- 林檎もとろけるチョコレィト・マジック!-
〜二月八日 おんなのこ〜






―鋼の鯱陣営


 息を潜めたひそひそ話は何処から聞こえてくる?
 周囲には誰も居やしないのに、用心に越した事は無い、と言わんばかりに慎重に。
 まるで刺客にでも狙われているのでは、と思える程に少女達は注意深い。
 栗鼠が内緒話するような可愛い微かな声音は絶対秘密の作戦会議。

「んじゃ、どうしようか?問題は材料だよね」
 どっかの砂漠のはっちゃけ王子と同じ色した瞳を、面白そうに瞬かせる。マルーはいかにもわくわくした様子で相談を持ち掛けた。しかし相談された相手は彼女と少々様子が違い、考え深そうに頬に手を当て思案を巡らせる。上向いた若草色の眼が見つめるのは、少女の愛する蒼穹の国だろうか。
「そうですね……けれど、食料の補給はメイソンさんやシグルドさんの管轄ですよ?材料を分けて頂こうとしようものなら、すぐにばれてしまいます」
「うーん、やっぱり自分達でどうにかするしかないなあ」
 マルーの部屋にてマリアと二人、こっそりごにょごにょ秘密・ひみつ。何やら色々と打開策を打ち出そうとしているが、どうにもしっくりくるものが無いらしい。
 誰にも知られてはならない。まあ、一部は誰もが知っているのだけれど…大部分の野郎どもには、何があっても感付かれてはいけない。そこが乙女の難しい所。
 しかし、そんな終わり無い会議に終止符を打ったのは、大教母の閃きだった。

「そうだ、思い出した!」
 さっきまであんな囁き声だったのを、一蹴して。思い出した事が、そんなに嬉しい事だったのか、思わず勢い良く立ち上がりさえして。ぽかんとした表情で見上げてくるマリアに向かい、一層輝きを増したきらきらする瞳で、ずいっとつんのめるくらい前のめりになって。
「確かもうすぐタムズに寄港するんだよ!シグが言ってたの聞いたから間違い無しっ!」
 その言葉に、落ち着き払っていた様子だったマリアも、頬を紅潮させて表情を輝かせる。ぱあっと花開いた笑顔を灯して、合わせた手の平を胸に添えながら。

「なら、その時に材料を購入すれば……!」
「うん。誰にもばれずに、確実に必要なものを揃えられる!」


 二人の少女は額を寄せ合って、くすくす笑い声を零す。楽しくって楽しくって仕方が無い。誰にとっても、ひみつを持つと云うのは何とも悪甘く素敵な事だ。更に、それを共有しあえる相手が居るとなると、楽しみレベルは簡単に倍増以上へと跳ね上がる。
 その胸の奥で、とろとろになっているであろうおもいが、どれだけ甘いあまいものなのか。
 知っているのは本当に、一部だけ。







―天空の楽園陣営


 たまにはこんなのんびりな。四人の娘さんがたは、思い思いに時間を過ごす。
 残酷に平和な天の国。その裏側で繰り広げられる闇をよく心得ている娘さん達。
 自分達の暮らしがどうやって成り立っているのか大体は知っている。
 だからこそ、たまにはこんなのんびりに。

「あら。ねえ、もうすぐあの時期が来るわね」
 白魚のような指で針を操っていた水の少女は、刺繍をする手を休めて、実にわざとらしく話を切り出した。深く閉ざされた双眸なのに、その手の平の内に鎮座する作品は、目を疑う程芸術的で見事なものだった。
「あー、ほんとだー!セラフィー、すっかり忘れちゃってたー。ねえねえどうするトロネちゃん??」
 相方にじゃれついては邪険にされて、それにもめげずじゃれついていた火の娘さんは、ケルビナの声に顔を上げると嬉しそうににこにこし始める。最も、彼女はいつもにこにこしているが。それをもっと深めて。カレンダーを確認すると、またも相方である風の少女にじゃれつきはじめる。
「そだなー。毎年毎年面倒くさいったらありゃしないが……準備しないわけにはいかねーしな」
 いつもならくっつき虫みたいなセラフィータを振り払おうと躍起になるのに、随分と今回は優しい対応である。首にしっかり手を回して背中にべったりくっ付いている相方に、やや茫洋とした様子で返す。体の殆どが機械化されている筈のトロネが、何故か今は頬にほんのり朱を宿しているように見える。

