広域地方政府システムの提言
−国・地域の再生に向けて−
● 2005年4月30日発行
● A5判・267ページ
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要約
第1章 地方政府システム改革の意義と研究の進め方
第2章 従来の広域地方政府に関する提言の概略と評価
第4節 道州制改革実現に関わる要因 東京大学法学部 金井 利之
・ 道州制の論議を歴史的・仮定的に検討せず,理論的・分析的に検討し,区域問題に見られる構造的要因・現象的要因が反映しているものとして検討→制度,利害,観念に焦点を当てた観察
(1) 区域の構造的要因;現行の政府体制(中央省庁縦割・地方総合行政体制)
(2) 区域の現象的要因;区域問題に関わる関係者の利害関心・関係者を規定している観念
・ 最適規模論;2つの軸から構成(区域の広域性・狭城性は意味を持たない)
(1) いかなる観点から最適を想定するか(行政サービス提供の効率性(行政的効率性),行政サービスの内容を最も適切に決定・監督する効率性(政治的有効性)など)
(2) 何に着目して規模を想定するか(区域を設定することによって行政対象の規模がイメージされる(人口規模,面積,経済規模,行政資源などの想定,(ただし,ある区域から調達できる量は決定されたとしても,国などからの財政移転によって補充することも考えられる))
・ 圏域区域論;行政には適切な空間的な圏域があるとするアプローチ。そのような空間圏域に即して,行政区域を設定しようとする考え方
・ 区域相関論;行政区域は単独で存在しない。他の行政区域とのバランス関係も重要という考え方。府県・市町村関係では,しばしば「二重行政論」などとして議論されてきた。一方の実力や区域の拡大が他方の存在意義を希薄化させるという論議。
また,昭和の大合併で都市計画区域が市町村合併の枠組みとして作用したり,国のブロック単位の出先機関が密接な関係をもつ(道州制区域論議における「地方制」案;国の出先機関の統合としての「地方庁」の設置とセットだった)。
・ 留保;区域問題は,実際には自然発生するわけではなく,政治的行政的課題として認定される過程が存在(機能的説明の問題は,課題として認定されずに抑圧,放置,先送りされることがある))
・ 機能的解決方式も自動的に決まらない;合併,事務組合(一組,広域連合など),垂直委託などの複数の選択肢がある→地方政府の区域変更につながるのは「合併」のみであるが,一義的に決定されない。
・ 区域問題は最終解決がない問題。しかし,市町村・府県制度にそれぞれ特徴性(差異)がみられる。
(1) 市町村区域制度の特徴
@ 広域化・大規模化の一方向的・不可逆的傾向を指向(社会的人口流出に伴う最低規模の維持のためであり,大規模化を指向したという見解もある)
A 周期的変化;明治・昭和・平成の大合併期と,間大合併期の周期的展開
(2) 府県制度の特徴;安定性(明治憲法体制以来,極めて安定している。個別の都道府県の統廃合という事態は生じていない。)
・ 現行体制(=中央省庁縦割・地方総合行政体制)は,中央本省(=集中)レベルでの縦割・割拠化と地方(=分散)レベルでの統合性と組み合わせたもの
(政府が必要な機能を果たすためには,中央省庁の縦割の弊害を緩和する機能が必要であり,その要請が地方政府での総合行政によって達成されていると説明することができるのではないか)
・ 中央省庁縦割「セクショナリズム」→内政の総合官庁の内務省が分化傾向し,戦後の改革によって解体され,各省庁によって縦割化,中央政府の全国区域展開,地方の出先機関も,縦割化された展開(機能的集権化)
・中央省庁には2タイプが観察される
(1) 事業官庁 経産省,国交省など(機能的集権化・縦割の貫徹を要求)
(2) 制度官庁 財務省,総務省など(行政組織新設・膨張の抑制を指向)
※ 地方(政府)制度を所管する総務省は,地方政府の所管する事務事務業の膨張
→中央省庁の縦割の弊害が地方政府での総合行政を求める(地方総合行政)は,総務省のセクショナリズム的言説
・制度官庁と事業官庁の相互のセクショナリズムの妥協と共生が,現行体制
(地方政府の区域制度は,この妥協と共生により成立)
・体制としての安定性は,区域問題の解消を意味していない→区域問題は常に浮遊(区域問題は,現行体制の中から発生し,現行体制自体が解決の先送り作用もあり)
・区域問題認識のベクトルとして,機能的必要性に関する説明(最適規模論,圏域区域論,区域相関論)が活用される
・区域問題の主張者は,説得力に加えてメリットがあるという状況が必要
(メリットがなければ,主張せず沈黙すればよい)
・総合性の衝突・妥協
