『勝機は仲間と共に訪れる』
ラグオル・アルティメット区画・オフラインタイム。
集団移民船パイオニア2のハンターギルドメンバーの私は、通称”遺跡”と呼ばれる
場所にいた。
母性の大地が衰え、第二の星を探す、広い砂浜から一枚のコインを探すようなプロジ
ェクト。しかし見つかった星、ラグオル。人が住める星にするための先遣隊パイオニア
1がこの星に辿り着いて7年。本格的な移民船パイオニア2が招聘され、ラグオルに到
着したパイオニア2とパイオニア1の間で通信回線のメインラインを開こうとした瞬間、
ラグオル地表に謎の大爆発が発生。その後、パイオニア1との交信は途絶えた。
惑星ラグオルに何が起こったのか?
パイオニア1の人々の安否は?
それらを調べるのが私達、パイオニア2ハンターギルドの、ギルドメンバーである。
「くぅ!」
奔る私の背中を追う、エネミー。
幼い頃絵本(グラフィック・ディスク)で見た悪魔のような形をしているモノで、遺
跡に進入した私を執拗に追ってくる。敵意や殺意。それ以外のことは伝わってこないモ
ノ共。モノではいろいろと問題があるので、ギルドではアランとそれを呼んでいる。ア
ランは他のエネミー同様、自分のテリトリーに入っていたモノを滅する行動をとるのみ。
両手らしき前には緑色のフォトンで構成された、例えてみれば巨大なハサミが付いてい
る。ハサミはハサミでも、やろうと思えば、私の首を挿んで斬ることも出来るであろう
サイズだけど。
速い!
全速で奔る私と同じ速度で、確実に私を追ってくる。同じ遺跡でもベリーハード区画
のエネミーの足も速かったがその比ではない。その上、ヒューマンやニューマンの中で
も小柄の私のスタミナと、私の背丈の倍はある(ついでに体重も私の数倍の!)アラン
のスタミナでは、比べるまでもなく。
つまり、追いつかれるのは、時間の問題って事。
はじめてアルティメット区画の遺跡に踏み入れた私は、当然の事ながら無謀にも、遺
跡向けの武具を持たない為か(いや、そう思いたい)、エネミーの行動時間外にあたる
オフラインタイム、言い替えれば半分寝ているようなアランでも私は歯がたたなかった。
だから、こうして、逃げてる。
逃げることを卑怯など、どうのこうの言えるのも、生きているから言える事。
生死がかかった場合、出来るだけ生の方を選択するのは自然の事だ。
「・・・!」
洒落にもならないが、私、部屋と部屋を繋ぐ通路の途中で躓いてしまった。
私に追いついたアランは今とばかり、私に巨大なフォトンの刃を振り落とす。
一撃目。遺跡の、何で構成されているか不明の床を、転がってかわす。
二撃目。転がりから体を起こす動作で、避ける。
三撃目。片膝を付いた姿勢で頭上でチャージハルベルトを構え、それで受ける。
「えっ!?」
重い。とてつもなく重い、アランの攻撃。
一人目の攻撃を受け、体勢を崩した私の横腹に容赦なく、二体目のアランの攻撃。
「ぐふっ・・・」
口から暖かい液体が溢れてくる。
あ・・・
腹から暖かい何かが、急速に抜けていく感じがする。
これは・・・
床に耳が着いた状態なので、私に近寄ってくる数体分の足音が、よく聞こえた。
もう・・・
私の身体向けて、何かが振り落とされる音が聞こえる。
駄目、かな・・・?
「ファイエ!(炎よ、趨れ!)」
聞こえてくる、聞き慣れた声。
私を囲っていたアラン達の気配が消える。
アランが、何かによって、吹き飛ばされた?
