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一冊の本があった。 ただ中央の見開きに翼を広げた竜の木版画のある、それ以外は白紙の本である。 その本にはひとつの目的があった。 その本を手がかりに、ある目的地までたどり着く事のできる能力を持つ人物を判別するという目的があった。 その本を創った男は、そういった人物を求めていた。 そういった能力を持つ仲間を探していた。 殺人現場から押収されたばかりのその"竜の本"は、その時にはそうと気付かなかった(そして最終的には文字通り)致命的な判断ミスにより、捜査に当たっていた天老院陰陽局調査班第四班の事務所より持ち出され、奪われた。 持ち出すという過ちを犯したのは、同班の一員である伊綱建人。本を奪って逃走したのは彼の敬愛する祖母の伊綱紫。 紫は孫の建人を欺いて本を持ち出させ、強奪して行方を眩ます。 彼女は、"竜の本"が導く先を知っていた。そして、そこへ行きたがっていたのである。 祖母を取り逃がした建人は焦り、ふたつ目の過ちを犯す。たった一人で彼女の後を追うという過ちを。 天老院陰陽局調査班第四班は火神局長の許可の下、独自裁量権を得てこの事件の解決に当たる。 一方、本が発見された現場から消息を絶っている英国人の教授から事前に救いを求められていた法王庁の派遣した一人の女聖騎士は、救わねばならぬその英国人の軌跡を求め、彼らと共に本を追うのだった。 "竜の本"を奪った紫は、本の創り主・ドラクリア(人間であった時の名をヴラド公と言う)の下に辿りつき、その眷属に加わっていた。 "竜の本"に興味を引かれ、紫と行動を共にしていた黒衣の魔人・小鷹禮二もまた、ドラクリアの目指すものを知り、それに協力をする。 事件現場から失踪していた英国人の教授もまた眷属に加えられ、その目的の為に協力させられていた。 ヴラド・ドラクリアは、この地上に溢れる叡智を集めた蔵書室を作ろうとしており、書物に対する同じ愛情と情熱を傾けられる人物を求めていたのである。 その目的に対し、伊綱紫と小鷹禮二は近代的な思考を以って提案をした。 現実世界に蔵書室を建造するよりも、ネットワーク上にそれを構築した方がより良いのではないか、と。 中世の思考で止まったままのヴラド・ドラクリアには思いもよらなかった事だった。 その発想とその発想が秘める無限の可能性にすっかり魅入られた彼は計画を二人に任せた。 任せられた二人は、紫の電気を司る《雷》の異能力と小鷹の空間を統べる《氷》の異能力を以って、《電脳世界》を創造する。 そして、それは人間が作ったものとは異なり、《仮想空間》ではなかった。最終的には、《精神》の異能力によって魂をその中へ移住させる事の出来る、新しい別世界だったのだ。 単独で祖母を追う建人は、祖母が吸血種になってしまった事を知り、飢えに苦しむ彼女に(悲しみつつも)自分の血を提供する。 孫は祖母にこれ以上他者の犠牲を出させないようにと願う。数か月前に、獣人種としての本性に目覚め人外であることが判明した自分なら、僅かな血を失ったとてすぐに再生することができるからだ。 祖母は孫に自分の世界へ来て欲しいと願う。幼い頃から自分と同じように書物に興味を持ち楽しむことができたこの子なら、きっと《あの世界》を理解してくれる。そして、陰陽局などという血なまぐさい危険な世界から去ることができるからだ。 互いの愛情に気付かず(そして気付いたとしても理解することは出来なかったであろうが)、二人の想いはすれ違ったまま、事は進む。 天武八家に祖母を連れ戻すことを諦めてもはや追っ手を振り切って身を隠させるために祖母を追い続ける建人に、ようやく追いついた第四班と彼らとともに追跡に当たっていた者たちは、彼が吸血種の絆によって我知らず祖母の支配下にあることを看破する。 一同は、現実を見ようとしない建人を叩き伏せて連れ戻し、どうにか状況を判らせると、全ての元凶たるヴラド・ドラクリアを斃すべくその後を追ってロンドンへと渡った。 しかし、追う者と追われる者のすれ違った愛の結末は、決して良い物にはならなかった。 自らの手で決着をつけるつもりでその実、罠にかかって、単身で祖母の後を追う形にさせられた建人は、紫に欺かれて致命的な三回目の吸血を受けて、完全なる"ドラクリアの眷族"へと変貌させられてしまう。 追い付いた第四班と法王庁の女騎士は、"血族"への愛と"盟主"への忠誠に屈せられようとする彼を寸前で引き止め、血親である紫を滅ぼし、辛うじて仲間のそのヒトとしての意志だけは守り通すことは出来たがその身体から呪いを取り除く事は叶わなかった。 