第8回  剣士浩也


 銀牙と猛雄の手によって全壊したステージの修理が、ようやく完了した。
 予定外の事態に、二日間の延期があったにも拘らず、場内を満たす観客の熱気は初日と変わらない。否、銀牙と猛雄の戦いが、却って、期待を高め、更なるヒートアップを見せているくらいだ。
「とんでもない熱気だな・・・」
 呟く銀牙。今回は試合が無いので、仲間たちと試合を見物している。浩也、フラッド、忍は試合のためここにはいない。今頃はあの暑苦しい控室で悪態をついているのだろう。
「・・・」
 丁度、剣士と槍兵の戦いが槍兵の勝利で終わり、今は次の試合までの空き時間だ。少し暇を感じ、何気なく横を向いてみた。
 弥生と眼が合う。が、すぐに気まずそうに目を背けられて俯いてしまう。
 弥生は二人分銀牙と距離を取って座っていた。この二日間、彼女は微妙に銀牙を避けている。忍の家に泊り込み、宿にも帰ってこない。
 何度か、姉貴分であるディアーナや聖に相談してみたが、『色々と複雑だから今はそっとしておいてやれ』と言うので、深く追求することができなかった。それができずとも、せめて気まずい関係だけでもどうにかしたいと思うのだが、生憎、人付き合いの下手な銀牙にとって、その行為は未だに一度として勝てない、浩也に勝つよりむずかしい。なにしろ、由惟や浩也とさえロクに喋れないのだから。
 しかし、前ほど気分は悪くなかった。弥生と違い、銀牙は自分の心の答えを出している。
 弥生が好きだ。
 少なくとも、それが分かっている。だから、後は好きな女を守り抜けるよう、強くなれば良い。
「あ〜〜〜銀牙お兄ちゃん、始まるのです〜〜」
 由惟に袖を引っ張られ、舞台に視線を向ける。
 次の試合は、いよいよ浩也の番だ。毎日手合わせしているので、彼の実力は嫌と言うほど知っている。
 浩也は強い。
 刀よりも遥かに思い大剣を軽々どころか、我が手の如く振るうパワー、人間離れしたスピード、恐らく、踏んだ場数も尋常でないのだろう。 
―――しかしなぁ・・・
 トーナメント表を見たとき、思わず声を出してしまった。それくらい驚いたのだ。考えてみれば、予測できないことでもなかったが・・・
「太陽!!邪馬・浩也!!」
「月!」
 浩也と相対する男。
 嘗てと同じ、丸い眼鏡に赤い礼服のような服装。
「邪馬・綺羅!!」
 まさか、浩也の対戦相手になろうとは思っても見なかった。


 舞台上。そこで、浩也と綺羅は向き合って立っていた。
 浩也は既に己が愛剣を抜き、正眼に構えている。相手を見据える瞳も鋭く、完全な臨戦態勢をとっている。
 対する、綺羅の方は自然体で構えていない。唇の端には余裕の笑みさえ浮かんでいる。
「浩也君」
「何だ?」
 綺羅が口を開く。姿勢をそのままに応じる浩也。
「君は忍の弟子だそうだね?僕の話は聞いてるかい?」
 浩也は頷く。
「そうかい。だったら話が早い。僕はあの時、忍に完膚なきままにやられちゃってね・・・全く、世の中は広い。今まで負けたことのなかった僕があそこまで圧倒的大差で負けるなんて・・・」
「当然だ。師匠に勝てるものなど存在しない。」
「ふふふ・・・確かに彼は強い・・・」
 『しかしね・・・』と言って、綺羅は口角を吊り上げた。
「僕はあれからすっかり自信をなくしてしまった・・・おかげで仕事屋も休業さ。だから、今日までずっと・・・必死に修行してきたんだ」
―――確かに・・・と、浩也は独白する。綺羅から感じる力を凄まじく、彼が口先だけの男ではないことを如実に語っている。どれほどの修練を積んできたのか見当も付かない。
「僕は、忍を倒す。そのステップとして君を葬ろう。」
 綺羅が拳を固めると、炎が渦巻き、収束して鞭を形作る。
