(上)世の中や人間全般に対する吐き捨てるような冷笑的な態度に全編が貫かれている。生と、それにまつわるすべてのものへの激しい嫌悪感と疲労感。人間への不信。それらはあまりに徹底されているため、読むものに不快感を与えず、かえって失笑を誘う。喜劇的な小説とも言える。主人公が直面する現実に常に失望し何か他のものを求めて繰り広げる逃避の旅は、予測のつかない展開に満ちていてあきさせない。行く先々で必ず出会うロバンソンという同類の男の存在が興味深い。アフリカの植民地での悪夢のような日々の描写は、最も印象が強い。上巻巻末での恋人モリーとの別離のシーンでは、主人公のやりきれない絶望感がピークに達し、一つの山を迎える。(1994年9月23日)
(下)下巻では、上巻のようなめまぐるしい展開はなく、多少間延びしている。人間や人生に対する嫌悪と悲嘆は相変わらず全編に満ち満ちているが・・・。例外的に、病気で死ぬベベールという子供に対する主人公の愛情が描かれている。ロバンソンの不幸な生涯が下巻における中心的ストーリーとなっている。そのどろどろした暗い内面にかかわらず、主人公は外見は人当たりの良い、冷静で理知的な紳士であるという気がする。
喜怒哀楽が直裁に現れる感情的な文章は独特のもの。終末の大団円にいたるまでひきつけられる文章だ。(1994年10月6日)