まず、かのリハーサルビデオです。
白黒の画面の中には、私がまだ見たことが無かった若々しいクライバー。
そして彼らしい颯爽とした早めのテンポでリハーサルを始めます。やがて彼らしく早口で手振り身振りを豊富に使った巧みな指示。どんどんオーケストラの響きは生き生きと表現力を増し輝きを加えてきます。もう恋い焦がれるた阿呆のようにただ画面を見つめている私でありました。
彼の楽員への指示は、非常に感覚的です。そして演奏の仕方を口まねで的確に表現していきます。
例えば、スタッカートを強調して欲しい時には、『「タタタッタタタッ」ではなく「カカカッカカカッ」なんです。スーパーなスタッカートで!!今の音価が5%ならその半分でいい。』と。
そして歌劇の序曲のためでもあるのでしょう。「この場面はくすぐるように」「ここはわざと大げさに表現して喜劇であることを強調するように」「ここは女性がしなやかに歩くように」などといった演技を演奏者に求めることもあります。
さらには、「ここのオーボエは歌うように。そうだな・・・『やだなあこんな曲早く終わらないかなあ』という感じかな」とか、「ここのバイオリンは激しく怒りを込めて!!『こんな指揮者ぶん殴ってやる』というように。皆さんそんな顔していますものね。」とかいうようなユーモアあふれる箇所もあります。
彼の指揮の根本は、次の言葉によく表れています。
「皆さん、僕にもっと音楽を楽しませて下さい。指揮者など必要ないくらいに皆さんが表現豊かに楽しんで演奏して欲しいのです。」
なるほど。何よりも彼の演奏を楽しんでいたのは、彼自身だったか。
いずれにしても、いままでさほど好きでもなかった「こうもり」序曲が、こんなに表情豊かで深い音楽であったのか、と認識させてもらったことでした。
彼の名盤は、さすが数が少ないだけあって選ぶのは大変ですが、残念ながら(本当に!!)あまり歌劇に詳しくない私としては、ベートーベンの交響曲第4番と、同じく第7番ののライブ録音を挙げたいと思います。
どちらもベートーベンの曲の中ではあまり知られていないものですが、それらを一気に好きにさせてくれたのがこの録音でした。
第4番のこれほど生気あふれる第一楽章は聴いたことがありません。序奏の後半から今にも爆発しそうなバイオリンを無理に押さえ込もうとせず、そのまま一気に主部のアレグロ・ビバーチェへ飛び込みます。少々オーバースピード的なテンポに、展開部でのロ長調の部分でチェロが一時乱れますが、それもなんのその。あっという間にコーダに達し、疾風のように飛び去ってしまいます。この快速な流れは第4楽章でまたまた我々を魅了します。再現部のファゴットがすごく大変そうです。
同様なことは7番にもいえますが、これ以上私がゴタクを並べるよりも皆さんに実際に聴いてもらった方がいいでしょう。フィナーレの最後は興奮のるつぼで圧巻です!!
先のビデオには、1992年の彼の演奏による、「コリオラン」序曲、モーツァルトの交響曲第33番、ブラームスの交響曲第4番も収録されていました。この中でも、「コリオラン」序曲は、まさに雄々しい英雄そのままの激しくもせつない感情をそのままたたき出すような、素晴らしいアレグロ・コン・ブリオです。出だしの長いハ音に続く短い強和音が突き刺すように心をえぐります。それに対照するような第二テーマの歌わせ方も心得たものです。
彼にかかると、オーケストラ全体が劇団の俳優のように情熱的に吼え、哀しみにむせび、喜びを爆発させます。
そう、なんか熱くさせてくれる指揮者なんですよね。
こういう譜面には表れない、「作曲家の頭の中で響いていた音楽」を導き出してくれる彼には、もっと長生きして、出来ればなんとかベートーベンの交響曲だけでも全曲録音して欲しいのですが、これも彼まかせですね。
今回は失礼して私のクライバーへの思いを一気に語らせていただきました。それでは皆さまごきげんよう。