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くじらの背骨(2000)  朝。ビルとビルの谷間から黄色い太陽が顔を覗かせている。眼の下の隈を擦りながらふらふらとした足取りで私は、近くの喫茶ジャイアントに足を運んだ。

針金でできた少年(2001)  僕の世界から色彩が消えた。何もかもねずみ色になった。最初は朝起きた時、天井がねずみ色になったんだと思った。だけど、変わったのは僕の目の方だった。

理容いがらしムーンサルト(2001)  何もすることがない。私はただぼんやりと公園のベンチで雲を眺めていた。怒りの鉄拳! といった形の雲がとうとう太陽にぶち当たる。
「燃えているのはおまえだけじゃないんだ!」

流線型打ち上げ花火(2001)  ワタクシの名前はヒヒヒヒ。人呼んでヒヒヒヒ様だ。諸君にはこれからワタクシの華麗な二十二年の歴史を述べてあげよう。聞きたくないとは言わせないぞ。ワタクシの生まれた場所は忘れもしない……あれ、忘れてしまった。

ハナマキホシダシククレ(2001)  飛び降りよう。目がくらむほどの高い崖。下は岩肌剥き出しの青い海。まだ小さい松の木が視界に入ってくる。トビオリナイノカ。今飛び降りるさ! うるさいな、おまえ!

熊の涎(2001)  ワン、ツー、ス……。今日も頭の底から幻聴が響き、俺は慌てて右肩を上げる。しかし辺りを見回してみてもいつもの部屋にいつもの朝。窓から差し込む朝日が俺を照らし、雀達が俺を笑う。

フナゾー(2001)  フナゾーについて聞かせてくれって? まあ、いいけどよ。ちょっと昼休みまで待っててくれよ。昼までにあと三本溶接しとけって、親方に言われたんだ。うちの親方口うるさくてよー。ほら、見てみろよ、あのうるさそうな口髭。あ、俺も高校生の頃あんなの生やしてたっけ。

爛爛塔(2001)  早朝の黄色い日差しが森の緑の天井の隙間から微かに差し込んでくる。私は興奮のあまり早くに目が覚めてしまい、こうして塔近くの森を散策している。今日から私は王様のお世話をするため、王様の住む塔に住み込みで働くことになったのだ。

私を殴れ(2001)  ネオンの煌く繁華街。ある一軒の居酒屋では、仕事帰りの若者、これから仕事の女達、肩を組み合いながら楽しそうにビールを飲む老人達、様々な人々が、それぞれ酒や食事を楽しんでいる。

ねこごろし草(2001)  太陽の白い光線が頭上の木々の葉の間から零れ落ちてくる。葉は太陽の光線で黄緑色に輝き、コガネムシはその葉の裏にくっついたまま死体のまねをしている。そして私は有り余っている時間の中、お婆ちゃんの庭の中を泳ぎ回る。

回る朝(2002)  六畳一間のこのアパートとも、もう四年のつきあいになる。私と同じ時期に入居した学生はついに留年することなく卒業していってしまった。私は何をしているのだろう。すでに若者とはいえない年齢に差しかかり、皮膚はだらしなく緩んできていた。

あほうどりの左目(2002)  砂の見当たらない砂浜で、波しぶきを肩に背負いながら、スコップを使って老人が穴を掘り続けて、もう半日になる。老人は白い口髭を震わせながら、ついに前のめりに倒れる。私は小刻みな羽音を立てて老人の耳に近づく。

膀胱決壊(2002)  怪獣の世話は大変だ。何しろよく食う。それに、困ったことに何を与えても僕の手からでないと見向きもしない。

けさみたゆめ(2002) 目がさめると、ぼくはすっぱだかでぷかぷかと水の中にういていた。でもそれはきっと水どうから出てくるあのまっさらな水とはちがう、一ぴきのばいきんもすめないきびしい水だ。

ひまわりは西へ(2002)  はるひこはどうしても、ひまわりの種がほしくてたまらなかったのです。
 小学校に入ったばかりのはるひこは、校庭に朝顔の種を植えました。

改行のない危ない昼下がり(2002)  危ねーじゃねーか。そんな白いボールを使って道路で遊ぶなんて。俺の頭はそんなに白くない。それに俺はめがねをしていないんだ。ボールがもし目に当たっていたら部屋に置いてきためがねに白くひびが入るか、運が悪ければめがねが白く溶けるところだ

ロボマザー(2002)  ぼくはいたずらが好きだ。どのくらい好きかというと、シベリアの雪原で裸になってクロールができてしまうくらい、好きだ。いたずらはいい。とてもいい。すこぶるいい。

闇鍋にブラジャー(2002)  蛍光灯の紐を引くと、浦澤が死んでいた。口から泡を吹き、六畳一間の杉田の部屋で横たわっていた。白目を剥きながらもしっかりと瞼は開いたまま息を引き取っていた。

ラビットマスク(2002)  選手控え室に戻ったラビットマスクは、まだリング上で聞いた客からの笑い声を忘れられないでいた。来月で六十歳。現役プロレスラー、ラビットマスク。今日も第一試合での出場だった。

なると(2002)  北海道に台風が上陸するなどめったにないことで、人々は今回の台風への対策に手をこまねいていた。

忍印の悲しみ(2003)  郵便受けから半分はみ出ていたその葉書きは英彦が大学から帰ってきた時すでに三センチほど雪が積もっていた。

トキダ(2003)

 リング上で熟年プロレスラーが技のかけ方をど忘れしてしまったかのような、そんな気まずさを感じながら、私はプロレスを観ていた。

薔薇の深い香り(2003)  あんたさ、信じられるかな。じつはね、わたし昨日指輪をもらっちゃったんだ。かれのお小遣い五ヶ月分だって。そう、いわゆる結婚指輪ってやつなの。

斎場の絨毯(2003)  夏が過ぎゆくのを惜しむように、あなたは古本屋でトムソーヤーの冒険を立ち読みして、すっかり読み終わってからレジで会計を済ませた。あなたはいつもそうだった。品定めが完璧すぎて、いつもその品を味わい尽くし、気がつけば日が暮れていた。
ぺちぉ(2003)  たんぽぽ荘201号室はやはりどう考えても一人で暮らすにはちょっと狭い。ちょうど2分の1人住むのにぴったりかな。でもわたしは体を半分なんかにできないもの。今は我慢して住んでいるけれど、でもそうね、もう我慢なんてしなくてもよくなるの、うふっ。 
(2004)  緑色を失った枯れ草をかきわけ走る。走る。走る。遠くに灰色の煙突が見えるだけで、ほかに建てものは見あたらない。うしろから、風船の重い足音が徐々に近づいてきてる。

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