現実の地方政府は,色々な意味で事務事業は限定されているが,総合行政の「真の総合化」を指向するならば,無限の膨張欲求が生じる→水平・垂直に主張しても,無制限ではあり得ない。
・「真の総合化」において,管轄・能力によって限定されているため,区域問題(区域拡大)へ向かう。→しかし,拡大が総合化に寄与するわけではない。呑み込んだ後,事務事業への管轄力を失い,総合ではなく「喪失」に至る。区域拡大では,その後の主導権を巡って,総合性の衝突につながる。
・垂直の総合化は,区域問題に直結しない。区域を維持しながら,垂直方向への総合性を拡大することもあり得る。(事務事業の再配分・移管,権限の移譲,関与の縮減など)
・垂直の総合化が区域問題に発展するケース
特別市制論;大都市が府県の事務事業を吸収するという,大都市側からの総合化達成の動き(府県区域の変更(縮小)または分離独立)
→政令指定都市制度・都制度は妥協の産物
・各地方政府がそれぞれに総合性を追求することは,総合性相互の衝突を生み,異なる総合性同士の妥協の産物としての区域問題の解決にならざるを得ない。
・解決困難のベクトル
・現行体制で行政事務の執行が破綻しないように弱体な地方政府でも執行できるように保障する必要がある。
・個別の市区町村の事務負担が大きすぎる場合には,区域変更ではなく,都道府県への事務移管によって対応することも可能。
(自治体警察から現行都道府県警察への移行,県費負担教職員制度,委託消防など)
・問題浮遊
問題が解決されたとしても,総合性の妥協によるものであり,最終解決ではあり得ないので問題は残り続ける →道州制問題はこの典型
・現行制度に何らかの不満を持ち、現行制度に精通していない関係者にとって、区域問題は、訴えやすく、提唱しやすい。(政治家、マスコミ、学者など)
・区域問題は、さまざまな行政課題に関係性を持っているので、帰責される誘導性を持つ。(市町村の「横並び」意識により、それぞれが無駄な箱物を作るので、合併により区域を変更すれば、このような重複はなくなるはず→実は、当事者の「意識」かもしれないし、箱物建設促進の地方行財政制度かもしれないし、地方政治構造かもしれない)
・区域問題は、その性格から容易に解決できない課題として長持ちする傾向がある。
・区域問題は、ほとんどすべての行政課題に関連するとともに、具体的な課題に直結しないので、先送りも可能な性質を持つ。
・地方自治業界は、銀行業界のように「大規模化」の指向性が観察される。ただし,大規模化が存立保障になるとは限らない。
→集権体制では,同一種類・範囲(量の異なる)の事務を,自治体の高度の分業によって処理できるため有利。大規模自治体の方が能力が高く,大規模自治体には事務を移譲することができるという論拠となる。「受け皿」論も大規模化指向を背景としている。狭域化・小規模化の議論はなく,実際の区域問題は区域拡大問題。
・府県は戦後,自治体としての性格を得ることにより,「国家」的事務を喪失する可能性に潜在的に晒されている。その存在意義を証明するために,事務という仕事を大量に抱え続ける必要があった。
→地方政府の存在意義は,現に処理している事務に支えられている。貪欲に処理する事務事業を吸収し,現行体制の総合化を進めてきた。「大きな地方政府」,集権分散,質より量の政治などいわれる特徴が見られる。事務を大量に処理していながら,依然として事務移譲を求めるという「飽食下の飢餓感」が現体制を覆っている。
・道州制は,他の区域問題にも増して,大規模な改革で広範な影響を有し,推進するには大きなエネルギーが必要であるにも関わらず,直近・喫緊の具体的な問題の解決に直結しない。従って,中央政府は,先送りへの誘因を持つ。先送りが不可能な状況に追い込まれた時,あるいは,さらに大規模な制度改革に便乗する時に,実現に向けて動くのではないか。
・道州制論は,大規模化への指向を反映した構想。国の分割・狭域化=小規模化ではなく,府県の統合・広域化=大規模化である。
・現実としての存立保障の弱体化と,観念としての大規模指向が一致した時期に,実現の「窓」が開きうる。その意味で,既存府県の存立保障の見込みが,重要な影響を持つ。
・道州は,特定課題の解決のために設置されるのではなく,雑多な事務の寄せ集めとしての総合性を主張せざるを得ない。しかし,そのような場合は設置目的,メリットを論証することは難しくなるだろう。
・現行体制を反映せざるを得ない道州の設置は,必ずしも最終的解決にならないだろう。道州制のように,短期的・直接的に問題解決に貢献しない制度改革は,実現することが困難であるとともに,仮に実現した場合には,中長期的・構造的な影響を持ちうるもの。
第3章 EU諸国における地方政府システムの概要