 炎の具型(ツールタイプ)、フレアウィップ。彼の主装とも言えるオーバードライブ。
 眼の前の敵が強大と再認識し、浩也は剣を握り直す。
 睨みあう。
 両者の間で火花が飛ぶ。
 時間にして、僅か数瞬。が、この場にいる者にとっては何十倍にも思える時間の後・・・
「始めーーーーー!!!」
 開戦の合図が響いた。


 綺羅の鞭が赤い火花を散らしつつ浩也を襲う。
 浩也の一撃必殺の大剣に対し、綺羅は無数の手数で攻撃する鞭。超高速で鞭を振るい、間合いを詰めんとする浩也を近付けない。
 得物でいえば、明らかに綺羅に部があると言えよう。浩也の大剣はただの業物だが、綺羅の鞭は炎を具現化しているため、一撃の威力で勝っている。加えて、速さ、リーチともに大剣を遥かに凌ぐ。
 通常、これだけの条件が揃えば綺羅が数秒で勝負を決めてしまうだろう。にも拘らず、二人の競り合いは終わるどころか更に加速していく。
 達人の放つ鞭は音速の壁を破ると言う。それが本当であるなら、綺羅の鞭は正にその領域に相当する。驚愕すべきは、浩也はその攻撃を見事に大剣で弾き返していると言う点だ。無論、視認できるはずがない。仮に見えたといても、間違いなく反射神経が対応できない。
 浩也とて、例外ではない。だが、見えるだけが全てではないのもまた事実。彼が頼るのは眼ではなく、浩也自身の予知能力染みた直観力にある。
 綺羅の攻撃はその全てが浩也を攻撃するものではない。攻撃、フェイント、牽制などを不規則に織り交ぜることによって成り立っている。つまり、浩也は綺羅の攻撃の中から対応すべきものだけを正確に見極めているのだ。
 当然、いくら見極めることができても、そう易々と防ぎきれるわけがない。その事実が綺羅を驚かせた。
「ちぃ!」
 ただの連撃で浩也を討てないと悟り、綺羅は距離を取った。浩也は追ってこない。彼を追うには走る必要がある。間合いを詰める前に綺羅は体勢を立て直すだろう。そうなれば攻撃を防げないと判断したからだ。
「・・・やるね。流石忍の弟子だ。」
「俺はまだまだ修行の身。大した技じゃない。」
 あっさりと言ってのける浩也。彼自身は謙遜のつもりで言っているが、傍目には嫌味にも聞える。
「・・・大した技じゃないか・・・よく言うよ。剣で鞭を捌いているんだ。それだけで常軌を逸している。しかも君・・・」
 チッと、綺羅の口から舌打ちの音が漏れた。
「オーバードライブを使っていないだろ?」
 会場がどよめく。いたるところで『嘘だろ?』とか、『信じられない』といった声が上がり始める。
 観客の多くを占めるドーヴァ国民は毎年大会を観戦しているので、鞭の速さに剣は勝てないという武器の性を理解している。故に、浩也はオーバードライブ、察するに、スピードを上げる能力を持っているのだと考えていた。が、実際は使っていない。つまり、技量だけでどうにかしていると言うのだ。
「察しが良いな。確かに俺はオーバードライブを使っていない。」
「へぇっ・・・恐ろしいな・・君は」
 本当に恐ろしい。
 忍に敗れて以来、自分が天狗になっていたと気づいた綺羅は、まさに死に物狂いで技を磨いた。
 ある時は盗賊のアジト、ある時は、道場、またある時は魔獣の巣と、およそ思いつく限りの全ての危険な場所に足を踏み入れてきたのだ。その地獄たるや、言葉では言い尽くせない。
 そこまでやって、自分の実力はやっと、眼の前のオーバードライブさえ使わない忍の弟子と互角。否、打ち合いを続ければ根負けするのは眼に見えている。
―――初戦から、随分と酷いのに当たっちゃったな・・・
 もはや、戦力を隠している余裕はない。このままフレアウイップだけで戦っていけば忍と戦うなど、夢のまた夢だ!
