標本。単一の頭頂骨。Monoclonius belli (Lambe, 1902)→Ceratops belli (Hatcher et al., 1907)→Protorosaurus belli (Lambe, 1914)→Chasmosaurus belli (Lambe, 1914)。
・ AMNH 5401; ほぼ完全な頭蓋でC. kaiseni のタイプ標本。C. kaiseni (Brown, 1933)→C. belli (Lehman, 1989)。
・ AMNH 5402; 最高の参考頭蓋骨。
・ NMC 1254; 不完全頭蓋と胴椎1個。C. canadensis のタイプ標本。Monoclonius canadensis (Lambe, 1902)→Ceratops canadensis (Hatcher et al., 1907)→Eoceratops canadensis (Lambe, 1915)→C. canadensis (Lehman, 1989)→C. belli (Godfrey et al., 1995)。
・ NMC 2245
・ ROM 839; もとはROM 5436。頭蓋。C. brevirostris のタイプ標本。C. brevirostris (Lull, 1933)→C. belli (Lehman, 1989)
・ ROM 843; もとはROM 5499。下顎抜きの頭蓋。
・ YPM 2016

 結構出てます…というよりも、やっぱ頭が出なきゃ種まで特定できないんですねぇ。断片だけの化石は後述します。
かつてのC. canadensisC. belliC. brevirostrisC. kaiseni は、フリルの形態の類似がある程度見られます。つまり、かつて種の違いとされてきた形質は、鼻角や上眼窩角のサイズによっていた要素が強いということになります。もし、角のサイズが成長過程の違いや性差を表しているのだとしたら、そのような形質で種を分けることはできません。
 C. brevirostris は鼻面が高く、幅が狭いことで分けられましたが、これは横から潰れたためと考えた方がよいでしょう。C. kaiseni に至っては、ほとんど角のサイズで種を分けられたという感じです。眼窩、側頭部の穴、鼻、頬骨の切れ目はいずれもChasmosaurus の各種を分ける指標とされてきましたが、これらは堆積や厚密の過程で容易に変形しうるものです。よって、種を分ける指標にはなりえません。上鼻骨が2つに分かれていることがC. canadensis の特徴とされましたが、これも成長しきっていないため骨が融合してなかったんだろうと考えられますね。
 Chasmosaurus の種内変異が分類に大きな混乱を招いたことは間違いないでしょう。Godfrey & Holmes(1995)によれば、カナダ産のChasmosaurus を見分けるには、フリルの形態を観察する方法がベストだと結論しています。要するに、他の特徴は種の違いを説明できないということでしょう。偶然…かどうかは知りませんが…カナダ産Chasmosaurus を3種に分けたとき、見事に時代的な住み分けがなされておりました。

> Chasmosaurus canadensis (Lambe, 1902)

 4つの完全、もしくは不完全な頭蓋がアルバータ州・Red Deer RiverのJudith River Formationから発見されている。
 最初は、不完全な頭蓋と脊椎骨ひとつをもとにMonoclonius canadensis (Lambe, 1902)として記載された。続いて、Ceratops (Hatcher et al., 1907)とされたが、Eoceratops (Lambe, 1915)と修正された。LambeはこれをTriceratops の祖先型であると思い込んでいた。その後、Chasmosaurus (Lehman, 1989)に統合され、最終的にはC. belli (Godfrey & Holmes, 1995)のジュニアシノニムと修正された。

> Chasmosaurus kaiseni (Brown, 1933)

 単一のよく保存された頭蓋で、アルバータ州、Red Deer RiverのJudith River Formationから産出した。最初にC. belli と分けられた一番目立つ特徴は大きな上眼窩角の存在である。しかし、やはりC. belli (Lehman, 1989、Godfrey & Holmes, 1995)と認識されるようになった。

> Chasmosaurus brevirostris (Lull, 1933)

 単一のよく保存された頭蓋で、アルバータ州、Red Deer RiverのJudith River Formationからの産出。現在ではC. belli (Lehman, 1989、Godfrey & Holmes, 1995)とされる。


Chasmosaurus irvinensis (Holmes et al., 2001)

