(社)地方行財政調査会 講演シリーズ第89号より
 
地方自治体の防災・危機管理 
 
防災アドバイザー・防災システム研究所所長 
山村 武彦 
 
○安全を基準に求心力をつくる
 ・阪神・淡路大震災で発災時に神戸の震度が出なかった。
  →神戸がやられた!と感じる洞察力が必要(情報がないというのも情報)
 
 ・世の中の発展は、知識や経験というものの積み重ねの伝承、次の世代へ伝わることでいろいろな文化を含めてつながっていく。              
  →世代間の断絶は×。きちっと継承していくコミュニティづくりが重要。
 
○短周期振動と長周期振動
 ・活断層が現在見つかっていないところでも地震が起きる可能性は大いにある。
 
 ・長周期振動は震源から離れたところの高層の建物に影響を与える可能性がある。
  (十勝沖地震の時、石油会社のタンク半数が壊れた。)
 ・普通の震動は1サイクルが1秒以内の短い揺れだが、長周期の震動では、1サイクルが、7秒〜8秒とゆっくり揺れる。現在の耐震性は短周期に対しての耐震性。
 
○住民の「心の堤防」を高くする啓発を
 ・海に向かっている道路や海に注いでいる河川が、津波の誘導路になる。そのエリアや海岸線から2キロ以内は津波の警戒区域と考えるべき。
 
 ・津波の死亡原因では、打撲と窒息死が多い。
 
 ・スマトラ沖地震の津波で、スリランカのヤーラ国立公園で津波の来る1時間前から動物が森の奥めがけて走っていき、ほとんど死ななかった。鎖につながれていたどう猛な動物や人間が死んだ。自分は大丈夫だ、いつも安全だ、と思いこんでいると本能は働かない。つまり勝手に作った何の根拠もない「安全神話」という鎖につながれていると人間は危機を察知できない。
 
 ・繰り返し津波に襲われる地域も、伝承がされないため危険な場所にまた住んでしまうということがある。防災文化の伝承が大事。
 
 ・実際の堤防を作っても、それを壊したり、乗り越えたりする大きな災害が起こる。堤防を作ることより、「心の堤防」を常に高くするために啓発に力を入れて、住民が自分自身で判断でき、早期自主避難ができるような意識づけを繰り返し繰り返し行うことが大事。
 
○役に立たない画一的な防災マニュアル
 ・小中学校でよく行われている机の下に潜る訓練など、画一的な訓練は意味がない。平成9年の鹿児島県北西部地震の際に県立宮之城高校では1階の教室がすべて崩れてしまった。1階の人たちは、廊下を出て回って出ている暇はないから、揺れを感じたら直ちに窓際の生徒が窓を開けて、窓の外には土嚢袋を積み上げておいて窓から脱出するなど、立地条件や教室の状況によって変えるべき。1つの災害事例がすべての教訓とは限らない。
 
○家庭も地域も行政も、優先順位の明確化を
 ・災害ではそれぞれが自分の命を守るので精一杯。災害と1対1で向き合う覚悟をしておく必要がある。要援護者は隣人が支える。
 
 ・事前対策、緊急時優先順位の明確化
  飛行機が高度3000メートルで与圧異常を来した時、酸素マスクが落ちてくる。大人と子供とどちらが先に付けるのが正しいか?日本人の場合、八割の人が子供から先に着けると答えるが、それは間違い。大人が真っ先に着け、子供に着けるのが世界の常識。大人がもし意識不明になったら子供を守ることができない。つまり、緊急時だからこそ、プライオリティを間違えると共倒れになってしまう可能性がある。
 
 ・火が出たらどうするか?多くのマニュアルでは「初期消火に努めましょう」と書いているが、緊急時の優先順位としては、1番最初に「火事だぁ!」と知らせること。その中には、助けてくれ、応援頼む、逃げてくれ、通報してくれ、いろいろなメッセージが含まれる。
 
 ・危機管理というのは、「知らせる・消す・助ける・逃げる」ですよ、というふうに決めておくと慌てないで済む。
 
 ・建前では防災や危機管理は具体的に進まない。実践的であるかどうかの評価を加え
る必要がある。
 
 ・緊急連絡網→連絡網と命令系統は分ける必要がある。
  PTA方式:上から下へ一方通行で伝え、最後の人がまた最初の人に連絡
  フィッシュネット(魚網)方式:双方向性にして、縦横斜めに糸を張る方式
                 「誰々と誰々は連絡済みです」
       
