+デジ絵本 別冊1
□「夕暮れ観覧車」 作・唯我 最後の日は遊園地へ行こう。 どちらからともなく決めた。 いつもは閑散とした錆びれた遊園地が、今日はたくさんの人で溢れている。 懐かしそうに指を指す大人達、無邪気に走り回る子供達。 久しくなかった行列が出来ているコースターにメリーゴーラウンド。 いつもは1通りまわっても、1時間もあれば終わってしまうのに、 思わぬ人並に、もう日が傾いてきた。 幾度も通ったこの遊園地には、そこら中に想い出が刻まれていた。 最後はいつも決まって観覧車に乗る。 閉園時間のせまる頃、辺りはオレンジ色の夕映えに染まる。 いつも向い合せに座るか、並んで座るか迷ってしまう。 今日はなんとなく、二人並んで座った。 観覧車の係員のおじさんは、いつもの様に微笑んでいたけれど、 眼の奥に「ナゼ?」という問いが浮かんでいた。 「ナゼ? ナゼ、コンナフウナノダロウ。 ナゼ、コウナッテシマッタノダロウ。」 二人もそれが訪れたとき、きっとそんな眼をしていただろう。 「ナゼ、ワカレガキテシマッタノダロウ。」 それが見たくなくて、並んで座ったのかもしれない。 まもなく誰も乗る人のなくなる観覧車と、 別れを待つ自分たちとは、まるで対のようだと思った。 夕暮れの空に、揺れながら上って行くゴンドラに座っていると、 二人飛行船に乗って空に浮かんでいるような気がする。 赤い色のゴンドラはそのまま空にとけていく。 黙ったまま二人は凭れ合って鮮やかな夕焼けを見ていた。 あちこちと灯りの灯り始めた地上が見えてくると、 もう短い飛行時間は終わり。 二人はまたいつか会う事も出来るし、観覧車に乗る事も出来るけれど、 まもなく廃園を迎える遊園地の、この観覧車で見た夕映えを見ることは出来ない。 そんな風に時間は戻る事はないけれど、 でも思い出しさえすればきっと二人またここに立てる。 だから二人は本当の気持ちで、夕暮れに浮かび上がる観覧車に向かって、 「また来るよ」と大きく手を振った。 お し ま い 2003-05-21 |
| この作品はサイト「えとらんぜ」さんの企画の応募用に書いたものです。 HIBIKI様の素敵なMIDIの音楽と、よたか様の美しい挿し絵付きで、 合作のかたちで展示していただいた幸運な作品です。 |