 こいつが瓢箪から独楽みたいな偶然の発見で見つかった噂の新種(もう違うか?)です。最も最近に記載されたカナダのChasmosaurus。1958に、アルバータのIrvinでLindoeによって採集され、Langstonが長い間所有しておりました。C. belli とされ、最近までジャケットが被さったまま埃を被ってました。
 さて、Triceratops の前肢のつき方が話題になっていた頃、角竜の前肢の形態を調べてやろうじゃないか、と肢を捜しながらジャケットを剥し始めたところ、見たこともない奇妙奇天烈な縁後頭骨が出てきたという話です。C. belliのつもりでクリーニングしたのだからさぞや驚いたことでしょう。つまり、後端の縁後頭骨が揃って前にカーブしていることが目を引いたといえるでしょう。
カナダ西部のDinosaur Park Formation上層部産。

種の特徴

・ 鼻面が比較的幅広で、鼻角は短い。
・ 上眼窩角はなくて、皺が寄った突起状。滑らかな面には半球状の窪みがある。
・ 鱗状骨前部の頬骨との隔たりは丸く広がる。
・ 鱗状骨は真横に突き出て、ほぼ長方形で後ろほど狭くなる。
・ 鱗状骨の直後に直線状の頭頂骨後端が来る。
・ 頭頂骨窓の長軸はフリル長より短い。
・ 頭頂骨には10個の縁後頭骨があり、うち、内側の8個は互いに癒合し、平らで、背方かつ前方に反っている。10個もあるのは、ケラトプス科内でも非常に特殊。

標本

・ NMC 41357; タイプ標本。ほぼ揃った頭蓋、尾以外の体
・ TMP 87.45.1; 部分的頭蓋
・ TMP 98.102.8; 部分的頭蓋


Chasmosaurus russelli (Sternberg, 1940)

 3つの完全、もしくは不完全な頭蓋、さらに部分的な体の骨が発見されている。最大の頭蓋は1.94mの長さで、上腕は71cm、脛骨は61cmある。これらから、体型が同じだったとして、C. russelliC. belli よりも大型であったと考えられる(全長5.7m〜6.9m)。Lehman(1998)はC. russelli C. belli のシノニムではないかと言ったが、とりあえず両者は別種であるとの立場で話を進めます。両種とも、似たようなプロポーションをしていた。
 カナダ西部のManyberriesとRed Deer RiverのDinosaur Park Formationから見つかっている。

種の特徴

・ フリル後端は、左右それぞれにアーチを描く。
・ 両サイドのアーチに、それぞれほぼ同サイズの3つの縁後頭骨。
・ 鱗状骨も頭頂骨窓の枠を構成する。
・ 前上顎骨に外鼻孔前部の縁。
・ 上眼窩角は反り返り、おそらく長さが性差を表す。

標本

・ NMC 8800; タイプ標本。上顎を欠く頭蓋
・ NMC 2280; 完全な頭蓋
・ NMC 41933; フリル端のみ
・ TMP 83.25.1; 部分的頭蓋
・ AMNH 5656

・ NMC 8803; 副模式標本。頭頂骨
・ TMP 81.19.175; 部分的頭蓋
は産出層準は合うが、フリルが後端が見つかっていないためC. russelli かどうかはまだ疑わしい。


Chasmosaurus mariscalensis (Lehman, 1989)

 カナダのChasmosaurus とは遠く離れたテキサスのAguja Formationの上部で見つかった(75Ma〜72Ma)。当時のテキサスは湿地帯で、ハドロサウルス類のKritosaurus やワニのDeinosuchus もともに産する。種名は、発見されたMariscal Mountainsにちなんで付けられた。
 特記すべきこととして、1)様々な成長段階の10〜15個体からなるボーンベッドが見つかったこと、2)完全な頭蓋(TMN 43098-1)が見つかったこと、が挙げられる。この大人の個体は、縁後頭骨が鱗状骨に10個と、ケラトプス科を通じて最多。頭蓋の長さは152cm、上眼窩角が49cm。また、別の場所から発見された肋骨のサイズから、C. belliと比較して、全長3.12m〜5.04mと推定される(Dodson, 1996)。
 この種は、Chasmosaurus としては最も原始的で、Pentaceratops と類似する特徴がいくつも挙げられる。

・ 前上顎骨と鼻骨の境界に、指状の突起がある。
・ 大きな頭頂骨窓がある。
・ 頭頂骨の後端の縁が「U」字型に凹んでいる。

 Chasmosaurus mariscalensisPentaceratops はだいたい同時代に棲息していたが、互いに最も近縁なわけではない。このことは、後期白亜紀の北米で、角竜が複数回北から南へと移住していったことを示すのかもしれない(Lehman, 1989)。

