| - 林檎もとろけるチョコレィト・マジック!- 〜二月十三日 決戦前夜〜 |
こんなに遠く離れているのにどうして同じ? 何もかもが、こんなにも違っていると云うのに、同じで。 言語も人種も立場も信条も、果てしなく異なっているのに。 それでも同じ。遥けき天と横たわる地。そしてその狭間も。 今は誰もが一緒。どんな相違点もありはしない。 こなたもそなたもあなたもどなたも。 今日は台所を駆けずり回って大騒ぎ致しましょう。 ―鋼の鯱陣営 老いも若きもおおはしゃぎ。ボウルの中身を泡立てたり、焼いた何かを取り出したり。そんな間もあちこちで交わされる会話は途切れる事を知らない。誰もが話したくって仕方が無いのだ。自分が作っているものが、どれだけ手の込んだものであるか、ほっぺが落ちるくらい美味しいものであるか、そしてそれを誰にあげるのか。既婚者未婚者問わずこの未知のイベントに、かなり心奪われている様子。 覚束無い手元で、さも頼りなさげに作業を進める若い子に、年長者が優しく指導をしてやったり。助言を与えたり。手順が分からなくなったりしたら、積極的に誰かへ訊いてみる。尋ねられた側も、自分の知識を求められているのが嬉しいのか、快く親身になって答えてやる。 ユグドラシルに乗艦しているほぼ全ての女性が今ここ台所に集結している。流石に作業シフトの関係等で来られない人達は除くが…彼女らとて、縛られる時間が終了すると共に、ここへとすっ飛んで来るだろう。 少々年かさの女性が、傍らで真剣にお菓子の盛り付けをしている、銀髪の少女に気付いた。その様子を見て、こんな可愛い子にこんなに一生懸命作って貰ったお菓子を貰う果報者はどいつだろうねえ、と独り言にしては随分大きな声で口にした。びっくりした少女が驚いて、雪白の頬を苺のように染め、耳まで真っ赤にしているのを見て、皆笑った。本人にしてみたら恥ずかしい以外の何者でも無いだろうが、そんな様子がまた愛らしくて、笑い声はなかなか止まない。 こら皆ーあんまりからかっちゃ駄目だよ、と、この艦の若き長の従妹である大教母が銀髪の少女をかばう。しかしそれくらいで、噂好きで人の好い女性達がとどまるわけも無く、今度は彼女自身が対象となってしまう。 からかいの声だがそれは決して悪質なものでは無く、嫌味も裏表も無い、ただ親愛から成っているものである。まあそれでもやっぱり恥ずかしくはあるが。マルー様が贈る相手なんて分かりやすいよねえ、これでお国が再興されたらニサンも安泰だよ、あたしゃ婚礼が今から楽しみでさあ、などなど。普段から彼女が必死で考えないようにしている事、人から言われる度に慌てて否定してきた事。それをあっさり堂々と言われてしまい、こっちもまたも真っ赤。そしてまた豪快な笑い声が響き渡る。 こちらは周囲の視線を一身に浴びて。高らかな笑い声では無く、感嘆の溜め息がそこかしこから洩れる。とてもとても数日前まで手際の悪さに苦戦を強いられていたとは思えない手捌き。そもそもこの艦に、こんな行事を伝えた、暁色の髪を持つ少女。 お料理歴二桁を誇るおばちゃん達をも圧倒する、そのセンスの良さ、飾り付けの美しさ、発想の豊かさ。それらの全てを彼女は持っており、その細く長い指から生み出されるお菓子の数々は、そりゃあもう何とも言えず素敵だった。きらきらと光を宿して見えるのは、決して飴の雲の所為だけでは無い。本当、数日前まで半泣きで走り回っていたとは思えない。 そんな豹変っぷりを間近で見、当時の取り乱しっぷりを唯一知る翠緑の少女は、無言のままハート型のお菓子に可愛いリボンをかけていた。 かつて天空の楽園に居た少女のもたらした一風変わった風習。 それは今や宇宙トネリコの名を持つ艦に暮らす女性達に伝えられ、瞬く間に広まった。 何も知らない、分かっていない大部分の男どもには秘密のまま企みは進行する。 さあ明日は最終決戦。結果がどう転ぶ事か、見当つくやらつかないやら。 なんもかんもが初めてで、さてさてどうなるラストバトル。 笑い声と甘い香りにに満たされた台所は、明日の舵取る艦橋めいて? ―天空の楽園陣営 国いっぱいに笑い声は満ちて居るけれど、それは先程に比べて、そんなに胸のすくような類のものでは無い。何処か虚ろな風に笑っているように思えるが、かの国においてそれに気付くのはごく少数。むしろ気付かないのが当然。それが彼らにとっての『当然』だから。 贈る相手、それは己の伴侶。国が計算に基づいて導き出した、遺伝子上最も望ましい相手。後は職場にお義理をばら撒いてみたりするのみで。ほぼ、義務的な。そんな雰囲気。 まあそんなものを一蹴するような人達も一部には居るけれど。 目の前にあるものを感慨深げに見つめる。まるで、それそのものが照り輝いて居るかのように、神聖なものに向ける眼差しで。