○「危機管理監設置」と「国民保護計画」
 ・タイミングのよい避難勧告・指示は難しい。H16の集中豪雨では遅れたという非難があったが、しゅっちゅう出していた例がニューオリンズのハリケーン被害であり、被害前の3つのハリケーンでそのたび避難命令が出され、みんな逃げたがほとんど被害がなかった。あまり出し過ぎるとオオカミ少年の話のようになってしまう。
 
 ・全体の危機管理の情報を常に集め、対応できるように危機管理の専従職として「危機管理監」を置くべき。
 
 ・「国民保護計画」を市町村別にたてる際には、どういう形の時に住民をまとめて避難させるのか、そして実際にどう避難させるのか、そうしたシステムをどうつくるのかという視点で考える。自然災害、大規模地震の予知ができた時もそのようなシステムが必要となる可能性がある。
 
○ライフスポット型自主防災組織の構築
 ・阪神・淡路大震災の犠牲者の死因は、家具による圧死が83.9%、火災によるもの15.4%。何よりも建物と室内の耐震化が大事。完璧でなくても少なくとも補強はしておく必要がある。
 
 ・静岡県 水・食料の備蓄は各家庭で用意し、市町村は持ち出せなかった人やつぶれてしまったような人たちの分だけ用意するという明確な役割分担をしている。
 
 ・役割分担を明確にしなければ、本当の自主防災組織にならない。魂をいれる。
 
○地域から広域まで防災協定を結ぶ
 ・阪神・淡路大震災の時沖、日用品や食料品のお店は極力店を開けるように呼びかけた。もし、店が全部閉め切っていて、ガラスの向こう側には飲み物や食べ物があると知ったら、誰か一人がガラスを割って略奪行為が広がっていったかもしれない。ふだんから、地域の商店やコンビニなどと災害に備えた協定を結んでおく必要がある。
 
 ・中越地震の被災地では、大量の物資を受け入れた経験がなかったので、効率よく被災者の手に渡らなかった。その時どういう受入体勢をするか、予めトレーニングしておく必要がある。
 
○阪神・淡路大震災からの教訓
 −小さな揺れのうちに行動する習慣をつける−
 
 ・車を乗っていて揺れを感じたら左側に寄せて停めることは正しいが、そこで車を放置するのはまずい。動くのなら、必ず横道へそれて駐車場や広場に停める。道路をふさいでいる車を見つけたら、住民で力をあわせて幹線をあける。これによって消防車も、救急車も、救助隊も通れるようにすれば、助かる命も消せる火災もあるはず。
 
 ・歩道橋が崩れ、崩れるはずのない建物が崩れる。自販機はバタバタ倒れる。ビルのガラスや看板などが落ちてくる。地震が起こったら、原則建物から離れること。
 
 ・「小さな揺れの時」に最悪の状態を考えて行動する。最初にP波(小さな揺れ)が来て、次にくるS波の時は、立つこともはうことも自分の意思ではできないほど揺れる。「大きくなったら逃げようか」などと考えても大きくなったら実際に逃げられない。
 
○本当の防災・危機管理とは何か
 ・ブラジル・サンパウロ「ジョエルマの奇跡」
   今から十数年前に起きた25階建てのビル火災で、多くの人がビルの中に残っており、逃げ遅れた人たちが次から次へと窓から飛び降りて死んでいった。
   そんな中で、15階で逃げ遅れた親子がいた。29歳の若いお母さんと3歳の息子。一刻の猶予がなく、窓ガラスをいすで割って、下がっていたカーテンを引きちぎり、息子に幾重も巻きつけ、自分の着ていた上着も着せ、その上着ごと息子を抱いて15階の窓から飛び降りた。15階の高さから飛び降りると、時速60キロを超えるスピードになり、大の男でも気絶するか、持っているものを手放してしまうが、そのお母さんは最後まで息子を離さなかった。お母さんは地面に激突して即死だが、息子はお母さんの体がクッションになりかすり傷だけで助かったという話。
 
 ・防災・危機管理というのは難しいことではなくて、本当に守らなければならない大切なものを最後までしっかりと守り抜くということ。