「ほんのちょっとの出会い」
「・・・これでよし、おっけーやで」
「・・・・ありがと」
わたしの髪、背中ぐらいまであるから漣にいつも編んでもらっている。
漣も長めなんだけど、わたしほどじゃない。
いつも二人分の髪編みをさせちゃって、ちょっと悪い気もする。
「ほなさっそくいこか」
「そだね」
「忘れもんないか?」
・・・・・・・わたしを子供扱しないでって。
あなたよりわたしの方が年上・・・・あ。
「財布ロッカーに忘れてきちゃったああああ!」
「・・・・・お子様やなーほんまに・・・」
・・ううっ、墓穴ぅ・・・
「公園の方回って行こ」
漣もわたしも公園が好き。
西山飯店に漣が行きたがる理由の一つが公園が近くにあることだってわたしにはわかる。
でもわたしもこの公園は好き。
風を自然に感じることができるから。
人工的につくられた公園でも、ビルの中で感じる風と木々がそよぐ中で感じる風とでは、圧倒的に後者の方が気持ちがいいもの。
しかもここには寝そべることができる芝もあれば中央には噴水もある。
わたしにとっても、じゃなくてきっとこのパイオニア2に住むみんなにとっても落ち着ける気持ちのいい場所。
「こら玲奈!タイムサービス終わってまうやろ!ほけーとしてるんちゃうで!」
・・・・・くすっ。
「はいはい、急ぎますよーっ」
と、足を早める途中で、ふと目に入ったのはベンチに腰掛けている男の人の姿。
年は・・・・20才代後半って感じ。
でもすごく疲れているように見えるところから40代と言われても驚かないかも。
その疲れている感じに輪をかけているのが服やムードといったトータルバランス。
黒い服。
やや長めの黒髪。
そして思わず声をかけずにいられないというぐらいの身に纏う暗い雰囲気。
あの人、どうしてあんなに思い詰めた顔しているんだろう。
気になる。
すごく・・・気になる。
「玲奈ーーーーー」
「はわわっ!」
ううう後ろから重低音ボイス!
「なーにしてんねーん・・・・」
あううう・・・・こうなってしまうと漣は凶暴化するんだった・・・つまりお腹空く限界を越えると満腹になるまで付き合わされるんだっ。
「いこういこう!うん!ほらほら行くよ漣」
「ごーはーんー・・・・」
漣の背中を押しながら、わたしはもう一度あの人がいるベンチの方を見る。
あの人は変わらない姿勢でそこにいた。
ランチに間に合ったわたしたちは二人でゆっくり食事をとる(ゆっくりとらないと漣がうるさいから「ご飯はゆっくり食べるもんや。でないと作った人に悪いやんか」とかいつも言ってるし)。
ここはランチタイムはいつも賑やか。
「お兄ちゃん、牛乳頼んでもいい?」
「・・・・頼むからやめてくれ」
「どうして?牛乳は体にいいんだよもん」
「・・中華料理食べながら牛乳飲むのはやめろ頼むから」
「おねーさんー」
「んー?どした?」
「そのからあげ欲しいのー」
「これ?」
「食べたいのなのー」
「・・・・あのな。からあげセットのからあげあげたらあたしゃ何食えばいいのよ」
「駄目?」
「・・・・・店員さん、この子にからあげあげて」
「・・・・・・いただきますっ!」
「あのさ、ご飯食べるのに緊張することないと思うんだけどな」
「は、はいっ!すいませんっ!」
「・・・・だから緊張」
「は、はいっ!す、すみませんっ!」
「・・・・・賑やかだね、いつもここって」
「そやなー」
わたしは海老チリセットを、漣はからあげセットを食べながら話をする。
「・・・・玲奈ももうすぐハンターズライセンスゲットかー、羨ましいわー」
心底羨ましそうに言う漣。
「漣だってあと二年我慢すれば試験受けられるんだから」
ハンターズライセンスを取得するには色々と条件がある。
まずは年齢。
人間である場合は最低でも15才にならないと試験は受けられない。
これがハニュエールやアンドロイドであれば極端な話1才でも取得出来るけど人間となると色々と問題があるみたい。
「その頃は堂々と受けられるかもしれないじゃない」
「・・・待つの嫌やー、すぐ受けたいんやー、玲奈だって装甲つけるやんかー」
あとライセンスについてはわたしたち女の子には男の子とは決定的に違う不利、というか理不尽な条件がある。
それは「基本的に女性は特殊能力保持者以外は取得不可である」というもの。
テクニックユーザーである人以外はハンターになることが許されていないの。
パイオニア2搭乗者はラグオルに定住することが目的なわけだから、当然将来的に結婚して家庭を持ち、そして子を生むことになる。
それが第一目的ということになっているの。
つまりは「次の世代の子を生み、育てる」のがラグオルに向かう女性の最大の目的ということになっている。
だから自分で自分の身を守る力を持たない女の子(人)はライセンス発行どころか試験さえ受けさせてもらえないの。
でも一部にはそれを差別と考える人がいて、アンドロイドの装甲を使用することでハンターズライセンスを手にすることが出来る闇組織というものが出来上がった。
当然非合法なんだけど、ライセンス自体はれっきとした本物。
だからわたしもこうして15になった今日、試験を受けることが出来た。
「2年なんてあっという間だからさ、我慢しようよ」
「嫌やーーー、うち玲奈よか背ぇ高いのにスタイルもえーのにー、ずっこいわー」
・・・・・ずっこいって言いたいのはわたしの方だよぅ。
食事が終わったわたしたちは、公園に逆戻りしてひなたぼっこ。
芝生の上で二人して寝そべってのんびりと過ごした。
そして夕闇が深くなった頃公園で漣と別れ、わたしは家に帰る。
途中ふと気になってベンチを覗いてみたら、さっきいた人はまだベンチに腰掛けていた。
わたしはレンジャー志願なので遠目がきく。
ここからあの人の距離なら多分気づかれないだろう。
全体から発する「気」のような何かが人が来るのを拒んでいるように見えるのはわたしの気のせい?
でも
でも・・どうしてだろう。
支えてあげないと壊れてしまいそうな、そんな風にも見えてしまう。
誰かが見ていないと、自分を壊してしまいそうな危うさを感じさせる。
・・・・・・もし合格したら・・・・・
もう一度だけ見て、わたしは家に帰った。
あの人はずっとベンチに腰掛けていた。
わたしがお昼に見た時と同じ状態で、ずっとそこにいた。
つづく