「レスタ!(命よ、燃えよ!)」
消えつつあった生命の火が、瞬時にして元の熱を取り戻す。
手を握ってみる・・・動く。
身体全体が動けと、熱く、私に呼びかける。
「ギファイエ!(炎よ、舞え、壁となれ!)」
顔を上げると、私の身長ほどもある炎の弾が、私とアランの間に、壁を成す。
アランを吹き飛ばす程の威力、レベル100(マスターレベル)の生命力を一気にゼ
ロ近くから回復させる精神力とテクニックレベル、スペースが欲しい所で炎壁のテクニ
ック。高レベルのフォースの仕業だ。
「ルルー!」
救いの神は私を背中から抱きかかえて、立たせた。私は救いの神、同じギルドメンバー
でフォマールのルルーを見た。
「御免なさいね、少し面倒なことがあって、遅れました」
にこにことした笑顔に、私と同じ黒髪を高い位置で結い。そして紺色のバトルコスチ
ューム・・・のハズなのに、それは赤い色で染まっていた。
「ちょっとルルー、それっ!
面倒な事って、また無茶な戦闘したんでしょ?! 命よっ・・・」
レスタを唱えようとしたが、ルルーの二本の指に唇を撫でられ、止められた。
「アルのTP(テクニックポイント)は、アルのために使ってくださいな」
レベル30のレスタは自分にも効果ありますわ、とルルーは加えた。
そうね、先の私に向けられたレスタは、ルルー本人にも効果あるんだっけ。
こんな事も忘れるなんて・・・
「ボサッとしてると、二人ともおばさんになるぜっ!!」
その声に私とルルーははっとし、ギファイエを越えようとしていたアランに気づいた。
ダーンッ・・・
音に弾かれ、いや音と共に発せられたフォトンに弾かれ、ギファイエ越え中のアラン
は、炎の壁の影に消えた。
「ち、ウォルスダーク35%でも足止めくらいにしか使えねぇのか、ここは」
悪態の声。少し離れた(距離にして20m程)場所に、声の主は居た。
「よう、アルのお嬢にルルーの姐さん。今日も良い月だったぜ!(HAHAHA)」
と、まるで漫画のように高笑いというか、独特の笑い方をする人。
20mの射程を誇るライフル。その射程ぎりぎりを好み、そこから撃つレンジャー。
「まあ、ギルガンさん。遅刻はたしか、本日のご飯の代金でしたっけ?」
そう、ギルガン。
長身で細身ながら、使う箇所の筋肉は十二分に鍛錬した、元軍人。理由(わけ)あっ
てギルドメンバーとなり、私達と組んでいる。
「・・・まじっスかい姐さん? 姐さんと俺っちの分だけでなく?」
私達に近寄っていきなり、まるでアンティークグラフィックの、何とかの叫びのよう
な仕草のギルガン。
「アルは自分の体重分だけ、食べますものね」
ほほほ、と上品に笑うルルー。
私は『アルは睨んでいるつもりでしょうけど、私や長身のギルガンさんからは上目使
いに見られているようで、可愛く見えますわぁ』と前に言われたけど。だけど、ルルー
を睨んでみる。
「まあまあ。アル、よく聞いてくださいな。
”アルは食べても太らない”ということですし、
”食べる子と寝る子は育つ”と言うことですわ」
「・・・姐さん、それ、褒めてねぇぜ」
相変わらずにこにこ顔の笑顔と、呆れている様子のギルガン。
私も怒るべきなのか馬鹿にされているのか、でもルルーには悪気なんか全然無さそう
だし。
「・・・!! アル! ギルガンさんっ!」
ルルーが自ら作り出した和の間を厳しく裂き、警戒の声を上げる。
「そうだった、お嬢、プレゼントだっ!」
ギルガンがアイテムボックスに手を突っ込み、これだけ長い物があの小さなアイテム
ボックスにどうやって入ってるのか疑問に思うような、そんな武器を私に放る。
私はそれがどんなものかも確かめず、いや、手に取っただけでどんな武器と判るくら
いに馴染んだ、それを炎の壁を両断して突き出したアランの手に。
GYAAAAA!