 さらに、C. mariscalensis は、性差の研究もなされている。その鱗状骨は、幅のある縁後頭骨とともに丸く広がっているものと、細い縁後頭骨を伴った細長いものとがある。さらに、上眼窩角は、成長とともに、上方に真っ直ぐ伸びるようになる。上眼窩角には性差と見られる二型がある。ひとつは、眼窩の前方から角が伸びて、前方、側方、上方にカーブしながら伸びるタイプでこれはメスと考えられる。もうひとつが、眼窩の直上からより真っ直ぐに、広角に上に伸びていく角で、これはオスと考えられる。

種の特徴

・ 中サイズのChasmosaurus
・ 長く広い、背方に曲がる、後方に突出したうねりをもち、6〜10個の縁後頭骨をもつ鱗状骨。他のChasmosaurus よりも背方に曲がる。
・ 細長い、真ん中が「Y」字型に凹んだ頭頂骨の後端。非常に大きな三角形の頭頂骨窓を閉じている。
・ 鼻骨の前半部は、前上顎骨を分けている。非常に大きく後方にカーブした上眼窩角が眼窩の真上に来る。

標本

・ UTEP-P.37.7.086; 脳幹、左半分の頭蓋。タイプ標本。
・ TMM 41838。
・ TMM 42534。
・ TMM 43098-1; ほぼ完全な頭蓋。


系統解析

 さて、ChasmosaurusPentaceratops、近い近いといわれても、どれだけ近い関係にあるのか…。過去の系統解析を紹介してみましょう。種レベルの系統解析…実はこれまであまり例がないのです。
 まず、Forster et al., 1993がC. belliC. russelliC. mariscalensisPentaceratops を含んだ5つのタクサを9つのキャラクターで解析したものです。これによると、Chasmosaurus は単系統群で、C. belliC. russelli が姉妹群とされています。次に、Lehman, 1996がC. mariscalensisC. belli、”C. canadensis”、C. mariscalensisPentaceratops を含んだ9つのタクサを14のキャラクターで解析。これによると、Chasmosaurus が側系統群だとされています。実際のところ、どうなんでしょう?
 角のサイズや角度、縁後頭骨の数等、角竜は個体差が激しいと考えられ、これまで様々な種が実は別の種のシノニムであったとされた例があります。よって、種を特徴づける形質は慎重に選ぶ必要があります。とりあえず、ここではC. belliC. irvinensisC. russelliC. mariscalensisP. sternbergii を有効な種として話を進めることにします。Holmes et al., 2001がC. irvinensis の記載にあたり、種間関係を調べました。用いたのは6つのタクサ、30の頭部形質です。上記の5種以外のタクサには「その他のカスモサウルス亜科(AnchiceratopsArrhinoceratopsDiceratopsTorosaurusTriceratops )」があります。
 PAUP 3.50なるソフトで解析をおこなったところ、3パターンの系統樹が描かれました。とは言っても、各タクサの位置づけはほぼ決まっていて、C. mariscalensis ただ1種だけがその位置づけが決まっておりません。ひとつは、Pentaceratops の姉妹群という結果。もうひとつは、(C. russelli (C. belli + C. irvinensis))と姉妹群という結果。さらに、(Pentaceratops (C. russelli (C. belli + C. irvinensis)))と姉妹群という結果。C. mariscalensisPentaceratops はその他の多くのケラトプス類とは異なるLaramidia大陸南方生態系に属しておりまして、彼らがいつどのように北から南へと進出し、またその進出が何回の工程を経て生じているのかを知るのに大きな手がかりとなるはずなのです。しかし、いまのところC. mariscalensisの 位置づけははっきりとしていませんね。果たして、C. mariscalensisPentaceratops は南へと進出してから分かれた系統なのか、それともそれぞれ別々の経路から北から南へと下っていったのか…。興味深いです。今後の研究が待たれます。 

A:                                 B:                                 C:
 --o--o-- Pentaceratops             --o-- Pentaceratops                --o-- C. mariscalensis
   |  `-- C. mariscalensis            `--o-- C. mariscalensis            `--o-- Pentaceratops
   `--o-- C. russelli                    `--o-- C. russelli                 `--o-- C. russelli
      `--o-- C. belli                       `--o-- C. belli                    `--o-- C. belli
         `-- C. irvinensis                     `-- C. irvinensis                  `-- C. irvinensis


