デジ絵本14 +火の贈り物

月とホタル  ある所に小さい生き物がいました。
生まれつき目があまり良くないため、
暗い世界に見ることのできるものは、”光”だけでした。 
 ずっと1人で、気持ちの良い岩陰の巣穴に住んでいました。

 昼間はあたり一面が白く見えますが、
お日さまの光はあまりに強すぎて、
長く見ていると目を痛めました。

 夜、辺りは真っ黒に沈みます。 
星の光はあまりに遠く、離れすぎていました。
月の光だけが優しいのですが、夜毎姿を変えるため、
月が細くなるたびに心に影を落とします。

 夏の夜、黄色い蛍の光のすじが横切るようになりました。
しかし蛍の光ははかなく、
手に取ると二度と光ることはありませんでした。
欲望の火  ある日、枝に止まったおしゃべりな鴉たちの噂話に、
人が使うという”火”の話を聞きました。 
 「それはあたたかくて、美しく、消えることのない小さな火。」
1人きりの小さな生き物は、
火を思ってどんなものだろうかと考えました。

 「もし火があればどんなに良い事だろう。」
とうとう他の事が考えられなくなるほど、
自分だけの火が欲しくなりました。
木の実や虫を食べる事も忘れて、
暗闇に浮かぶ自分だけの火を見つめていました。

 雨がなく、乾燥した日が続いたある夜のこと、
近くの森に火の手があがりました。
小さなものは一目で、これが自分の欲しかったものだと分かりました

 「ゆらゆら揺れて誘う、あたたかくて、美しくて、消えない火。」 
山火事  そして火を手に入れるために、急いで近づいて行きました。
周りには逃げ惑う生き物たちがいましたが、
小さい生き物は何も見えず、ただただ火を目指します。

 やっと手に入れたと思って、手を差し出した途端、
鋭い痛みが走りました。
火に噛みつかれ拒否されたのだと思い、悲しくて悲しくて、
痛みも忘れてもっと近づこうとしました。

 その時後ろに引き戻し、
火のついた腕に土をかけてくれた者がありました。
小さい生き物は訳もわからず、気を失ってしまいました。

 目を覚ますと知らない匂いがします。 
誰かの気配がして、腕には湿った土や、
きつい匂いの草の葉が巻かれていました。 
なんとなく安心して、小さな生き物は動かずにいました。
おしゃべりな誰か  食べ物などを運んでくれながら、
その誰かは、通る声で話しかけてきました。
どうやら鴉たちに負けないくらいお喋りが好きな相手のようです。
 しかしうるさいという感じでなく、風の音がするようなものでした。
小さなものが返事をしなくても、
また目があまり見えないことに気が付いても、
かまわず話しを続けました。

 恐ろしい山火事が起こったけど、雨を呼んで火もおさまったし、
水場が潤ったことや、ツバメが巣立ってもう帰り支度を始めている事。
どれが火傷に良く効く草で、何処にどんな花が咲いたとか。

 そんな話に耳を傾けているうちに、火傷も痛まなくなりました。
後は舐めていたらすっかり治ることでしょう。 
でも小さい生き物は、もう誰かのお喋りが聞けなくなると思うと、
あまり嬉しくなかったのでした。
 その日、声の主は思い出したように、
今度は自分の事について話し始めました。
”ヒバナ”  その誰かは”ハヤテ”というのでした。
そして、小さい生き物に名前がない事を知ると、びっくりして
「それじゃあ、これからなんて呼んだらいいのか困るね。」と言いました。 
そうして小さな生き物に名前をつけて良いかと聞きました。

 小さな生き物はどうして良いか分からず、黙っていました。
ハヤテはあいかわらず気にしないで、話し続けます。
「君は小さくて、きらきらした目をしているから、
ヒバナというのはどうだろう。」

 小さな1人の生き物は「ヒバナ」と心の中で繰り返して見ました。
すると消えてしまったはずのこころの火が、
ぱっと灯ったのを感じました。
 あたたかく、美しく、消えない小さい火です。
”ヒバナ”はやっと自分だけの火を手に入れたのでした。
ヒバナとハヤテ   それからのことは、あまりお話しすることはありません。
ハヤテはヒバナのところを度々訪れては、
またいろんな話を聞かせてくれました。
 時にはヒバナの方から、匂いを頼りに出かけたりもします。

 自分だけの火を手に入れたと思った、一人ぼっちだったヒバナは、
その火はけして1つきりではない、ということにも気付いたのでした。



                     お し ま い

2003-08-15
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