デジ絵本20 4時間目の幽霊

毎日雨が続いて、学校も水の底によどんでいるよう。
空気も重くて、歩いても水の抵抗があるように錯覚する。
きっと気持ちが沈んでいるからなんだろうな。

昨日、隣のクラスの友達とささいな事で口げんかになって、
もやもやと心の中にも雲がかかって、
さっさと謝ってすっきりしたいと思う反面、意地になっている気持ちもある。
昼休み前の数学の授業は退屈で、
窓際の後ろから3番目、早く終われと念じるばかり。
また、ポタリと雨粒が落ちてきた。
隣りの席では、そっとあくびを噛み殺している気配。
時計の針はさっきから足踏みをしてるかのように進まない。

雨の4時間目

外ではますます雨脚が強くなったようだ。
お昼なのに、夕方のように暗い教室
ガラス窓が一面に曇っている。
ちょっと手をのばして、曇ったガラスに指をあてる。
(子供みたい)と子供でしかない私は思う。
『ヒマダヨー』
ガラスに書いた文字が、やがて涙をこぼす。
先生がなにか大声で言ったので注意を黒板に戻した。
梅雨が終われば夏、しかし夏休みの前にはテストが待っている。

何かの気配を感じて窓を見ると、
さっき書いた文字がうすれて消えかけている。
その上の方に、今書いたばかりのような文字がある。
なぜか読めないと思ったら、さかさまの鏡文字になっていた。
『アソブ』という字とクエスチョンマーク、?。
(遊ぶ?)
(遊ばないよ〜。)と思ってからザワッと鳥肌がたった。
 
後ろの席からも前からも届く筈のない場所。
まさか誰かが席を立って書いたのなら、さすがに気がつく。
窓の外?そんなはずはない。
鏡文字だけど、ちゃんと中から書かれているし、大体ここは3階なんだから…。

そう思って外をチラッと見た。
激しく降る雨の中、誰もいないはずの校庭にぽつんと暗い影があった。
こちらをみて笑ったような気がした。

ガタッと大きな音を立てて、椅子から立ち上がった。
クラス中の視線が集まっている。
見たはずの人影はどこにもない。
ただガラスには涙を流す鏡文字が、くっきりと残っていた。
曇り硝子の文字


結局、後ろの席の変わり者の副委員長付き添いで保健室へ。
どこが変わり者かというと、
彼は『副』と名のつく役職が気にいっていて、
ずーっと立候補して副委員長をやっているそうだ。 どうか知らないけど。

何でもないと言い続けていたが、教室には戻りたくない。
昼休みになってもぐずぐずしていたら、
くだんの副委員長と、昨日けんかした七海が連れだって様子を見に来てくれた。

(笑われるよな〜。)と内心思いながら理由を話した。
「学校の怪談ってやつかな〜。」
「うわ〜、それ怖い!絶対戻りたくないよ〜。」
「へんね、この学校では、その手の話はあまり聞かないんだけど。」
笑われる事は無かったようだが、
なんでか保健室の先生、クリちゃんまで話に混ざっている。
クリちゃん先生もこの学校の卒業生。
知ってる限り学校内で、今まで生徒の事故などなかったと言う。

その後なぜか怪談話に花が咲く。
先生も副委員長も好きらしいが、七海までキャーキャー言いつつ話に夢中だ。
一人あきれたけど、恐怖も薄らいでしまった。

保健室で

「でもね〜。」
先生が眼鏡を拭きながら言う。
「そんな話の大半が幽霊という訳じゃないと思うのよね。
ほら、学校って本当にたくさんの子供達が、
毎日、笑ったり、泣いたりして過ごすものでしょう?」

『生徒たちのそんな思いは卒業したら、さっぱり消えてしまうのだろうか、
皆が少しずつ学校という場所に、心を残していくんじゃないのか。
生徒や先生のいろんな思いがあちこちに残っていて、
ふとしたキッカケで、懐かしく語り掛けてくるんじゃないか。』
―そんな感じの事を言っていたのだと思う。

しんとなった私達は、そんな事あるのかな〜?とかいいあった。
先生もちょっと思っただけねと言った。
でもなんとなくさっきの出来事を、怖いだけとは思えなくなっていた。

その後3人で、昼休みが終わるぞ!と追い出された。
クラスに戻る前に副委員長が席を替わろうか?と、言ってくれたのに断ってしまった。
うん、もう大丈夫かな?


大半がお昼を食べ終わった教室で、3人でお弁当を広げる。
雨は小降りになっていたて、窓にはもうなんの痕跡も残っていなかった。
あれはなんだったのだろう?
まだどこかで一人待っているのだろうか。

そういえば、けんかしていたのを思い出して七海に謝る。
「今ごろ遅いよ〜。」
と笑って、こっちもごめんと言ってくれた。
不思議がっている副委員長をみて、また二人で笑った。
こんな笑い声も私が卒業したあとの教室に残っているのだろうか?
そうだったらいいのになと思った。


                             おしまい
2004-07-09
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