 さて、いずれの解析においても、2つの明確なキャラクターによって、C. belli C. irvinensis が姉妹群であることを支持しています。その2形質は次のものです。

・ 頭頂骨の最後尾の部位は鱗状骨との境界である。つまり、頭頂骨の後端中央部はやや凹んでいるものの、フリルの角っこにまで鱗状骨が伸びているということですね。この外群では、鱗状骨と頭頂骨の境界よりも、頭頂骨の中央側が後方にせり出しています。
・ 頭頂骨の後端バーの中央部の縁後頭骨はコブ状で、隣接する縁後頭骨と根元で癒合する。大雑把な表現だが、他のケラトプス類ではこれが起こっていません。


 さて、次の単系統群(C. russelli (C. belli + C. irvinensis ))はどうかというと…4つのキャラクターによって特徴づけられておりますが、うち、確実といえるのは次のひとつです。これらは全てカナダ産のChasmosaurus ですね。

・ 頭頂骨中央のバーの上下の厚みが高い。つまり、断面をとると、上下方向に高い長方形になります。このバーの頭頂骨窓側の面は、上側頭窓からの血管系で深く切れ込んでいる。ProtoceratopsC. mariscalensisPentaceratops とその他のケラトプス科では、頭頂骨中央バーは上下に潰れ、後方に行くに従って細くなり、断面は鈍角三角形です。

 さて、以下の2キャラクターはセントロサウルス類と共有しています。
・ 上眼窩角が瘤状になっているか、まったくなく、その表面には融食孔がある。つまり、上眼窩角が小さいか、ない状態で、その上にブツブツがあるということ。このようなブツブツは、C. mariscalensis Pentaceratops のような角のよく発達した種にはありません。

・ 頬骨の下側頭縁があり、鱗状骨の頬骨稜が下側頭窓の背側を構成する。原始的な形質としては、鱗状骨と頬骨は、下側頭窓ではつながりません。C. belli C. russelli では、つまみ状隆起が頬骨の後端縁から伸び、鱗状骨の頬骨稜まで達しています。それらはともに下側頭窓の背側縁を構成します。C. irvinensis でも、頬骨は下側頭窓の下で鱗状骨と接します。C. mariscalensis や他のカスモサウルス亜科には、頬骨の下側頭窓縁はありません。

 そして、次のキャラクターはProtoceratops と共有しており、一度失われた形質が再び出てきたと考えられます。

・ 頭頂鱗状骨からなるフリルの最大横幅は、眼窩幅の2.5倍以上。ProtoceratopsC. belliC. russelli、NMC 41357のフリルは三角形で眼窩幅の2.5倍以上の幅があることで特徴づけられます。C. mariscalensis では、この形質は十分ではありません。他にはTorosaurus が大きなフリル幅を持ってますが、他のケラトプス類ではフリル幅が眼窩幅の2倍を超えることはありません。


 次に、PentaceratopsChasmosaurus の共有派生形質は実に8つもあり、うち2つがやや不確かといえますが、両種が姉妹群であることはほぼ確実といえます。Dodson & Currie, 1990でもPentaceratopsChasmosaurus が姉妹群であるとされ、それはAnchiceratops クレードと(Triceratops (Arrhinoceratops + Torosaurus ))クレードの間に位置づけられております。

・ 前上顎骨の隔縁が存在。中隔縁は鼻柱後端の薄い骨の層で、全てのChasmosaurusPentaceratops に存在します。他のカスモサウルス亜科やセントロサウルス亜科にはありません。
・ 前上顎骨の後部腹側が二股に分かれている。Protoceratops やセントロサウルス類、その他のカスモサウルス亜科では、前上顎骨の後部腹側の突起はひとつだけです。ChasmosaurusPentaceratops では、この突起が遠位方向に二股に分かれています。うち、背側の大きい方の突起は鼻孔内へ延び、小さい方の突起は鼻骨と前上顎骨を関節します。
・ 前頭葉の泉門は上から見ると鍵穴型である。全てのセントロサウルス亜科では、前頭葉泉門は細長く延び、サイドは前頭葉の間で平行になっています。カスモサウルス亜科では多様化していて、ChasmosaurusPentaceratops では、前頭葉泉門は前後方向に延びてはいるが、前方が広がった鍵穴型をしています。他のカスモサウルス亜科は楕円か円形の前頭葉泉門をしている。
・ 頭頂骨の頭頂骨窓直後の後端バーの幅が比較的狭く、前後幅が後端バーの長さの0.1倍以下。Chasmosaurus Pentaceratops では、頭頂骨窓の後のフリルのバーが非常に細くなっています。一方、その他の角竜類では、頭頂骨の後端バーの前後幅は、その左右幅の0.2倍以上となってます。
・ 頭頂骨の中央バーの幅が前後長に比べて0.10倍以下。ChasmosaurusPentaceratops は2つの頭頂骨窓に挟まれた中央バーも極めて細くなっています。ただ、フリルが短くなったC. irvinensis は相対的に幅広くなっています。他の角竜類では、頭頂骨中央バーの幅は広く、中央バー前後長の0.15倍以上となります。
・ 頭頂骨窓の側方縁は頭頂骨だけではなく鱗状骨からも構成。Protoceratops やその他のケラトプス科は、頭頂骨窓の側方縁は頭頂骨だけで構成されます。しかし、C. belliC. russelliC. irvinensisPentaceratops の幾つかの標本では、頭頂骨は頭頂骨窓の側方で不連続となります。この形質には個体差があったかもしれません。これはC. mariscalensis では知られていません。

