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今から100年ほど前。 黒月夜会紫雲派に、一人の若き夜族がいた。 実体を持たない影の妖魔種である彼は、人間など歯牙にも掛けない(或いは餌食としかみなさない)黒月夜会の一員でいながら、魔性の犠牲となる非力な人間に味方をし、魔性を狩り続けた。 その夜族の青年の名前を、空夜京一と言う。 彼は沢山の魔性を狩った。 空夜京一は、夜族の魔性狩人として異能者の間にも知られるようになったが、夜族の間ではただ一人孤独な存在だった。 夜族ではなくヒトの味方をするのみならず、時には魔性に堕ちた夜族の仲間をも狩る。 意識の統一されていない紫雲派であったからこそ、彼の活動は妨げられなかったのだろうが、他の派閥から煙たがれるのは自然な成り行きだった。 40年以上の活動の末、彼は紅牙派に属するある一人の神狼の眷属を敵に回す。 彼の一族の一人が魔に堕ち、それを狩ったのがきっかけだった。 同属意識の強い狼種のその一族の長・雷牙王は、同胞を殺された報復のため、空夜京一に戦いを挑んだ。 多くの魔性との戦いを潜り抜けてきた魔性狩人の実力は高かったが、神狼の長には一歩及ばなかった。 空夜京一は敗北し、死亡した。 少なくとも、穢れのない彼の魂はこの時に死んだ。 元々が実体のない影の妖魔たる彼は、肉体を構成する力も失い、あとは光に溶けて消えるのを待つばかりだった。 死にたくない、まだ守らなければいけないヒトが沢山いる。 その強い想いが、聞こえてはいけない人物の耳に届いた。 その人物は、肉体を失った彼に、代わりとなる人形の身体を与えた。ただそれは、魔の力に汚染された呪われた神楽人形の身体だった。 人形の身体を与えた人物、《ばら撒くもの》カタリと言う名で知られる魔人は、それ以上は何もしなかった。何もする必要はなかった。 器に次いで、その魂が堕ちるのは時間の問題だった。 穢れた器に宿ることで一命を取り留めた空夜京一は、自分ではそうと気付かぬ間に、魔人の卵となった。 魔人となった空夜京一は新しく得た身体を使うことを覚えるまで身を隠し、その間に魔性の起源について独自の研究を続けていった。 魔性は際限なく現れてきりが無い。ならば発生の原因から正そうと考えたのである。 彼はその研究の途中で、"真実"の一端を探り当てた。"真祖"饒速日尊の伝承を。 異能者と魔性の根源が同じ、と彼は知った。 彼は深く悩んだ。 知った"真実"が誤りである証拠を求め、一時は《三種の神器》のひとつをも探し当てた。 だが、調べれば調べるほど、"真実"が"真実"である証拠だけが見出された。 それでも、異能者が魔性の種ではない、と言う確証を欲して、彼は何人もの何も知らない異能者に誘惑の種をばら撒き、彼らが堕落していく様を見て哀しんだ。 既に彼は、己の心が魔に染まり病んでいることには気付くことはできなくなっていた。 歪んだ心と狂った頭で、彼は深く深く悩んだが、自分の本当の目的をもう一度見詰めなおし、そして思い至る。 自分がやりたかったのは"非力な人間"を守ることであって、異能者の起源などどうでも良い事に。 そして、異能者と魔性が同じ存在だと言うのなら、全て狩ってしまえば"人間"が異能によってなす術もなく傷つけられることはなくなると言う事に。 こうして、人間の為に魔性を狩り続けた夜族の青年・空夜京一は、人間のために異能者を狩る魔人・空夜狂一となった。 彼は、自分自身の身体にある神楽の力を使って自分自身の魔を封じ、魔人であることを隠して暗躍した。 自分の能力を封じたために、かつての魔狩人の力は失っていた。 自分自身の魔人の力を使えば、それなりに戦うことはできたであろうが、天老院を始めとする異能者たちの目の仇にされることは目に見えている。 ならば、忌むべき異能者たち自身が殺し合い、滅んで行くようにすれば良い。 彼はそ知らぬふりで異能者に近付いては、堕落のきっかけを与え、その人物が魔に落ちてゆくさまを見守った。そして、大いに嘆き悲しみ、自らの信念を確固たるものにしていった。 異能者とは魔性の卵に過ぎない。 魔性を滅ぼすためには、その元凶たる異能者を滅ぼさなくてはならない。 だが、異能者たちは自分たちが諸悪の根源である事からは目を背け、更には自分たちこそが魔性に対抗し得る唯一の存在だと勘違いをしている。 空夜京一は、そんな奢り高ぶる異能者を憎んだ。 その筆頭が天老院、そしてその背後に控える天武八家である。 所詮は魔性の卵に過ぎない連中が、異能について偉そうに語り、異能を管理し、魔性を退治し、封印し、また、優れた異能の血統を誇っている。 彼はそんな連中に《真実》を見せつけるため、その魔手を『優秀な異能者』と目される人物たちに向け始めた。 |
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◇空夜京一(カラヤ・キョウイチ) 男性/??歳 所属:なし 異能力属性:影(夜族) memo: こうして、一式キャンペーンが開始する。 空夜京一によって破滅させられた人物は、ほぼ全てのPCと絡みがある。 二十三研のPCであった稲月(石橋と魂の形が同じ)の父親は、重要アイテムである《鏡》をフリーマーケットで発見し手に入れているが、この鏡を売っていたのは空夜である。研究者に強力な神器を渡し、研究或いは私利私欲によって破滅するのを観察しようとしていたのである。 鏡関連で言えば、同じく二十三研で進められていた人造異能者の研究(PCの一人はその研究成果であったし、彼の同期の一人は敵側に回ってしまった)は、鏡の魔力を引き出せる異能者を造ることが目的であり、その目的に踊らされて破滅したNPCは数人いる。 前半のボスである拝雅輝に、《玉》という神器の存在を教えて唆したのも、勿論彼である。彼は、魔性の存在について思い悩む拝に、《真実》を思い知らせようとして罠に掛けたのである。 桐生来夢の父親は、《玉》を自らの物にしようとして狂ってしまったが、これを囁いたのも彼だ。 セッションの最終局面において、桐生来夢は空夜京一が全ての切っ掛けを囁いていた人物だと知り、天老院のエージェントと共に彼の営むアンティークショップへ乗り込む。 (残念ながら、その最終バトルがプレイされる事はなかったが) 乗り込んだ二人は空夜京一を斃す事に成功したが、実は完全にトドメを指すことは出来ていなかった。上記の通り空夜京一の本体は、人形の中に満たされている《影》であり、人形を完膚無きまでに破壊しても《影》を納める器があれば命を繋ぐ事が出来るのである。 すでに「魔人の理」を修めている空夜京一は、自分の魂とも言える《影の心臓》を創り出して他へ隠していた。この《心臓》が破壊されない限り、彼は滅ぶ事はない。 来夢たちは、彼の本体が何であるかまでを看破することができなかった。そして、『空夜京一』という魔人は斃され、事件は完全に解決した事になったのである。 そして、物語は二式へ続く。 |