「ふい〜、よ、ようやく終わりました〜」
 惑星ラグオル地表、エリアCの凶暴化した原生動物の掃討を終えた双月たちだったが、
連日のミッションにより、その疲労はもはや隠しきれるものではなくなっていた。
 そして、その傾向がもっとも顕著だったのは、フォニュエールの少女、アクアだった。
「……大丈夫か、アクア?」
「先生、顔色が悪いですよ?」
「だ、大丈夫です〜っ」
 普通の人間──ニューマンを入れたとしても、これまで双月たちの行ってきたミッショ
ンは過酷なものであり、普通ならダウンしてもおかしくはないほどである。
 そのような任務にこれまでアクアが耐えてこられたのは、ムジナとしての訓練があった
からに他ならない。だが、ある一定量の疲労ならともかく、限界を超えたそれは、まだ少
女であるアクアにとって、厳しいものであった。
「いや、大丈夫といっても……足下がふらついてるぞ?」
「あと、目もくるくる回ってますけど……」
「い、いえっ、まだまだいけます〜」
 口では元気を装い、前を行く双月とフレナを追うアクアだったが、足下はすでにおぼつ
いていない。
「……アクア、ほら」
「……はい?」
「肩を貸すから、掴まれ」
 肩を差し出す双月。しかし、
「いいいけませんっ、マスターの肩をお借りするなどっ!!」
「いいから。掴まれ」
「そうですよ先生。身体の方も限界のようですし」
「…………」
 ちらりと双月の方を見て、アクアは押し黙ってしまう。
 それは、主人からの命令と、主人に迷惑をかけてはいけないという、葛藤。
 だが、
「……わかりました。少々、肩をお借りいたします……」
 双月の自分を気遣ってくれる真っ直ぐな視線に耐えきれず、アクアは双月の方へよろよ
ろと近寄っていく。
 よろよろ。
「…………」
 ふらふら。
「…………」
 こけっ。
「えっ!?」
「あっ!!」
「っ!!」
 足下の石につまづいたアクアを、反射的に双月が抱き留めた、そのときだった。
「……あ」
「……はっ!?」
「……え、えぇぇぇーーーっ!!」
 ぼわん。

 ………………
 …………
 ……

 さあ、宴の始まりです。



   大学に提出するレポートを原稿用紙10枚分くらい
   間違って一気に消しちゃった(とほー)記念SS


   ムジナの呪い(原題:ラグオルバスケット)



「やあ、双月さん、おひさしぶり」
「どういうことだ、これは?」
 挨拶も返さず、手に持ったものをイシャムに突きつける双月。
 双月の手に持たれたもの。それは、一匹のウリ坊(子イノシシ)。
 気を失っているのか、ウリ坊は目をくるくると回しておとなしくしている。
「どういうことだ、これは?」
 同じ台詞を繰り返しながら、双月はずずいとイシャムに近づく。
「……アクア?」
 イシャムのぽかんとした表情。
「ああ」
 双月の後ろに控えていたフレナも、こくこくと頷く。
「さっきアクアがこけそうになったので、抱き留めたら次の瞬間にはこうなったんだが」
「そうです、いきなり『ぼわん』って煙がたって、気がついたら先生がこうなってて」
「…………」
 二人の視線を受けながら、イシャムは少しだけ何かを考える素振りをし、
「ちょっと貸してもらえるかな?」
 そう言って、双月からアクア(?)を受け取った。
「…………」
「…………」
 憮然とした表情を見せる双月とフレナ。その一方で、イシャムはアクア(?)を片手に
持つと、こちらも憮然とした表情のまま、
「……アクア、そろそろ起きろ」
 もう片方の手で、思い切りアクア(?)の額にチョップを叩き込んだ。
「い、痛ーーーっ!!」
「あ、先生……」
「……ほう」
「……おはよう、アクア。お目覚めの気分は……」
「痛い痛いっ、頭が割れるよーに、まるで棘ツッコミをくらったよーに痛いーっ!?」
「棘ゆーな」
 ずびしっ。
「はうあっ」
 がっくり。
「また気絶させてどーする」
「あ、しまった。ついうっかり」

 ………………
 …………
 ……

 その後。
 目を覚ましたアクア(?)とともに、イシャムがその口を開き、説明を始めた。
「いつ頃からかはわからないけど、僕らムジナは、呪われてるんだ」
「……呪われ、てる、だと?」
「どっ、どういうことですかっ!?」
 イシャムはちらりとアクア(?)の方に視線を送り、そのまま続ける。
「うん、さっきアクアを見てもらったんなら話は早いけど、僕たちは同じムジナ以外の異
性から抱きつかれると、動物に変身してしまうんだ」
「…………」
「……動物に……」
 目を丸くして驚く二人。
 確かに話を聞いただけなら一笑に付すこともできたはずだが、目の前でアクアが変身し
たのを見てしまっているため、笑うこともできない。
 当のアクアも、ウリ坊姿のままがっくりとうなだれている。
「まあ、変身すると言っても時間が経てば元に戻るし」
「…………」
「…………」
 沈黙。気まずい雰囲気。
「あ、あの……」
 その沈黙を破ったのは、アクアだった。
「すみません、マスター。こんな大事なことを今まで黙っていて……」
「…………」
「あ、あのその……」
「アクア」
「は、はいっ!?」
「しばらく、ゆっくりしておくといい」
「…………」
「これからもまた、世話になるからな」
「あ……は、はいっ」
 ウリ坊姿のまま、アクアが元気よく返事をする。
 その時だった。
「あ、言い忘れていたけど……」
 ぼわん。
 イシャムの声と共に、
「え……?」
「…………」
「……せ、先生っ!?」
「元に戻ったら、その時は裸だから気をつけて」

「き、きゃーーーっ!!」



「ふう……」
 イシャムのため息が、部屋の中に静かに響く。
「どうした?」
「ああ、双月さんか」
「…………」
「これからも、アクアのこと、よろしく」
「こちらこそ」
「……それにしても……」
 椅子をきぃっと後ろへ傾けながら、イシャムがもう一度ため息をついた。
「また知られちゃったな、ムジナの秘密」
「また?」
「うん、また」

「オーッ、てららサン、今日もベリープリティーデスネ〜っ!!」
 だきっ。
「きゃあっ!?」
 ぼわん。
「そして抱きしめた後のリトルタイガーも、エブリディベリーキュートっ!!
 もー最高っ!!」
「やあ、SCさん」
「オウッ、いしゃむサン、ハロー」
「……ええと、その、はっきり言うけど」
「ほわっ?」
「そのままテララを持ち去ろうとするのは、やめてくれないかな、いつも言ってるけど」
「……シットっ!!
 やはりいしゃむサンの目はごまかせマセンネ〜」
「いや、ごまかすとかそういう問題じゃなくて」




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