暖かく重たい湿った風が吹いて来て、暗い雲が空をおおっていきます。 薄紫の稲妻が嵐の先駆けをいく中。 雲の中では小さいしずくたちがあちこち揺られながら、 雨の予感にヒソヒソと話をしていました。 「さあ雨が降るよ、もうすぐ僕らの出番だね。」 誰もが浮き立つような思いで言うと、 「でもちょっとだけ怖くない?」 ひときわ小さいしずくが震えながら言う。 隣りのしずくが励ますように答えます。 「大丈夫、いちにのさんで手をつないで出発しよう!」 ![]() |
地面ではむせ返るような土の匂いがして、 ボタッ、ボタッと大きな雨粒が落ちてきました。 久しぶりの雨でした。 小さい生き物達は雨に備えて、てんでに身を隠します。 見る間にしずくたちは雲を抜けて、下へ下へと飛び出して行きます。 「下へ降りたら僕は土にかえって黄色い草花を咲かせるよ。」 その時が来るのを待ちながら、それぞれに地上の話をします。 「僕はカエルの池が良いな、 オタマジャクシからかえったばかりのカエル達と雨の歌を歌うよ。」 すると、今まで震えていた小さいしずくが言いました。 「僕は…、僕は海まで流れて行って広くて青い海の一滴になりたい。」 まわりの皆は笑いさざめきます。 「おまえみたいな小さなしずくがあんな遠い海に行けるものか。」 「海につく前にきっと消えちゃうよ。」 しょんぼりとする小さなしずく。 でももっともな話です。海はここからずっと西の方なのです。 でも海と一体になるのは、ここにいるみんなのあこがれでした。 それはみんな言わずとも分かっていたのでした。 ![]() |
さぁ、順番がきました。 みんな仲良く手をつないで空に飛び出して行きます。 空は高くて、高くて、ひんやりしていて、速い風が吹いていました。 でも小さい雫たちにはさほどに衝撃はありません。 下は山の斜面の森のようです。 大きくて緑色の葉っぱの上にポタン、ポタンと落ちた天のしずくたち。 美しくクルリと丸くなった姿は、葉っぱと同じ深い翡翠色です。 ゆらり、ゆらりと同じ葉っぱに幾粒か先ほどのしずくたちが並んで落ちました。 「どうやら僕たちはこのまま落ちて、この草の花を育てる事になりそうだね。」 最後の1滴は、久しぶりのシャワーを浴びに来ていたカタツムリの上に落ちました。 ![]() ざんざん降った大雨に森はとっても良い匂い。 葉っぱも洗われてピカピカの新品になりました。 まわりを見渡していたしずくが気がつくと、 すぐ横をほんの小さな小川が流れています。 湧水があるのでしょうか?それとも雨が作った一時だけの流れでしょうか? やがて川にそそぐのでしょうか?ここから見てもよく分かりません。 |
その流れを見てしずくたちは考えました。 そして1番小さいあのしずくを押し出します。 「この流れになったらもしかして、海へ行く川の流れに乗れるかもしれない。」 「すぐに地面に染み込んで行くかも知れないけどね。それも良い事だろう?」 「ひょっとして池に行く道かもしれないけれど。そのときはカエル達によろしくね。」 「さぁ、みんなで押すよ!」 小さい雫をぴょーんとはじいて、 すべてのしずくは、ぱたぱたと地面に落ちて行きます。 ![]() |
「あぁ、みんなまたいつか雲の上で会おうね、 僕は行ける所まで行って見るよ!」 そう言うと、何処へ向かうかもしれない川の流れにのりました。 小さいしずくはみんなに手を振ります。 ![]() その後小さいしずくは海にたどり着くことが出来たでしょうか? それはまた別のお話です。 …おしまい。 |
2003-04-07