こあとるさん作・掌編

ショートカット
    


1.

「…………………キャラダイン!? キャラダイン・フラッシュハイダーでござるか!?」
「お久しぶりね、――≪ナインヘッド5426≫。半年ぶりくらいにはなるのかしら。
 あら、ずいぶん驚いてるのね? 予想していると思っていたわ」
「何故お主が此処に。≪オベロン≫での任務はいかがいたした」
「生憎途中ではあるけれど。――侯爵様の御命令とあれば仕方がないわ」
「お館様が、お主を召喚なされたというのか」
「当然でしょう? ≪侯爵領七本槍≫の主力となるべきナンバー2は半死半生、ナンバー4も≪黒≫の幹部とともに行方不明、生存は絶望的。
 七人のうちふたりを欠く状況、≪黒≫と交わしていた不可侵条約も白紙に戻ってしまっている今、わたしたちが他の任務に就いている場合ではないと思うけれど?」
「……わたし、たち?
 わたしたちと言ったでござるか!?」
「ふふふ、察しのいいこと。
 ええ、残りの二人もね。≪殺(シャー)−002≫も、……そう、プロフェッサー・ベゼルも」
「な、――何故!?」
「理由は言ったとおりよ、ナインヘッド。ふふ、困ったわね?
 『七本槍最強』のラムジイ・ザ・テンペストも、最も強い発言力とコネクションの持ち主、イシャム・スノウホワイトも今はいない。つまりは抑止力を欠き、≪ムジナ≫にもツキガミ家にも、もう直接の繋がりを持てなくなってしまった。
 対抗する手段がない。
 わたしたちを≪オベロン≫に放逐した苦労も、これで水の泡ってことになるのだものね?」
「下衆の勘ぐりとしか評しようがござらぬぞ、キャラダイン・フラッシュハイダー。
 狭隘なその意見、≪五番槍−バルトロメヲ≫を預かる者の言葉とは思えぬ!」
「ふふ、ではそういうことにしておくわ、七本槍最高の戦略家、≪一番槍−666≫のナインヘッド。
 せいぜい急ぎ、その九つの頭で次の手を考えなさいな? ……さもなくば」
「さもなくば……?」

「わたしたちが、好き勝手に、始めてしまうわよ――」




2.

「クックッ、つまり其処が新たな我々の拠点になると――」
「ずいぶんな余裕ね、プロフェッサー? ≪黒≫が介入してくる可能性もあるというのに……。
 いいえ、どの植民船であろうと必ず彼らは潜り込んでいると言っていいでしょう。敵に廻せば恐るべき相手よ」
「ハ、ハ! 君もずいぶんと心配性だ――ミス・キャラダイン。
 そう言えば第二次ダビデ動乱において、君は≪黒≫の側の傭兵だったか?」
「結果的にそうなるわね。かつて私の所属していた傭兵集団≪ルヴィカンテ≫を雇い入れていた反王制派、その背後に≪黒≫が関与していたらしいのだから。
 彼らは植物のように慎重で、悪魔のように狡猾で、狼のように統制が取れ――そしていざというときは鷹のように素早く動く。それが≪黒≫なのよ」
「聞き及んでいるよ、ミス・キャラダイン。
 しかし畏れることはない。彼らが秘密組織という形態を保っている以上、この植民船においては彼らの行使力は限られてくる。制限されざるを得なくなる。
 すべてはその植民船における最高統率者の実力にかかってくる――」
「…………」
「――そして今現在、≪黒≫最高の頭脳にして最大の使い手と呼ばれた『彼女』はいない! あの忌々しい小僧とともに何処かへ消え去ってしまった!

 そう、≪黒の魔女≫はもういないのだ、ミス・キャラダイン!!

 ならばこの私が敗北する要素が何処にある!」
「……そう願いたいわ、プロフェッサー。ただこれだけは覚えておいて欲しいものね。
 あの女は死んだわけじゃない。静止が確認されたわけじゃないのよ。
 傭兵は厳然たる事実しか信じない。噂に惑わされることはなくても、可能性としてわずかでも残っていれば、それを軽視したりはしない――というより、できない。
 私は≪黒≫を監視する任務を継続するわ。それでよろしいわね、プロフェッサー?」
「結構! 君は有能で信用に足る殺し屋だ――ミス・キャラダイン!!
 だが心配も杞憂も無用だ! 私がすべてを証明してみせる!
 ファルスの謎もこの星の秘密も――イシャムや≪黒の魔女≫よりも私が優れていると言うこともだ!

 最後に笑うのは私だ、イシャム・スノウホワイト!!」




3.

「……正直、私とて人間である以上我が種の信奉者なのだ、ミス・キャラダイン。
 我ら人間――ホモ・サピエンスという種の肉体における潜在能力は未だもって測りがたく、とりわけ強固な意思の介在はそれを引き出すのに絶好の触媒だ。多くの場合揺るぎなき意思や信念などというものは欺瞞であり、自己を勇気づけるための暗示であり、他方からのメンタル及びマテリアルな干渉によっていともあっさりと崩れ去ってしまう脆く儚い精神の働きに過ぎないが、ごく希にそれは恐るべき強さをもって肉体を操り、限界を引き出し、信じられないような結果を見せつけて我々を仰天させるだけのことをやってのける――。
 私はロマンチストではない。しかし、いいかねミス・キャラダイン、『意志の力』というものを軽視すべきではないという事実は厳然と我々の前にこうして……」

「それで? 何がおっしゃりたいの、プロフェッサー?」
「…………ミス・シシルのあの痩せっぷりは…………スゴイな」
「…………確かにスゴイわね…………」




4.
(※西山さんの
こちらを御読了の上でお楽しみ下さい)

「……よく生きていたわね、プロフェッサー」
「フッフッ、タネを明かせば単純な社会の仕組みというヤツさ、ミス・キャラダイン。
 ――あー、搬入部? スケープドールをもう一ダース追加。領収書も忘れずにな」
「とてつもなく無駄で不毛な消費っぽい気がするのよね、傭兵的見地からしなくっても。
 あとプロフェッサー? ひとつ質問があるのだけれど?」
「結構! 何でも聞いてくれたまえ」

「……あの映像ディスクは何処にあったの?」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」

 今日もいい天気。





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