「浩也君。決着をつけよう。」
 綺羅の手の中で、鞭が元の火の粉となって散っていく。
「君は強い・・・尊敬に値するよ。恐らくは僕の想像も及ばない修練を積んでいるのだろうね・・・」
「修練は積んだ。だが、俺はまだまだ弱い。」
「そうかい・・・」
 本当に腹の立つ男だ。少しくらい自分は強いと言えないのか・・・
「これから見せるオーバードライブは、猛雄のマグマバースト同様、忍に使うための技だった。」
 言って、腕を胸の前で交差させる。
 途端、炎に包まれる綺羅。 
 危険と判断されたらしく、舞台の周りには既に結界が張られている。
「見よ。」
 どこからともなく吹いた風が、炎を吹き飛ばす。
 綺羅は真っ赤な鎧を身に纏っていた。が、背中には四枚の翼が生え、九本の触手を伸ばしている姿は異様でしかない。
「天より襲い来る、九匹の悪魔(ナインライブズ・デビルスネーク)」
 自らのオーバードライブの名を告げるや否や、綺羅は翼を広げ、上部の結界ギリギリまで一瞬で飛んだ。
「くらえ」
 地上から見上げる浩也に向かって九本の炎の触手が襲い掛かった。
 最初、浩也は鞭の攻撃を全て防ぎきっていた。が、今度ばかりは勝手が違う。
 まず、攻撃が空中から来る点だ。iかなる武人、達人と言えど、頭上は最大の死角。防御するの困難を極める。
 第二に、手数が違う。鞭の数は一本から九本。単純計算しても九倍になる。
「くっ!」
 防御できない、かわせない。こうなれば手段は一つ。鞭の間合いから離れるしかない。綺羅に背を向け、浩也は駆け出した。
「無駄だよ!浩也君!!」
 舞台は結界によって仕切られた閉鎖空間なのだ。開放された空間でなら戦略的撤退も出来なくはないだろうが、ここで逃げ回っても悪戯に体力を失い、追い詰められるのがオチだ。事実、降り注ぐ炎の鞭が敷石を削るたびに、浩也の行動範囲は狭められている。
 やがて、舞台の敷石が鞭により、その殆どが細長い傷跡だらけとなった頃、とうとう浩也は結界に背中が触れるほど端に追い込まれていた。
 もう逃げ場はない。
「ふっふっふっふ・・・観念したまえ・・・浩也君」
 浩也の上空で綺羅。九本の鞭はヒュンヒュンと空を裂きながら地上の剣士を威嚇している。
 あと、一発。あと一発放てば浩也を倒せる。
 秘密兵器であったため、忍と戦うまで取っておきたかったが、実験が必要だとも思っていた。
 予想通り、空中という死角からの高速の連続攻撃の前に浩也は手も足も出ない。彼の師である忍も、ブレイズアローを消した奇妙な飛び道具があるにはあるが、基本は接近戦主体の格闘家。間違いなく効果がある。
―――勝てる・・・!!
