「いただきます」は英語で言えない。「いただきます」に該当する英語はないからである。各言語ごとにこのようなことがあり得る。日本語で言えない表現を探してみた。
デート中、ぽっかりと時間があいた。何をするか、二人で相談している状況で、「お茶でも飲む?」と言ったとする。「でも」は、いくつかの選択肢の中から一例として挙げるときに用いる言葉だ。この用法では、「でも」のうしろに「飲む」が来ていることから、お茶、コーヒー、ジュース、ビールといった「飲む」ことに関する選択肢の中から、お茶を一例として挙げていることになる。
しかし、実際はそうではない。「お茶を飲む」、「映画を見る」、「ゲームセンターに行く」、「カラオケボックスで歌う」、「帰る」などといった選択肢の中から、一例として「お茶を飲む」ことを挙げている。したがって、正確には「でも」の位置を後ろにずらし、「お茶を飲むことでもする?」と言うべきである。
しかし、そんな言い方をする人はまずいないし、それに替わる適切な言い方もない。したがって、上記のような例でいくつかの行動の選択肢から一例を呈示するための正確な言い方は、日本語にはないと言える。
病院に行って、「きょうは薬だけもらえますか」と言う。これも、上記と同じ言い回しである。いくつかの対象物から、薬「だけ」をもらえるかといっているのではない。「診察を受ける」「薬をもらう」という選択肢の中から、「薬をもらう」という行動だけを選択したい、という意味である。よって、正確には「きょうは薬をもらうということだけできますか」と言うべきである。
実は、このような言い方は結構たくさんある。「田中だけ来なかった」という場合は、田中、佐藤、山田、といった選択肢の中から、田中だけが来なかった、と言っている。しかし、上記の「薬だけもらえますか」の「だけ」は、「薬をもらう」という文章全体にかかっている。もっとも、このような言い回しに違和感を感じるのは私だけで、正しい日本語の文法の一つとして容認されるものであるのかもしれない(自分も使う)。
しつこいが、これも本来は「英語を話すということぐらいはできるようになりたい」、というべきだ。
「ローリングストーンズは、私の最も好きなミュージシャンの一つだ」などと言うが、これは英語のone of the most (favorite musicians) の直訳で、日本語にすると強い違和感がある。日本語では、「最も好きな」ものは一つである。「最も好きな」ものがいくつもあるということは想定されない。
悪臭を表す形容詞、「くさい」の反対語は何か。「いいにおい」か。「いいにおい」は「悪いにおい」の反対語である。日本語には、「くさい」の反対語に当たる形容詞はない、と言わざるを得ない。
(2005/3〜)