第4節 各国制度の比較から見た望ましい広域地方政府像
政策研究大学院大学 横道清孝
・ <州の区域設定>国の行政単位としての合理性と各地域の持つ歴史的なまとまりという2つの要素を考慮
・ <州の主要事務>ドイツ;経済開発・地域整備が最も重要な事務/イタリア;歳出に占める割合から,保健医療が重要事務
・ いずれの国の州も,直接公選・一院制の州議会を有する
・ <執行機関>フランス;州議会により選出される州議会議長/イタリア;州知事を長とする理事会/ドイツ;州首相と各省大臣で構成される州政府
・ イタリア,フランス及びドイツの例を見ると,3層制の選択肢もあり得るのではないか
・ 都道府県を残した3層制を導入するとした場合,国から事務・権限を移譲された同州とより大きくなった市町村との間にあって,限定された役割を果たす都道府県という姿が構想されるのではないか。
・ <各層の存在>ドイツ及びイタリア;州は強力で大きな存在,市町村も大きな役割を果たすが,郡や県は影が薄い/フランス;市町村が一番大きな存在,その次が県,州は一番軽い存在
・ 基礎自治体である市町村を重視する点では,3カ国とも共通
・ <州制度の導入方法>ドイツ;創設当初から連邦を構成する国家という強力な存在/フランス;国の活動区域・行政区域から始まり,公施設法人,自治体,憲法上の自治体と成長し,その権限も拡大/イタリア;憲法規定上の存在が,実質化され,権限・財源とのも拡大
・ フランスやイタリアのように「小さく生んで大きく育てる」という方法も考えられる(段階的な導入を検討するほうが現実的ではないか?軽い自治体としての道州を創設し,順次,国などから権限を受けて大きくなる戦略)
・ 連邦国家と単一国家といっても境目は曖昧になってきている(ドイツでは連邦法律(競合的立法)により浸食され,州にとっては連邦参議院を通じた連邦法律等への関与のほうが重要と鳴ってきている/イタリアのように単一国家でありながら,州に立法権を認め,されにその範囲を拡大するような国もある)
・ 日本でも,国会自らがその立法権限を制限し,州に任せる法律を作ることや州が法律の規定を条例で変更することを認める立法分権の考え方は道州制の導入にあたって検討されるべき
・ 都道府県が処理している警察と教育関係の事務を州に移管するか都道府県に残すかによって,「州が直接的な行政サービスの主体ともなるかどうか」大きな違いが出てくる。
・ 3カ国とも直接公選の議員からなる議会をもっているが,いずれも一院制
・ <州の執行機関(長)>フランス及びドイツ;州議会の間接選挙/イタリア;直接選挙(州議会議員選挙と一緒でかつ州議会議員の候補者名簿と結び付いた形で行われる)→執行機関の長と議会の多数派が一致する議員内閣制的な仕組みが採用
・ 日本では,憲法に長と議会の2元代表制が規定(第93条第2項),それぞれ別個に直接選挙により選ばれる→州でもこのような直接公選とした場合,その長は州を代表する存在として,現在の都道府県よりはるかに大きな政治的権力を持つ可能性がある→直接公選が当然の事項ではなく,州に付与する権限の程度や州議会の権限配分(長の議案提出権の有無など)も考慮しながら慎重に検討が必要
・<大都市の特例>ベルリン(ドイツ)は,州(都市州)/パリ(フランス)は,県と市町村の融合体/ローマ(イタリア)は県並みの自治体(予定)→いずれも州ではない
・<州の性格>フランス;自治体的なかつ軽い州(県や市町村と対等の存在,州内の県や市町村を監督する権限はない,州が立法により州内の県や市町村を拘束することもない,国も多くの州レベルの出先機関を持っており,県や市町村に関する監督や財政調整機も国がおこなっている)/ドイツ;国家的なかつ強力な州(郡や市町村の上位にある存在,郡や市町村を監督,州内の地方制度について自ら定めることができる,立法により郡や市町村を拘束することもできる,州レベルの行政は,国の出先機関ではなく州が担っている,市町村の財政調整も州が行う)/イタリア;フランスとドイツの中間(ドイツほど強力ではないが,立法権や自治体に対する監督権を有する)
第4章 近未来におけるわが国の地方政府システムに関する考察
・ イタリア,フランスなどでは3層制→従来はの2層制を地方分権化の流れの中で段階的に3層制に改めたもの(広域的中間政府としての州を設置し,順次,九人の諸機能(権能)移管を進めて独立自治体として性格を強化するとともに,地域内自治体の広域調整等の機能を担う。)
・従来の都道府県を合併し,広域自治体としての道州制の検討は,2層制の考え方が基本→根拠:3層制は屋上屋となり,行政の肥大化や国民の負担増→実は民主的統制を弱めることを意味する。
参考資料