デジ絵本6 +嵐の落し物
| 何日も続いた雨が嵐と一緒に行ってしまった。 空は晴れたけど、まだ東の地平線には雲が残っている。 すっかり洗われた道を、犬のクルリと散歩していたら、 ふと見上げた空に黒いものが見えた。 それは、なかば葉の落ちた樹の梢に、引っかかって揺れていた。 嵐が残した小さいつむじ風が、それをあっという間に空に舞い上げた。 あわてて追いかけると、それは空気の抜けた風船みたいにフラフラと落ちて来て、 広げた手の中に収まった。 黒くて丸いそれは、どう見ても風船だったけど、すごく軽くて手応えが全然無くて、 まるで黒いシャボン玉みたいだった。 「なんだろう? これは。」 僕は、散歩を切り上げて家に戻る。 クルリはまだ走りたがっているみたいだったけど、急ぐとそれが風で飛んでいきそうで、 慎重に歩いて戻った。
ところが、家に帰ってママにそれを見せたら、笑って言う。 「なにも持っていないじゃないの?」 兄さんに聞いても、同じ答え。 「ふざけているのか?」 お隣りのヒナちゃんも、笑っているだけ。 途方にくれた僕は、自分の部屋に入って、じっくりそれを観察した。 それは、確かに手の中にあって、表面は滑らかに光っていて、 じっと見ているといろんな色がクルクル回って、引きこまれそうだ。 黒く見えるけど黒だけじゃない不思議な色だ。 中を覗き込む様に見ると、中に何か入っているような気がする。 でも、なんだかぐったりしているみたい。 そう思えば球体の大きさも、少し小さくなったような気がする。 「 大変だ! 弱ってきている.みたい。」 どうしようと、悩んでいたら良いことを思いついた。 僕は、図書館に急ぐ。 図書館の物知りの司書さんは、大人達には変わり者で通っていた。 でも、すごくいろんな事を知っている不思議な話もしてくれる。 きっと、どうしたら良いか教えてくれるはず。 「これは、また珍しいものを見つけたね。 」 思ったとおり、彼にはそれが見えるようだった。 「それにしても、ちょっと弱っているね。 嵐に負けちゃったのカナ。」 僕はどきどきしながら、見つめていた。 「これは、何ですか? 元気になるの?」 彼は僕の顔を見て、しばらく考えていたけど、ちょっと笑った。 「これは、アオルムだね。もともと弱っていたところに、 この嵐でエネルギー切れになって弱ってしまっている。」 「黒いのは、太陽光を効率良く集めるために、 身の回りに光を吸収する幕を張っているからなんだよ。 うーん、なんと言うか、シェルターの様なものか、卵みたいなものかな。 アオルムは光で出来ているから。」
彼は部屋をぐるりと見渡すと、大きなかばんと小さな箱を取り上げて、 「それにしても、どうしようか? 」と、呟いている。 僕は、なんだかさっぱり分からなくて、ただ呆然と彼のする事を目で追いかけていた。 戻ってきて彼は、黒いアオルム? に、小さなビンから中身を数滴たらした。 丸い表面にサーっと波紋のようなものが走った気がする。 それから、彼は大きな虫眼鏡を僕に渡してこう言った。 「この虫眼鏡で、表面にたくさん光を集めるんだ。 同じ所ばかりじゃなくて、出来るだけ全体にね。 1日か、3〜4日か分からないけど、出来るかい?」 僕はコクコクと、うなずいて無言で受け取る。 「そう、なにか困ったらすぐ訪ねておいで。」 僕は虫眼鏡とアロルム?をもって、公園の裏の日当たりの良い川岸に、 子犬のクルリを連れて出かけた。 夕暮れまで頑張ったけど、なにも変わらない。 家に戻ると窓際の机にクッションを敷くと、聞いた通りカーテンを開けて、 半分の月や星の光が当たるようにした。 翌日、晴れてピカピカの太陽が昇る。 僕はいつもよりうんと早く起きて、2階のベランダで光を集めつづけた。 お昼ゴハンがすむと、さっそくクルリを連れて日当たりの良い場所を探す。 クルリはしばらく僕の周りを走り回っていたけど、 諦めて草原に伏せて恨めしそうな目を向けていた。 「ごめんよ、終わったらたくさん遊んでやるからさ。」 でも、今日もあまり変わりが無いような気がする。 アウロム?を見つけて3日目、光を集めるのにも慣れてきた頃。 そろそろ日も傾いてきて、今日もダメかなと思った時だった。 光をあてていたアロウム?が、突然透き通ったと思ったら、中から光り出した。 ゆっくりと点滅する柔らかな光り。 すると、虹色のシャボン玉のような幕が薄れていって、 中から小さい虫のようなものが出てきた。 「アロームだ!」 僕はびっくりして大声で叫んだ。 それは濡れたような羽根を広げた、トンボか蝶の中間みたいなものだった。 「アロームじゃなくて、アオルム。」 そんな声が聞こえた。 僕とクルリが動けずにいると、アオルムはふわりと回転して、僕らの頭上近く飛びあがった。 「だいぶ変わっちゃったかなァ、まあいいか。」 まだ、あんぐりと口をあけている僕らの前に飛んできたアオルムは、 チカチカと光っていて、細かいところは良く見えない。 薄い羽根をもった、星みたいだ。 「ありがと、アオルムのキュアだよ。お礼をしなくちゃね」 ぶんぶんと首を横に振る僕を見て、またクルンと回転すると、 公園の樹の方に飛んでいきながら、 「ここが気に入ったから、しばらくここにいるよ。 なにか願い事が決まったら、いつでもおいでよ。」 そう言って、スーと消えた。 僕は、クルリに腕をなめられるまで、ぽかんと樹の方を見つめていた。
その夜ベッドの中で、明日図書館に報告に行って虫眼鏡を返して、 そのとき聞いて見ようと思う事について考えた。 「アルオムのキュアは、僕と友達になってくれるかなあ。」 ワクワクして、なかなか眠れない夜でした。 -おしまい- |
2002-10-10