「狩人と魔女」
「……ふぅ」
「どうされました? 呼吸する必要のないあなたがため息するふりなど」
黒のロングドレスの女の目の前で、男性格を持った黒い装甲のヒューキャストが心持ちうつむき加減で立っている。
「毎回毎回思うことだが、やはり慣れんな」
「自分の『死』に、ですか」
「珪素と鋼でできたこの体は、痛覚すらコントロールできる。だから、銃で撃たれたときの衝撃も、フォトンの刃で斬られた痛みも感じられないことはないが気にするほどのものではない」
銃で撃たれたり剣で斬り刻まれたりすれば、たとえその傷が完治したとしても心には深い痛手が残る。
人間とはそういうものだ。
「では、何があなたにため息をつかせているのです?」
「己の一部を排除しなければこの意志を維持できない、そして、毎回俺は、切り離された『俺』の、消滅する直前までの記憶を共有する。あの、制御できない殺戮衝動に駆られた意志も、また俺の一部だ……」
漆黒のヒューキャスト……キリークが頭を振る。
下手なフォニュームよりもよほど人間らしく見える姿だ。
だが、それには頓着せずにドレスの女……テレサは微笑を浮かべたまま言葉を継ぐ。
「そう簡単に絶望していただきたくはありませんわ。あなたの内に共生する『闇』は貴重なサンプルなのですから」
「DFが次元レベルでの消滅、ないしは退行が起こらない限りは、開放されないことは承知している」
「でしたら、もうしばらくは生きていてくださいませ。DFへの『最初の導き手』そして『裏切り者』としての役割は終わってはおりません」
「ふん、逆らえば俺自身……キリーク『オリジナル』の破滅だ。俺はそこまで自暴自棄にはなっていない」
「上々ですわ。その、内にある衝動や闇に打ち勝とうとあがく姿、とても人間のようですわよ」
カメラアイに閃いた光は後悔か、憤怒か。
慇懃無礼に頭をさげていたテレサには、それがどういうものかはわからなかった……意図的に無視しただけかもしれないが。
「あ、そうそう」
今までの雰囲気をまったく無視するかのように、テレサの軽やかな声がキリークの聴覚回路に飛び込む。
「あなたの人格プログラムの一部をコピーして、新しいアンドロイドを製作いたしました。あなたから見れば、歳の離れた弟、ということになりますかしら」
「ふむ」
「守護者、というよりは遊び相手でしょうか。ちょっと、難しい年頃の子供がおりまして」
そして、この後のセリフがなければキリークもちょっと陰のあるクールでニヒルなヒューキャストとして一生をおくれたのだが……。
「おまえの子供か?」
次の瞬間にキリークが見たのは、右手に物質化した純粋フォトンの槍と、左手に偏光現象を起こさせるほど強力な闇を現出させていた、一人の羅刹女だった。
最後の記憶は、圧倒的な光だったという。
「わっ、わっ、私はっ、まだ20代で独身ですっ!!!!!」
キリークさんの最後の教訓。
『女性に年齢の話題は禁句である』