 綺羅は勝利を確信した。彼でなくても、誰が見てもそう思う。浩也は良く戦ったが、綺羅には及ばなかった。負けはしたが、彼の強さは賞賛できる。試合が終わったら盛大な拍手を送ってやろう、と。
 だが、そんな状況でありながら、浩也は焦った様子も見せず、大剣を振り上げ―――
「はぁ!!!」
 気合一番。結界に叩きつけた。自棄になったと見受けられる行為だが、その次の瞬間、まるでガラスが割れるように、浩也の後ろ側の結界が砕け散った。
「なにぃ!?」
 綺羅も、観客も、霧幻(むげん)のメンバー以外の、その場にいた者たち全員が浮き足立った。
 結界とは、そもそも観客に被害が及ばないための処置である。故に、『壊れない』ことが前提となっており、選手もそういうものだと思っている。
 しかし、それを浩也は打ち壊したのだ。その常識離れした事態が、綺羅の行動を遅らせる。
 浩也は結界の穴から場外に飛び出すと、即座に跳躍。天井の結界に飛び乗り、振り下ろす剣撃でそれさえも打ち壊す。
 そこで、勝敗は決した。
 綺羅の最大のアドバンテージであった制空権が、今や浩也にある。
 奪われてしまった以上、綺羅に勝ち目はない。
 渾身の力を込めて放たれた斬撃が重力を味方につけて綺羅に浴びせられた。
「ぐあぁっ!」
 舞台に叩きつけられる。鎧を着ているため両断は免れたが、彼の意識を奪うには充分だった。
「勝者!浩也!!」
 歓声が上がる。浩也は大剣を鞘に戻すと、観客席―――銀牙たちのほうに目を向ける。
「銀牙!!」
 親指を立てて見せる。
 銀牙も返す。
 歓声と拍手が一層、激しくなった。


―――夜・・・

 ここはついこの前まで銀牙たちが寝泊りしていた宿の近くにある小さな酒場。客が殆ど来ない閑古鳥状態のためラルクレス達は以前のように銀牙たちに聞かれたくない話をする時はここを密会の場所に使っていた。
 今回のメンバーは円卓を囲んで五人。ラルクレスから時計回りにディアーナ、忍、フラッドの配置だ。
「とりあえず、全員一回戦突破だな。」
「そうだね」 
 ラルクレスの独白に短く応じ、グラスを傾ける忍。
 浩也の試合の後、忍、フラッドにも順番が回り、二人とも勝利を収めた。
 忍の相手は優勝候補の一人に数えられるほどの拳法家で、フラッドはそれなりに名の知れた力自慢と当たったが、どちらも苦戦どころか、楽勝に近い戦果だった。
「2回戦って、誰とやんだ?」
「はい。試合表」
 ラルクレスに聞かれ、ディアーナはポケットから折畳んだトーナメント表の紙を出し、ランプの光で黄色に染まったテーブルの上に広げて見せた。
「次の相手は全員格下か・・・」
 つまらんな、とフラッドは一人ごちる。
「あら〜そうかしら?試合を見たけど銀牙君とフラッド君の相手って結構強そうだったわよ〜」
「格下だ」
 断言。聖の発言を切って捨てるような物言いは、負けなど有り得ないという確信が込められている。
「確かにそうね」
 応じるディアーナ。空になったグラスに新たな酒を注ぐが、既に三本目に及んでいる。
「フラッドが負けるのはまず無いし、銀牙の相手だって猛雄ほどじゃないでしょ?負けないと思うわ」
「っつうか、あいつは最初に強いのに当たりすぎた。あんなのそうそういねえ。しばらく楽に勝ちあがるだろうよ」
 全員が肯定の意を示す。ラルクレスの言は他の者たちも少なからず考えていた。
 猛雄は初めて銀牙に敗北を叩きつけた相手である上、今回は桁違いに強くなっていた。その彼を倒せたという事実が銀牙を大きく成長させているはずである。そうなれば、銀牙がそこいらの連中に易々と負ける道理は無い。
「とりあえず、だ。俺としては決勝トーナメントまでに銀牙と浩也がどれだけ強くなっているのかが見物だな。あの二人はまだまだ強くなる。戦ってみたいところだ・・・お前も含めてな」
 フラッドが眼を向ける。忍は『欲張りだね〜』と肩を竦めた。