一同は更にドラクリアを追ったが、時既に遅く、彼らは《電脳世界》へ旅立った後だった。残されていたのは、棺に納められた吸血種の肉体だけであった。 法王庁の聖騎士は、ドラクリアの血の呪いを断つために、残された肉体を滅ぼす。 ドラクリアに連れ去られ不本意ながらその目的に従わされていた英国人の教授は、この聖別により無事に救われて人の身体と心を取り戻すが、それは神の救いを信じていた者にだけ訪れる神の奇跡であり、その他の犠牲者たちが救われる事はなかった。 《電脳世界》に旅立ってしまったドラクリアとその眷族を追う事もできず、この事件は幕を閉じた。 こうして、広大なる電子の《海》に一人の魔人が誕生したが、それがどう言った意味を持つのか判明するのは7年後の事である。 |
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◇バラクル 男性/??歳 所属:不明 異能力属性:???(魔人) memo: オンラインッセッションの真のボスだったのだが、最終決戦時に電脳空間への追撃が行われなかったため、二式キャンペーンに繋がった。 上記の通り、本当の名前はヴラド=ドラクリア。かの有名なドラキュラ伯爵である。 粗筋には明記しなかったが、物語の舞台は日本→イスタンブール→ブカレスト→ロンドンと目まぐるしく変わり、途中、テンプル騎士団や英国黒月夜会の介入など国際色カオスな展開をした。 一見、つながりの全くないパーツが一斉にそれぞれの思惑で動いて混迷を増す、と言うのがオンラインセッションでのコンセプトだった。そして、それぞれの思惑がそれぞれ噛み合わず、擦れ違う悲劇というのがテーマ。 話は戻って、この御大ドラクリアだが、セッション中に一切登場しなかった。実際に会った人の証言だけで、最後にPCの前に見せたのは既に《魂》の去った抜け殻の肉体だけだったのだ。今思うと、何というボスらしいボス。 |
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◇武田円造(タケダ・エンゾウ) 男性/60歳 所属:独立退魔部隊カグツチ 参謀本部所属 異能力属性:水(天稟) memo: オンラインセッションでのPC。石橋と魂の形が同じ。 天老院陰陽局調査班第四班の班長で、部下である伊綱の独走(むしろ暴走)を自分たちの手で食い止めるために火神朱人局長に直談判し、海外捜査の許可を取り付けた功労者。 元々は、火神朱人と同じチームを組んでいた(と言う設定の)バリバリの戦闘派。実に熱血なおっちゃんでした。 余りに体育会系な熱血のため、実はこっそり文系の伊綱建人の性格に合わず説得の熱弁が滑っていたと言う哀しい話もある。 |
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◇伊綱建人(イヅナ・タケヒト)/大神迅夜(オオガミ・ジンヤ) 男性/??歳 所属:大神一族 異能力属性:雷(夜族) memo: オンラインセッションでのPC/NPC。PCとしては御影信とバディの関係だった。 出自が『孤児』で天武八家の人間と言う変なキャラクターを作った挙句に、実は神狼でしたと言う演出をセッション真っ最中に行ったため、かなり稀有な存在に。 様々な相反の二面性を持つ人物。書司局を統括する伊綱家の一員にして、火神家統括の陰陽局所属。天武八家の一員にして、天武八家に反目する神狼一族の長。獣人種にして吸血種。そして二式に至るや、魔人にして人類の味方。 セッション2で初登場した大神焔は彼の実の息子だが、オンラインセッション中の時期に後述の大神結愛との間に設けられた子である。上記の通り、建人/迅夜の肉体はセッション終盤で死亡し、現在は真っ当な子供を作る事が出来ない為、焔が唯一の一族の後継者となっている。 |