ただ溶かし直して固めただけの黒い物体だけれども、今の彼女にはそれ以上の存在に映る事だろう。子供のように大きく見開かれたその瞳が全てを物語っている。 さあ後は明日がくるのを待つだけよ、そう言って傍らで、彼女を支え続けた水の少女が微笑む。がんばってたねえー、まあよくやったんじゃねえの?、仲間達が様々に感想を述べる。数日間に渡った彼女の激闘っぷりを、よく心得ているから。慣れない作業に、額に汗しながらも一生懸命、たった一人の為に努力し続けていた。それはお世辞にも上手とは云えないやり方ではあったけれども、この際そんなのもう二の次。 そっと。小さなそれをおそるおそる手に取って、手の平に収めて。彼女はちょっと見ただけでは全然分からないような、普段は絶対に浮かべないような、僅かな微かな笑みを口元に宿した。 それは、大地の彼女を、とても可愛くみせた。 全ては明日。天の国にも、地上にも、全て配送は完了したと知らされた。乗っているこの艦にだって、各乗組員の部屋に直接それは届けられる。これでもう彼女には何の憂いも無い。 彼女はやれやれとばかりに、自室のソファに腰を下ろした。一息ついているように見えても、その怜悧な頭脳では次なる策謀が泉のように滾々と湧き出している。 さて、と当日の行動をシミュレートしてみる。どうせ手渡しする相手の数などたかが知れているし、その時にはいつものように、優しく艶っぽい微笑を浮かべておけば良い。そしたら相手はそれだけで大喜びして、感動するのだから。実に単純だ。 けれど一つだけ。 ちらり、と視線をすぐ目の前の机に向けた。そこには、小さな箱ひとつ。良く言えば素朴、悪く言えば粗末な箱ひとつ。一応申し訳ばかりにつけられている飾りも、細い麻紐一本だけ。それが余計にこの小箱の持つ雰囲気を、地味でつまらないものにしている。しかしそれでも彼女は満足げに微笑むと、むしろそう見える事が嬉しいとばかりに、微笑むと。つん、と尖った爪でつついてみた。 贈るのは貴方だけ、ね。そう、インディゴブルーの艶を宿して、囁いて。 こっちも当然最終決戦。迫り来る運命の日。 そう真剣に捉えられてはいないけれど、局所的には途方も無く真剣に迎えられる日。 あちらこちらに笑みは咲いていてもその意味は深く違う。 様々な策謀の果ての笑み。色々な研鑽の果ての笑み。 敵も味方も。本来はそうして分かれるのだろうが、何故だか協力なんてしてしまいながら。 月に近い国の夜は静かに更ける。 その日の日記より: 連続更新も漸く七日目、一週間。遂に明日が最終決戦です。 ……間に合うのでしょうか(汗)いや、間に合わせなければなりません。義務。 こんばんわ、明日で終わるかどうか綱渡りなもえぎです。 今日一日で八割は書き上げたかったのですが、まだ五割抜けた辺りです。 ですから今夜はネット徘徊控えて地道に書こうと思います。 連続更新の最終話を書いている途中ですが。困りました。 おもいっきりはずかしくて倒れそうです(笑) うわあやっちゃった…やっちゃったよ自分……、となるくらい恥ずかしいです。 ちょっと調子に乗りすぎたかもしれません。むしろ悪乗りです。 書いている本人がこんな状況でどうなんだ、とか思いますがどうにもなりません。 本気で恥ずかしいんです、恥ずかしいったら無いんです。 ポプで思う存分書けない分(書いてはいけない分)こっちではっちゃけました。 しかしこれ…人様の目に晒して良いものかどうか……。 色んな試行錯誤の果てに、明日は更新しているやもしれません。 むしろ更新出来ていないやも(笑)とにかく間に合わさなければ。 今回はのびのび書いているのですが、のびのびしすぎでしょうか? いつもは自らに色んな制約を加えて書いて居ますが、今回は解除しています。 その顕著なものが『固有名詞以外可能な限り外来語カタカナ語使用禁止』の制約。 『テーブル』とか『マント』とか、そう云う。 何せゼノの場合、そもそもの固有名詞が多いのです。人名もそう。 しかもそれらは全部カタカナ表記です。 『ギア』も『ゾハル』も『フェイ』も『エリィ』も(笑) ですから読んでいる間、余りにもカタカナばっかりだと読み辛いと思いまして。 小説を書くと人名とか固有名詞だけで十二分にカタカナに満ち溢れてしまいます。 そこへ更にカタカナを大量に持ち込むと、もう何がなんだかです。 後、わたしは日本語が好きなので(笑) 外来語を日本語に無理矢理直して使ってみたりして誤魔化してます。 絶対にこれは外来語で無ければ駄目!な時以外は、殆ど使ってません。 日本語の響き、綺麗ですよね?ふるいことばは特に。 最近おぼえたての『たまゆら』(笑)だって漢字で『玉響』。綺麗! しかしのびのびしすぎ人様の目が憚られるようなものを書くのはいかがなものか。 トップへ |