 それから、次の形質は、ChasmosaurusPentaceratops だけの形質だけというわけではありません。

・ 前上顎骨の後方腹側の後端突起が鼻骨に陥入。原始的形質では、前上顎骨の後方腹側突起が鼻骨に陥入し、かつその突起が鼻骨に囲まれます。前上顎骨の形態は変化しているものの、この形質はChasmosaurusPentaceratops でも保持されています。その他のケラトプス科では、その突起は前上顎骨と鼻骨の間に位置します。
・ 頭頂骨窓の近位遠位直径が頭頂骨全体の長さの45%以上。C. belliC. russelliPentaceratops などの頭頂骨窓の大きな種では、頭頂骨の45%以上の頭頂骨窓直径があります。しかし、C. irvinensis では38%しかありません。その他の角竜類では、その値は40%以下となっています。C. mariscalensisでは値は得られていませんが、大きな頭頂骨窓を持っていたことは確かです。


 Holmes et al., 2001では、データの不足から、C. mariscalensisの位置づけはまだ断定するには早いとしています。可能性として、3つの系統樹が描かれることは先ほども述べました。A;Pentaceratops の姉妹群、B;(C. russelli (C. belli + C. irvinensis ))と姉妹群、C;(Pentaceratops (C. russelli (C. belli + C. irvinensis )))と姉妹群の3つです。
 B;C. mariscalensis とカナダ産Chasmosaurus を姉妹群としたとき、それらだけに共通する形質は次のひとつだけです。

・ 前上顎骨中隔縁がnarial strutの後側全体に渡る。この形質はChasmosaurus と名のつく全ての動物に共通です。Pentaceratops では、前上顎骨中隔縁が鼻柱の腹側半分に限定されます。

 ほかにも、Chasmosaurus とされる種に存在し、Pentaceratops にない形質もあります。

・ 鼻角の位置が外鼻孔の後方。プロトケラトプス類では、Bagaceratops を除いて鼻角はありません。Montanoceratops で鼻角とされたのは頬骨です。このBagaceratops、セントロサウルス亜科、C. belliC. russelliC. irvinensisC. mariscalensisAnchiceratops は鼻角が外鼻孔の真ん中より後ろ側につきます。その他のカスモサウルス亜科は鼻角が外鼻孔の真ん中より前方に位置するようになります。
・ 上眼窩角が後方にカーブする。Zuniceratops、セントロサウルス亜科、C. belliC. russelliC. mariscalensis の上眼窩角は後方カーブします。C.irvinensis では上眼窩角が瘤状になっているため、この形質は当てはめてありません。Pentaceratops を含むその他のカスモサウルス亜科は、上眼窩角は前方カーブになります。

 その他の可能性としてA、Cがありますが、動物地理的に見て、北米西部のLaramidia大陸の南北生態系双方に進出した角竜の例は白亜紀末のTorosaurus しか知られておりません。属レベルでこれほどの広範囲な分布をChasmosaurus が持つことは可能だったのでしょうか? 素直に、南方生態系に進出したグループがPentaceratopsC. mariscalensis に分かれたとする方が自然かもしれません。Holmes et al., 2001での解析はあくまでC. irvinensis の系統的位置付けをおこなうためのもので、C. mariscalensis の系統解析についてはそれ相応の形質を選び出す必要があります。



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