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◇御影信(ミカゲ・シン) 男性/39歳 所属:天老院陰陽局本部長 異能力属性:影(天稟) memo: オンラインセッションでのPC。御影鈴と魂の形が同じ人。そして、叔父でもあるらしい。 伊綱建人とはバディの関係だったが、大概の方向性が逆を向いていた。堅物で生真面目で几帳面と礼儀知らずで不真面目で大雑把のコンビ。それでも成り立っていたのは、恐らく、陰陽局員としての自負と誇りは同一だったためだろう。 その割には、部外者(天老院以外の異能者)を簡単に事件解決に協力させる所もあり、その時だけは嘆息する役目が入れ替わるというネタもあった。 セッションのエンディングで建人は天老院を辞めて大神一族を率いる立場を選んだが、その際の後工策をした一人。戸籍や死亡届などの公的書類の改竄を手回ししたのは彼。ちなみに、天老院内部での記述や記録を改竄したのは伊綱家繋がりの人達で、隠れ家や異能機関の協力で援助したのはPCに居た風間家の人物である。 |
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◇バルトロメオ・ヴィッタディーニ 男性/39歳 所属:法王庁記録課 異能力属性:雷(魔書) memo: オンラインセッションでは、黒の司書ゾフィアの封印を守る役目についており、禁書を含めた様々な蔵書から得た多彩な知識でPCの捜査を大いに助けた。 ウラド=ドラクリアについての真実の結末をちゃんと理解しており、セッションが終了した後も密かに状況を監視し続けていた為、今回のセッションに繋がっている。 |
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◇大神結愛(オオガミ・ユア) 女性/??歳 所属:大神一族 異能力属性:光(夜族) memo: 生ける死者となってしまった迅夜に代わり、大神一族の当主の座に就いた妻。オンラインセッションでは、大神一族の長の家系に仕える家柄・守屋の一族の生き残りとして登場した。 大神一族の生き残りと知られないまま、天武八家に保護されてしまった大神迅夜=伊綱建人をいつの日か取り返すため、望月家の一員に加わって時を窺っていたという気の長い人物。 伊綱建人が夜族覚醒し、更には騒動を起こして逃走したため、好機とみてその逃亡を助け大神の盟主への返り咲きを求めていた、シナリオの本筋に全く関係のない癖にPCらの邪魔をするという困った役回りである。 登場当初の彼女は、大神一族を守護する守屋の一族として、守護対象を欲するという本末転倒な目的で建人に付き従っていた。また、建人はこの女性を最初は嫌っていながらも、祖母の追跡の為に大神一族を利用していた。 しかしながら、行動を共にするうちに互いに情が移ってしまい(同種族の本能とも言う)、一夜の契りを交わしたためセッション終了後に焔が生まれる事となった。一族の長の家系の子を宿した為、彼女は守屋の一族から大神の一族へと名前を変えている。 |
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◇ルシエド 男性/??歳 所属:不明 異能力属性:???(魔人) memo: オンラインセッションにはこの名前では登場していなかった。登場時の名前は《黒衣の魔人》小鷹禮二、移転を繰り返す謎のアンティークショップ『黒猫雑貨店』を陰で経営していた魔人である。 元ネタは退魔戦記の1stキャラ。外見と本に拘ってるのはここから持ってきている。存在としては、異能オンラインセッション世界における"魔王様"。これで一応、玄海水滸伝のPCはコンプリート。アイテム好きなのはこっちから。 現実世界の彼は、ドラクリアの提供する《新しい世界》の構想の魅力に抗しきれずその眷属に加わった挙句にPCらに滅ぼされたが、実は彼の精神のコピーが一足先に《新世界》へテスト移住していたのである。 《電脳世界》に移住したコピーの彼は、本来の精神体が移住してくるのを待っていたが、後から移住してきた御大ドラクリアからオリジナルが滅ぼされた事を知り、自分自身での活動を開始していた。 人間だった頃の彼は三仙会の宝貝回収エージェントで、非常な才能に恵まれた異能者だった。活動の中で得た経験や知識を事あるごとに書き記して残しており、その習慣は彼が魔人と化してからもしばらく変わる事は無かった。 その時に書き残した本の一冊が、アンティークショップ移転のどさくさで残されてしまい、その空き部屋に入居して同じくアンティークショップ『Deus ex Machina』を営み始めた空夜京一の手に渡っている。空夜京一は、この本から魔人化の着想(魔人の理)を得て魔人となった後、この知識を利用して同じく魔人化するような人物を誘い出すために二十三研の書庫へこの本を滑り込ませたが、彼が望むような人物の手に渡る事はなく、紆余曲折を経て遊夢の手に渡ったのである。 |