+デジ絵本22 不思議研
◇レポート2 『女神の涙』 P1 春休み明けの最初の土曜日。 不思議研のリーダーこと、マリオン・タイラーは理学準備室に向かっていた。 連休中の花冷えで風邪を引いていたが、 昨日今日と暖かい春めいた日和にやっと体調が戻ったようだ。 研究会の活動は朝から始めて昼には解散にするところも多いのだけど、 不思議研はたいてい昼から始まる。 多数決というより一人以外はそちらがイイという事で、あっさり決まったのだ。 ミドー辺りは午前中に他の研究会に顔を出す事もあるようだ。 それにしても今日はいつもより20分ほど遅れてしまったようだ。 「すまん、ちょっと遅れた。」 長身のリーダーはそう言うと不思議研の使っている教室のドアを空けた。 「おっそーい!」 予想に反して聞こえた声に、リーダーは目線を落とした。 「あれ?ゲイル先輩」 運動部を2つ掛け持ちしていて、こちらには殆ど顔を出さない最上級生のゲイル先輩が、 正面に座っていていつものように不敵な笑を浮かべてこちらを見上げていた。 「先輩、今日はどうしたんですか?」 リーダーは横を回って空いてる席に腰を下ろした。 「悪かったな、幽霊部員が顔出して。」 「リーダー、ゲイル先輩ったら腕にヒビ入れたそうですよ。」 1年のクロウが横からなぜかうれしそうに言った。 「腕にヒビじゃなくて、腕の骨にヒビが入ったでしょう。」 どうやら皆でカードゲームをしていたらしいミドーが訂正をいれる。 リーダーはその時になって始めて、 先輩が右腕に三角巾を巻いているのに気がついた。 「ゲイル先輩が?何したんですか?」 このメンバーで1番小柄ながら運動神経のかたまりのような先輩なので、 腕を折ったなんて信じ難かったが間違いないようだ。 「おまえらホントに人の不幸が楽しそうだな〜。」 先輩がミドーとクロウの方に身を乗りだした。 クロウが下がり気味の目を見開いて、大慌てで首を振る。 ゲイル先輩いわく、『休み中に親戚のチビどもを任されて、 公園に遊びに行ったんだけど、 途中の階段で上から2人連れの女の人が降ってきて、 というか足を滑らせて落ちてきてさ。 チビどもとご婦人一人は無事だったんだけど、 もう片方のご婦人がちょっと体格のいい方で、支えたは良いけどこのざまだよ。』 「それでその有様ですか。」リーダーが呆れ気味に言う。 「リーダーならありそうですけどね。」といつもながらかっちり制服を着たミドー。 ミドーは本を手元から離さないが、特に大人しいとか、内気だとかいう訳でない。 運動に関しても、リーダーのマリオンよりはよっぽど器用にこなす。 その点はリーダーも自覚しているところなので、あえて触れなかった。 自分ならたぶん腕の骨折くらいじゃ終わらなかっただろう。 「大丈夫だって、1週間もあれば治るから。来週にはまた幽霊復活するさ。」 「そんな訳ないでしょう、頼むから安静にして下さいよ。」 「安静なゲイル先輩って想像つかないですネ。」 クロウがまた余計な事を言って、先輩に鼻をつままれている中、 我関せずといったミドーがリーダーに尋ねる。 「それで今日の活動内容は?」 リーダーの答えはいつもと同じ。「うーん、今日は自主研究だな。」 「なんだよ、不思議研やる事もないのか?」 先輩がネタを提供してやるといって、左手の指で皆を手招きする。 「校舎の外の林の中に、いつ頃からか石の女神像のようなものが置いてある。 それが時々涙を流すってもっぱらの噂なんだけど…。」 「なんですかそれ、今時そんな子供だましの怪談もないですよ。」 ミドーが思いきり胡散臭そうな顔をする。 「え、そうですかぁ?面白いじゃないですか。」クロウはこの手の話は大好きだ。 「変ですネ、もっぱらの噂って聞いた事もないですよ。」 リーダーもあまり本気で聞いてないようだ。 テーブルに重ねた雑誌に手を伸ばしている。 リーダーとミドーがシカトしているのに、 ゲイル先輩はまるで気にしないようで、クロウと顔をつき合わせて話を続けている。 「はぁ〜、それでその石像ってどの変にあるんですか?」 ゲイル先輩がミドーの方をチラッと見て意味ありげに、 「ん?それはね、ちょうど図書館の真東に…。」と小声で告げた途端。 「図書館の真東?どのくらいの距離ですか?」 ミドーが本から顔を上げて声をあげた。 リーダーは『今日は先輩に付き合わされる事が決まったな、』 と読みかけた雑誌を放り出しました。 ミドーも『図書館検索研究会』に掛け持ちで所属している。 この図書館が怪しいところだらけで、今までに隠し部屋が2つ見つかっているとか、 毎年調査しても蔵書の数が全く合わないとか、 何度片付けても同じ場所に戻ってしまう本とか、 それこそ不思議のネタが尽きないと言われている。 今度は隠し通路があるのではないかというので、ここ数年内密に調査されているのだ。 どうやら外部にも漏れているらしい。 先輩の案内で取り合えず4人が向かったのは、 学校の敷地を出て5、6分も行った所だろうか。 意外に近いので、万にひとつも無いと思っていたミドーも少し興味を持ったようだ。 どの辺りですか?と気にしている。 位置的には図書館の東側に間違いないが、 学校から村へ続く道からちょっと奥に入った、変哲もない林の中だ。 小道が通っているようだが見渡しても特に変わった様子は無い。 「こっち、こっち。」 先輩が木の影から手招きする。 「女神像ってコレですかぁ?」 クロウががっかりした声を上げたのも無理もない。 ひょいと抱え上げられそうな、 膝までの高さしかない古びた石の像が草の影に転がっていた。 一応女性的な曲線の目鼻があり両手を前で合わせているようだが、 どう見ても女神像なんて崇高な物には見えない。 「これ、先輩が彫ったんですか?」リーダーは呆れ顔で指差す。 「オレはそんなに暇じゃないぞ。」 「美術部の誰かが彫ったものが、捨ててあるだけじゃないですか?」 ミドーはもうすっかり興味を無くした様子だ。 クロウはしゃがみ込んでじっと見つめている。 怖い物ではないのでかえって安心したようだ。 後ろを見ようと手を掛けたが動かない。 「クロウの細腕じゃ動かないよ。 一応10何年前ぐらいにはあったという情報があるし、知ってる奴は知ってるぞ。」 先輩は腕を組んで木の幹にもたれている。 「どんな人がこんな物に気がつくんですか?」 リーダーは周りを見渡す。 こんな林の中に来そうな人といえば、ボタニカルアートをやる連中か、アウトドア研か? 「しっ!静かに。みんな臥せて。」 突然先輩が小声で言うと、手で皆を制した。 次のページへ→ |