「……あの軍部からやってきたお嬢ちゃんだけど。色々と私達の『目的』の障
害になりそうね。今のウチに手を打っておくべきだと思うんだけど……」
「ははは。君は心配性だな、ミス・キャラダイン?」
「傭兵的観念から、懸念すべきコトは全て処理しておくべきだと判断しただけ
よ。心配しすぎるに越したことは無いわ」
「――ふむ。確かに一理あるかもな。よろしい、私なりに警告を与えておこう」



■平穏的日常/あるいは騒がしくも楽しき日々。■



 画面は変わって、こちらは侯爵領。
 その館の一室で――、

 ふーっ、ふーっ。
 ずっ、ずずーっ。
 ちるちるちるー。

 双月とシェドと名無しの少女が食事中。しかもラーメン(※味噌)を。
 ついでに言えばドンブリには『西山飯店』の文字があったりする。
「……いやー、まさか侯爵領まで出前が出来るとは。ココのセキュリティを突
破するとはただ者ではありませんねぇ、あの店員(※時給七五〇円)」
「まぁ、驚くコトではないさ。どこぞのハンターなんかは戦闘中に空腹になっ
たとかで、ラグオルの洞窟まで出前させたらしいし」
 ちなみに三人は知らないことであるが、その出前させたのは某『あーぱー白
フォマール』だったり。
 侯爵領に出前させる双月もだが、ナンというか。やはり血は争えない。
 双月とシェドは、そんな風に話しながらも箸を器用に動かして黄色い麺を啜
っていく。一方、名無しの少女はフォークで――箸が上手く使えないので――
もそもそと一心不乱に食べていた。
 三人のいる部屋は双月の私室(元は客間のひとつ、だった)で、コレがまた
純和風の雰囲気。畳に障子、壁には何故か流暢な書体で『一攫千メセタ』と書
かれた掛け軸とちゃぶ台。トドメに双月なんぞは藍染めの着物を着ている。
 ある意味、緊張感がまったくなし。いいのかお前ら。
 と。

「――ッッ!」
「――お嬢っ!」

 突如漆喰の壁の向こうに生まれた殺気に、双月とシェドが反応する。
 同時に、

 ごっがあああああああああああんんッッ!!

 壁が見事に爆砕。ラーメンが載っていたちゃぶ台も巻き込まれて、反対側の
壁に、ごがんッ、とぶつかって落ちる。
「……大丈夫か?」
 爆風を避ける為に穴から向かって左側に飛び退いた双月が尋ねた。
 両手には、ちゃぶ台に載っていたラーメンのドンブリ二つを持って。
「な、なんとか……」
 穴から向かって右側に飛び退いたシェドは、ラーメンをひたすら食べている
(現に今も食事中)名無しの少女を両手に抱えていた。
 やがて、爆煙がゆっくりと晴れていく。
 ――そこには。

「ふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

 と、不気味に笑い続ける、黒髪の少女。対照的な白い肌の顔に宿る真紅に染
まった瞳。黒と赤を基調にした制服。
 パイオニア2宇宙軍/情報部所属。綽名は<黒姫>。
「――何の真似だ、シ・オン」
 双月がゆっくりと少女の名を告げた。両手にドンブリを持って。
 シ・オンはそんな双月を、ギランっ、と睨むと両手に担いだ武器の銃口を向
けた。
「……って、スプニ!? そんなモノを侯爵領(ここ)で使うなんて軍律違反
ですよ! シ・オンさんっっ!!」
「――黙りなさい」
 シェドの抗議も、絶対零度の視線と殺気の籠もった言葉で一蹴する。
 よく見るとシ・オンはスプニ――スプレット・ニードル以外にもヘブンパニ
ッシャーやらパンツァー・ファウストまで背負っていた。
 言うなれば女コマンドー。日曜洋画劇場で放送されるB級アクション映画の
ヒロイン並みの重装備。これで後一年は戦える。何キロあるのやら。

「――プロフェッサー・ベゼルはどこ?」

 スプニの照準を双月にポイントしたまま、シ・オンが訊く。
 その周囲にはナニやら尋常ではない雰囲気が漂っている。
 メラメラと。ドス黒く。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ(※擬音)。
「何か、あったのか……?」
 冷静沈着なシ・オンが激昂しているのに一抹の不安を感じて、双月は静かに
質した。
「…………何か、ですって? ふ、ふふふふふふふふふふふ」
 シ・オンの小さな肩が震える。すでにシェドの腕の中の名無しの少女は半泣
き状態だ。ソレくらい怖い。
「アイツは……アイツは、私の大事なモノを奪ったのよッッ!!
 そう――――、

 私の血と汗と涙の結晶!
 『秘蔵! パイオニア2美少女盗撮映像大全集〜もちろん無修正☆』
 の映像ディスクを!!」


 どどーんっ!
 荒波に哮り狂う日本海を背にシ・オンの慟哭が響いた。
 ――かなり、空しく。


「しかも……しかもっ、その映像ディスクの替わりにヤツは――――、

 『世界のアニキ達! どきっ、男だらけの水着全集〜ポロリもあるでよ☆』
 と差し替えていたのよおおおおおおおおおおおッッ!!

 ねぇッ、わかるッッ! 一日の仕事が終わって毎晩アレを見るのを唯一の心
の拠り所にしていた私の気持ちがッッ!!」


(いや、出来れば分かりたくないですけど。心底)
 シェドの声にならないサイレントヴォイス・ツッコミ。
 双月にいたっては、何やら諦め顔で空を仰いでいた。


 ――きっかり三分後。


「あー、シ・オン」
「…………なによ」
「この屋敷の南館の二階の研究室にベゼルは居るぞ――――って」
 双月の言葉が終わらないウチにシ・オンの姿は既に消えていた。
 ふと、障子の向こう側の庭に視線を向けると、土埃を上げながら南館へ向か
う小さな影が見えた。加速装置でも付いているのか。
 やれやれ、と小さく呟きながら双月は襟に付いた通信機の回線を開く。

「……侯爵領警備隊? 今、南館に向かって重装備したレイマールが行ったの
で。――ああ、そう、例の<黒姫>だ。十分ぐらいしたら、警備隊を向かわせ
て欲しいんだが。そう、今からじゃなくて。――君たちも巻き添え喰いたくな
いだろ? まぁ、十分ぐらいでケリは付くと思うし。
 ――――と、言うことで周囲の住民の避難をヨロシク」


 と、そんな騒がしいながらも平穏な日々の一場面。






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