デジ絵本13 +猫と



 「あ、雨だよ、兄さん。雨が降ってきた。」
弟猫のソラが外に飛び出した。

 「本当に雨が好きだな、おまえは。」
呆れ顔で兄猫のナイトがちょっと顔を覗かせる。
「猫は普通雨が嫌いなんだぞ。 そんなに濡れちゃって、早く家に戻れ。」
ブツブツ言いながら、さもイヤそうに兄が窓から呼びかける。
ソラは、「はぁ〜い。」 と、気のない返事をしておとなしく家の中に戻る。

 少しくらい濡れても平気だけど兄が心配するし、
強くなる雨脚で、ずぶ濡れになるのはやっぱりイヤだった。
文句を言いながらも、ナイトがざらざらした舌でソラの毛繕いを始めた。
濡れた身体もあっという間に全部キレイに元通りだ。

 「あいつ、傘を持って行ったかな。」
濡れるのが嫌いなナイトは、珍しく飼い主の心配までしている。
「あいつじゃなくて”とおる”でしょ。」
ソラが言うが呼び捨てなので、あまり変わりない。

 兄のナイトは暗い色の毛並みと、緑がかった黄色い瞳。
弟はソラ。 灰色の薄い縞模様と水色の瞳。少し小柄だ。
まだ子猫といった方が似合いの猫の兄弟。
家にはお祖母さんとお父さん、お母さん、そして高校生の透の4人。
拾った兄弟の名前をつけたのは、透だ。


雨とソラ

 タン タン  …ポツン、  雨の音。

 ソラは何度言われても、雨の音を聞くと、
ついいつまでも雨が降るさまを見てしまう。

 トトン タン  パタパタ、 雨は不思議だ。

 なんだか雨が降ると、眠っているのか起きているのか、
よくわからないような、とろんとした気分になってしまう。
窓の外は暗く、雨はだんだん激しさを増してくる。

 ざあざあ雨が激しくなると、道の端や庭の隅に水溜まりが広がる。
そうして出来る水の縞模様。
窓ガラスにつたう水のすじ。
呆れるほどたくさんの水が、何もない空から降ってくる。
それらはいつ見ても、ソラには真新しい不思議に思える。

ナイトとソラ
 窓の隙間から、じっと雨を見つめているソラ。
ナイトは雨が大嫌いなはずなのに、そうしていると必ずやってきて、
弟の後ろに ぴたりと寄りそう。
だから冷たい雨の日もなんだかいつも暖かい。

 次々にはじける雨の雫が、クルクルと水面を走るのを見ていると、
ソラはぼんやりと思い出す。
初めての記憶はいつも雨の音。

 その時も雨の音を聞きながら、兄弟は冷たい雨に打たれていた。
小さいソラが覚えている限り、
初めて見たものはこんな雨の作る水の輪だった。
絶え間なく、降る 降る雨。 
でも不思議とつらい記憶はない。

 それ以外はぼんやりとしか、覚えていないけれど、
その時も兄が、ソラにしっかり寄りそっていてくれた。

 「それでナイトは雨が嫌いなのに、僕は雨が怖くないのかな?」
ぽつりと言うと、ナイトがこちらを向いた。
「いま何か言ったか?」
慌ててなんでもないよ、と首を振る。
 …その頃の話をすると、ナイトはいつもつらそうな顔をする。

遠い記憶
 タン トタン タンタン
あいかわらず雨は降り止まない。
ナイトはそれきり眠ってしまったようだ。

 今はお家にいて寒い事も無くなったけれど、
今度雨に打たれるような事があったら、
今度は僕がナイトを守ってあげるよ。 とソラは心の中で思う。

 「だって僕は雨なんか平気だからね。」
そんな事を考えながら雨を見つめていると、
じんわりと空が明るくなってきた。

 学校を終えた透が帰ってくる頃、
梅雨の晴れ間のうるんだ水色の空に、淡い虹がかかる。
その事にも気付かないで、2匹の猫は寄り添ったまま眠ったよう。
夢の中でまだ、優しい雨音を聞きながら…。                  


                              お し ま い 

2003-06-30

戻る 次へ