「そうね。準備しなくちゃね。そうでしょうドミニア?」
 いつもと同じ穏やかな笑みを湛えたまま、そしてその裏に策謀を巡らせたまま、またもわざとらしくケルビナは話を振る。先程から一切会話に参加せず、と云うよりむしろ聞かないフリをしている最後の一人に向かって。三人の輪から少し離れた所で、黙々と本に顔を埋めるようにして読む『フリ』をしている大地の彼女に、よく聞こえるように。やや大仰な口調で投げ掛ける。
 ケルビナの予想通り、必死に無視を決め込んでいたドミニアが、掛けられた言葉に一瞬びくりと肩を震わせた。本で顔を隠しては居るが、その表情はきっと今頃激しく動揺に染まっている事だろう。
「どうするの、ねえドミニア。買い物に行かないの。今から準備しないと間に合わないわよ。貴女こう云う事に関しては、人並み外れて不器用なのだから。去年だって大騒ぎした挙句完成まで丸々一週間費やしたのを、貴女まさかもう忘れたわけでは無いでしょう」
「あのな……っ!!」
 すらすらと文字通り流水のごとく差し向けられる言葉群に対し、遂にドミニアが音を上げた。ここまで好き放題言われて彼女が黙っているわけが無い。反論しようと頁に埋もれた顔を上げるが、これだけ赤くては説得力など欠片も無い。
 昔々の何処かの国で。岩屋に隠れた太陽の神を引っ張り出した話を思い出しながら、ケルビナは満足げに相棒へ微笑みかける。大層にこやかに。見事に彼女の作戦が成功したのだから。
 思わず姿を現してしまった事を、今更ながら不覚と気付くドミニアだがもう遅い。どう考えても水の少女の術中にはまってしまっている。
「それとも。もしかして、今年も私に手伝わせるつもりだったの?」
「…………っ!!」

 図星をつかれたのか。それとも屈辱の余りなのか。多分本人にも解っていないだろうが、ドミニアの頬のそれこそ真っ赤以外の何者でも無くなった。火が零れ落ちそうなくらいに熱を帯びている。元々地黒な彼女がこんな風に完熟林檎なのだから、その赤さ推して知るべしである。
 そんな様子を見たセラフィータが、あードミニアちゃん真っ赤ー可愛いー♪、なんて言うものだから、トロネさえそれに混じってからかい始める。当然甘んじてそれを受けるドミニアでも無く、先程までの我関せずっぷりを投げ捨てて、普段では考えられないくらい取り乱した声で怒鳴りつける。全く説得力の無い怒鳴り声で。
 ぎゃあぎゃあと大騒ぎしている三人を微笑ましげに見つめていた事の発端は、ふいにぱんぱんと手を打つ。そしてやかましい娘さんがたの注目を集めると、引率の教師めいた口調で、さあ買い物に行きましょう、と持ち掛ける。
 すぐさまそれに反応するのはセラフィータ。うわあい皆でおかいものー♪おかいものー♪、と遠足前の子供めいてはしゃいでみせる。トロネはトロネで、出掛ける準備を始めるし、これでドミニアは執拗なからかいから漸く解放された。一息、重いおもい溜め息を零した相棒に、水の少女はお疲れさま、とでも言いたげに微笑みかける。

 そして数分後。世にも珍しく、エレメンツの四人が揃ってお買い物に出掛けたとさ。道行く人々が皆何ごとかと振り返るが、本人達は至って気にした様子も無い。彼女達の存在は国中で有名であるので、知名度は相当なもの。だから視線に晒される事など慣れている。
 ―…最も、今回は一人を除いて。


「ほらね。一人じゃ買いに行けなかったんでしょう?」
「……悪かったな」


 普段行かないような店の扉をくぐって。まだ頬を紅潮させたまま、ドミニアは不貞腐れた眼差しをよそへ逸らした。そんな相棒の反応を楽しそうにケルビナは微笑んでいた。
 恋敵の手伝いをするなんて、私は何をしているのかしら、と内心苦笑しながら。













その日の日記より:

毎日更新二日目!無事にやり遂げられる事を祈ります。
あっちこっち視点が移動してますが、人を沢山書けるので楽しいです。

こんばんわ、少々慌てておりますもえぎです。
本当なら、今日中に五日目分まで書き進めておく予定だったのです。
けれど……体が。
昨日二人乗りしていた自転車の後部座席から見事に転落しまして。
最初は何ともなかったのですが、今朝起きたら体がぎしぎし。
右足の間接とか、右あばら骨とかがおかしいです。
頭を打っていないのにも拘らず変な頭痛とかしますし……。
ずっと横になっていた所為で、全く書き進めていないのです。
わー、早くも破綻の予感がー(汗)明日こそはりきって書かないと!
何かフェイエリィでは無くなってきたような気がしないでもありません。
どちらかと申しますとソラリスの方が書いてて楽しかったり……。
特に、ミァン。今までは散々話のオチにさせて頂きましたが。
今回はお茶目なミァンや、母なミァンや、色々書く予定です。
平和なソラリスって、ありえない筈ですが楽しいです。
さあお誕生日に向けて、きりきりエンジンかけないと。














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