アルティメット地区の洞窟エリアのボスと戦闘にはいった俺達。
お嬢、ハニュエールのアルの機転や、姐さん、フォマールのルルーのテクニックでな
んとかボスの攻撃をやり過ごしたまではよかったが、ボスは俺達に対して攻撃するので
はなく、俺達が乗っている筏を攻撃し、そして壊してしまった。筏の破壊の巻き込まれ、
俺は高々と打ち上げられ・・・俺が居たのは地下水路。水の流れは速く、とてもアーマー
を来たままで流れに逆らえるとは思わなかった。その上にボスも。俺は、今回は駄目だ
なと思った。
洞窟の果ての死闘! 三章 『勝機』
「・・・羽?」
よく死ぬときには、走馬燈とやらを見ると聞く。今まで経験した事なんかが、頭の中
に甦ってくるらしい。死ぬと認識して実際に死ぬまでの時間だから短期間に、ものすご
い量の記憶が甦るとかで、軽い混乱状態になるらしい。たまに死の淵から生還を果たし
た奴がおかしな事言う場合があるが、この混乱状態の体験が原因だそうだ。
で、俺はどうかと。
「羽、だよな・・・?」
身体が落下しているように感じられる中、俺の下の方から、半透明の、羽としかいい
ようのないモノが浮かんできた。ひらひらと舞いように羽が下から振ってきてるのか、
羽は止まっていて俺の身体が落ちているのか、そのどちらか判らないが、半透明の羽は
まるでプリズムのように、僅かな光源の光を彼方此方に振りまき。ひらひらと、くるく
ると、光をまき散らしながら、踊っていた。それは死ぬ前の混乱状態になっているのだ
ろう俺に、ガキの頃ストーリーディスクで見た、おとぎ話を思い出させた。それはたし
か、背中に純白の翼が生えた天使か女神かが、出てくる話だった・・・
羽の数、密度が濃くなってきた。
もう、目には白い光と、羽の輪郭しか見えない。
俺は・・・
どさっ。
そのとき、身体に激痛が走った。
身体が”く”の字に折れ曲がっている様に感じる。
驚いた。
痛みもさることながら、俺の前にいるモノを見て。
そのモノの辺りには羽が佇み、そのモノの身体の輪郭からたまに見える白いモノは、
小さな翼のよう・・・? そのモノが持っている杖のようなモノ、その先からは白い光
が灯り、その光から羽が生まれていた。混乱している。よく、物事を認識できない。
「大丈夫ですか?」
俺の前のモノが言葉を発した。黒髪に白い肌。黒い服が羽の光に照らされ、その肢体
の素晴らしさを浮き彫りにしていた。ふと、顔に目がいった。穏やかな光を湛えた目、
整った鼻に、薄く、うっすらと紅に染まった唇。髪は高い位置で結われ、羽の光りで綺
麗な輪を描いていた。美しい。そう、思った。まるで、
「天使か、女神のようだ・・・」
俺の口から漏れた言葉に、目の前のモノは少し驚いた顔をして、次に笑みを浮かべ、
ありがとうございます、と答えた。
「な、何こんな場所と場合に、ルルーを口説いているのよっ!
ちょっと貴方、ギルガンってば、おーもーいー!」
背中から声が聞こえ、そして、
「・・・っ、痛っ!」
アーマーの隙間から手を突っ込まれて、横腹を思いきりつねられた・・・て?!