アランの絶叫。
私が手にした武器は、まるで熱したナイフをバターに突っ込むような易さで、アラン
の腕を切断した。
その武器は私の身長の倍ほどある柄の先に、大きなカマのように湾曲したフォトンの
刃が、二方に突き出ている凶悪な代物だった。しかしこれに、私は使い易さを感じた。
そう、よく使うパルチザンと同じ部類に属する武器だからだ。
「正式名称は知らねぇ。というか教えてくれなかった。
通り名、”ピック”
アルティメット区画で出るスペッシャルなウェポン、だそうな」
「・・・貴男、これをどこで?」
私は疑問に思ったから、聞いてきた。
「蛇の道は蛇の道。たまには寄り道好きな蛇も居るってこった」
そう言って、にぃと、ギルガン。
「・・・軍から、くすねてきたのね?」
肩をすかしてギルガン。次にまじめな顔。ギルガンは今の表情してると、人間が違う
ように見える。
「俺のように、上から訳も聞かされず、命令されることがヤな連中が居てだな。
そんな奴らは俺ら、ギルドに期待してるのさ」
そしてギルガンは、こう加えた。軍でピックを使えるような奴は居ない、と。
たしかにこれだけ長い柄の武器を使いこなせるまでになるには、膨大な時間がかかる。
まして実践で振るうには、経験も必要。
側にいるチームメイトを傷つけるようでは、笑い話にもならないから。
「お嬢っ!」
わかってる。
真正面から一体。その斜め後ろにも一体。
もう、攻撃態勢に入っている。
が、アラン達はミスしてる。彼らの間合いからは一歩外れている!
私の読みは正しかった。
私の目の前、30cmほどを通過するアランの刃。
この隙を見逃しはしない。
私はこの二体は囮であることを、常時装備のレーダーマップから見てとった。
この囮作戦は、囮を相手している隙を衝くものだ。
しかしその囮は、こちらの実力を見せつけるチャンスでもある。
私はいつもよりかなり大振りで、ピックを横凪に振るう。
ズギャアアアンッ・・・!
GYAAAAAAAA!
私が振るったピックはアラン二体の身体を、通路の横の壁に、釘差しにした。
断末魔と共に散ったアランを見て、他のアランはさすがに動揺しているのか、ぴたり
と動かなくなった。
私は勝機と思った。
「ルルー!」
返事の替わりに私の考えを汲んだか、
「シフタ!(力を我が手に!)」
「デバンド!(保護の革命を起こせ!)」
「ジェルン!(敵の手に楔を打て!)」
「ザルア!(紙と化せ、汝の鎧!)」
立て続けにテクニックを唱える。
私達の側を、赤と青の光が、勝機を詠うように舞う。
アラン達に、赤と青の光が、締め付けるように漂う。
「ギルガンッ!」
プレゼントは俺にもあったんだぜっと、ホルスターから赤い小銃を抜く。
「・・・! 貴男、それ?!」
「おおよ、アルティメット区画”森”から出てくるSW(スペシャルウェポン)、
赤いハンドガンだーぜっ!
ダーク40%のおまけ付きよぉっ!」
ギルガンが、撃つ。
一発撃ったように見えたが、倒れたアランには三つの穴。
「奴らに風穴開けるのは、俺だぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
ギルガン、ここに在りって感じね。
でも、心強いわ!
私は全身に力を貯め、お腹の底から出すように。
「はあああああああああぁぁぁぁぁあああああああああっっっっっっっっっ!!!」
これ以上の大声は無理と、喉が潰れるのではないかと、この後力が抜けてしまいそう
になるけど。
闘いの場を制するのにも、雰囲気がある。
その雰囲気を造るモノの一つに、音がある。
先ほどアランの攻撃を喰らって地面を舐めた私が、近寄ってくる足音に恐怖したよう
に、音も闘いを左右する、大きな要因となる。
私が今したのは、鬨の声。
自分や味方を声で鼓舞し、相手をその発量で圧倒する。
まあ、言い換えれば、ビビらせるって事だけど。
アラン達にも十分な効果があったようだ。
私達に近寄ろうとしない。
しかし数の上では、アラン達が上なのだ。
それ地の条件も、私達は異邦人なのだから、アラン達に分がある。
それに気づかれないうちに。
耳栓をして苦笑している二人を睨みつつ、
「ルルー! ギルガン! 付いてきて!」
私はアラン達に向かって、踏み出す。
「はいっ!」
「おぅよっ!」
そして、ルルーとギルガンも。
おしまい。