「あ、雨だよ、兄さん。雨が降ってきた。」 弟猫のソラが外に飛び出した。 「本当に雨が好きだな、おまえは。」 呆れ顔で兄猫のナイトがちょっと顔を覗かせる。 「猫は普通雨が嫌いなんだぞ。 そんなに濡れちゃって、早く家に戻れ。」 ブツブツ言いながら、さもイヤそうに兄が窓から呼びかける。 ソラは、「はぁ〜い。」 と、気のない返事をしておとなしく家の中に戻る。 少しくらい濡れても平気だけど兄が心配するし、 強くなる雨脚で、ずぶ濡れになるのはやっぱりイヤだった。 文句を言いながらも、ナイトがざらざらした舌でソラの毛繕いを始めた。 濡れた身体もあっという間に全部キレイに元通りだ。 「あいつ、傘を持って行ったかな。」 濡れるのが嫌いなナイトは、珍しく飼い主の心配までしている。 「あいつじゃなくて”とおる”でしょ。」 ソラが言うが呼び捨てなので、あまり変わりない。 兄のナイトは暗い色の毛並みと、緑がかった黄色い瞳。 弟はソラ。 灰色の薄い縞模様と水色の瞳。少し小柄だ。 まだ子猫といった方が似合いの猫の兄弟。 家にはお祖母さんとお父さん、お母さん、そして高校生の透の4人。 拾った兄弟の名前をつけたのは、透だ。 ![]() |
タン タン …ポツン、 雨の音。 ソラは何度言われても、雨の音を聞くと、 ついいつまでも雨が降るさまを見てしまう。 トトン タン パタパタ、 雨は不思議だ。 なんだか雨が降ると、眠っているのか起きているのか、 よくわからないような、とろんとした気分になってしまう。 窓の外は暗く、雨はだんだん激しさを増してくる。 ざあざあ雨が激しくなると、道の端や庭の隅に水溜まりが広がる。 そうして出来る水の縞模様。 窓ガラスにつたう水のすじ。 呆れるほどたくさんの水が、何もない空から降ってくる。 それらはいつ見ても、ソラには真新しい不思議に思える。 ![]() |
| 窓の隙間から、じっと雨を見つめているソラ。 ナイトは雨が大嫌いなはずなのに、そうしていると必ずやってきて、 弟の後ろに ぴたりと寄りそう。 だから冷たい雨の日もなんだかいつも暖かい。 次々にはじける雨の雫が、クルクルと水面を走るのを見ていると、 ソラはぼんやりと思い出す。 初めての記憶はいつも雨の音。 その時も雨の音を聞きながら、兄弟は冷たい雨に打たれていた。 小さいソラが覚えている限り、 初めて見たものはこんな雨の作る水の輪だった。 絶え間なく、降る 降る雨。 でも不思議とつらい記憶はない。 それ以外はぼんやりとしか、覚えていないけれど、 その時も兄が、ソラにしっかり寄りそっていてくれた。 「それでナイトは雨が嫌いなのに、僕は雨が怖くないのかな?」 ぽつりと言うと、ナイトがこちらを向いた。 「いま何か言ったか?」 慌ててなんでもないよ、と首を振る。 …その頃の話をすると、ナイトはいつもつらそうな顔をする。 ![]() |
| タン トタン タンタン あいかわらず雨は降り止まない。 ナイトはそれきり眠ってしまったようだ。 今はお家にいて寒い事も無くなったけれど、 今度雨に打たれるような事があったら、 今度は僕がナイトを守ってあげるよ。 とソラは心の中で思う。 「だって僕は雨なんか平気だからね。」 そんな事を考えながら雨を見つめていると、 じんわりと空が明るくなってきた。 学校を終えた透が帰ってくる頃、 梅雨の晴れ間のうるんだ水色の空に、淡い虹がかかる。 その事にも気付かないで、2匹の猫は寄り添ったまま眠ったよう。 夢の中でまだ、優しい雨音を聞きながら…。 お し ま い |
2003-06-30