「ギルガンッ 自分で立てないわけっ?!」
痛みで、焦点と意識が、一気に回復した。
場所はまだ地下水路。が、水の中じゃねぇ。
だから呼吸も出来る。
足の下には硬い、何かが在る感触する。
そして背中からの声はお嬢、アルの声だ。
「お嬢!」
俺は立ち上がり背中を振り返り、そこに頬を膨らませて、怒っているようだがどこか
可愛らしい、変わらぬお嬢を見て。いろんな感情があーのこーの言って五月蠅いので、
兎に角、咄嗟に、お嬢を抱きしめた。
「ちょ、ちょっとギルガン?!」
お嬢は驚いた声をあげるが、俺は構わずに、
「お嬢なのか?! 間違いないのかっ?!」
「ええ、そうよっ・・・ 少しは落ち着きなさい、ギルガン」
これが落ち着いてられるか俺は死んだここまでかと思ったら天使か女神みたいな人に
会ってそして背中にお嬢が居て
ばちーん。
「・・・これで目が覚めた?」「・・・ああ、良いビンタだったぜ、お嬢」
お嬢は俺を振り解くついでに、俺に強烈なビンタをお見舞いしてくれた。痛てぇ・・・
容赦ないビンタに、こりゃお嬢だなと、納得させられた。
俺は死んでなかった。
俺は諦めていたが、お嬢と姐さんは違った。
姐さんは咄嗟に装備変更、マインド重視の育て方をした天使のマグと、姐さんがテク
ニックメインでいくときの杖、カジュシースにした。天使のマグは通常のマグと違い成
長が早く、他のマグに変化する事もない。見た目がそのまま、少し小さいが天使の翼の
ようなマグだ。カジュシースはラグオル上でまだアルティメット地区が見つかってない
頃、激が付くほどのレアアイテムで、ハンターズギルド全体でも片手で数えるほど数し
か発見されなかったが、アルティメット地区が発見され、アルティメット地区のエネミー
も落とす事が報告された。とはいえまだ数多く見つかったわけではなく、まだレアアイ
テムと呼ばれている。杖の性能的にはカスと言っていいのだが、羽、杖から羽が出てく
るのが珍しく、そういうのが好きな連中はそれこそ大枚叩いても入手したいモノらしい。
さっき俺は、カジュシーズと天使のマグを装備した姐さんを、見間違えたわけだ。そし
てテクニック向けに装備変更した姐さんは、
「これがラバータで凍らせた、地下水路の水なのか?」
俺はブーツの先の方で、青白い、ラバータで出来たらしい氷の床を突く。
そう、姐さんはラバータの効果範囲を縮めて水を凍らせて、それを足場にしたのだ。
エネミーなどの生きたモノにかける場合は、その対象内にあるナノマシンの抵抗があ
るから、いくら最高レベルのラバータとはいえ、100%凍らせる事は出来ない。生き
物の体内のナノマシン、なんだかに命を受けたナノマシンはテクニックに反する事もあ
るが、しかし水の中やただ大気中を漂っているナノマシンは簡単に、テクニックの制御
下に置く事が出来る。そしてラバータの最大効果範囲、本来なら半径13m程あるのを
5mまで縮めて、その範囲を縮めたラバータの威力を、凍らせる能力に回したらしい。
「1回のラバータで、約20秒ほど、足場は持ちます。
トリフルイドの残量も考え、後15分は大丈夫ですわ。
でもその間、私はラバータの制御に専念しないと・・・」
そうか・・・姐さんは戦闘に参加できないのか。
アルティメット地区でのエネミーとの闘いがフォース次第なのは、ここまでの洞窟探
索で嫌というほど判っている。シフタデバンドでの強化、ジェルンザルアによるエネミー
弱体化、40m先に居ても瀕死から全快まで回復可能なレスタなど、フォースのテクニ
ックによる補助は、アルティメット地区での戦闘では欠かせないモノだが・・・
姐さんは、咄嗟にレスタかけるくらいは可能ですよ、と言うが。
今の、俺達の足場がなければ、何もかも意味がない。
