我らの歌姫
山口百恵「静」の巻

 さて、そろそろ真打ち登場といきましょう。
 我々の世代にとって、「山口百恵」という名は、なんと表現したらいいものでしょうか。歌の対象とする領域の幅広さと共に、まさに3分間のドラマと言うしかない世界へ一瞬のうちに誘う魔術のような歌唱力。そして「ポスト百恵」という言葉に押しつぶされていった無数の歌手達。

 そう、「山口百恵」というのは、一つの事件だった。(マリームみたい) 先にも後にももう二度と遭うことは出来ないことを、あの時代の誰が思ったことだろう。しかし彼女は見事に自分の幕を引いてみせた。もし、あの後も歌っていたら、どんな歌を聴かせてくれただろう、と思うこともある。しかし改めて彼女の歌を聴いてみるとき、やはり彼女は「山口百恵」という作品を見事に完成させていたことに気づかされる。

 今回は、小生が気に入っている彼女の曲の内、「静」の印象を受ける、主にスローからミディアムなテンポの曲調のものについて語らせて下さい。


 乙女座宮

 何故だろう。私はこの曲がとても好きだ。出だしが、同じく気に入っているキャンディーズの「アン・ドゥ・トロワ」に似ていることもあるが(実は全体の曲調自体も結構近いものがある)、何はともあれきっと私が「乙女座」のせいだ。
 歌自体が占星術みたいなもので、とにかく壮大である。銀河大陸横断鉄道である。(銀河鉄道999か?) 
 百恵さんとコーラスが掛け合う歌詞がとってもいいし、なんとも宇崎竜童特有な引っ掛かるようなギターの音色がいい。こういうミディアムなテンポをさりげなくのびやかに歌うのは、とっても難しいと思います。昨今の息継ぎがハアハア聞こえてくるような半端な歌手には歌えんでしょうな。
 この歌を聞いていつも疑問に思うのは、「友和って獅子座か?」ということ。まあどうでもいいんだけど。

 ああロマンチックっす。いいっす!! 乙女座でよかったあああああ。

 Be Silent

 これがねえ。なかなか意味深なんですよ。これだけ替え歌された曲もないんじゃあないかなあ。もっとも肝心なところは「サイレント=沈黙」だから、どんな言葉で埋めようと構わないんだろうけど。

 まあ、ベストテンなんかでは、久米宏が「一体なんと言っているんですか??」と追及して百恵さんも無難な言葉を答えていたけど、これは日本の歌詞の中でも実に素晴らしい「発明」ではないかと思います。何も言わない、ということで単純な歌詞よりも深遠な想像力で聴き手が補完することが出来る。人それぞれの「Be Silent」があるわけです。 深い、深すぎる。

 またこのメロディーのリズムがいいんですね。釣り針でくいっくいっと引っかけながら持っていかれるような「気を持たせるような」リズムは、これもまたとっても素人が歌えるものではない。ましてやその上に雰囲気を持たせるなんてことは、百恵さん以外は不可能ではないだろうか。

 これも絡むギターが淫靡でいいですねええええ。

 愛染橋

 これは、堀内孝雄作曲だったのではないですかね? 曲調はアリスの「秋止符」に似ていないこともない。まあそういうことを言っては無粋というもの。

 それにしても、「結婚」というものの本質を見事に捉えている歌詞ですね。この歌を結婚前に全てわかってしまっている女性ってちょっとこわいかも。途中から関西弁(京都弁?)に変わるところは、優美なようだけど、それが逆に背筋が凍るような凄みがある。今まで一体何人の女性が、渡りたい渡れない、と逡巡しながら「愛染橋」を渡っていったことだろう。髪の先まで飽きられるときが来ないとも限らないという不安を抱えながら。

 この曲も、弦の高音がビブラートをかけながら下降するフレーズが巧みに使われていて、それが恐怖感を煽るようだ。
 なんか「こわい」しか言ってないみたいで、「それじゃあ何がいいんだ?」ってことになるんだけど、それがわからない。でも好き。なんか足を突っ込むと抜けられないような魔性の歌である。あなたも、もう一度聴いてみて下さい。

 いい日旅立ち

 まあ、この曲については既に登場してはいるのですが、それにしてもこの曲は出来過ぎなくらい良い。谷村新司が時々歌ってはいるけど、出来ればやめて欲しい。作曲者には悪いが、この曲は百恵さんで必要かつ十分だ。

 この歌の印象的な場面は、やはりベストテンだったと思うけど、雪がちらついているなかを純白のドレスを着た百恵さんが、ゆっくりと歩きながら歌っていたところ。薄化粧で。いやあ、なんとまあ完ぺきなシチュエーションなんだろうと思いました。

 サビのフレーズは、せつない祈りであり、決して果たされることもないだろうと思わせる「はかない」生き様であると思います。でもそう思わないで、誰がこんな孤独な人生という旅を渡っていけるでしょうか。
 私もこれまで数々の別れ道を経てきましたが、その度ごとにこの歌詞を心の中でリフレインさせていたような気がするのです。

 曼珠沙華(まんじゅしゃか)

 本当は「秋桜」かなんかでまとめるのが無難なのでしょうね。でも私としては、ちょっと冗舌な歌詞が興をそぐような気がして、「愛染橋」の方に分があると思ってしまうのです。これはあくまで個人的な好みなのでご容赦のほどを。

 さて、これはまあ「真っ赤」な歌です。それは「血の色」であり「火の色」であり「情念の色」であり、何より「女性の色」だと思います。この色が似合う歌手にはもう一人石川さゆりさんがいますね。

 このタイトルを「まんじゅしゃげ」でなく、「まんじゅしゃか」としたところが、音声学的に素晴らしい効果を上げていると思います。同じ意味なのにこれだけ印象が異なるのですから。

 この歌の怖いのは、ラスト。
 クレッシェンドしながらギターが同じフレーズを無限に繰り返しながら、サッと消える。何か頭がかきむしられるような感じ。
 なんでもフェイドアウトさせりゃいいってものではないんです。


 いかがでしたでしょうか。「しなやかに歌って」なんかもいいんですけど、無理やりベスト5にするのに泣く泣く省いてしまいました。何もそんなストイックになることもないか。

 ということで次回は百恵さんの「動」の巻の予定。乞うご期待。