+デジ絵本22 不思議研
◇レポート1 『月の鏡』 ページ1 不思議研の活動はたいてい昼食後からボチボチと始まる。 顧問が理学専門教師なので、活動場所は理学備品室だ。 リーダーと呼ばれている発足人『マリオン・タイラー』がやっと現れた時、 揃っていたメンバーはミドーとクロウの2人だけだった。 1番先に来ているのは本好きで丸顔に眼鏡の『タカシ・アンディ・ミドー』通称ミドー。 彼は『図書館検索研』よりも人数が少なく静かだという理由で、 ゆっくり本が読める不思議研の方にほぼ毎回顔を出している。 もちろん変わった事が好きなのは、他のメンバーと大差がないようだ。 銀の髪と黒い目で女の子のようなベリーはデザート研に、 最上級生で1番背が低いわりに運動過多なゲイル先輩は、 フットボールかバスケットボールに出ているハズである。 この2人はほぼ幽霊状態といって良いだろう。 「リーダー、今日はどうしますか?」 いつものようにはりきって声をかけるのは『エドワード・クロウ』だ。 ミドーは手を上げて合図を送るだけで本から目を離さない。 備品室の隣りは理学教師の書斎だが、今日も顧問は不在のようだ。 「うーん、今日も3人か。」 備品のバーナーでお湯を沸かしてコーヒーを入れながら、 リーダーはクセ毛の髪を右手で無意識にかきまわしている。 長身でやせ気味で年より上に見られがちな彼は、 少し伸びると好き勝手な方向をむきだす髪が悩みだ。 「今日は自主研究だな。」 「やっぱり。」クロウはパタリとテーブルに伏せた。 リーダーやミドーよりひとつ下のクロウは 下がり気味の眼に黒髪の彼は気が弱く真面目なくせに、変わった話や不思議なものが大好きだ。 不思議研の活動が多少停滞気味なので、この所がっかりしている。 『僕も皆みたいに何か掛け持ちしようかな〜。』と内心考えたりしているのだが、 他に特別な趣味がないし、なにより真面目な性格で結局ここに来てしまうのだった。 ここ理学備品室は顧問の趣味なのか、歴代の先生が片付けを怠ってきたのか、 いろいろ妖しげなものが所狭しと並んでいる。 クロウはそんな備品の棚やダンボールなど端から片付けては、 分類したりリストを作ったりするのを、結構楽しんでいるようだ。 最初は他のメンバーも手伝ったが、 ごたごたしていた部屋の中が大方片付いてからは、彼が一人で続けている。 リーダーはいつものように顧問のハルベルト先生あてにまとめて届けられる、 薄い雑誌や新聞類を顔をしかめて読み始めた。 今日もお決まりの調子でまったりと過ぎていくはずだった。 クロウは先ほどがっかりした事も忘れて、嬉々として備品室の奥のガラス棚を整理していた。 調子外れの鼻歌と時々ガタガタいう音がずっと聞こえている。 薄い化学雑誌を読み終えたリーダーは、 やけにホコリが舞っているのに気付いて声を上げた。 「クロウ!大掃除じゃなあるまし、ホコリだらけじゃないか。」 ミドーもさすがに本から目を離すと拳で口を抑え、手を振りながら窓を開けに立ち上がった。 「え?あれ?すみませんリーダー。」 振りかえったクロウは黒い髪も服もホコリまみれで真白だ。 3人でホコリをおって窓やドアを開け放った。 「そうだ、見てください!なんだか古ーい箱が出てきたんですよ。」 リーダーは木箱を預かると、クロウに取り合えず手や顔を洗ってこいとドアを指差した。 クロウが引っ張り出してきたのは13センチ四方の木の箱だった。 幅の割りに高さはあまりないが、振るとゴトゴト音がして重い物が入ってる。 ミドーも本を置いて箱を調べた。 箱には色あせて白ッ茶けた紐がかけられている。 「これは…、何か封印がありますね〜。」 ミドーが木の箱の合わせ目を示していう。 「え?封印って事は危険なものって事ですが?」戻ったクロウが眼を丸くしている。 「でももうボロボロだな、これ開くぞ。」 リーダーはささっと紐を解いてあっという間に蓋を持ち上げてしまった。 「ギャ〜!」 「おやおや。」 クロウとミドーが同時に声を上げたが、 リーダーは一切構わず布に包まれた物を取り出した。 「なんだ、これは?石版か、いやメダル?装飾品にしては大きいな。」 と飾り紐がついた薄い円盤をひっくり返したりしている。 「リーダー!そんなに簡単に開けちゃダメですよ〜!」 クロウはすっかり腰が引けてミドーの影から青い顔を覗かせてる。 リーダーは意にかえさずに掌くらいのそれをヒラヒラと振ってみせた。 「大丈夫だよ。そんな危ない物をこんな所に置いておく訳ないだろう。」 窓から入る秋の日差しに反射した光が、キラリキラリと壁に丸い影を映した。 箱を調べていたミドーが眼鏡の奥で目を細めた。 「なにか箱に書いてある様ですね…。絵ではなく文字かな?」 「読めません〜。」クロウが横からのぞいてなぜか泣き顔で訴えている。 文様のようなものを眺めていたミドーがポツリと呟いた。 「…月…と、そのあとは何かな?」 「ふうん、これは鏡だな。」リーダーはきっぱりといい、ミドーは顔を上げた。 こういった物に対するリーダーの勘と興味は人並み外れている。 クロウはもうすっかり夢中になり、怖がるのを忘れて部屋の隅で鏡を見つめている。 ミドーはいったん部屋を出て本を抱えて戻ってくると、さっそく文字の解読に乗り出した。 さっきまでの空気も一変して、部屋の中は熱気に包まれたかのようだ。 クロウに鏡らしきものを渡してから、リーダーは何やら考えこんでいる。 今日は秋晴れで日差しも暖かだったが、もう日が翳り始めてきた。 窓の下を生徒が2,3人早足で通り過ぎていく足音がした。 「なぁ、ミドーちょっと。」 リーダーは熱心に本を繰っているミドーを手招きした。 『本日の不思議研はいったん終了する、 日没後、寮の裏庭に各自「手鏡」を持参の上集合の事。』 リーダーは高らかに宣言すると、特に説明もせず後も見ずに部屋を後にした。 次のページへ→ |