姐さんはラバータに専念してもらわねぇと。
「お嬢、肩は大丈夫か?」
姐さんの後ろで、腕をぐるぐる回しているお嬢。
高々と打ち上げられ、落ちてくる俺を抱き留める為に、普通は身体全体に向けて使う
シフタを、腕のみに集中するようにかけたのだ。お嬢はハニュエールだからシフタはレ
ベル15レベルまでだが、こうやって効果範囲を縮める事によって、落ちてくる俺を抱
き留めるまでの筋力と骨の強化が可能になるのだ。先のラバータによる氷の足場や、部
分かけするシフタなんかは、姐さんの研究と実験と、そして実践の成果だ。
「いくらシフタで強化してもね。肩、外れるかと思ったわよ」
・・・そーとーに、痛かったらしい。
わざわざ俺の側に来て、睨んでるし。
「そーかそーか、ありがとな、お嬢」
俺はにぃと笑い、お嬢の頭を撫でる。
「・・・っ! 貴方、折角、人が助けてやったのに!」
お嬢が『ムカムカ〜』とでも、もしコミックなら描かれそうな感じで怒った。
「アル、ギルガンさんは恥ずかしがり屋さんですから。
あれでもホントに、ありがとうと言っているつもりなんですよ」
ちっ。
姐さんには敵なわねぇや。
お嬢は『ホント〜?』とでも言いたそうに、俺の周りを回って、あちこちから俺を見
上げている。何となく、さらしモノな気分だぜ。はずい・・・
「はいはい、そろそろ、ボスさんが行動しますよ」
姐さんの、呆れたというか苦笑気味というか、そんな口調で我に返る。
ボスは俺達と併走している。
ざばぁ。
一本の、足が水面を割って出た。
そして、いつもなら筏に乗り上げて上に足を上げるのだが、姐さんの筏では奴、ボス
が乗り上げるほど大きくなく、それならと奴が判断したかどうかは判らんが、足が縦で
なく横を向き、例えるならハンターがパルチザン系を構えたような体制を取り、
奴の足が、俺達を薙いだ。
「しゃがんで!」
咄嗟の、お嬢の声。
俺は咄嗟にしゃがんだ直後、奴の足が轟音立てて通り過ぎた。音の後、奴の足に押さ
れた空気が突風となり、俺達に当たる。それだけで、この攻撃はやばいと感じた。
「ルルー?!」
珍しい、お嬢の、姐さんを責めるような、口調。
お嬢の声に俺が姐さんを見ると、髪が盛大に乱れ、額にびっしりと汗をかいてる姐さん。
「・・・ふう。
御免なさい、アル。
正直に言います。
私、今、腕を振る事以外、身体を動かす事が出来ません」
姐さんの表情から余裕が消えている。
それはお嬢も同じだった。
そして俺も。
俺とお嬢には、奴の、今の攻撃を止める事は出来ない。
これはいずれ、奴が今の攻撃を繰り返せば、いつかは姐さんを薙ぎ払うって事だ。
それは間違いなく、姐さんの死を意味するだろう。
「・・・!」
奴が、足を構えた。俺達はそれに気づいた。
来る。
奴の攻撃が、来る。
「くそっ!」「・・・」
俺は悪態を吐くしかなかった。お嬢は無言だった。
俺とお嬢は、立ったままだった。
奴の足が来た。
また、俺達の上を横切った。
「あっ」
姐さんが足の後の、突風で蹌踉めいた。
俺は姐さんに駆け寄り、なんとか抱き留める事が出来た。
「・・・ふう、なんとか間に合ったな。大丈夫か、姐さん?」
「ええ・・・
でも今のは、先ほどより、私達に近いところを横切りました」
俺はそこ言葉に、姐さんの顔の方を見る。
「次は、当たりますよ」
「ルルー、ギルガン、ごめん」
その声に、今度はお嬢の方を見る。
そしてお嬢の身体越しに、奴の足が構えをとったのが見えた。
「私が、ボスと戦うと言ったからよね・・・」
俺も姐さんも、何も言えなかった。
「私に、ピックを超える武器があるなら・・・!」
お嬢の独白を聞いた、腕の中の姐さんの身体が鞭を打ったように、
「そう、あれなら・・・!