 決勝トーナメントはベスト[に残った選手をくじ引きで新たに組み合わせを作る。フラッドは決勝トーナメントまでに銀牙、浩也、忍の三人とあたることは無いため、全員と戦うには、全ての対戦で彼らと当たらなければならない。
「まっ、兎に角試合に関しちゃ今んとこ気になるネタは無いな・・・問題は・・・」
「ガビィルのことね。」
 三本目を空にし、ディアーナはラルクレスの言葉を継いだ。
 同盟。ラルクレスとフラッドの前で忍たちが自分達の存在を明らかにした後、ラルクレスはそう持ちかけた。
 本来、忍達『霧幻(むげん)』などという得体の知れない連中と手を組むなど、正気の沙汰ではない。が、ラルクレスの考えにはそれなりに筋が通っていた。
 一つは、彼らがいつまでもこの、ヴァノンにいる点だ。 
 自分の記憶から古文書のデータを引き出しているのだから、さっさと古文書に記された人魚族の隠れ里なる場所へ行ってしまえば良い。念のためにと、自分を拘束して連れて行くのも、その保険としてディアーナを人質にとっておくという手段も取れる。ガビィルが気になるのなら、銀牙達を囮に使うのも手だ。何しろ、銀牙達は忍達を信用しきっている。これほど利用しやすい駒は無いだろう。にも拘らず、忍達はそれをしようとしない。
 もう一つ、仲良くなりすぎているということ。特に、銀牙と浩也、弥生と皐月の関係は信用を得るためにしては度が過ぎている。あれではいざ銀牙達を利用するのに支障が出てしまう。
 これらの考察から、ラルクレスは忍達は敵ではないと判断した。ならば、個人的な感情を交えずに考えれば、彼らの戦力を取り込んでおくのは有効な手段だ。
「ふむ。では、今の状況の確認から始めようか?聖。ちょっと頼む。」
「あら〜OKよ〜」
 忍に言われ、額に人差し指を当て、しばしの瞑想に入る聖。『むむむ・・・』などとワザとらしく難しい顔をして唸る。
 弥生は、眼で見た人間がオーバードライブの使い手であれば、その属性をモヤとして見ることができ、ミリアは、一定領域にいる、あるレベル以上のディクシスを持つ人間の属性を感知できる。そして、彼女、聖にも二人のような所謂『識別』の能力があった。
 聖は、ある程度のディクシスの強さを持つ人間を感知できる。ミリアのように属性までは分からず、効果範囲も狭いが、この町一帯は充分に圏内だ。
 この能力を持つ者達を、ガビィルのヘイムダル達は『ヴァルキリー』と呼んでいるのだが、詳しいことはラルクレス達は知らないでいる。
「んん〜〜ここ一ヶ月間、数は七つのまま変わらないわね〜〜」
「やってらんねえな。相変わらず何もしねえでいんのかよ」
 状況は芳しくないままだ。ラルクレスは悪態をついた。
 ガビィルの追っ手は、一ヶ月ほど前からヴァノンに潜伏していることは、聖の『識別』能力によって前々から分かっていた。 
 だが、どういうわけか、彼らは見張るくらいはしているのだろうが、特に行動を起こそうという様子はない。忍達の大会参加によって、霧幻(むげん)の存在をアピールした結果、動きを制限できているのか、それとも騒ぎになるのを恐れているのか、そのあたりは分からない。
「いっそ、こちらから手を下せんか?」
「それは難しいね。奴らがどんな能力を持っているのか全く分からない。迂闊に手を出すのは危険だ。」
 忍の意見は消極的で気に入らなかったが、フラッドは引き下がるしかなかった。確かに、相手に不確定要素が多い以上、慎重にならざるを得ない。
「でも、奴等の最優先事項は人魚族の隠れ里にある『神器』なんでしょ?だったら何とか奴等を抑えないとそこにはいけないわね」
「私もディアちゃんと同じ考えね。相手の裏をうまくかいてもあの七人の中に間違いなくヴァルキリーがいるわ。ヴァルキリーがいる以上、そう簡単には逃げられないわね。」
「聖。ならば、そのヴァルキリーとやらを殺せば問題ないのであろう?」
 青い炎を宿した瞳をスッと細め、フラッド。
「ん〜〜〜確かにフラッド君の言うとおり何だけど〜私って、七人と面識がないから誰がヴァルキリーか分からないのよ。だから―――」
