□デジ絵本25 夜の小鳥

声
月も沈み、冬の暗い真夜中のこと。
誰かの泣く声が聞こえて、
2階の子供部屋で一人の子供が目を覚ましました。
隣の寝台ではぐっすりねむる兄の寝息がしています。
窓をあけてみましたが、
入ってくるのは冷たい夜気だけでした。

あくる夜更け、また声がしました。
兄は目覚める様子がありません。
しばらく耳をすませていましたが、
弟はそっと部屋を出ると、下へ降りていきました。
声は家の外、裏手の方から聞こえています。

寒さに身震いしながらドアを出て、
声のするほうに近づいていくと、
子供部屋の下あたりに小さな青い子供がいました。
大きな眼を濡らし、静かに泣きながら、
家の影に沈むようにぼんやり立っています。
青い子供
「どうしたの?」
「うちがなくなったの…。」
「迷子?」
「ここにうちがあったの、
でも遊びに行ってる間になくなったの。」

家族は建ったばかりの新しい家に、
ひと月前に引っ越して来たのです。
この子供の知らないうちに、
古い家が取り壊されたのかと思いましたが、
ここは荒れた雑木林だったと聞いたように思います。

今夜は世界が凍ったかのようで、
空は真っ黒で氷の粒のように星ばかりが光っています。
弟はぎゅっと両腕に手を回して、
子供部屋の暖かさを思いました。

「今夜はもう中で休んだらどうかな。
朝になれば、何かわかるかもしれないし。」
青い子供は大きな眼で、じいっと弟を見つめました。
弟は寒さのせいか、少し震えていました。

「…道がないからここには入れない。」
「…。」
「道をあけてくれる?」

子供部屋
その時、2階の子供部屋の窓が開きました。
「ミズキ?」
眠ったらめったに起きないはずの兄でした。
「そこで何をしてるんだ?」
弟が説明しようとして横を見ると、
青い子供はもうどこにもいませんでした。

部屋に戻った弟は暖かさと安堵にほうっと息を吐きました。
兄は怒っているようでしたが、
ミルクを温めて、毛布をかけてくれました。

弟は兄に一生懸命見た事聞いた事を伝えました。
道をあけるってどういうことか、
あの子供のためにどうしたら良いのか、
わからなかったからです。

「僕には何も見えなかったし、聞こえなかった。
もう関わっちゃダメだ。」
兄はそう言うばかりです。
今はもう、人とそうでないもの達との道は、
遠く離れて久しくありました。
しんと静かな夜には、もう訪れてくるものもありません。

木の鳥
翌日も寒くて暗い夜でした。
がんばっていましたが、兄は結局眠ってしまいました。
声は聞こえなかったけれど、弟は下へ降りていきました。
青い子供は悲しそうにそっと影に佇んでいました。

「他に行くところはないの?」
「みんなは、ずっとむこうの方に行ったの。」
「君は…行けないの?」
「遠くてどうしても夜のうちに着けないの。」

弟と青い子供は壁に背を向け、少し離れて並んでいます。
青い夜に星明りで、道が白くのびていました。
「…ボクなんとか行ってみる。」
弟の困ったような顔を見て、
青い子供はポツリと言いました。
弟は歩き出した小さな背中を、声もなく見送っていました。

「待って!ちょっとだけ待って。」
弟は後姿に呼びかけると、
足音にもかまわず大急ぎで部屋に戻りました。
寝台の下から宝物の入った箱を持出します。
「どれでも君の好きな物をあげるよ。」
息をきらして、箱の中身を芝生にひっくり返しました。

青い子供は困ったように、
弟とおもちゃをかわるがわる見ていましたが、
そっと木製のおもちゃをひとつ指さしました。
それは家を建てる前、大工さんにもらった木の鳥でした。

夜の小鳥 「この木、知ってる。」
子供は両手で大事そうに鳥を抱えると、顔を上げました。
「…ありがとう。」
はにかんだような笑顔を向けられ、
弟はうつむいてしまいました。

木でできた鳥のおもちゃに、ふうっと息を吹きかけると、
青い子供はクルリと小鳥に姿を変えました。
弟の上を一度回ると、真っ暗な空に飛び立ちます。
その姿はすぐに滲んで見えなくなりました。


いつのまにか降りて来ていた兄が、
そっと弟の頭に手を置いて、
青い小鳥の消えた空を見上げました。

今はただ、
あの青い子供のように泣いている弟のかわりに…。


           おしまい

2006-01-20

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