ロッテルダム国際映画祭 NETPAC AWARD受賞

THE LOST HUM

監督:広末哲万  × 脚本:高橋泉
製作:群青いろ
製作協力:ディープス
     ディープサイド
     松村真吾

スチール:佐藤暁子

プロローグ

道ばたに転げ落ち、仰向けになった蝉がじじっ、じじっ、と泣いていた。熱せられたアスファルトに羽根をこすりつけ、六本の足はもがくように何かを掴もうとしていた。その空回りした足は、眼前に広がった眩しすぎる曇り空に向けられているのか、熱を発して鳴きじゃくった昨日までの夢のような日々に向けられているのか、僕には分からなかった。ただ、始まったばかりの夏に蝉が息絶えようとしている姿には、一切の希望が無かった。その蝉がバリバリと音をたてて、本当に息絶えるまでに、どのくらいの時間が流れたのだろう。内蔵は若々しく飛び散り、もげた羽根はオブラートのように半透明にきらきらと輝いていた。最終的に蝉がその足で掴んだのは、眩しすぎる空でも夢のような日々でもなく、僕のスニーカーの靴底だった。僕は靴底にへばり付いた蝉の死骸をアスファルトにこすり付け、Tシャツの袖で顔の汗を拭った。どろりと零れ落ちそうな鈍色の空を見上げ、手のひらの中で圧縮されながら反発する、彼女のリンパ腺の躍動感を思い、何もかもが眩しいな、と思った。

僕は加害者で、彼女は被害者で、君は何でもない。

       
ここには神様は来ないのかな
嫌いじゃなかったから 長宮さんのこと
もう一度あの部屋に戻って 長宮と向き合って欲しいんだ
いつかこの事件がニュースで流れたら 私はどうすればいいですかね
自分が生きる為には人を殺すしかない世界だってあるんだよ
自分が名指しされたらどうしたらいいか分からないんだろ
私は加害者の人権を認められません
散歩の途中で天気の話をすると 空を見るんだよ
どこに行ったって一人になったって 頭の中からは離れないよ
気に入らんことがあったら 殺してしまえばええんか?
お前は何をしてくれるんだっけ
自分さえ無視して 傍観して生きてれば楽なんだろうね