ギルガンさん、あれをルルーにっ!」
そういって姐さんは、胸を突き出す。
俺さんが何かを、思いついたらしい。
胸のポケットボックスの中の、何かを使えと言っているのだろう。
ハンターズギルドメンバー全員に配られるアイテムに、このポケットボックスがある。
見た目の大きさは服に付いてるポケットそのままだが、なんとアーマーくらいの大き
さのモノが50個も入る。ナノマシンまでは行かないが現在のテクノロジーを集結した
モノで、まだ軍やギルド内でしか使われていない。これが一般にも使用可能になれば、
物流は大きく変わるだろうといわれている。
「姐さん、悪い!」
俺は姐さんに一応ことわり、姐さんの胸の部分に縫い付けてあるアイテムボックスの
中に手を突っ込み、中をまさぐった。姐さんの豊かなふくらみが気になるし姐さんは顔
真っ赤にして何やら耐えてるし(・・・当然だろ?)
興奮した。
姐さんの、胸のそれではなく。
「これは・・・!」
これが姐さんが言っているモノだろうと、アイテムボックスの外に出さなくても、判
った。それはあきらかに他とは違った。俺が握っただけで、どくんと、まるで脈を打っ
たように奮えたのだ。
「・・・姐さん、これなのか?」
アイテムボックスの中で、俺は筒状の物を握っていた。
姐さんはこくり、と頷いた。
「お嬢、来いっ!」
怪訝そうに俺達を見ていたが、俺の怒声で事を感じ取ったか、お嬢は全速で駆け寄っ
てくる。
「これで奴を、ぶった斬れっ!!」
俺は姐さん曰くの”アレ”をアイテムボックスからとりだし、お嬢向けて放り投げた。
くるくると回って飛ぶ”アレ”、ダブルセイバー系の柄の部分のように見えるのがお
嬢の手に収まり。
「・・・! これはっ?!」
お嬢も”アレ”の異質さに、気づいたらしい。
お嬢は急ブレーキをかけ、奴の方を見る。
”アレ”を目の高さまで掲げ、
「はぁっ!!」
烈火のごとき気合いを発した。
お嬢の持つ柄の両方から、金色(こがねいろ)のフォトンが辺りの薄闇を焦がしなが
ら吹き出し。そして金色のフォトンはやがて、剣と、化した。
「金色フォトンの両剣、S武器・・・ まさか、これが実在するなんて・・・!」
お嬢の声が震えている。
当然だ。伝説とされていた武器が、自分の手の中にあるのだから。
ギルドで、うわさ話に聞いた事がある。
グリーンフォトンのダブルセイバー(Cクラス武器)の上級バージョン、ブルーフォ
トンのインブランド(Bクラス武器)のさらに上をいく、金色のフォトンで出来た両剣
武器(Sクラス武器)があると。一撃でピック同等の攻撃力をほこり、ダブルセイバー
系、両剣故に、3コンボで計6回の打撃を与える武器があると。3コンボでピック6撃
分のダメージなど想像すら出来ないから、眉唾なでっち上げだろうと思っていたが・・・
「来ますっ!」
姐さんの警告。
お嬢は奴の腕が来る方を見て。
「・・・行くよ」
金色のフォトンの両剣、S武器の柄の部分に口づけし。
両剣なのに、まるでセイバーを持つように、構えた。
「!」
奴の足が動き始めた。
次の瞬間には輪郭がぶれ、風を切る音だけしか俺には認識できない。
お嬢は両剣を、セイバーというか、まるでフィシングの投げの動作のように構え。
「やああああぁぁぁああぁぁあああああぁぁぁああああああああぁぁああっ!!!」
気合いのまま、上段から下に、S武器を振りぬく。
フォトンの金色が、鮮やかな円弧で残像を描き。
一閃。
3、
4、
5秒、
どぼーんっ!
お嬢の両剣と奴の足が重なってから5秒後、奴の、切断された足が、盛大な水飛沫を
上げた。
続く。
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次回予告。
「・・・お嬢?!」
衝撃。
「ギルガン、受け取ってねっ!」
勝利。しかし最大の危機。
「センセッ!」
そして、救世主。
炎のテクニックが、全てを消す。
英雄は、一人じゃない。