「だったら、ちょっと思いついたぜ。大雑把だがな。」
 聖の言葉を遮って発したラルクレスの案を持ち出したに全員が注目した。
「それは、どうするんだい?」
「忍、その前に確認してえ。ガビィルの連中は聖のことを知っているのか?」
「分からない。だが、可能性は高いな」
「だったら知っていると仮定しよう。まず、奴らは今までこちらに対して何もしてこない。これは俺達を泳がせて人魚族の隠れ里へ案内させるためか、他に何か考えがあるのか全然わかんねえが、とりあえず言えるのは、奴等が二人とか三人とかの少数では攻めて来ないって点だ。
 なぜなら、こちらも聖という『識別』能力者がいるから当然、奴等が近づいてくりゃ分かる。分かるならこっちは数をそろえるなりなんなりして迎え撃つ準備ができる。そうなりゃ、連中は不利だ。
 そもそも、少数で俺達をどうにかできるほどの力があるなら、今まで俺たちに何のアクションも起こさないでいるのはおかしい。さっさと俺達をどうにかしちまった方が遥かに効率が良いんだからな。
 しかも、いざ行動を起こすならそのメンバーの中にヴァルキリーは必ず入ってくるだろうな。探知能力があるわけだから何かと便利だしな。だが、ソイツに何かあったら俺達を追う手段がなくなる可能性がある。」
「となると、やるなら七人全員でってことだね。」
 忍が相槌を打つ。頷くラルクレス。
「その場合、考えられる方法は二つだ。俺たちがヴァノンを出て、騒ぎが起きても問題にならないくらい離れた場所に来てからか、大会終了後何日かしてからの人気がなくなった時だ。どちらにせよ、俺たちは大会終了後もここに留まる。前者ならここらは草原が多い。ヴァルキリーを探知不能に出来ても逃げられねぇ。この都なら建物は多いし、地下にはガビィルほどじゃねえが地下道もある。ミリアさえどうにかできれば逃げんのは可能だ。」
「結局のところ、こちらは待ちに徹するしかないわけだな。」
 表情の変化としては表れないものの、フラッドは少し不満げだ。
「でもさ、それしかないんでしょ?だったらこれでやりましょうよ」
「ああっ。だが、もう一つ考えておかなきゃならねえことがある。」
「マジ?まだあんの?」 ディアーナは顔をしかめた。どうやら思っている以上に厄介ごとは多いらしい。
「可能性は低いと思うが、奴等が形振り構わず暴れだすかもしれん。そうなったら、もうこっちも兎に角ヴァルキリーを使えなくして逃げる。それだけだ。」
 まっ、普通はやんねえよなっと、最後に付け足す。
「しかし、こうなると子供たちに内緒にできなくなるね。」
 心底残念そうに忍は溜息をついた。
「まあな。だが、どうせ遅かれ早かれだったと思うぜ。気にするこたぁねえさ。」
 長話をしすぎて渇いた喉を水で潤わせながらラルクレス。
「ん〜〜〜銀牙君達にはできれば教えたくなかったけど、仕方ないか・・・」
 忍と同じように溜息をつくと、聖は両手を固めてグッと、力を込めた。ボウッと、手が紫色の光を帯びたかと思うと、開かれた手の上にはたくさんのガラス玉があった。
「私のオ〜バ〜ドライブ、音の具型(ツールタイプ)遠声玉(えんせいぎょく)よ。それを持って伝えたい人間の名前を言えば、その人に自分の声を届かせることができるわ。相手側も持っていればそれで会話も出来るの・・・あっ、でも私が顔と名前を知らない人には使えないから気をつけてね。」
 俗に言う、携帯電話だ。大した通信手段の無い彼らにとってはありがたい。
 遠声玉を全員に、ラルクレス、ディアーナ、フラッドは銀牙たちに渡す分も受け取っているうちに、店主が傍らのベルを鳴らした。
 閉店時間だ。どうやら随分と長い間話し込んでいたらしい。
 明日、同じ時間。それだけ約束して5人はそれぞれの居場所へと帰って行った。


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